東方殺意書   作:sru307

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殺意の波動が生んだ最悪のフランの姿の物語。
言葉の表現がつたないかもしれませんがどうぞ。

追記(6月5日)
この章より、「改変キャラ」のタグを追加しました。

再追記(6月14日)
「改変キャラ」を「オリジナル改変キャラ」に変更しました。


第4話「自由」

第4話「自由」

 

 

「!!? 咲夜さんっ!!」

 

 小悪魔の悲痛な叫びが紅魔館にこだまする。フランが地面に着地し、その目の前に咲夜の体がドスンと落ちた。咲夜は口から血を吐いていた。顎に昇龍拳をダイレクトに受けたらしい。

 

「フ…フラン…様…そんな…」

 

 咲夜はフランを見た。もうその目はいつもともに生きているフランの目ではない。殺意リュウと同じく変色した、紅い眼球。髪は金髪ではあるものの、殺意の波動が体に纏わりついているせいか、紅く見える。完全に体つきや性別など見た目以外はほぼ殺意リュウと同じになってしまった。

 

 殺意フランは咲夜をその眼球で見下すかのように見ながら踏みつけた。もはや慈悲もない。

 

「ガフッ!!」

「フフフ…コレダワ…コレガ、私ヲ…」

 

 殺意フランは狂気に飲まれたかのように片言のしゃべり方をした。そのしゃべり方には、パチュリーに覚えがあった。

 

 

「!? まさかフランが、狂気に走っている!?」

 

 

 それは紅魔館にいる者は誰もが知っていることだった。

 

 

フランの狂気―――フランが地下の部屋にいる原因である。彼女は時折この狂気に走り、暴走する。レミリアも頭を悩ませている紅魔館一の問題であり、レミリアはこれに目覚めさせないため、フランの部屋を地下に作ったのである。そして、フランを外から遮断した。フランが、狂気に走り誰かを殺し、悲しみを背負わせないように―――

 

 

 だが今は違う。殺意リュウの瞬獄殺の何かが原因で、狂気が引き出されたのだ。

 

「コレガ、私ヲ、自由ニ導イテクレル!!」

 

 殺意フランの体に纏う殺意の波動が、殺意リュウと同じように揺らいだ。殺意の波動自体が意志を持ち、フランの体を歓迎しているようだ。

 

 

「フラン…!! …目を覚ましなさい!!」

 

 

 動揺を隠しながら、レミリアはフランを呼びかけた。しかしその言葉に、殺意リュウが横槍をさしてきた。

 

「無駄だ。殺意の波動は、元の意識を殺そうとする。貴様に残されている道は…この俺に殺される道のみ!!」

 

 殺意リュウは再び防御結界に攻撃を仕掛ける。だがパチュリーの魔法で作られた防御結界はそう簡単には壊れない。

 

「くっ、いくら何でも、この攻撃が続いたらこの結界はもたないわ! なんとか、あいつを押しのけてフランを元に戻す方法を―――」

 

 その時だった。結界への攻撃を続ける殺意リュウの背後から、殺意フランが襲いかかってきた。

 

「むっ!」

 殺意リュウは攻撃を受ける寸前のところで気づき、殺意フランに裏拳をかます。殺意フランの蹴りとぶつかり、殺意フランを吹き飛ばした。しかし、殺意フランは受け身をとり、ダメージを受けない。

 

「…許サナイ」

「!?」

 

 殺意フランの口から独り言のように漏れた言葉に、殺意リュウは驚いた。殺意の波動に飲まれた者が決まって言うことは誰もが同じだ、そう思っていたからだ。

 

 

「ナンデ…ナンデ邪魔スルノ!!」

 

 

 突然、殺意フランが激昂した。

 

 

「ナンデ邪魔スルノ!! セッカク手ニ入レタ自由ナノニ!!」

 

 

 殺意フランは目の前にいる家族、殺意リュウが気にくわないらしい。

 

(何だ? この、妙につじつまの合わないような、あいつの言動は…)

 

 殺意リュウは違和感を頭のどこかで覚えながらも、殺意フランをじっと見ていた。そして見定める目が思考に伝えてくれた。『死合え』と。

 

「来い! 自由か何か知らないが、『真の死合い』、それができるなら本望!!」

 

 殺意リュウは歯を食いしばった。この相手なら、それ相応の覚悟が必要だとすぐ分かる。

 

「アナタモヤッパリ私ノ自由ヲ…許サナイ!!」

 

 殺意フランは紅魔館一同には目もくれず、殺意リュウを見たまま一直線に突っ込んできた。殺意リュウも咲夜との戦いで見せた大きく腕を振りかぶる動きを見せた。

 

 直線に進む勢いそのままに殺意フランは右ストレートをかます。対して、ギリギリまで引きつけて力をためた一撃を殺意リュウがかます。

 

「壊レチャエ!!」

「吹っ飛べえ!!」

 

 

 ドッゴーン!!!

 

 

 殺意の波動に目覚めた者同士の一撃は、紅魔館全体を大きく揺らし、「ピシッ」と壁にヒビが入ったような音が聞こえた。

 

「ちょ、なんか聞こえちゃいけない音が聞こえましたけど!」

 

 紅魔館一同が会話をする暇はなかった。突如、拳を合わせていた殺意リュウと殺意フランが、防御結界の中にいる一同に目を向けてきたのだ。

 

「ドイテ!!」

「死合いの邪魔だ!!」

 

 最悪にも2人の行動が一致してしまい、防御結界に接近する2人に一同は即座に反応できなかった。

 

 

 ドンッ!! バリーン!!!

 

 

 防御結界はいともたやすく砕け、中にいた一同は飛ばされ、お互い離れてしまった。

 

「くうっ!」

 

 あっという間の出来事だったため、レミリアは受け身をとるだけで状況判断ができない。

 

 その瞬間に殺意の波動に目覚めた2人はパチュリー・小悪魔の元へ向かっていた。

 

「木&火符『フォレストブレイズ』!!」

 

 パチュリーは素早くスペルカードを発動したが、殺意の波動に目覚めた者には阿修羅閃空がある。いともたやすく弾幕を避け、さらに2人に接近した。

 

「!? あ、当たってない!?」

 

 美鈴しか見ていない技を、見ていないパチュリー・小悪魔の2人が反応できるはずもなく、パチュリーには殺意リュウの、小悪魔には殺意フランの右ストレートが、顔面を直撃する。ただでさえ体が丈夫でない2人はホームランボールのように吹っ飛び、紅魔館の屋根と壁の境目付近に当たってようやく止まった。

 

 すでに2人の意識は飛んでしまったらしく、2人は受け身もせず無抵抗に落下していった。

 

「!!! パチェ!! こあ!!」

 

 レミリアが叫ぶが、その声が意識のない2人に届くはずがない。

 その刹那、殺意の波動に目覚めた者同士が再び拳をぶつけ合った。

 

 

 ドッゴーン!!!

 

 

 たった1回の拳のぶつかり合いによる衝撃が、レミリアに尻餅をつかせた。そして紅魔館全体を揺らし、「ピシッ」という音が壁から聞こえた。遠くから「パリン」という音も聞こえた。おそらくどこかの窓ガラスが割れたのだろう。

 

(まずい!! このままでは、この紅魔館自体がもたない!)

 

 レミリアは路線変更し、この場から皆とともに脱出する術を考えた。だがそれはどう考えても無謀だった。何にせよ、人手が足りない。レミリアの小さな体1つで咲夜、パチュリー、小悪魔の3人を運ぶなんて、追いつかれて殺されるのがオチだ。しかも今の状況も悪い。紅魔館の門に続く廊下に殺意リュウと殺意フランが立ちふさがっている今、この作戦を決行するにはさらに無謀すぎる。

 

 それでもこの作戦しかないとレミリアは考えを巡らしているうちにも、死合いは続いていた。拳のぶつかり合いから一転して、お互いの攻撃の避けあいが繰り広げられていた。

 

「身軽な奴だ!!」

「イイ加減ニ壊レテ!!」

 

 レミリアはそれを見た瞬間、すぐに行動した。今考えてこの場に立ち止まっていたら、自分も殺されるのは分かっていた。ならば、と賭けに出たのだ。

 

 レミリアは2人がこちらを向いていない隙に、倒れているパチュリーと小悪魔を素早く脇に抱えて低空飛行し、再び死合いを続けている2人を見た。2人はお互いを見たままで、こちらには見向きもしない。

 

 当然、レミリアは2人を抱えているので移動スピードは遅い。この状態で咲夜も助け出して、かつ逃げ出すためには絶対に視界に入ってはいけない。しかし今なら―――抜け出せる!

 

 レミリアは大きく外回りをして死合いの場を避け、咲夜を自分の背に背負って門まで走り出した。少女3人分の重さは、レミリアの体が飛べないほど重く、ここからは自分の足だ。

 

「咲夜っ! しっかりしなさい!!」

 咲夜の耳元で声をかける。あまり期待はできないが、咲夜が復活して人手が増えればこの場から離れやすくなる。

 

 レミリアはちらっと後ろを見た。

 

「灼熱!!」

「アッハハハ!!」

 

 死合いは続いていた。終わりなど知らずに。

 

(フラン…ごめんなさい…)

 

 妹を思う気持ちを持ちながら、紅魔館を後にしようとした次の瞬間! 突然、ガンッという何かがぶつかる音がレミリアの後ろで聞こえた。レミリアは振り返らなかったが、その音がしてわずか数秒後―――

 

 

「ドコイクノ? オ・ネ・エ・サ・マ」

 

 

「!!!?」

 

 

 声が聞こえたのはレミリアの頭上、そこにはさっきまで殺意リュウの元にいたはずの殺意フランの姿があった。何かがぶつかるような音の正体は、実は殺意リュウが殺意フランを殴った時の音だった。姉であるレミリアが逃げるのを気配から知った殺意フランは、殺意リュウの攻撃を利用し、一気に逃げようとするレミリアの元へと跳んだのだ。

 

 殺意フランはレミリアの目の前に着地し、レミリアの顔面にサマーソルトキックをお見舞いした。レミリアは大きく吹き飛び、背に背負った咲夜も、脇に抱えたパチュリーも小悪魔もばらばらに離れてしまった。

 

 その上、吹き飛んだレミリアの目に見えた逆さまの光景は、最悪だった。

 

 

「おおお……絶!!」

 

 

 殺意リュウが構えていたのだ。そのまま、モロに背中に昇龍拳を喰らう。体が大きくぐるぐると回転する。意識が遠のいてゆく。しかし殺意リュウは容赦しない。さらに腹に昇龍拳、とどめは、昇龍拳が顔面に直撃した。大きく飛び上がり、レミリアの体ごと紅魔館の屋根を突き破った。

 

 レミリアの体は紅魔館の時計台てっぺんまで浮き上がった。殺意リュウは昇龍拳で天に向けた拳に、殺意の波動を込めた。そして大きくその腕を振りかぶり…

 

 

「塵とともに…滅せよ!!!」

 

 

 大きく叫び、レミリアの顔面に振り下ろした。無抵抗にレミリアは喰らい、再び紅魔館の屋根に落ちていく。すでにレミリアの意識はない。

 

 屋根が突き破れ、レミリアの顔が紅魔館の床にたたきつけられる。地面と拳のサインドイッチとなった瞬間、紅魔館にはひび割れが一気に走った。殺意リュウがたたきつけた拳を床から離すと―――

 

 

 ガラガラ…ドン!!

 

 

 紅魔館が、もろくも倒壊し始めた。一連の動きを見ていた殺意フランが、崩れ落ちてゆく紅魔館の屋根の間を抜けて外へと出た。

 

「アッハハハ!! モウアナタト戦ウ必要ハナイ! 自由ハ今、私ニ訪レタ!」

 

 殺意の波動が身に纏っている殺意フランの姿は、まるで紅い流星群のように飛び去っていった。それを落ちてくる屋根を破壊しながら見ていた殺意リュウはこうつぶやいた。

 

「死合いに対して逃げるとはな。待っていろ、いずれ、お前はこの俺に殺されるのだからな!!」

 

 屋根が全て落ちきったのを確認すると、殺意リュウは瓦礫を避けて、湖を阿修羅閃空で低空飛行して去っていった。

 

 

 崩壊した紅魔館に、静寂が訪れた。誰も動く者はいない―――

 


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