東方殺意書   作:sru307

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まさかの前後編分けです(本当はこんな長くなる予定はなかったんだorz)。

ついに判明する異変の概要の物語。
前編はそこに至るまでの話になります。


第5話「判明」 前編

第5話「判明」

 

 

時は少しだけさかのぼり、紅魔館崩壊の前―――

 

 

―魔法の森―

 

 

「これで全部ね。まったく、この臭い…さっさと異変解決して温泉入りたいわ」

 

 魔法の森で『死体の墓場』を発見した霊夢、魔理沙は手がかりを求めて死体の外傷を調査していた。しかし分かったことは、出血原因が物理的な要因だったこと、これだけだった。それ以外に特徴的なものがないのだ。

 

「これだけ目立った傷がないとなると…犯人は鬼の類いか?」

 魔理沙が考え込む。

 

「それが当然の考えよね。でもそれだと、特定するのは骨が折れるわね…」

 

 幻想郷にも鬼は存在する。しかし、能力を持っている鬼というのはほんのごくわずかで、他の種族に比べて数は明らかに少ない。もしその能力による外傷か何か証拠があれば、簡単に特定できるのだが、物理的な要因だけではどんな鬼でも可能なため、すぐに特定ができないのだ。

 

 しかも「物理的」であって「殴った」とか「蹴った」ではない可能性も否定できない。2人はその事も視野に入れて考えていた。

 

「その上、目的が何かも分からないのよね。うーん、参ったわね…」

 

「外傷を調べただけじゃ分かるわけがないのもあるけど…なんでこんな大量に妖怪や妖精を殺す必要があるんだって話になるよな」

 

 今まで2人が経験した異変の中に、このような無差別に妖怪、妖精が大虐殺される異変はないのだ。さらに、人間と妖怪、妖精の棲み分けに関しては、暗黙の了解があるため、決して3つの種族の不仲はない。それならば―――

 

「妖怪や妖精に個人的な恨みか何かをもつ人間もあり得る、か。ますます参ったわね」

「とりあえず、別の所も回ってみようぜ? 何か、新しい手がかりか何かあるかもしれないし」

 

 

 魔理沙がそう結論づけ、『死体の墓場』から離れようとしたその時だった。

 

 

 突如、地面がグラグラッと揺れ始めた。そこまで強くはないが、今にも倒れそうな建物があるなら崩壊しかねない揺れだ。

 

 

「な、何だぜ!? こんな時に地震があるってことは…」

 

 魔理沙は揺れる地面に踏ん張りをきかせながら転ばぬように耐え続ける。揺れは長くは続かず、十数秒ほどで収まった。

 

 そこから、2人はいやな空気を感じた。

 

 

「…なあ霊夢。なんか、紅魔館の方角から何か、いやな空気を感じないか?」

 

 

 霊夢はその魔理沙の言葉を黙って聞いた。阿吽の呼吸のごとく、2人の気は合っていた。

 

 

「ええ。なんか、…言葉では表せないけど、確実にいやな空気が流れているわ」

 

 

 霊夢は感づいていた。先ほどの地震、間違いなく異変だ。

 

「なら…早く紅魔館に行かないとな!」

「ええ!」

 

 2人は紅魔館のある霧の湖へと飛んでいった。

 

 

―霧の湖―

 

 

 相変わらず霧の深い湖の水面を飛んでいく2人は、いやな空気を道しるべに紅魔館を目指した。だが、その前に何かがおかしい、と魔理沙が感じた。

 

「あれ、もう結構飛んでいるような…」

「魔理沙、どうしたの?」

 

 霊夢が効くと、魔理沙は首をかしげてからこう答えた。

 

「いや、紅魔館には何度も行っているからさ、だいたいこのスピードならこの位の時間で着くってのが分かるんだよ。この速度なら、今頃になればもう紅魔館が見えているはずなんだけど、今は紅魔館どころか何も見ていないだろ?長く飛んでいるのかなって思っただけだぜ」

 

 実は先ほど書いた紅魔館のとある泥棒とは、霧雨魔理沙のことである。彼女は『借りる』という口実をもって、紅魔館の図書室の本を盗んでいるのだ。しかもそれを何度も行っているわけなので、紅魔館には行き慣れているのだ。

 

「ああ、補足しておくぜ、いやな空気は確実に近づいてきている、つまりは紅魔館には近づいているのは間違いないからな」

「そんなことは分かるわ。方角的に間違いはないでしょうし―――」

 

 霊夢が言葉を続けようとしたとき、あたりに立ちこめていた霧が少しだけ晴れ、水面が目に見えるような霧の深さになった。その時、何気なく真下の水面を見た魔理沙が、ある者(・・・)を見てしまったのだ。

 

「…!? 霊夢、ちょっと待ってくれ! あいつは…」

 

 それを見た瞬間、魔理沙が先に進もうとする霊夢を引き止めた。

 

「何? 魔理沙?」

 

 

 魔理沙が指さした水面を見る。そこに何かがプカプカと浮いている。白い布地、誰かの―――髪。

 

 

「!? まさかこいつ、紅魔館の妖精メイドじゃない!?」

 

 

 魔理沙はその水面に向かい、腕らしきものを引き上げてみる。服が湖の水を吸っているらしく、重かった。しかしそれについていた羽は、まさに妖精のものだった。

 

「!! 間違いないぜ、こいつは紅魔館のメイドだ!! なんでこんな所に…?」

 

 今まで見てきた死体とは違い、あざや内出血、目立った外傷は見られない。何か堅い物をぶつけられ、ここまで飛んできたようだ。

 

「ますます紅魔館が気になる所ね、急いで―――」

 

 その言葉の途中、突風が吹いてきた。台風や嵐のような強さではないが、辺りの霧を吹き飛ばすほどには強い風だった。水面だけでなく、周囲の霧が晴れた瞬間、2人は見てしまった。完全に形をとどめていない紅魔館を―――

 

 

「「―――!!!!」」

 

 

 2人にはもはや言葉が出なかった。門も紅魔館を覆う壁も、全て跡形もなく破壊され、そこに残るのは陥没した土地だけだった。時が経てばここに紅魔館があった、なんて忘れ去られるほどに…

 

 陥没した土地にあるのは、ギリギリ判別できるぐにゃりと曲がった時計台の時計。目立ったものはそれだけで、後は廃材だけだった。ただ、『紅い』という色の特徴だけがある、廃材。

 

 しばらく絶句していた2人だったが、魔理沙が思い出したかのように言った。

 

「―――!! そ、そういえば美鈴は!? パチュリーは!? 小悪魔は!? 咲夜は!? レミリアは!? フランは!?」

 

 魔理沙はかなり気が動転しており、全員の名を1人ずつ言った。それほどまでにこの凄惨な紅魔館の状況が即座に理解できなかったのだ。

 

 霊夢は急降下して紅魔館の住人を探し始めた。魔理沙も続く。まず見つかったのは美鈴、その次に小悪魔、離れたところにパチュリー、咲夜。そして時計台の時計近くにレミリア。次々と見つかる中で、2人は焦っていた。紅魔館で最も危険な存在、フランドール・スカーレットの姿が見えないからである。

 

 その事には、霊夢も慌てていた。フランドール・スカーレットが危険な能力を持っていることは、異変解決側である2人にも分かっていたことだからだ。

 

 

ありとあらゆるものを破壊する程度の能力―――フランドール・スカーレットの持つ能力で、その名の通り、人も、物も全て破壊してしまう、恐ろしい能力である。そればかりではなく、フランの狂気があるが故にこの能力は言葉以上に恐ろしいのである―――

 

 

「ふ、フランは!? フランはどこだぜ!!?」

 

 魔理沙はたまらず大きな声を上げた。安否が分からない場合、フランの狂気の暴走の可能性は否定できない。

 

「ま、まさか沈没した紅魔館の地下に閉じ込められたままじゃ…!!」

 

 霊夢がとんでもないことを口にしたとき、どこからか声が聞こえた。

 

「その可能性はないわ。急を要する事態には間違いないけども」

 

 声がしたのは、空間にいつの間にかあった無数の目玉のある裂け目からだった。そこから3つの影が出てきた。幻想郷では1,2を争う力の持ち主である『賢者』と呼ばれている神出鬼没の妖怪、八雲紫と使役する式神2匹、八雲藍と(ちぇん)だ。

 

 

「ひゃっ! つ、冷たい…って、ここって紅魔館ですよね!?」

 

 

 式神2匹にも紅魔館のありようには驚いているようだ。それもそのはず、紅魔館の中に入るはずなのに、足先がいきなり水に浸かってしまうのだから。

 

「こ、これは一体…紫様、これはもしや…」

 

 藍が現れたスキマへと逃げるのではないかと思うほど身を引いた。

 

「…この緊急事態には、さすがの賢者様も自らお出ましのようね」

 

 霊夢が落ち着きを取り戻し、皮肉を込めて言った。紫と霊夢には、切っても切れない縁があるのだ。

 

 

「ええ、言われるまでもなくこれは異変よ、藍」

 

 

 紫は扇子で口元を隠し、表情を悟られないかのように静かに言った。冷静さは保っているが、霊夢はわずかながらに動揺も感じ取ることができた。

 

「…とりあえず、フランのことに関して嘘は言っていないようね。紫、こいつらを急いで永遠亭に運んで」

 

 

境界を操る程度の能力―――八雲紫の能力である。こちらも名前の通り、境界を操れる能力。空間に開けることで密室に入ったり、瞬間移動のように使えたりと非常に便利な能力である。もちろん物体の運搬にも使える。さらにここ幻想郷のルール『スペルカード戦』による弾幕も移動できるため、使い方はほぼ無限大と言っても過言ではない能力である。

 

 

 紫は霊夢の言葉に対して、それが得策だと思ったか、すぐに応じた。紫はその性格上、かなり胡散臭いと呼ばれており、完全に信用できる者ではないのだが、霊夢に対する態度だけは少しだけわきまえているらしく、この行動をとったのだろう。

 

「後もう一つあるわ。魔法の森にいる、あの死体も何体か運んで」

 

 霊夢は何気なく紫の知らない事をお願いしたため、紫は即座に聞いた。

 

「あの死体? 一体それは何かしら」

 そこに割って説明に入ったのは魔理沙だった。

 

 

魔理沙 説明中…

 

 

「魔法の森に大量の妖精・妖怪の死体が!? しかも、それが紅魔館の者と似た傷を負っていたと?」

 

 実はフラン除く紅魔館一同には、魔法の森の死体と同じ、殴ったかのような傷が体の所々に見つかったのだ。傷が少ないのは、おそらく異変の首謀者と戦ったからだろう、と霊夢は推測していた。

 

「紫様、どうしましょうか…」

「少なくとも、ここにいる者全員、倒れている者含めて全員嘘はついていないわ。早く場所を言ってちょうだい、霊夢」

 

 ここで橙は、紫の目が真剣になっていることに始めて気がついた。

 

 

―永遠亭―

 

 

永遠亭―――迷いの竹林にある、現代でたとえるならば、病院の役目を担う所。そこに住む八意 永琳という者が薬を作り、彼女を『師匠』と呼ぶ鈴仙・優曇華院・イナバがその薬を人里に売り出す、という経営形態である。そこにはもう1人、蓬莱山 輝夜という者もいるが、彼女は何もせずその成り行きを見ている。これがこの永遠亭の日常である。

ただ、この日常は時折壊れることがある。それが『急患』という存在である。その大半がここ幻想郷に迷い込む者たちだが、まれにそうではない、つまりは元から幻想郷に住む者がいるのである―――

 

 

 この日、永遠亭の日常は存在しないのは当然のことだった。フランを除いた意識不明の紅魔館一同、霊夢と魔理沙が魔法の森で見つけた妖精・妖怪の死体複数体がいっぺんに運ばれたからだ。

 

「どうなんだ、永琳? 紅魔館のみんなは、大丈夫なのか?」

 

 魔理沙がそう聞くと、永琳は少し後ろめたそうに声を出した。

 

 

「…一命は取り留めているわ。よく死ななかったものね」

 

 

 永琳のこの言い方は、真剣な時のものだ。紫がそう感じた。それと同時に、今回の異変は一筋縄ではいかないと密かに覚悟も決めた。

 

 そこにうどんげが小走りでやってきた。なにやら少し慌てているようだ。

 

 

「し、師匠! 吸血鬼の目が覚めました! あの怪我じゃ起きるまで相当な時間がかかるはずなのに…」

 

 

 レミリアの意識が戻った。ならば、やるべき事はただ一つ。

 

「なら都合がいいわ。レミリアに直接話を聞くわよ」

 




後編は近日、少なくとも6月中に上げますのでしばらくお待ちください。

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