Fake/startears fate   作:雨在新人

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様々な(主に個人的な)理由により遅れました、申し訳ないです


八日目ー終幕に咲くは

「……待て、よ……」

 ふらつく体に魔力を巡らせる

 翼を形成、飛翔

 ボロボロではある。相当戻ってもいる。だが、まだ動く。まだ届く

 この手は、この俺は……終わらない。終わらせない

 

 ただ、その思いだけを胸に、力に、空へと身を踊らせる

 今の今まで気が付かなかった寒さが身を裂くが、そんなものは無視。凍えていようが、魔力は問題なく繰れるのだから。ならば翔べ、翔べるはずだ

 半分くらい凍りながら、血色の糸を引き、遥か塔の上から流星のように落ちる。飛翔というには、あまりにも弱々しくほぼ墜落とでも言うべきだが、それで良い。問題はない。何故ならば、向かうべき場所は遠くはないのだから、多少の推進でも届く

 

 「……っ、ぐぅっ!」

 墜落。大地を割り、クレーターと共に着陸

 道路を砕き、地下に通っていたのだろう上水道に亀裂が走ったのだろうか。地面から吹き出す水が噴水のように体に掛かり、張り付いた霜を拭う

 

 形成した翼を杖代わりに、クレーターを登り……

 視界が、開けた

 人は、居なかった

 ……生きた者は、という但し書きが付くが

 

 「……バー、サー、カー……」

 言葉を絞り出す

 乱立する7本の水晶の柱。その中には、何人かの人間が標本のように閉じ込められている

 侵食は乱立する、で留まっている。決して、とうしようもなく水晶が森を形成していた時期ほどに侵略はされていない。単純に、街並みの中に水晶柱が産まれた程度

 蜘蛛の子でも散らしたのか、人気は無い。薄く更にもう一本形成しようとしたのか、細かな水晶片の池が車の轍跡を残されて路面の一角に転がっている。どうやら、襲い掛かったバーサーカーは、されども文明の利器相手には力及ばず多くの人間に逃げられたらしい。ざまあない。最後の足掻きも、ロクに意味は無かったという事だ

 

 ……そして、居た

 水晶の柱の合間に見える二つの影

 バーサーカー、そしてアサシン。恐らくはそうであろう首なしの影と、取った首を掲げる小さな影

 「……終わるのか、アサシン」

 『……終わらない。けど、必要なこと』

 「……そう、か」

 

 言って、掲げられた首を眺める

 ……俺には、あまり似ていない。当然か、あの時似ていたのは俺を模したホムンクルスを使っていたから。今のバーサーカーは、見ず知らずの噛まれた誰かを支配した姿。似ている方が可笑しい

 

 『……どうかした?』

 バーサーカーの首を、文字通りの銀色に鈍く輝く槍に晒したまま、アサシンが軽く走るように此方へと寄り、俺を見上げる

 「……いや、なにか?」

 『……晒し、微妙?』

 「……やる意味がない、ならな」

 言われて、気が付く。不快感を催したかのように、顔が歪んでいた事に

 ……可笑しい。俺に晒し首への嫌悪感なんて無かったはずだ

 

 ……いや、あるか。あるには

 ふと、あの日見た夢を思い返す。そう、あれが何よりのヒントだったというのに、俺は見落としていた。アサシンが、何故俺にあそこまでしてくれたのか

 ……だから、だ。強い想いと共に、アサシンの紅の瞳を見返す。自分が分からなくてぼんやりして、だというのに強い光を持った宝石のような瞳。俺には眩しすぎると思っていたその綺麗な瞳も、考えてみれば俺と似ていたように思えて

 「……あまり、好きじゃない」

 ……アサシンを止める。その意思を僅かに滲ませて、そう言葉を紡いだ

 

 『抜くと、銀で暫く抑えている復活がすぐに終わる』

 ちらりと、興味無さげに晒された首を見上げて、アサシンは呟く

 炙られた首は断面が炭化していて、血が垂れることは無い。血から復活するから当然の処置。それが夢でのあの首を思い出して苦々しい

 

 『……無駄な事を』

 その晒された首が、言葉を発した

 「いい加減に死に損ないは終われよ、バーサーカー」

 『ならば、貴様が死ねぃ、貴様以上の死に損ないなどおるまいよ』

 「……そうだな」

 血と共に、晒された首を見ずに地面に吐き捨てる

 「だが、俺の為に消えろ、バーサーカー」

 此処で剣を突き付けられたらどんなにか楽だろうか。だが、歪んだ体は言うことを聞かず、腕は上がらないガタが来ているというのも烏滸がましいレベルのボロボロさ、出来ることなどアサシンを説得する事くらいだ

 

 『……無駄だと言ったろう劣等種』

 血煙が飛沫く。魔力を放ち、バーサーカーは自身の目を破裂させたのだ

 そして蒔かれた薄い煙の中から、バーサーカーは再び姿を取り戻す

 その体は……正直言って鍛えてない人間のもの。乗っ取った眷族の姿なのだろうが、お世辞にも格好良いとは言えない。寧ろ……

 「くはっ、はははっ!ダサいな、バーっ、サーカー!」

 血を喉に詰まらせながら高揚のままにその情けない姿を煽る

 それほどまでに、今のバーサーカーは弱い。ただ不死身である、吸血鬼は何度でも蘇る、その伝承にすがり生きているだけの滑稽な姿。このボロボロの俺と何ら変わりの無い生き汚さだけの終末形態

 

 『……貴様ァ!』

 拳を受ける。残った歯が1本折れ、為す術も無く大地に転がる

 「ははっ!殺せてないぞ、バーサーカー!」

 だが、それだけだ。死なない。バーサーカーには、俺を殺す力は既に残っていない

 『無駄に、この王を……』

 『うるさい』

 更に俺を蹴り飛ばそうとしたバーサーカーの首が裂ける。アサシンの事すら忘れた男は、アサシンの手の銀のナイフによって再び首と胴を切り離された

 『無駄無駄無駄無駄ァ!

 王は滅びぬ!』

 転がる頭が、血に伏せた俺の眼前にまで届く。首だけで、その不死身のサーヴァントはケタケタと笑った

 『獣であれば万一は有り得た。だが、貴様は王を倒すまで国を滅ぼす悪の獣であれなかったようだ劣等種

 ならば、最早この()を、支配すべき夜の主を、滅ぼせる者など』

 

 『此処に居る』

 ふわりと、尚も笑い続ける首が宙に浮いた。いや、アサシンによって髪を掴まれ、その首が持ち上げられたのだ

 『……今度は、追いかけないで欲しい』

 寂しそうに、アサシンは微笑む

 水晶の間を吹く風で纏うフードが外れ、マントが翻り、その細い体と、其所に巻き付けられた……爆発物が目に止まる

 「……アサシン」

 『……巻き込むと、面倒』

 『……貴、様。たとえ魔を狩る者だろうと、伝承を終わらせることなど……』

 『英雄が居るから、伝承は残る

 ……平和に、英雄は不要。悪魔も英雄もお伽噺に風化する。それが平和、「ボク」が、「我」が、「わたし」が、皆が求めた……その答え』

 アサシンが、飛翔する。その翼は、きらきらと綺麗な紅の光を残して空へと駆け上がる

 

 ……何だ、飛べたんじゃないか。ライダーが見たら怒るな、とそんな無駄な事を思考の端にひっかけながら、右手に意識を集中する

 ……そう。何故気が付かなかったのだろう、その簡単な話にという事だ、これは

 

 ……今残る令呪は、セイバーのものでは無い。そして、アサシンは思うままに行動していた

 そう、かつて俺がまだビーストでは無く、故に恐らくミラやアーチャーといった化け物級のサーヴァントが召喚されなかった世界……俺がビーストⅡへと覚醒した事で単独顕現によって俺はその時間軸にビーストとして既に存在するはずであると、逆説的に消されてしまった本来の世界線。俺が消えかけたアサシンと契約した時間軸。その世界で俺は……アサシンと共にバーサーカーを倒し、そして恐らくはこの世界線とは違うサーヴァントであったランサー……聖王のランサーによって殺された。アサシンは恐らく、その世界線でバーサーカーという吸血鬼(ヴァンパイア)を倒したヴァンパイアハンター、即ち"俺と契約したアサシン自身"を内包している。そんなふざけた理不尽を、誰かを核とした、けれども誰でもない概念であるアサシンは、奇跡的なバランスで成り立たせたのだろう

 だからこそ、あそこまで俺の為に戦った。あそこまで俺に尽くしてくれた。何故ならばそれが、元々誰でもなかったアサシンの中にある、誰でもなかった存在(アサシン)に与えられた指針だったから

 あの日夢見たアサシンよりも大分しっかりしていた?当然だ、最初からあのアサシンには指針があったのだから、何も無かったアサシンよりは明らかに芯があるだろう

 

 ……そう、そしてそんな事を夢で俺が理解した理由も、それで分かる。簡単な話だ

 サーヴァントとマスターの間にはパスが繋がる。パスがあるのだから、アサシンを認識出来ない訳もない。そう、あの神父が渡したものは決して回収された預托令呪なんかじゃない。さ迷っていたアサシンを拾った際に手にしたのだろうアサシンの令呪。あの時点で、俺はアサシンと契約していた。マスター権を渡されていた。元々俺の中のサーヴァント、そしてセイバーと最初から二重契約染みた状態であったから、考え付かなかったのだろうが、そう思って辿れば確かに不思議なパスがある

 

 パスが、微かに震えた。宝具発動の印

 ……知っている。アサシンの宝具の真髄。英雄譚を終わらせる力

 英雄も悪も消え、平和が訪れる。その幾つもの英雄譚の終幕を再現する、対消滅の宝具

 

 ……駄目だ、と右手を伸ばす

 止めるための力は、此処にある

 「……まだ、何も……何も返してないだろう」

 届け、今はそれだけで良い

 「だから、戻ってこい……『ニア』!」

 だから、令呪をもって、きっと似合うと思ったその名前を叫んだ

 

 空に、綺麗な紅の花火が、戦いの終わりを告げるように咲いた


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