沢近さんの純愛ロード   作:akasuke

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色々起きてますが、まだ慌てる時間ではないです。
やすらかな気持ちで、微笑ましい彼らの旅行を見てください。

では、本編へどうぞ。


#11「気付いてしまった彼」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

#11「気付いてしまった彼」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旅館の内側にある庭。

その場所に播磨と天満が向かい合っていた。

 

 

「俺は…オレは…………」

 

天満は落ち着いた様子で播磨を優しい表情で見詰めている。

だが、播磨はそんな彼女とは対照的に、どこか緊張した様子を見せている。

 

彼は口を震わせながらも、言葉を紡ぎ出す。

 

 

 

 

 

 

「お、俺は……、お前のことが……」

 

 

 

 

 

「……うん」

 

 

 

 

 

――言え、言うんだ…、俺っ!

 

 

 

 

 

緊張で手が震えてしまうが、何とか内心で自身を震い立たせる。

そして、真っ直ぐ彼女の方へ視線を向け、想い人に対して次の大事な言葉を発っしようとする。

 

しかし。

 

 

「……い、言えない」

 

「もーっ、駄目だなー、播磨くんはっ!」

 

次の言葉を口から出すことができず、頭を抱える播磨。

そんな彼を見て、天満は軽い溜息を吐く。

そして、天満は播磨の近くに詰め寄り、注意する。

 

 

「もうっ、これで二十三回目だよっ! こんなおっきなカラダしてー!」

 

「ごめんなさい」

 

軽く怒った様子を見せて播磨を叩く天満であったが、

対する播磨は謝りながらもどこか嬉しそうな表情を見せている。

 

 

――こ、これはこれで……、なんというか、幸せだぜ。

 

ほらっ、もう一回いくよ、と。

こちらに向かって言う天満に、播磨は頷きながら準備する。

 

何故、現在のような状況になったのか。

それは、十数分前に遡る。

 

 

『実はね、聞いちゃったの』

 

播磨を外に連れ出した天満。

彼女は播磨と向かい合い、少し経ってから口を開いた。

どこか躊躇った様子を見せながら。

 

 

『その……、播磨くんって好きなコが居るって』

 

――よしよしよぉぉぉぉし! 来たぜ、俺!

 

躊躇いの言葉、照れた様子の天満に、

対峙する播磨は平静を装いながらも、テンションは最高潮であった。

 

夕方まで遊んでいた海の時は中々天満に近付けなかった。

その為、如何すれば彼女と仲を深められるか考えた矢先の出来事である。

テンションが上がらない筈がないのだ。

 

 

『それで…、もう告白は、したのかな?』

 

『え、あ…、何度かしたんだが、気付いてもらえなくてよー……』

 

天満にそれなりにアプローチや告白を行ったつもりなのだが、

当の本人には伝わらなかったようだ。

 

本人に聞かれるのも、伝えるのも何となく気恥ずかしくながらも、頭をかきながら返事する播磨。

 

 

『そーだよね……ちょっと、ニブいとこあるから』

 

『い、いや、気にすることネーよ! こ、これからすれば良いんだしよ……』

 

ハァ、と溜息を吐きながら答える天満に、播磨は慌ててフォローする。

そんな慌てた様子の彼を見て、天満はクスっと笑いながら話す。

 

 

『ありがと……優しいんだね、播磨くん』

 

『そ、そうか』

 

ニヤニヤしてしまいそうになるのを必死で抑える播磨。

彼からしてみれば、天にも昇る気持ちである。

 

 

『うん、そっか……よしっ! わかった!』

 

だが、そんな播磨の様子も気付かないまま、天満はひとり頷き、彼に自身の思いを伝える。

 

 

『いいよ……わたしが、つきあってあげる』

 

『えっ』

 

――ツキアウ、突き合う……つ、付き合うっ!

 

彼女からの告白。

いきなりの言葉に最初は脳が追いつかなかった播磨。

しかし、理解した瞬間、彼の気持ちはクライマックスに突入していた。

 

 

――て、天満ちゃんから言ってくれるなんて!

 

抱き締めても良いかい、天満ちゃん、と。

涙が出そうになるほど感動しながら、播磨は気持ちを抑えきれず、彼女を抱き締めようとする。

 

だが。

だが、しかし。

 

その前に、天満が口を開き、追加で言葉を紡ぐ。

 

 

 

 

 

『私が告白の練習を、ね!』

 

 

 

 

 

『えっ…………』

 

天満の言葉に放心してしまう播磨。

 

塚本 天満。

勘違いと思い混みが激しい女の子である。

 

そして現在の状況に至る。

 

 

――いや、まぁ、幸せではあるんだけどよ……。

 

好きな女の子と二人っきりになれるのは願ったり叶ったりである。

しかし、好きだと気付いてもらえず、他の女の子が好きだと思われているのは悲しく感じる播磨。

 

 

「播磨くーん、ほら、次こそは頑張らないと!」

 

頑張って、と応援しながら待つ天満。

そんな彼女を見ると胸が高まるのを感じる播磨であった。

そして、彼は決意する。

 

 

――おい、何、ヘタれたんだ播磨 拳児! 漢を見せやがれ!

 

誰に対して告白したいかを知らない天満。

だが、そんな彼女に勘違いさせない程の有りっ丈の想いを伝えれば良い。

 

だからこそ。

だからこそ、彼は想いのままの行動に出る。

 

 

「きゃっ……は、はりまくん?」

 

天満を思いっきり引き寄せ、近距離で彼女を見つめる播磨。

そんな播磨に対し、天満は少し動揺を見せる。

 

 

「俺はなぁ! お前のことが……っ!」

 

自分の想いを。

長年の、自分の想いを彼女に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――言えっ、言うんだっ、大好きな君にっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………言えない」

 

「えーっ! 今、すごかったのに!」

 

播磨 拳児。

大事なときに想いを伝えられないヘタレでもあった。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 

――はぁ、何で、俺は言えなかったんだ。

 

チャンスだったのに、と。

播磨は大事な場面で言えなかった自分に落ち込んでいた。

 

結局、播磨は、あの後も練習でも想いを伝えることが出来なかった。

しばらくの間は天満と告白の練習を続け、その後は部屋へと戻ると告げた天満を庭で見送ったのだ。

 

 

――いや、落ち込んでても仕方ねえ! まだ旅行は終わってねえんだ!

 

しかし、落ち込んでても仕方ないと思い、播磨は自分を震い立たせる。

 

まだ旅行も終わってない。

夜の寝るときに猛アピールしてみせるぜ、と。

 

 

「お、播磨はこんなとこに居たのか」

 

天満への猛アピールを決意する播磨のもとに、美琴が手を振りながら近付いてきた。

しばらく歩いていたのか、少し疲れ気味な様子を見せている。

 

 

「なんだ、周防か。 どーかしたのか?」

 

「あぁ……沢近と塚本、見掛けなかったか?」

 

「てん…塚本なら、さっきまで一緒に居たぜ。 でも、部屋に戻ったはずだぞ」

 

「あれ、そうなのか」

 

どっかですれ違っちまったかな、と。

頭をかいて溜息を吐く美琴。

 

 

「なんか用事でもあったのか?」

 

「いや、単純にお前らが部屋に戻って来なかったから、気になってさ」

 

特に用事があった訳ではなく、単純に心配して様子を見に来たとのこと。

マジメというか世話焼きなヤツだな、と心の中で妙に感心する播磨。

 

 

「じゃあ、他の二人も探しに行くかな……あ、そうだ」

 

そのまま天満や愛理を探しに行くのかと思われたが、

何故か去らずに、ニヤニヤとした表情で美琴は播磨に問い掛ける。

 

 

「そういえばよぉ、播磨」

 

「あん、どうしたよ?」

 

「沢近とは、どこまでいってんだ?」

 

――沢近…あのお嬢が何だ?

 

いきなり問われた内容の意味が分からず困惑する播磨。

どこに行くって、何の話だと聞き返す播磨に、美琴はとぼけんなと笑いながら答える。

 

 

「お前ら、もう付き合ってんのかって、聞いてんだよ」

 

「はっ……、なんだそれ?」

 

天満ちゃんなら兎も角、何故あの金髪のお嬢様が出てくるのだろうか。

疑問が増え続ける播磨に対し、美琴は尚も話を続ける。

 

 

「前に二人で路地裏でコソコソしてたし、最近は映画一緒に行ってたじゃねーか」

 

「映画は別に、間違えてっつーか……」

 

以前、天満と間違えて愛理を映画に誘ってしまった播磨。

播磨としてみれば、間違えて別の人物を誘ってしまって落ち込んだ記憶しかない。

後はチケットを渡してきた絃子を逆恨みしている位である。

 

 

――つーか、見られてたのかよ。 それに路地裏も…………ん?

 

何か引っ掛かる単語が出てきた為、播磨は美琴に聞き返す。

 

 

「おい、路地裏って何のことだ?」

 

「おいおい、とぼけんなよー。 雨が降ってたときに、沢近と播磨が路地裏に居たじゃねーか」

 

手を握りあってよ、と。

ニヤリと笑って話す美琴であったが、播磨は返答を出来ずにいた。

いや、返答を出来る余裕がなかったと言えばいいだろうか。

 

 

――え、路地裏……手を握り合う……お嬢と……。

 

雨の中。

路地裏。

沢近。

手を握り合う。

 

様々なキーワードが頭の中で繋ぎ合う。

そこから連想される場面について、播磨はひとつだけ心当たりがあった。

 

しかし、それは。

 

 

――あ、あれ……アレって夢のハズじゃ。

 

確かに記憶にはあった。

しかし、その後の記憶がなかったし、気付いたら妙のベッドに居た。

 

だからこそ、あれは夢なのだと思っていた。

思っていたのだが。

 

もし、あれが夢ではないのだとしたら。

 

 

 

 

 

 

 

 

――あれ……もしかして、俺……お嬢に告っちまってるのか?

 

 

 

 

 

 

 

「お、おい、何か生気が抜け出してるけど、どーしたっ!」

 

自分がやらかした事態に気付いてしまった播磨であった。

 

 

 

 

 




一つではなく、複数が絡んで変な方向へ進むのがスクランの醍醐味ですよね。
原作を考えると、まだ平和ですよね。

さて、旅行編で一番書きたい話にようやく入れました。
昨日の話が今回の話を描きたくて雑に感じてしまったら申し訳ないです。

次の投稿は、来週になるかと。

ありがとうございました。
また、見ていただければ幸いです。

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