時間が経ちすぎて誰状態かと思います。
しかし、感想とかメッセージが最近も少しだけ来ててテンション上がった為、投稿します。
【前回のあらすじ】
播磨「天満ちゃんと烏丸のヤローがそんなに進んでたなんて!(勘違い)」
沢近「播磨くんに聞かれた!? 誤解なの!(勘違い)」
妹「姉さんが烏丸さんが好きって知っちゃったんだ(ニアミス)」
姉「……?」←元凶
『お嬢様、夕食のご用意ができましたが』
執事であるナカムラからのドア越しの呼びかけにより、彼女―沢近 愛理は膝に埋めていた顔を上げる。
――そっか、もうそんな時間なんだ。
既に部屋の窓から差していた陽射しがなかった。
帰ってきた時に電気を点けていなかった為、辺り一面が暗闇に覆われている。
ドアから漏れる微かな明かりしか視界には映らない。
――ダメね、わたし。
しかし、わざわざ部屋の電気を点けようとは思わなかった。
そんな気力すら、今の彼女にはなかったのだ。
「ナカムラ、今日は食欲がわかないの……」
ベッドの上で膝を抱えて座った状態のまま、執事のナカムラに返事をする。
その声は自身でも驚くほど小さく、力がなかった。
『……承知しました』
聞こえたか怪しい程の小さな声。
それでもナカムラは聞こえたらしく、彼はドア越しで愛理に一言述べ、静かに立ち去っていった。
「ありがと、ナカムラ」
自身が幼い頃から執事として仕えてくれていたナカムラ。
そんな彼だからこそ、愛理が今はひとりにして欲しいのが分かったのだろう。
心配してくれているのは声で分かった。
それでも、何も聞かずに立ち去ってくれた彼の気遣いが愛理には有り難かった。
愛理は、再び膝に顔を埋める。
考えるのは。
いや、考えてしまうのは、ずっと同じこと。
今日してしまった、自分の過ちについて。
『愛理ちゃんは付き合ってるひとはいるの?』
『いえ……、誰とも付き合ってないわ』
『おい、いま播磨が泣いて走っていったけど、何かあったのか?』
『待って!』
『待って、播磨くんっ!』
ずっと頭の中で再生され続ける、今日の出来事。
――なんで、あんなことに、なっちゃったの……。
意味がない。
そんなことは彼女も分かってる。
それでも、何回も自分自身に問い掛けてしまう。
――天満に付き合ってるって、言えばよかった?
言うのが気恥ずかしいのもある。
それに、誰にも知られずにゆっくり仲を深めたかったのも本音だ。
でも、付き合ってるって言えばよかったのか。
言ったとして。
天満は恋愛話は美琴や晶たちに話してしまうだろう。
そうなったら二人が付き合ってるって話が学園に広まるかもしれない。
播磨くんだって、まわりにそういう話が広まるのは好ましくないはずだ。
――じゃあ…あの時、播磨くんに追い付ければよかった?
走っていた時、愛理は播磨に何を話せば良いか考えられていなかった。
ただ、彼に追い付かないと。何かを話さないと。
それだけを考えて走ったのだ。
がむしゃらに。必死に。
それでも、手を伸ばしても届かなかった。
あのとき、天満に付き合ってるって言っていれば。
あのとき、播磨くんに追いついていれば。
意味がなくても。
そういうifを繰り返し考えてしまう。
『おい、いま播磨が泣いて走っていったけど、何かあったのか?』
それは、美琴が驚きの表情のまま語った言葉。
「播磨くん……ショック、受けてるわよね」
周りから不良として恐れられている彼。
そんな彼がクラスメイトとすれ違っても気付かず、人前で泣いていたのだ。
どれだけ彼がショックを受けたのか。
それが分かってしまう。
分からないわけがない。
『俺は…君が好きだったんだ!』
自身に告げてくれた熱い想い。
その後もたくさん気持ちを行動で示してくれて。
海水浴に行った際の旅館で、彼と同じように行動で示すって。
そう、決めたのに。
「播磨くん……」
今も自身のことで悲しんでいるだろう播磨のことを考えると胸が痛い。
ただただ、後悔が募る。
お願い。
誤解しないで。
違うの。
信じて。
すぐにでも彼にそう、言いたいのに。
――わたし、播磨くんの連絡先知らなかったんだ。
愛理は近くにある携帯電話を持ち、電話帳を開く。
電話帳に記載されているのは、家族や天満たち友人の連絡先のみ。
いますぐに連絡したい彼の名前は、登録されていないのだ。
そして自宅に行こうにも、彼がどこに住んでいるのかが分からない。
――わたし、知らないんだ。播磨くんのこと。
こんな状況になって、はじめて愛理は気付いた。
播磨のことをほとんど知らないのだと。
連絡先も。
住んでいる場所も。
いや、そもそも家族構成や彼の趣味、プライベートなことはほとんど知らない。
「……播磨、くん」
想いを伝えてくれて。
それで安心して。
それでも。
連絡先すら知らない状態が、自身と彼の関係性の脆さをを物語っているように感じてしまって。
「――わたしたちの関係って、なんなのかな」
#15「誤解する彼と彼女と」
『播磨くん……お願い、信じて』
公園の中央にある大きな木。
その木の下に二人の男女が向かい合っていた。
サングラスを掛けた男性に、対峙する女の子が涙を流しながら伝える。
誤解なんだ、勘違いなのだと。
必死に言葉を告げる女の子をチラリと見た後、男性は違う方向にまた視線を向ける。
そんな彼に対してさらに想いを伝えようとするが、その前に彼が口を開いた。
『あぁ……、気付いてたぜ』
―――
――――――
―――――――――
「お、作風変えたんだねー」
「はぁ。 トーンを使ってみました」
自身の持ち込んだ原稿を読みながら驚きの表情を見せる出版社の男性に、彼―播磨 拳児は言葉を返す。
普段の学園生活の不良な格好と態度とは一変し、大人しい様子を見せている。
特に意識してなかったが、ベレー帽を被ると自然と漫画家として思考が切り替わっていた。
「いいじゃん! 田沢くんはこっちの描き方の方が合ってると思うよ!」
「ありがとうございます」
あと、田沢じゃなくて播磨です、とのんびりした口調で告げた。
――――――――――――
「はぁ……」
出版社にて原稿を持ち込んだ帰り。
描いた原稿を片手に持ったまま、播磨は溜息を吐いた。
「現実もこうだったら良いんだけどな……」
自身が描いた原稿の内容。
それは彼の妄想であり、あるいは半ば期待していることであった。
それは前日にあった、ある出来事。
エアコン修理のバイトで起きた忘れたい出来事だ。
『天満は……、男の人の身体見たことある?』
『あるよ』
それは、本当にあったことなのか。
夢ではなかったか。
そう思ってしまう。
『あの…、口を塞がれたりとか』
『ジョノクチだよー』
聞き間違いではないか。
何回も播磨は自問自答した。
『羽交い締めにされたり、とか……?』
『あれはオオワザだよねー!』
しかし、何回も脳内で繰り返し再生される記憶が聞き間違いではないと物語っていた。
その後の記憶はあまりない。
ただただ、ショックで。その場から逃げて。
気付いたら家の自室にいた。
とりあえず色々泣いたり騒いだりして、同居人の絃子にモデルガンで撃たれた後。
播磨は、次には漫画を描いていた。
とりあえず嫌なことは忘れて漫画に没頭しよう、と。
紛れもなく、現実逃避であった。
ただ、描いた漫画の内容は前日の出来事を引っ張る内容であったが。
というわけで、傷心中な播磨は1日で結構描ききってしまった原稿を出版社に持ち寄っていたのだ。
「昨日のことは落ち込んだが……それで描いた原稿は評判よかったな」
現実逃避で描いた漫画であったが、思いの外、出版社の人に褒めてもらえたことにより若干気持ちは上がっていた。
播磨 拳児。
とても単純な男である。
「まぁ、でも封筒にも入れずに持ってきちまった」
無心で描き、そのまま出版社に持ち寄った為、封筒にすら入れずに持ってきていた。
そのことに今更ながら気付き、慌て始める。
――これを天満ちゃんに見られたらマジーな。
原稿に描かれた主人公とヒロインは明らかに播磨と天満を意識して描いている。
だからこそ、知り合い、そして天満に見られたら色々とマズイことになるのは明白であった。
今までは適当なバッグに、さらに封筒に入れる為にリスクは少なかったが、今は素の状態である。
「はやく家に帰るしかねぇ!」
――急げば大丈夫だっ!知り合いになんて、そんな上手く鉢合わせたりなんか……っ!
知り合いに鉢合わせないだろう、と。
自分の中で言い聞かせようとした。
そんな最中のこと。
「「…………あっ」」
顔を上げた目の前には、ツインテールの金髪の女の子。
見間違うこともなく、明らかにクラスメイトであった。
「えっ……あっ、ちょっと」
播磨は頭が真っ白になった。
そして、気付いたら自然と逃げていた。
「ねぇ、播磨くん! まって!!」
後ろから声が聴こえる。
しかし、播磨の頭には逃げることしかなかったのであった。
「はりま……くん」
ありがとうございました。
また少しずつ投稿開始していけたらと思います。
感想返しできてなくてすみません!
ちゃんと見て嬉しく感じてます。そちらもまた返していきます。
また見て頂けたら幸いです。