東方殺意書   作:sru307

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 異変の終末が近づく。
 結果がどうであれ、幻想郷の歴史が刻まれる瞬間が―――


第76話「終末の始まり」

第76話「終末の始まり」

 

 

 

―人里―

 

 

 一方、人里へとんぼ返りした6人は里の異変に直面していた。どこに逃げていいか分からず惑うだけの人、前だけを見てひたすら走っていく者ばかりだ。

 

「里の人たちが皆逃げていくぜ。逃げている先に、異変の元凶が…!」

 

 6人もその様子を見てから走り出していた。この様子だと、避難する場所もないようだった。それだけ急を要する事態が、この人里で起きているということだ。

 

「逃げている人たちの顔に落ち着きが感じ取れない…」

 

 レミリアが鋭い目で逃げる人里の人たちを見る。汗のかき方、顔の色、どれをとっても常人の健康的な状態ではない。

 

「それだけ目的地も近いって事だぜ!」

 

 ケンが前だけを見続ける。ようやくつかんだ尻尾だ、取り逃すわけにはいかない。

 

 人が一目散に里の中心部から離れていく。その中で、リュウはある人物を捉えていた。

 

「あそこにいるのは…慧音か!」

 

 リュウが必死に子供達に避難を指示する女性を目につける。あの服装、間違いなく慧音だ。慧音は次の避難誘導するべき住民を探そうとしていたか、こちらに顔を向けてきた。6人は迷うことなく慧音に近寄った。

 

「みんな、無事だったか! 安心したぞ」

 

 慧音がホッとした表情になった。確かに6人の身に何かあれば、今度こそ幻想郷は終焉を迎えていただろう。

 

「どういう状況なの、今の人里は」

 

 霊夢が聞くと、慧音は困り切った表情を見せた。

 

 

「分からない…いきなり外が騒がしくなったと思って寺子屋から出たらもうこの状況だった。いつの間にか侵入を許していた状況だったんだ」

 

 

 慧音は悔しそうだった。もう少し早く、里の異変に気づけていれば。

 

「妹紅は人里の中心近くで避難誘導に当たっている。私は此処で手一杯だからすまないがお前達がなんとかしてくれ」

 

 慧音は人前で珍しく手を合わせてきた。それだけ、この異変は手に負えないのだと訴えてきた。

 

「当たり前だぜ。早く行こう!」

 

 魔理沙はそう言って6人の誰よりも早く行動を再開した。残る5人も慧音に別れを告げることなく魔理沙の後を追う。だが慧音は1人だけ呼び止めた。

 

 

「リュウ、待ってくれ」

 

 

 リュウはその言葉をしっかりと耳で聞き取っており、足を止めていた。慧音の方を見ると、慧音がわずかに顔をうつむけていた。

 

「ごめんな、リュウ。最後の最後まで、お前に頼りにしっぱなしで…」

 

 それを踏まえた上での謝罪だった。異変の時からリュウに対しては気持ちをころころと変えていたこともあるからだろう。

 

 

「気にするな。これも俺にとっては修行の一環だ」

 

 

 しかしリュウはそう言って慧音に笑みを見せた後、すぐ5人の後を追っていった。

 

 

「…この状況でも彼は変わらず、か…」

 

 

 その一連の様子を見た慧音はつぶやいていた。もう彼の心配をするだけ時間の無駄だと知った。リュウは、本来の姿を完全に取り戻した…

 

 リュウのあるべき姿を見た慧音は、再び人々の避難誘導に専念した。

 

 

 

 妖怪の山から人里へとんぼ返りすること10分経ったか経ってないかの時間、6人は逃げる人々の隙間を縫うようにして里の中心部まで行き着いていた。

 

「人がさらに多くなってきたな…ここら辺にいないのか?」

 

 流石の6人でも、だんだんと人々の隙間を縫うのは容易ではなくなってきていた。ここら辺は、特に人の行き交いが激しい。

 

 と思っていたら、さらに中心に近づいていくと人が避難仕切っているのか、人を見なくなってしまった。

 

(人だかりがパタッと止まった…怪しい…)

 

 フランが目を細めた。この状況から敵側が企んでいるのは急襲。警戒を強める。

 

「よくぞここまでたどり着いた…」

 

 上空から声が聞こえる。声のした方に顔を向ける。家の屋根に6人が堂々と座っている。2人は手記に書かれていた姉妹、もう2人は色違いながら同じ格好の兄弟らしき男2人、そして残りの2人は―――

 

 

(…! 何だこいつ…人の手で作られた奴なのか…!? あまりにも同じすぎるだろ!?)

 

 

 魔理沙が2人のセスの異形という言葉がぴったりの体表、へそ辺りに取り付けられたゆっくりと動いている謎の機械(?)に目を奪われる。どう考えても人間ではない。おそらく妖精でも妖怪でもないだろう。2人の体のつくりも、顔も、全て同じ。違うのは体表の色だけ。まさしく精巧に作られた人形。いや、ロボットと言うべきか。どちらにせよ、人間が作り出した生き物だということは間違いなかった。

 

 

 姉妹の方は姉の方がバッグやら宝石やら豪華なものを身につけているのに対し、妹の方はボロボロの服にボサボサの髪、明らかなる貧民だ。このギャップ、姉妹の仲は険悪そうだ。

 

 兄弟の方は目が赤い。洗脳されている。

 

「我らはセス。世界の王となる者」

 

 きざな男が言いそうな台詞を吐きながら堂々と名乗りを上げる。ここ幻想郷ではおいたが過ぎる行為だが。

 

「そして私達は最凶最悪の姉妹、依神女苑と紫苑よ」

 

 姉妹2人も名乗りを上げる。特に姉の方は身につけた宝石を見せびらかすようにかっこつけている。

 

「この2人はユン、ヤン兄弟。私達姉妹の能力を応用した洗脳を強くかけておいたわ。そのせいか、言葉すらしゃべれなくなってしまったけどね」

 

 女苑は誇らしげに胸を張った。この2人、セスと依神姉妹の自慢の用心棒というところか。

 

「話していいのかしら? それはあなたたちの今の主力。簡単に話すものならすぐに解析されるわよ?」

 

 レミリアは余裕の表れを見せる依神姉妹に対して吠えて見せた。

 

「ええ。話しても構わないもの。あなたたちも、ここで私達の洗脳に墜ちるのだから」

 

 女苑の態度は変わらない。あれだけの自信はどこから来ているのだろうか、レミリアは疑問でしょうがなかった。だからさらに問い詰めた。

 

「なめられたものね。私達はそんな金欲で生きている者ではないのよ」

 

 レミリアの強気発言に、女苑は顔をしかめた。そんな言葉が言えるのも今のうちだと思いなさい、と今にも口から飛び出てくるような気迫。だがレミリアにしてみれば、そんな気迫は脆いものだ。

 

「確かにそうだろうけど…姉さん!」

 

 紫苑が女苑に合図をかける。

 

 

「この人数相手にどうにかできればの話だけどね!」

 

 

 女苑がパチンと指を鳴らすと、近くの住居から次々と洗脳された人たちが出てきて6人を取り囲んだ。6人はあまりの人数の多さにじりじりと後退するしかなかった。実力の差は目に見えるほどあるだろうが、これでは多勢に無勢すぎる。

 

 

「くそっ、数が多すぎるぜ。これだと近寄ることすらままならねえ…」

 

 

 魔理沙がミニ八卦路を洗脳された人々に構える。しかも相手は元々一般人、やり過ぎは最悪相手を殺しかねない。

 

 6人の背中が合わさる。もう下がれない。軍勢が一斉に体勢を低くする。襲いかかってくると6人の誰もが思ったその時。

 

 

「彩符『極彩颱風』!!」

 

 

 突如として虹色の弾幕が空から降り注ぎ、洗脳された群衆に次々と突き刺さる。

 

「間に合いました! お嬢様、妹様大丈夫ですか!?」

 

 美鈴がストッと目の前に降りてきた。傍らには師匠の春麗もいる。

 

「美鈴!」

 フランが一安心の表情を見せる。ここに来て家族の手厚い助けを得られるのは非常にありがたい。

 

「ここは私達に任せて、リュウとケンはあいつに集中して!」

 

 春麗が舞い降りてくると同時に洗脳された群衆の1人に蹴りを入れた。

 

「お嬢様、ここは私達が引き受けます! お嬢様はあいつを!!」

 

 私も続けとばかりに咲夜も降りてきて戦闘を始める。そばにはもちろんダッドリーもいる。

 

「この人数か、悪いが殺さない程度に大人しくしていてもらうしかないな」

 

 ダッドリーが鋭く洗脳された人々を見定める。この中には確実に武道の心得すらない者がいる。むしろその数の方が多いだろう。ボクシングでのやり過ぎは即座にリングを降りることと同じ、手加減は必須事項だ。

 

「ギリギリだけど間に合ったみたい!」

 ぬえが汗をかきながらも空から状況を観察する。命蓮寺の者達もサガットを連れてやってきた。

 

「助かった、聖! ここら辺は俺と星が引き受けるから、残りを頼む!」

 

 サガットが自分を空へと飛ばせてくれた聖に感謝する。聖は無言でうなずき、混乱に満ちた里の鎮圧のためメンバーの各々が散らばっていった。

 

「くらえ…タイガーキャノン!!」

 

 星がサガット直伝のタイガーキャノンで群衆を吹っ飛ばす。直撃でない辺り、考慮も行き届いている。吹っ飛ばした地点にサガットと一緒に降り、そのまま洗脳された群衆と相手になった。リュウに見向きもしない辺り、友として言葉はいらないだろうと思わせぶりだ。

 

「ここらでいいかしら、皆さん?」

 

 我先にと続くばかりに、地霊殿の者、そして地底復興集団(?)のザンギエフ達も空から降りてきた。ちなみに地霊殿は萃香と勇儀に任せてもらった。

 

「文句ないでぇ! ここなら暴れるにはうってつけの場所や!」

 

 ハカンが壺を持ったまま落下し、地面に着地、壺の中を地面にぶちまけた。壺の中に入っていたのは油、6人に接近しようとしていた群衆は一瞬にして足を取られギャグ漫画の如く一斉にずっこけた。

 

「前方は俺たちに任せろ! いりゃあ!!」

 

 ザンギエフがスクリューパイルドライバーを決める。それを見せつけられた人々が思わず後ろに下がる。押せ押せムードが一気に消え失せた。

 

「何じゃ何じゃ、この程度で腰が引けおったか? 情けない奴らじゃのう!」

 

 この怖じ気に気づいた本田がこちらに流れを持って行かせようと前に出た。おかげで2人のセスと依神姉妹、ユンヤン兄弟の前が開けた。

 

「さとり、助かったわ。こいつら1人1人は簡単に処理できても、この数じゃあ身動きできないから」

 

 霊夢が少しだけ表情を柔らかくする。元凶が目の前にいる以上、安堵の息はつけないがこれで落ち着くことはできる。

 

「というか、よく見たら見慣れない格好の奴までいたぜ。こりゃあリュウの世界からも人を呼んでいやがるな」

 

 魔理沙が頭をがしがしとかく。豪鬼の言っていたことは紛れもなく事実、自分の目で見た光景が証明していた。

 

「ちなみに遠くから支援を要請しても無駄ですよ。もう私達の仲間が鎮圧に当たっていますから。外の世界も、紫さんが動いているのでもう増援はないでしょう」

 

 さとりが女苑の心を見透かしていたか、念を押す言葉をかけた。女苑は図星だったか、びくりとした。

 

「姉さん、あいつは心を読むさとり妖怪だよ。考え事をしたら即座にばれちゃう…!」

 

 紫苑のささやきに女苑は思わず悔しい表情を見せる。戦力の余裕が一気に消え失せてしまったのが大きな理由だ。

 

「いけるぜ、これなら周りをいちいち気にする必要もねえ…!」

 

 ケンが拳を合わせた。周りにわずわらされるのは集中が途切れる最悪の原因だ。それが生まれる可能性が排除された以上、負けは無茶してでも認めたくない。

 

「何よ、ここで邪魔が入るなんて聞いてないわよ!!」

 

 女苑はいらだち、妹の紫苑の顔を引っ張った。八つ当たりである。

 

「ね、姉さん、私に言われても…」

 

 紫苑は女苑の手を離そうとする。この姉妹、仲がいいのだか悪いのだか…

 

「ち、やはり戦闘経験のない者を集めても所詮はゴミか…」

 

 青色のセスは頭を抱える。成功すれば最高のプランだったが、不安材料があったので失敗も視野にずっと入っていた。それが目の前に出てきてしまった。

 

「まあいい。いずれは倒さねばならない相手、最初から避けることはどうやっても無理な話だったのだからな」

 

 赤色のセスが笑ってみせる。それにつられてかもう1人も笑う。邪悪な笑みだ。この笑みをなくさない限り、この異変は終わらない。

 

「私とフランであの兄弟を相手するわ。互いに血のつながった関係、どちらが強固なものか興味が湧いてきたわ」

 

 レミリアはグングニルを取り出した。フランがうなずく。異議はないようだ。

 

「リュウ、ケン。あのマシン2体を頼める? あの姉妹は、魔理沙と私が相手になるわ」

 

 霊夢はセスをマシン呼ばわりする。セス2人を、人としてではなく妖怪と同じに見ている証拠だ。異変を起こす不届き者として、退治するべき相手と。

 

「あの姉妹に俺たちが当たるのはちょいと反則だろうしな。それでいいだろ、リュウ?」

 

 ケンは顔をリュウに向けた。確かに弾幕に慣れきっている(今となってはそんな人物があまりいないが)幻想郷の有力者には、素手の心得はないだろうからこちらが一方的、あるいはその逆の展開になりがちだろう。それは不公平だ。

 

「構わないぞ。この2人…手強そうだ」

 

 リュウはもうセスの実力を目で判断していた。だがその実力に陰りがある事も見逃さなかった。その陰りが露呈したなら、勝ちは見えてくる。

 

「さあその力存分に見せてもらおう! 遠慮はいらん!」

 

 青色のセスは6人を試すような言葉を言い放つ。この戦いの終わりを迎えた後は、6人の戦いのデータを奪い取る算段か何かでもあるのだろう。

 

「貴様らを洗脳すれば、我らの逆転劇は完成する! 大人しく墜ちるがいい!!」

 

 赤色のセスは全く恐れを感じていない。言葉が強気だ。

 

「あなたたちのようなクズは私の幸せを邪魔するだけ…大人しく死んでなさい!!」

 

 女苑はいかにも悪巧みをするような恐ろしく怖い目つきになった。これが終われば、自分の富は手中に収まり、これからの人生はバラ色、という妄想が既に頭に広がっているらしい。

 

「簡単に幻想郷をもらえると思わない事ね!!」

 霊夢はお祓い棒をセス達に向けていた。異変の終末が始まったのだ―――

 


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