東方殺意書   作:sru307

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 お待たせいたしました。ようやく投稿です。

 戦いが加速していく。
 それは戦いの最中だけでなく、隠されたものも動力に―――


第77話「本性」

第77話「本性」

 

 

 

「おおっ!」

「むんっ!」

 

 両者一斉に飛び出し、お互い相手となる者へとすぐに対峙した。

 

「不運『ようこそ極貧の世界へ』」

 

 女苑がスペルカードを宣言する。しかし霊夢と魔理沙にとっては思考を巡らせられないほど落ち着きを失うには至らない。

 

(いうほど弾速は速くないわね…不意打ちでもない限り、避けるのは簡単!)

 

 霊夢は依神姉妹の弾幕をすいすいと避けていく。こちらはさらに近い距離で初速の速い蹴りやパンチを避ける修行をしてきたのだ、遅い弾幕だけでは今の霊夢にはかすりもしない。もちろん魔理沙も。

 

「そんなもんじゃないだろ!? 儀符『オーレリーズサン』!」

 

 魔理沙の周りに球体が出現し、レーザーを一定間隔で放出する。そのレーザーが、女苑のスペルカードの一部と相殺する。これを見る限り、弾幕の威力もそこまで高くはない。威力重視の私には不要だ、と魔理沙は心の中でそう思っていた。

 

 しかし相手側も馬鹿ではない。弾幕が効いていないと即座に判断した女苑が肩にぶら下げていたバッグを両手持ちにして魔理沙の頭めがけ振り下ろしてきた。

 

「くらえっ!」

「おっと!」

 

 魔理沙は横っ飛び、振り下ろされたバッグは空を切った。バックの中身は知りうる由もないが、色々と詰め込んでいるのか重く見えた。

 

(姉は割と接近戦が好きか…妹は何もしていないけど、あの様子から考えるに洗脳された人の操作を一手に引き受けているってところ…か)

 

 妹の紫苑はじっとしている。目もつぶり、この戦いの様子すら見ていない。あれだけの人数の洗脳はそれだけ集中が必要なのだろう。ホイホイと簡単にされてはこちらとしてはたまったものではないが。

 

「散財アッパーッ!」

「危ねえ!?」

 

 女苑は思い切ってアッパーを繰り出す。魔理沙はそのかけ声に驚きながらもかわした。こいつ、弾幕勝負よりも殴り合いの方が強いんじゃないか?

 

「黄金のトルネード!」

 女苑がスペルカードでも何でもない独自の技を繰り出すが、それも簡単に避けてしまう2人。女苑は苛立ちを覚えてきているようだ。それに気づいた霊夢が飛び出した。落ち着きを失うことは見えるものですら判断を遅らせてしまう。自分もよく経験していた。

 

「竜巻旋風脚!」

 トルネード返しとばかりに竜巻旋風脚を女苑の体にぶち当てる。女苑は紫苑の所に吹っ飛ぶ。紫苑はこちらに何か迫ってくることを察したか、目を開いた。そして吹っ飛んできた女苑を慌てて避けた。受け止められる自信がなかったのだろう。

 

「ちょっとぉ!?」

 女苑は紫苑が受け止めてもらえなかった事に驚いたか、声を上げながら背中を地面に打ち付けた。

 

「ちょっと紫苑、姉ぐらい受け止めなさいよ!!」

 女苑が荒っぽい声を紫苑にぶつける。半分荒っぽい声に紫苑はびくっとした。

 

「ご、ごめん…」

 紫苑は謝るが、声は小さい。ちゃんと女苑の耳に届いていたが、女苑の怒りは静まらない。

 

「あんたは戦闘じゃ役立たずなんだから、こっちのサポートは全部あんたがすること! 分かった!?」

 

 女苑は霊夢と魔理沙の戦いの最中にも関わらず妹を叱りつける。この姉、かなり自己中心的だ。妹の紫苑は何も反論できない。だが霊夢と魔理沙は見逃さなかった。紫苑の顔に、わずかな怒りが隠されていたことに―――

 

 

 

(無言…相当強い洗脳をかけられているわね。操り人形もいいところ…)

 

 レミリアはユンヤン兄弟の無表情に半分呆れを感じつつもグングニルの先をユンに向ける。この兄弟は武器を持っていない。身軽な格好を見る限りナイフなどの武器を隠している事もないだろう。素直に見たことのない拳法で戦う者。レミリアは確信していた。

 

 その確信通り、ユンは踏ん張るような動作から飛び込むように前へ移動、右腕を前に伸ばしてレミリアを狙ってきた。レミリアは空へ逃れる。

 

(攻撃の瞬間だけは速く動けるようね…その代わり連撃できるほど素早くはない。ならば!)

 

 レミリアは先ほどまでの槍での戦闘から、従来の弾幕型へとシフトした。まずグングニルを消し、一度宙返りで離れつつスペルカードを宣言した。

 

「神術『吸血鬼幻想』!!」

 

 レミリアの弾幕に対し予想通りと言うべきか、ユンはガードを固めて弾幕から身を守る。攻撃しながら弾を避ける、いわゆる『弾抜け』はあの移動を持ってしても不得意らしい。実際の所、レミリアがそれに近いものを見ていないせいもあるが、それでもこの安心点はあるとないではとんでもなく違う。

 

 ユンはスペルカードにもガードでしのぐ。だがレミリアにとってはそれでよかった。なぜなら、ガードに勝つ手段は既にこちらの手札にあるからだ。

 

 レミリアは素早くユンの眼前に接近、腕を伸ばしユンの腕を引っ張った。ユンは洗脳故か表情を変えなかったが、引っ張られて体勢を一瞬前のめりにさせる。

 

「とうっ!」

 

 そこに羽を羽ばたかせて宙に舞い上がり、サマーソルトキックをユンの顔面にぶち当てた。一種の投げだ。ユンは不意を突かれたか受け身も取れず仰向けに倒れた。それでもユンはすぐに立ち上がる。

 

(これをされても折れていないみたいね…上等!)

 

 レミリアは心に決めた。彼には洗脳が解けるほど心を折らなければ勝てないと―――

 

 

 

 一方のフランはヤンと戦闘、ヤンの攻撃手段は我流と思われる手刀を柱とした拳法。フランはガードではなく避けていた。手刀は必然的に二刀流、つまり手数は多くなる。壁を背にすれば、その手数を避けるのは難しくなる。ガードを固めてもいずれ崩されるのがオチ、だから回避しつつ追い詰められないようにする、そのためには絶対に捕まらないこと。フランはそれに神経を集中していた。

 

(何もしゃべらない…こんなに無表情な人は初めて…)

 

 フランは昔の自分に何か通ずるものを感じながら戦いを進めていた。無論そこに同情は入っていない。

 

「禁忌『恋の迷路』!」

 

 フランはヤンの接近戦には無理に付き合わない体勢を取った。離れれば弾幕で攻撃し、近づかれたら差し込みで攻撃して離す。こちらから離れる事はしないで相手から離れるのを待つ。この戦い方でフランは優位に立っていた。

 

 しかしヤンはひるまずにフランに向けて前進を続ける。そして真上にジャンプからあり得ない角度で急降下して蹴りを入れようとする。地上で戦おうとすると明らかにヤンに分がある。フランはだんだんと空中にいる時間が長くなってきた。これでは昇龍拳などの勝負を決められる技を繰り出せない。

 

(このままじゃ時間がかかるだけ…ならあいつの癖を読む!)

 

 フランは一度空でじっとヤンの様子を伺いだした。するとヤンは追いかけようとせずにじっと空のフランを見続けるだけになった。空のフランと地上の距離はちょうど大人1人分の身長と同じ高さしかない。仮にリュウが相手なら、昇龍拳で打ち落とすのは容易な距離だ。

 

(まさか…?)

 フランは疑惑を持った。もしヤンができないとしたら―――

 

 フランは空中から地上に降りた。するとヤンの動きがまた活発になってきた。

 

(…分かった、彼には、『これを出しておけば勝てる』という技は持っていない! 特に空中なら、まともにやり合える技はない!)

 

 フランは地に足をどっしりと構えた。地上戦の構えだ。そう、ヤンの使える技は用途がほとんどない。だから正攻法しかない。その代わり、自分と同じく行動を読むことで正攻法を強くさせる。つまりこの戦いの鍵は純粋な『読み合い』。ならば受けて立つ。空中では時間がかかるだけだ。

 

 フランはそのまま、自らヤンの懐へ潜り込もうとする。ヤンは切り返しを狙った。今はこちらが攻めているいいリズム、だがそこまでペースには乗れていないため簡単にそのリズムは持って行かれると薄々感づいていた。ペースを確立するための攻撃だ。

 

 ヤンの考えはそこまではよかった。だが後が悪い。ヤンの飛び上がりながらの蹴りはフランが一枚上手、フランが後ろに下がることで回避されていた。

 

(来た!)

 フランはすぐにヤンの着地地点に合わせてセービングアタックをぶつけ、ヤンを膝から崩れさせる。そこからはお得意の連撃だ。波動拳からセビキャン、しゃがんで腹にパンチ2発、そこからすぐ立ち上がり

 

「昇龍拳!」

 ヤンの体はいとも容易く吹っ飛ぶ。流れを掴んだ。

 

 

 

 一方のリュウとケンは2体のセス相手に互角以上の戦いを展開していた。しかしセスの方も流石という所、とっさの対応でリュウとケンの攻撃をさばいている。この対決は小技合戦、大技はリスクリターンが合っていないのか、どちらも出そうとしない。

 それを見てまず動いたのは赤色のセス。

 

「ソニックブーム!」

 赤色のセスが出したのは、何と片手のソニックブーム。

 

「うお!? マジかよ!?」

 ケンは動揺を表に出しつつも真上にジャンプしてソニックブームを避ける。あのソニックブーム、出し方は違うが見た目はガイルの扱う物そのままだ。

 

「ふふふ…」

 青色のセスは不適な笑みを見せる。手がへその謎の機械に当たっている。ケンは察した。

 

「なるほど…十中八九そのへそにある機械だな?」

 ケンが謎の機械に指をさすと、青色のセスはうなずいた。

 

 

「その通り。これは丹田エンジン。これが気や波動を増幅し練り上げ、私の全身に行き渡っているのだ。その過程でシャドルーが収集した世界中の格闘家のデータを取り込み、擬似的に技を再現させたのだ」

 

 

 赤色のセスが誇らしげに言った。どこまでデータを取り込んでいるかは分からないが、シャドルーが関わっているのなら、間違いなくシャドルーと敵対する組織、ICPOや軍隊のデータは入っているだろう。すぐ浮かぶのは春麗、ガイル、キャミィ。体型のことを考えると、キャミィの技の再現はかなり無理がある。あの速度を得るには身のこなしの軽さは必須条件。だがセスの肉体を見る限りキャミィの素早い身のこなしは想像できない。

 

「我々兄弟は同じデータを入れられている。だから技に劣りも影もない。いずれは全ての技を取り込む。もちろん、この世界の者の技もな」

 

 青色のセスが壮大な夢物語を語る。もちろんその夢物語は6人からすれば水泡に帰してもらうが。

 

「貴様らのデータはもう入れてある。なので貴様らには大人しくしてもらう、あるいは死んでもらおう!」

 

 赤色のセスがそう言いながらリュウに突っ込み、回し蹴りをする。しかしリュウは見切り、回し蹴りをガードする。そのまま反撃しようとするが―――

 

「むっ!?」

 次の瞬間、リュウの全身に衝撃が走った。この感覚は間違いない、蹴りを入れられた感覚だ。

 

(蹴りが見えなかった…最初の回し蹴りを食らっていたら危なかった)

 

 リュウは表情を変えずに赤色のセスをじっと見る。セスに特に変わったところはない。となると、あの蹴りは間違いなく一瞬にして入れられたもの。すぐ浮かぶのは春麗の百烈脚。そこにさらに強化を加えられる点を追加したもの。リュウは確信した。

 

(今までの経験が詰め込まれている…か。ならば、その経験外の行動ならばどうだ!?)

 リュウはそう考え前方にジャンプして青色のセスへと飛び込んだ。

 

「昇龍拳!」

 青色のセスは素直だった。そしてなんとも思わずリュウの暗殺拳を繰り出していた。

 

 

「やはりな…その技を使うと思っていた。だが真似事で習得できるほど俺たちの拳は甘くできていない!」

 

 

 リュウはまだ見ぬセスの未知の実力に自ら挑んでいった。たとえ自分が傷つこうと、試さなければ分からない。飽くなき探求は、ここでは武器となる。

 

「真空竜巻!」

 リュウが見せたのは殺意リュウの時にも引っかけようとした空中に留まることで対空をかわす手段。今度は見事に決まった。

 

「なっ…しまった!」

 青色のセスはもう昇龍拳を止められなかった。昇龍拳が空中のリュウの前でスカる。しかもその昇龍拳が高く空を切ったものだから、隙さらしもいいところだ。そして着地が早いのは当然リュウ。

 

「させるかっ!」

 赤色のセスがリュウを止めようとする。だがそこには相棒がいる。

 

「おっと、それならまず俺の相手になってからだぜ? 波動拳!」

 

 ケンが波動拳を飛ばし、赤色のセスの視線をこちらに向けさせる。それを見てケンは真正面から突っ込んでいった。赤色のセスの気をそらすにはこれで十分だ。データが入っているのなら、接近しているのに相手にしないなんて自殺行為はしないだろう。

 

 予想通り赤色のセスはケンの相手で精一杯になった。そしてリュウは青色のセス1体に狙いを定めた。まずセービングアタックを腹にねじ込み、足をふらつかせる。ガクガクの足に連続して蹴りを入れ、下段に意識を向かわせる。思わずしゃがみそうになった所に顔面にパンチを当て、またよろめかせる。ヨロヨロの状態なら、ガードも暴れもされない。そこから鳩尾にブローを食い込ませ、腹から顎をえぐり取るようなアッパー、そして本家の技。

 

「昇龍拳!」

 いくら技が強くても、当たらなければその強さはないに等しい、そう言いつけるようなお手本通りの昇龍拳が決まった。

 

「さあ、こっちも一気に行くぜ!」

 

 リュウが勝負を決めに来たの見てケンもさらに前に出た。赤色のセスはその出方をうかがう。ケンは懐へ潜り込み昇龍拳の構えをした。しかしそれを読んだ赤色のセスは即座にバックステップ、昇龍拳を回避した―――かに思えたがその昇龍拳は小さく飛んだだけ、つまりフェイクだ。

 

「かかったな! 昇龍烈破!!」

 

 ケンはバックステップに追いついて即座に本命の昇龍拳を決めた。そこにはもう一発昇龍拳のおまけ付きだ。

 

「ぐおわぁ!?」

 

 赤色のセスの体が燃え上がる。いかにも発火するような体ではなさそうだがちゃんと燃えた。しかも結構効いている。赤色のセスが、自分の体についた炎を消そうと地面でのたうち回っている。青色のセスがその隣にドスンと落ちてきた。2人そろってノックアウトだ。

 

 だが2人はこの時気づかなかった。青色のセスが、どこからか謎のボタンを取り出していた事に。

 

 

「ん? …おい、その手に持っているものは何だ!?」

 

 

 ケンがそれに気づくがもう手遅れ、青色のセスはボタンをポチッと押していた。

 

 

「もう遅い!」

 

 

 赤色のセスがしめたと言わんばかりに声を張り上げた。次の瞬間、紫苑の体に異変が起こった。紫苑の体から紫色の蒸気が吹き出始める。蒸気はあっという間に紫苑を飲み込んでいった紫苑は何も言葉を発せずに飲まれるだけだった。

 

 

「あんた達…私の妹に何をしたのよ!?」

 女苑が先ほどまでのセスの協力的な態度を一変させる。

 

 

「ふふ…よくやってくれた。貴様の能力、役にたったぞ」

 

 

 赤色のセスが『貴様はもう不要だ』と言っているのと同然の言葉を女苑にかける。

 

 

「こいつの体につけたのは能力制御装置。これで我々は洗脳の力を自分のものにし、かつこいつを兵器として動かすことができるようになったのだ!!」

 

 

 青色のセスの宣言が、幻想郷中に広がった。本当の異変の元凶として、セスが本性を現わしたのだ―――

 


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