東方殺意書   作:sru307

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 6人の新たなる力、覚醒。
 異変の終わりの歯車は一気に加速した―――


第79話「共有」

第79話「共有」

 

 

 

 6人の大きな体の変化に、2体のセスは驚きを隠せなかった。

 

 

「何じゃそりゃあ!?」

 

 

 赤色のセスが今までの冷静さからは考えられない声が出た。さっきまで互角だったはずの相手がいきなり巨大な壁となって目の前に立っているのだから。

 

「貴様ら、一体何をした!? そこまでの変貌ぶり、何かしたとしか思えん!!」

 

 青色のセスが叫ぶ。それだけ6人の変貌が信じられないらしい。

 

「特別なことはしていない。あるとすれば少しの間話をしていた」

 

 リュウは手と足に燃えさかる炎を纏いながら真剣な眼差しで2体のセスを見ていた。その顔は涼しげで炎の熱は感じていないようだ。

 

「ならば、その力は何だ!!」

 

 赤色のセスの言葉で、一瞬迷いを見せたのはレミリアだ。

 

「そうね…名をつけるなら何がいいかしら」

 

 レミリアは考え込み始めた。そんな場合ではない事は百も承知だ。余裕があるわけでもない。それでも今考えないと忘れてしまったり、別のことに興味が移ってしまうと思うから。

 

 

「…『波動共有』」

 

 

 魔理沙がそうつぶやくと、5人の顔が一斉に魔理沙に向いた。この名前、魔理沙のひらめきから即座に思いついたのだろう。

 

「単純明快でいいだろ。後でゆっくりかっこいい名を考えてもいいだろうし」

 

 魔理沙は5人の不満を抑えるように笑みを浮かべた。レミリアは別に気にしてないわよという雰囲気を出しながらこう言った。

 

「確かにね。あいつを倒してから紅茶を紅魔館で飲みながらゆっくり考えるべきだわ」

 

 レミリアはもう修繕完了した紅魔館での生活を頭の中に思い浮かべている。この場で考えるべき事ではないはずだが、少々うらやましい。

 

 2体のセスは汗をダラダラとかいて焦りの表情を見せている。こちらから仕掛けたいが、6人の変貌にうかつに手を出せない状況だ。霊夢はそれを見抜いた。

 

「私から行くわ。こいつらに余裕がないなら、パッパと済ませてしまいましょう」

 

 霊夢はそう言ってもう一度気合いを入れ直すように拳を握り直した。そのまま2他のセスめがけ一気にかけ出した。動くたびに、電気がはじける音がする。

 

(心なしか、巫女の動きが速い…!?)

 

 青色のセスはガンガン前ステップを踏んでくる霊夢の動きに内心驚愕するばかりだ。まるで霊夢が雷と化しているかのように、動きが機敏だった。

 

 霊夢はユンヤン兄弟をすり抜け、2体のセスの元へ一直線に突っ込んでいった。霊夢の動きが速すぎてユンヤン兄弟が反応できていない。

 

「悪いけど、もう相手にするだけ時間の無駄だわ」

 

 レミリアはそう言いながらユンの背後にあっという間に回り込み、首元に手刀を食らわせた。ユンがフラッとうつぶせに倒れそうになったのを目で確認するとすぐにヤンの後ろに回って同じく首元に手刀、ヤンを気絶させた。

 

「さあフラン、リュウ、ケン、魔理沙。これであの機械だけに集中できるわよ」

 

 レミリアは4人に振り向きもせず語るように言った。ケンはヘッ、と笑みを浮かべてから倒れたユンヤン兄弟の横を通った。フランもヤンを警戒しながら横を通過、リュウと魔理沙も後に続いた。

 

「くっ、こいつらも使えないのか…」

 

 赤色のセスが焦りを見せる。当初の計画では多勢に無勢を思い知らせてやる計画だったが、予想外の連続でそれどころかこちらが無勢に追い込まれている。計画の失敗は時間の問題となりつつある。この展開はまずすぎる。

 

 あれこれ考えているうちに、2体のセスの足は自然と止まっていた。そこを見逃さないのはリュウだ。一気に青色のセスの懐へと潜り込む。

 

「昇龍拳!」

 リュウの昇龍拳が激しく青色のセスの顎に命中した。

 

「うぐおわぁ!!」

 青色のセスが綺麗に背を伸ばしながら吹っ飛んでいった。顎付近が熱い。何か、火種をつけられているような―――

 

 

 ボウン!!

 

 

「のぐおっ!!?」

 

 そう思った瞬間、顎付近で爆発が発生し青色のセスは爆風に巻き込まれた。実は顎に火のような燃える赤いものがくっついており、それが爆発したのだ。

 

「うお! すげえな、どうやったんだリュウ!?」

 ケンが爆発に驚く。しかしリュウも覚えがない。魔術の心得とかそんなものは幻想郷に来ても思い返せる概要がない。

 

「どうやら互いの相棒以外の技も少しながら使えるらしいわね。これはいいものを見たわ」

 

 霊夢はリュウの爆発技に見覚えがあった。おそらくだがあの爆発技は―――魔理沙の弾。魔理沙のパワーを求めようとする心が、波動共有でリュウとつながったのだ。

赤色のセスが思い切って突っ込んできた。その相手は霊夢、回し蹴りが霊夢のガードを固めた腕に当たる。よし、これなら確実に動きは止まる。一度勢いが止まる。

 

 

 ガガガガン!!

 

 

 何と霊夢は達人の如く見えない蹴りを全て腕で受け止めて見せた。

 

 

「何だと!?」

「行くわよ!」

 

 

 霊夢は赤色のセスの眼前まで顔を迫らせた。これだけの密着状態なら、どちらも素早い攻撃は確実に入る。同時に出そうものならば、相打ちも視野に入る距離だ。だがそれ体調や気持ちに変調がない時に限る。今の赤色のセスにはその条件に当てはまらない。

 

 お返しとばかりに鋭い霊夢の連続蹴りを体で食らい、棒立ちの赤色のセス。体全身に力を入れるが、手数も多い霊夢の蹴りを長くは受けられない。打ち返したいが隙がない。それでも死にものぐるいでジャブを出した。が、霊夢はもういない。

 

(速すぎる…っ!)

 

 霊夢は後ろに回り、目の前には霊夢の後ろにいていつの間にか飛び出していたフランがいた。殺意リュウとの戦いと同じ、挟み撃ちだ。霊夢は赤色のセスの右肩、フランは左肩を狙って腕を伸ばした。

 

「おりやぁ!!」

「食らいなさい!!」

 

 

 バギャッ!!

 

 

 ほぼ同時に届いた2人の拳は赤色のセスの体全身を捻らせるように直撃した。

 

「うぐおわっ…!!」

 

 赤色のセスは膝から崩れ落ち、うつ伏せにゆっくりと倒れた。全身に行き届いた痛みが、意識にまで届いて保てなくなってしまったようだ。

 

「くっ…!」

 青色のセスは相方の大負傷に自分の身の危険を感じ、瞬間移動をした。ヨガテレポートだ。

 

「へえ…そんな技もコピーしていたのね。でもその程度なら…はっ!」

 

 レミリアがグングニルの先を地面に滑らせる。槍の先が地面をえぐり、その摩擦が衝撃波を出して地を這いながら青色のセスに襲いかかった。

 

「ぐうっ!?」

 青色のセスは反射神経で真上にジャンプして衝撃波から逃れた―――かに思えた。しかし衝撃波がセスの真下に来た瞬間、衝撃波が炸裂して縦型に爆発した。当然ながら青色のセスはその爆風に足が入ってしまう。

 

「ぬおわっ!!」

 

 足が焼ける感触がした青色のセスは空中で体勢を崩し、地面に大の字で落下して全身を打ち付けた。

 

 紫苑が主の危険を察したか、弾幕で応戦してきた。だが撃った相手はリュウ、ここまで弾幕地獄を幾度となく抜けてきた猛者、相手が悪すぎる。

 

「うおおおお!!」

 もう避ける必要はない。真正面から行けば道はできる。なぜなら弾をはじくことになれているのだから。枝葉を払うかのように腕を動かし、弾をはじきながら弾幕の中を突き進む。そして確実に当たる距離まで来た。この近距離なら避ける術はない。

 

 

「波動拳!」

 

 

 リュウの波動拳は紫苑の体に直撃―――したはずが、波動拳は紫苑の体を通過した。その瞬間、紫苑の体がバキンと音がした。体に取り付けられた装置が壊れた音だ。そう、リュウの波動拳は装置の破壊だけを行ったのだ。

 

 

「そんなバカなっ!!?」

 

 

 紫苑が装置の呪縛から解放され、どさりと力なく倒れる。これで操られていた人たちは何らかの変化が起きただろう。今は確認している余裕がないが、計画は総崩れしたに違いない。ここまで来れば、セス達に残されているのは体1つで戦うことだけ。

 

 

「さあ、決着をつけようぜ!」

 

 

 魔理沙が一歩、さらに一歩と2体のセスに詰め寄る。5人も歩を合わせてゆっくりと追い詰めていく。セスはソニックブームを対抗策の選択肢から既に外していた。あの細かな弾幕をはじいてしまうのを見てしまったら、ソニックブームなんて屁ですらないのは容易に想像がついてしまうのだ。

 

 2体のセスは何もできず棒立ちのまま、6人がじりじりと近づいてくるのを許すばかり。そしてそこには、わずかながらも隙が出てくる。それを逃さないのは6人とも同じ、いち早かったのはレミリアとフランの吸血鬼姉妹。2人の狙いは、ここまでずっと温めておいた合体スペル。

 

 

「「『紅魔の双吸血鬼 レッドウェポンクロス』!!」」

 

 

 レミリアとフランの合体スペル、もとい2人のスペルカードのオンパレード+グングニルとレーヴァテインの連続攻撃が2体のセスに命中し、2体を空中にはじき飛ばした。

 

「霊夢、魔理沙、お願い!」

 

 フランの声で我に返った2人はすぐスペルカードの準備に入った。使うのは長らく愛用してきた得意技。

 

「霊夢の夢想封印と私のマスタースパーク、得意技を合わせて…」

 

 魔理沙はミニ八卦路を、霊夢は両手の指と指の間に挟んだ封印札を持って腕を胸の前で交差させ、同時にはなった。これも合体スペル。

 

 

「「魔霊『封解放の暴走砲』!!」」

 

 

 霊夢の夢想封印によって無味出された6色の弾から、マスタースパークが暴れ牛のように次々と軌道を変えて襲いかかる。セスは避けることもできずに食らうだけだ。2体ともさらに空中へ放り出された。

 

 その落下地点に向けて猛然とケンがダッシュしていった。空中を飛んで追撃するのは性に合わない上、確実に勝負を決める一撃を出せる可能性も低い。このチャンスは逃せない。

 

 自身の得意な戦闘スタイル、ガンガン前に出る戦い方も功を奏し、落下地点にはあっという間にたどり着いた。

 

「2人まとめて受けてみな!!」

 

 ケンは体をねじるように深く膝を落とし、昇龍拳の構えを見せた。ここから出せる技は自分の中で最高火力の技だ。

 

 

「神龍拳!!!」

 

 

 ケンの神龍拳が2体のセスを巻き込む。地上に落ちかけた2体はまた空へ放り出された。

 

「リュウ! 最後のつなぎを頼むぜ!」

 ケンは落ちてきたセスをリュウに向けて蹴り飛ばした。もちろん答えは拳で示す。受けて立つと。

 

 

「滅!! 昇龍拳!!!」

 

 

 滅・昇龍拳の一発目が2体のセスを串刺しにするかの如く空中で縦に静止させる。二発目の顎は青色のセスにヒットし、上がった頭が赤色のセスの顎に直撃した。2体はこれまでよりもはるか高く吹っ飛んでいった。ここで最後の〆にする技はただ一つ。

 

 6人は同じ構えを取った。この6人に言葉はいらない。やるべき事は阿吽の呼吸でそろう。

 

 

「これが己の道を信じた者の力…」

 リュウが目の色を変えた。蒼い波動の色。

 

 

「道を誤り、踏み外そうとも歩みを止めず道を見失わず進んだ者の力…」

 霊夢の真剣な表情が今までの出来事を全て物語らせた。

 

 

「妹を想い、本当の気持ちを分かち合う事で進むことができた者の力…」

 レミリアの下郎を見る目が、鋭く2体のセスを捉える。

 

 

「ずっとそばに寄り添い、気持ちを共有し合った者の力…」

 魔理沙の言葉に重さを感じる。その重さは他人が持つには重すぎる。

 

 

「自分の力の恐れに打ち勝ち、新たなる道を開拓する者の力…」

 フランの目は闘志とあの時の寂しさを併せ持っていた。

 

 

「これら全て、俺たちの波動だ!!」

 ケンの言葉と共に、6人の波動拳は同時に発射された。

 

 

 

「「「「「「龍神波動拳!!!」」」」」」

 

 

 

 6人の波動拳は弧を描き途中で一つとなり、本物の龍を形作った。波動の龍は声もなく吠えるように口を開け、2体のセスにかみついた。

 

 

「「うぎゃああああああ!!!」」

 

 

 2体のセスの断末魔を聞いていないかのように波動の龍はセスを喰らうかのように何度もかみつき、最後は爆発して消えた。

 

 2体のセスはドシャと地面に墜落した。丹田エンジンが動いていない。活動が停止したのだ。

 

 2体のセスがピクリとも動かないのを確認した6人は構えを解いた。と同時に、それぞれに起きていた変化もなくなり、元に戻った。そして、視角の外で音が聞こえた。誰かが起き上がるように地面を引きずる音。

 

「…? あいつ、意識を取り戻したみたいね」

 

 霊夢が紫苑の方に体を向ける。紫苑はゆっくりと起き上がった。何かをつぶやきながら。

 

「…馬鹿に…しやがって…」

 紫苑のつぶやきには、一瞬の恐怖が眠っていた。

 

 

 

「みんな馬鹿にしやがって そんなに言う事ないじゃない!!」

 

 

 

 突如として紫苑が激昂した。その瞬間、体から青く立ち上がる負のオーラが大量に吹き出た。

 

 

「な、何だぁあいつ!?」

 ケンが思わず一歩後ろに引いた。この負のオーラ、下手したら殺意の波動以上にまずい。

 

「こりゃ完全に自分の意志で腹が立っているみたいだぜ。操られている時よりこっちの方がむしろ強いんじゃねえか?」

 

 魔理沙はミニ八卦路を取り出した。紫苑は幻想郷の者、つまりは弾幕勝負が最後の砦、それを自分たちが崩せればこの異変は終わりを迎える。

 

「ケン、ここはもう霊夢達に任せよう。俺たちは後始末をつけてこよう」

 

 リュウはケンに肩を置き、冷静に言った。ケンはう~んと一度考えてから、よしとキリをつけた。

 

「確かにこの相手に6人もいらないだろうな。んじゃ、後は任せたぜ」

 

 ケンはそう言って後ろを向き、走ってきた道を戻っていった。

 

「霊夢、まだ体は動くよな?」

 魔理沙はもう一度体をほぐすようにぶらぶらと腕を動かした。

 

「もちろん。この程度でスタミナ切れしていたら、リュウの修行は何だったのかと言われてしまう。そうなったらあの地獄の滝行だわ」

 

 霊夢はあの地獄を思い返しているらしく、一瞬悪寒を感じた。この時期の滝行は、正直勘弁して欲しい。博麗の巫女とてそれは同じだ。

 

「まあこれでも、前の異変ほど長引かなくてよかったわ」

 レミリアは殺意の波動のないグングニルを構えた。

 

「最後まで油断しない方がいいよ。この人、また強くなっているような気がする…!」

 フランは素手に戻っていたが、構えは直している。続ける準備は万端だ。

 

 

「さあ、これで最後…決着をつけましょう!!」

 

 

 霊夢の言葉と共に、4人は紫苑に向かって飛び出した―――

 


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