東方殺意書   作:sru307

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 異変堂々解決。
 だが、それは新たなる時の始まりを意味する。その時に対応するべく、皆は動き出す―――



第47話「お願い」

第47話「お願い」

 

 

 

 霊夢と狂オシキ鬼は真っ暗闇の中に2人だけいた。2人とも目の前にいる相手だけを見据えて、必死に拳と脚を振るっていた。勝つ、ただそのために。

(力を振り絞る…!! 勝つために…)

 霊夢の頭の中は戦略も何もなかった。ただ貪欲に『勝つ』事を考えるだけ。その時、狂オシキ鬼の顔に自分の拳が届きそうになった。残った力を振り絞り、拳を狂オシキ鬼の顔めがけ伸ばす。

(届け…!!!)

 霊夢の拳が狂オシキ鬼の顔に触れる。その瞬間、暗闇にヒビが入り、光が一気に漏れ出す。その光に狂オシキ鬼もろとも霊夢は包まれていった―――

 

 

 

「はっ!!!」

 

 

 霊夢の意識は目覚めた。がばっとベッドの中から起き上がる。頬から首にかけて大量の汗が流れていく。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

 霊夢の息は荒れている。夢で片付けるにしてもあれは生々しかった。今目覚めた場所も、真っ暗闇ではないだろうかと周りを見た。明るい朝の日差しが、窓から差し込んでいる。さっきまで見ていた暗闇とは無縁に等しい、朝の日差し。

 

 霊夢はそれを見たとき、直感的にこう思った。

 

 

 そっか、私…勝ったのね…

 

 

 霊夢はベッドから出ようとする。

 

「―――っ!!」

 が、全身に痛みが走りそれを止め、顔に手を当てる。手も腕も脚も包帯だらけだ。固定されている箇所がないことを感じ取れるところから、どうやら骨折はしなかったようだ。

 

 霊夢はあの時を思い返した。あの時、こうやって自分の怪我を考える事なくただひたすらに目の前の戦いに勝つことを見ていたのだ。そして、とうとう掴んだ。

 

 霊夢はとりあえず体の様子を確認しようと布団をどかそうとする。すると膝の辺りに何か乗っかっているように重みを感じた。膝元を見ると、魔理沙と紫が霊夢の膝で突っ伏して眠っていた。床では藍と橙も寝ている。2人の腕や脚も包帯巻きで痛々しい。それでもこの状況が霊夢のことを心配しているのが目に見て取れた。霊夢は顔を少し赤くした。

 

 隣ではリュウが、さらにその隣でフランが眠っている。フランの膝には同じようにレミリアと咲夜が突っ伏して寝ている。どうやら長らく自分とフラン、リュウの事を看病してくれたようだ。

 

 

「おはよう。月の英雄ご一行様」

 

 

 それを見ているといつの間にか永琳が病室に入ってきていた。

 

「………」

 霊夢は黙って永琳の言葉を飲み込んでいた。月の英雄…

 

 

「驚いたかしら? 改めて、月の都、いえ、月の消滅の危機から救ってくれて、ありがとうね」

 

 

 永琳は少し笑顔で言ってくる。だがあの想いを持って戦っていた霊夢には英雄だなんて思われてもうれしくはなかった。自分が求めたいものを求めようとして、戦っただけなのだから。

 

「だいぶぐっすりと眠っていたわね。見れたのは良い夢…ではないようだけど。あのOniとまだ戦っていた、って所かしら。あなたたち、丸々2日も眠っていたのよ」

 

 永琳は霊夢が汗をかいているのを見て言った。夢の内容は分からないが、霊夢の体が恐怖に震えていないところを見ると、大体察することができたようだ。壁に掛かっているカレンダーを見てみると確かに2日、時間感覚からしたらあさってまで日が進んでいる。霊夢からすれば夢を含めれば今さっき、になるかもだが。

 

「あなたとその吸血鬼の妹の変容についても聞いたわ。おそらく2日も眠っていた原因はそれでしょうね。新しい力を手に入れたという急激な成長が体に負担をかけ、疲労につながったのよ」

 

 霊夢は無言で自分の手を見た。電気はもう纏っていない。また電気を起こせないだろうか、そう思った次の瞬間―――

 

 バチッ!

 

「―――!」

 霊夢はようやく自覚した。自分の手に電気が流れていると。

 

「…あら、その力はあの死合いの時だけの力ではないようね」

 

 永琳も霊夢の手に電気が流れたのを見てそう言う。この力と共に生きていかなくてはならないのはフランだけではない。自分もなんだ、そう覚悟を押しつけてくるようだった。霊夢は静かにそれを受け入れた。そしてその手を握った。この考えを忘れることは、絶対にしてはならないと。

 

 その決意を固めたとき、膝元で何かがうごめいた。

 

「ん…んん…」

 見ると突っ伏していた魔理沙がゆっくりと目を開けながら起き上がった。魔理沙は寝ぼけた目で霊夢の方を見てきた。すると目が一気に見開き、表情が歓喜に変わった。

 

「霊夢―――!!」

 魔理沙は霊夢の首元めがけ抱きついてきた。両者傷があるのもお構いなしだ。

 

「ちょっ…離しなさいよ、魔理沙! まだ傷があるのに!!」

 霊夢は魔理沙が抱きついてきたせいで体中に痛みを感じ、すぐに引きはがそうとする。だが離れなかった。

 

「勝った、勝ったんだぜ、霊夢!!」

 魔理沙は霊夢の体を乱暴に揺らす。体が痛むのを分かっていながら、激しく揺らす。

 

「分かってるわよ!! だから…離しなさいよ!」

 

 そう言いながらも、霊夢は笑顔だった。勝利の喜びを最初に分かち合うのは、やっぱり友であり仲間、何よりなんだかんだずっとそばにいる相棒しかいなかった。

 

 

「ん…うう…」

 その騒ぎに乗じたか、フランが目を覚ました。咲夜とレミリアも目を覚まし、互いに顔を同時に見た。

 

「お姉様!!」

「フラン!!」

「フランお嬢様!!」

 

 3人まとめて同時に抱きついた。やっと一家そろって一緒の時を歩める。まだ、住む場所が倒壊しているが。

 

「ん…って霊夢!」

 紫も目覚め、魔理沙もろとも抱きしめる。

 

「ちょ、おい紫! いくら何でも私は違うんじゃないか!?」

 魔理沙はそう言って紫を引きはがそうとするが、紫も離れない。

 

「く、首が絞まるから2人とも離れて…!」

 

 霊夢が先ほどの笑顔から必死の形相に変わり、苦しそうにしている。2人分の体重と手荒な抱擁を傷ついた体で受けているので、当然といえば当然だが。

 

「…霊夢! あまり私が言えたことではないが…大丈夫か?」

 いつの間にか起きていた藍が声をかけてくる。橙は魔理沙と紫が抱きついている霊夢を見て声をかけられずにいた。

 

 普通なら騒がしい場所ではないはずの病室が、一気に騒がしくなる。さらに追い打ちとでも思うかの如く客が入ってきたのだから収拾がつかなくなった。

 

 

「あ! 霊夢さん、起きましたか!」

 

 

 その客というのは早苗、両手には何かを握っていた早苗はまずホッとしたらしく、胸をなで下ろした。

 

「あんた…って私が倒壊させたんだっけ、あんたの神社を。すっかり忘れていたわ」

 

 霊夢は何でこの場にいなかったのか問おうとしたが、その原因が半分自分である事に気づいて止めた。よく考えればレミリアと咲夜はこの場にいるが、パチュリー、小悪魔、美鈴の姿がない。おそらく紅魔館の修繕作業をレミリアが命令したのだろう。

 

 早苗は霊夢の言いたいことを察してから話し始めた。

 

「3つ要件があって来たんです。まずは…霊夢さんにこれを渡しに」

 

 早苗は両手の中にあったものを霊夢に見せた。それは霊夢が殺意リュウにやられた時に外れた頭のリボンだった。

 

「先日倒壊した守矢神社に戻って、瓦礫をある程度片付けていた時に出てきたものです。破けたところもないので、普通につけられますよ」

 

 早苗は霊夢の手に置くようにリボンを渡した。霊夢はそのリボンをまじまじと見た。土汚れもシミのようなものもついておらず、何も問題なく使えるものだ。

 

「霊夢さんはそのリボンがお似合いです。つけていないと一瞬誰か分からなくなっちゃいますから…」

 

 リボンをしていない霊夢はただまっすぐな髪で、服まで見ないと一瞬誰かが分からない。最悪、人里の一般人と間違われる可能性まである。

 

「やっぱりそれをつけてないと霊夢じゃないよな」

 

 魔理沙は笑って言う。だが魔理沙は霊夢のリボンを見る目を見て笑顔を普通の表情に戻した。どうやらこのリボンにさえ、霊夢は情けを感じていたようだ。これをつけたら、あの時の霊夢の戻ってしまうと。また、勝つ事ができなくなると。

 

 

 それに裏付けされたように、霊夢は早苗から渡された自分のリボンを投げ捨てた。

 

 

「あ…」

 

 早苗が投げ捨てたリボンを拾い直そうとするが、霊夢が腕を早苗の体前方に回して妨害する。

 

「残念だけど、いつもの姿とはしばらくお別れだわ。これから、やらなくちゃいけないことがたくさんあるし。リボンをつけるのは、それが全て終わった時だわ」

 

 霊夢はそう言ってまた笑顔になった。また一からやり直せるという喜びだろうか。

 

「…そうですか」

 早苗は残念そうだった。だが何も反論しなかった。そこには霊夢の意志の尊重があるように思えた。

 

「…紫、そのリボン、あんたが預かっていて」

 投げ捨てたリボンを何気なく見た霊夢はそう言った。紫は訳を聞くこともなく、霊夢に確認した。

 

「…いいのね?」

 紫は霊夢の顔から心理を読み取ろうとする。どうやら嘘偽りはないようだ。

 

 

「私の所に置いたら、癖でそのリボンをつけちゃうだろうし。あの時に戻るのは、やっぱり嫌だから」

 

 

 紫はリボンが置かれた地面にスキマを開け、リボンをスキマの中へ落とした。

 

「…それで? 早速、そっちの神社の修繕の手伝いをすればいいの?」

 

 霊夢は早苗に向き直った。早苗の2つ目の要件は守矢神社の修繕かと思っていたが、続く早苗の言葉でそれは間違いだと分かった。

 

「…いえ、2つ目はリュウさんのお願い事です。それが叶わなければ、3つ目で霊夢さんに修繕の頼みを言おうと。そして、もし2つ目のお願い事をリュウさんが受け入れてくれるなら、3つ目の要件はなかったことにします」

 

 どうも2つ目の『リュウへのお願い事』というのは、守矢神社の修繕以上に大事なことであり、もし達成されるものなら3つ目は果たされるも同然の事らしい。

 

「彼は…この騒ぎでも起きないとはね」

 

 霊夢はリュウの方に顔を向ける。リュウはまだ目をつぶっている。結構な騒ぎになったはずだが、のんき、というべきか寝ている。

 

「無理もないさ。あのOniの攻撃を一番食らっているのはリュウだしな。普通なら顔も腫れ上がっているはず何だけどな…」

 

 魔理沙は全く恐れ入るぜ、という感じに言う。彼を動かす意志は鋼のように壊れないが、それは体にも反映されているようだった。

 

 

 

 それから、30分後―――

 

「………」

 リュウは無言で目覚めた。ゆっくりと目を開け、皆が自分の顔をのぞき込んでいるのを見る。

 

「おはよう、月の英雄」

 

 永琳は霊夢にも使った言い回しをリュウにもかけた。一時は異変の主犯の1人だったが、最後には皆のために戦ってくれた戦士になった。この異変で一番たたえるべきは彼だ。

 

「…英雄か。そんなものを求めようとして、俺は戦ったわけではないんだがな…」

 

 リュウは仰向けに寝たまま、静かに言った。どうやら意識ははっきりとしているらしく、終わったのだということも分かったようだ。

 

「気持ちなのよ。そんな事を言っても、受け取らなくちゃいけないものよ」

 

 永琳は念を押すように言ってくる。この異変の解決に与えられるものは物理的なもので満足するわけがない。しかも相手はリュウ、そんなものを求めていないのは誰もが知っていること、なら単純な感謝の言葉が唯一与えられるものだ。それを受け取ってくれなかったら、心残りが生まれてしまう。

 

「…そうか…」

 

 リュウは受け取ることを選んだようだ。永琳はホッと一息吐いた。彼が受け取ってくれなかったら、どうしたらいいだろうと正直考えていた。

 

「いきなりだけど、リュウ。早苗があんたにお願いしたいことがあるそうよ」

 

 リュウは霊夢の言葉を聞いて、早苗に顔を向けた。早苗は一つ息を吐いてから、真剣な眼差しをリュウに向けて言った。

 

「単刀直入に言います。リュウさん、私をあなたの弟子に入れさせてください。どんな修行だろうと耐えて見せます、どんな試練であろうと克服します。どうか…」

 

 早苗は願うような目を向けてきた。おそらくこれが叶わぬ事ならば、心が傷つくほど賭けに出た行動だ。

 

 

 それに対するリュウの回答は、その気迫と己の力量の狭間で曖昧なものだった。

 

 

「…いいのか…俺は未熟で、弟子を取れるガラでは…」

 

 

 リュウは目を細めた。いくら狂オシキ鬼に勝ち、幻想郷および月を危機から救ったとはいえ、ここに来たときは殺意の波動に打ち負け、危機におとしめた者。そこには己の未熟さ故に起こした過ちだという意識が、ぬぐい去れていなかったのだ。

 

 

「それがいいんです!」

 

 

 しかし早苗は即座にそう言い切った。

 

 

「リュウさんも未熟だからこそなんです。私達も未熟な者、お互いに切磋琢磨して高めていけるんです。でもそうするには、私達がリュウさんと同じ場に立たなくては話になりません。リュウさんと同じ場所に立てるよう…指導してください」

 

 

 あくまで成長を目的とするのではなく、リュウに追いつくために弟子入りをする。まだ自分たちは、成長というスタートラインにすら立てていない。そこに立つために、リュウの教えを請う。早苗の説明には大きな現実感を与えていた。

 

 

「その話だけど…私からもお願いするわ。私達はこの異変で、あなたたち人間の底力を知った。この異変はそれが大きな猛威となった…それに対抗する術は、同じ人間の底力。妖怪である私でも、手に入れられるか確かめたいわ。それには、あなたの元に私がいるしかないから…」

 

 

 紫は霊夢からそっと離れ、静かに語った。このままでは、次にこんな異変が起きれば幻想郷がどうなるか分かったものではない。いくら強大な能力を持つ自分のような妖怪や妖精がいても、人間の底力はそれを越えてしまう。ここから先『妖怪だから』という考えでは何者にも勝てない。その危機感からだった。

 

 

「リュウ、私からも弟子入りをお願いするわ。いくらあんたと同じ技を得たとしても、これは未完全の技。心を伴っていないから、なおさらね。完全にするにはあんたの知るコツってものを教わらないと、活かせないわ。現に、私は今まで弾幕に頼っていたからね」

 

 

 霊夢も自分から申し出た。今まで弾幕が戦いを決める全てだったが、これからはそういかない。リュウという弾幕とは無縁の戦いをしてきた者を受け入れた以上、幻想郷のルールを覆すことも検討しなくてはならない。そのために霊夢がリュウの教えを請うのは当然のことだ。

 

 

「リュウ、お願い。私とお姉様達みんなだけじゃ、この力を扱えるかって言われたら無理がある…まだ、教えてもらいたいことがたくさんあるから…!」

 

 

 フランも申し出る。殺意の波動は幻想郷の有力者といえど知らなかった力、よく知る人物の存在なしでは操りきれない。

 

 

「………」

 

 

 リュウはレミリアと藍、橙、さらに魔理沙の顔を見た。何も言わなくても、その目はこの場にいる者と一緒だった。そして皆の願いの強さに押し負け、リュウは決意を固めた。皆は、本当に俺を…ならば、答えてやらなくては。

 

 

「…分かった。俺ができることだけにはなるが、師として指導しよう」

 

 

 リュウはゆっくりと言った。するとその瞬間―――

 

 

「その話、私も乗らせてもらいます!」

 華扇が勢いよく病室のふすまを開けてそう言いながら入ってきた。

 

「リュウ、あなたの生き方には感心しました。その生き方を、私も見聞を広めるため学びたいのです。どうかよろしくお願いします」

 

 華扇がそう言い終わった瞬間、今度は華扇を押して入ってくる神霊廟の者がいた。

 

「抜け駆けはなしよ、茨華扇。私も、いえ、私達もその修行を受けさせてもらうわ」

 

 青娥と神霊廟の仲間が真剣な眼差しを向けてくる。だがその真剣な眼差しがリュウからそれた。

 

「どおわっ!?」

 布都が情けない声を上げる。後ろから追突するように命蓮寺組がやってきたのである。

 

「その弟子入り、私達も乗らせてください。私達命蓮寺が目指す人間と妖怪の平等…それを目指すためには、リュウさん、あなたのような心持ちがなければ果たされません」

 

 さらにその脇をすり抜けて妖夢と幽々子が出てくる。

 

「私の旧友がお願いしているのだもの、私達もお願いね、リュウ」

 

 幽々子が笑顔でそう言うが、妖夢は内心疑っていた。

 

(幽々子様…そう言ってさぼらないでしょうね…)

 

 さらにさらに地霊殿組と鬼の2人が人の壁を跳ね返した。命蓮寺組は神霊廟組にのしかかる形で倒れた。

 

「おっと、その話は私達も乗らせてもらうよ。その拳法…私個人としても興味があるからね」

 

 勇儀は笑っている。その手にはいつも持っている星熊盃がないことからすると、本気のようだ。

 

「私達もお願いします、リュウさん。私達が今まで考えてきた事にとらわれないその精神…学ばせてください」

 

 さとりは礼儀正しく手を合わせてきた。

 

「ああそうそう。その要件には私達永遠亭も乗るわ。というわけでよろしくね、月の英雄さん?」

 

 永琳がその流れに乗じてさらりと言ってみせる。いつの間にか病室の入口にはうどんげがちらりと姿を現していた。よく見ると遠目に慧音と妹紅がおり、彼女らも乗り気のようだ。

 

「ってお前、我にのしかかるんじゃなーい!!」

「しょうがないでしょう!? それを言うのは私にじゃありません!!」

 

 聖と神子は言い争いから殴り合いに発展した。残った神霊廟組と命蓮寺組が慌てて仲裁に入るが、巻き込まれて乱闘に変わってしまった。もう病室はある意味で宴会以上の騒ぎの場と化した。

 

「はあ…結局全員集合…か。まあ無理もないけど」

 

 霊夢はため息をついた。この異変は解決に関わった者全員が足りないものを知らされた。それを全て知るのはリュウただ1人。申し出るために集まるのは当然のことだ。

 

「それでリュウ? こいつらも受け入れるの?」

 

 霊夢は念を押してリュウに聞いてきた。

 

 

「構わないが…この傷じゃ無理だ。もどかしくなるが、しばらくは安静だな」

 

 

 リュウはゆっくりと目をつぶった。戦いにしろ修行にしろ、包帯まみれの体では行えることなんてほとんどない。

 

「さて…とりあえずみんなの傷が治るまでしばらく解散ね」

 永琳は殴り合いを続ける命蓮寺組と神霊廟組の仲裁に入った。

 

 

「ふふ…これが、リュウの面白いところなのね…皆がリュウに惹かれていく、って事は…」

 幽々子はこれを見て誰にも聞かれる事のない声を発し、静かに笑うのだった。

 

 

 

 この幻想郷は、ようやくいつも通りの時を歩もうとしている。そしてそれは、新たなる時を巻き込んで変わろうとしている―――

 


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