東方殺意書   作:sru307

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 薬草を求めて魔法の森へと足を踏み入れる一同の物語。
 敵の住処へ飛び込む一同の運命は果たして―――


第28話「対抗」

第28話「対抗」

 

―魔法の森―

 

「戻ってきたぜ…魔法の森」

 魔理沙は森の木々を見ながらそう言った。木々は何も言わず、風が枝の間を吹き抜けるだけだ。

 

「永林さんが言うには、肝心の薬草は奥地にあるって言っていましたよね」

 早苗が永琳に言われたことを思い返す。

 

『骨の回復を早める薬草は魔法の森の奥にあるわ。普段は強力な妖怪や妖精がいるけど、私の実力、あなたたちの実力には到底及ばない。それ以前にリュウがいるのだから、もういないでしょう。だから警戒するべきはリュウと、突然やってくるかもしれないあのOniのみになるわ。もし会ってしまったら、その場で戦うしかないと心に決めておきなさい。ここで逃亡したら、誰にも止められない存在になってしまうからね』

 

 早苗はそう思い返しながら、永琳からもらった薬草の描かれた紙を広げる。細長い葉っぱが何かの芸術のように複雑に絡み合った、見た瞬間でただの薬草ではないと分かるものだ。

 

「それを見ていても時間の無駄よ。さっさと探しに行きましょ」

 

 ぬえが紙に描かれた薬草の絵を見続ける早苗をせかす。早苗は素早く紙をしまい込み、魔法の森の奥を見た。そこは木々が光を隠し、不気味な暗闇が広がっている。

 

(…リュウが、この奥に…)

 早苗は殺意リュウに壊された守矢神社の事を考えた。

 

「何してるの早苗? 早く行くよ」

 諏訪子にそう言われて早苗は、はっとした。皆は既に周りを警戒しながら、森の中へ足を踏み入れていた。

 

「今行きます!」

 早苗は慌てて一同の後についていった。

 

 魔法の森は、再三にわたって静寂を保ち続ける。森の中の彼女らも黙りこくるので、余計に静寂が殺意リュウの脅威に思えてくる。

 

 そのムードを壊そうとしたか、レミリアがこんな事を言った。

「こうやって歩いてみると、魔法の森ってこんなに広い場所だったのね。ほとんどその上を通過するから、知らなかったわ」

 

 レミリアの言葉に反応したのはアリスだった。

 

「魔法の森は土地勘がない人が入ったら、竹林には劣るけど『迷いの森』と化すわ。それぐらい広い所よ、この魔法の森は…」

 

 そう言いながらも、アリスは警戒を解かない。人形を辺りに浮かばせ、あらゆる角度からの強襲に備える。

 

 そこからは再び静寂が訪れる。もちろん薬草を探してはいる。だが彼女らの考えは、とんでもないほど一致していた。

 

(…集中しなくては。一瞬でも集中力を解いたら、殺される…!)

(…何よ、この緊張感…不愉快に思えるぐらい、気にかかる…)

(焦ったら駄目だわ…薬草がすぐに見つかっても、リュウがどこかにいる以上…)

 

 皆の心臓の鼓動が、共振するかのように同じリズムで繰り返される。薬草探しを本命としているはずのこの状況が、何か強大な壁でせき止められているように本命に腰を据えられない。

 

「…!!」

 

 その時、フランが急にレミリアの背にしがみついた。

 

「フラン?」

 

 レミリアはフランの腕が震えている事に気づく。レミリアはその震えを覚えていた。

 

「お姉様、気をつけて…リュウの気配が、近くなってる…!」

 

 フランの声に一同は即座に戦闘態勢に入る。視界の悪い中だ、どこから攻撃されるか分かったものではない。

 

「どこだ…どこにいる…」

 

 星が鋭い目を森の至る所に向けるが、変化がない。まだ静寂が場を支配している。

 

「…! こっちに近づいてくる!!」

 

 フランはしがみついた手をギュッと握りしめる。その手は震えてはいない。もう腹をくくった証拠だった。

 

「むうん!」

 殺意リュウがレミリアの目の前に拳を地面に打ち下ろしながら落下してくる。一同は殺意リュウの目の前に移動して構えた。

 

 地面に着地した殺意リュウは、霊夢を見るやいなや荒っぽい声を出した。

 

「…貴様、なぜ…!!」

 

 殺意リュウは敵意をむき出しにして霊夢に言う。あの時完全に飲まれたはずの霊夢が、元の姿に戻っていたのは殺意リュウにとって想定外だった。

 

 霊夢を見つめ続ける殺意リュウの目線に、魔理沙が立ちふさがる。

 

「悪いが、いくらお前が霊夢を殺意の波動に飲み込んでも、私が戻すからな。霊夢をあの時と同じようにしたいなら、私を殺してみやがれ!」

 

 魔理沙は腕を上げて殺意リュウをせかすように言う。弱気ではこいつには勝てやしない、と割り切っての事だった。

 

「言われずとも! 貴様らまとめて殺して、今度こそ俺は完全になってみせる!」

 

 殺意リュウが身を乗り出すように前屈みの姿勢になる。

 

「幻想郷のためにも、あんたの元の意識のためにも、あんたを完全にはさせないわ!」

 

 霊夢はお祓い棒を取り出し、素早く殺意リュウに向けた。

 

「世迷い言を…やはり貴様は、俺の苛立ちの原因!!」

 

 殺意リュウが一直線に突っ込んでくる。

 

「おら!」

 殺意リュウの右フックが、霊夢の顔面前で空を切る。

 

(やっぱり剛腕は相変わらずね…!)

 霊夢は持っていたお祓い棒を片手で振り払う。

 

「はっ!」

 殺意リュウは後ろにステップを踏んでかわし、次の行動に出た。

 

「波動拳!」

 霊夢は横に転がって一直線に空を走るお札を投げつける。だが殺意リュウは冷静に阿修羅閃空で横に移動、そのまま森の中へと姿を消した。

 

「一度引いた…わけではないようですね」

 

 妖夢が殺意リュウの気配が遠くならない事からそう判断する。刀を鞘から抜き、構えたままになる。

 

 実はこの魔法の森、幻想郷の有力者が殺意リュウと戦うには不利な場所だった。まず弾幕は枝葉に遮られ、直撃も移動制限も仕掛けることができない、殺意リュウは動きが素早く、森の深いところから奇襲される、上空にいても、木々で隠れて正確な場所が分からない所から波動拳を撃たれ続け、嵐を起こされるなど、殺意リュウの今までの戦い方を考えると魔法の森ほど不利な場所はないのだ。

 

 一応木々丸ごと威力の高い、あるいは炎の弾幕で消滅・燃やすなどすれば解決可能ではあるが、それだと味方を巻き添えにする可能性も考えられる上、その隙を殺意リュウが見逃すはずがない。

 

 殺意リュウが森に隠れてから、動きがないまま数分が経とうとしたその時だった。木々の間から、波動拳が斜め上に落ちてくる。軌道は一同の足元のため、避ける必要はないが…

 

「この波動拳、まさか…!」

 紫は感づいていた。この波動拳は2度も見たことがある。その予感通り、複数の波動拳が飛んでくる。

 

「また嵐か…!」

 神奈子が御柱を出して波動拳を防いでいく。しかし死角からの攻撃が飛んでくる可能性もあるので、油断はできない。

 

 しかし殺意リュウは何を考えているのか、波動拳の嵐はすぐに収まった。

 

「!?」

 

 今までの2度は相手が接近するまで撃ち続けていたが、今回は様子が違う。

 次に場が動いたのも、やはり波動拳、しかし飛んできた所はさっきとは違う場所だった。

 

「ぬおっ!?」

 マミゾウが転がってかわすが、再び複数の波動拳が飛んでくる。

 

「場所をまめに変えて撃ってきてる! なんとかしないと、永遠に捕らえられないよ!」

 ナズーリンがすぐに分析する。

 

「ってか、いつの間に移動したのよ!? 少しくらい、音がしたりしないの!?」

 ぬえがわずかに焦りを見せる。さっきまでのわずか数分、周りの木々から何者かが動いたような音はしなかったのだ。

 

「波動拳は数発程度じゃ私の結界には及ばないわ!」

 紫が結界を貼り、波動拳を簡単に防ぐ。だがその隙に、先ほど神奈子が出した御柱が砕かれた。

 

「ぬうあ!」

 またもやいつ移動したか分からない中、殺意リュウが砕いていた。

 

「くっ! 展開が早すぎるぞ!」

 神奈子が砕かれた御柱から離れた。殺意リュウを勢いに乗せたら危険だということは一度負けていることから承知済みだ。

 

 殺意リュウは紫の結界を狙ってくる。だが藍と橙がその前に立ちふさがる。

 

(この距離だと、弾幕は撃てない! しのぐしかない!)

 

 まずは橙に襲いかかる。

「ひゃあ!」

 

 橙は後ろを向いて足場から足場へ飛び移るように逃げた。

 

「ちっ、ならば貴様からだ!」

 殺意リュウは早々に橙をあきらめ、藍を狙う。藍も結界を貼るが―――

 

「効かん!」

 殺意リュウは右ストレート一発で藍の結界を砕き、その勢いのまま紫の結界も破壊した。

 

「ううっ…!」

 藍は吹き飛ばされるが、ふんばって耐える。紫もどうにか耐える。

 

「お前の接近戦には付き合えないぜ! 魔符『ミルキーウェイ』!!」

 

 魔理沙が天の川を模したような星形の弾幕を放つ。殺意リュウは阿修羅閃空が間に合わなかったか、ガードしてしのぐ。

 

「動きを止め続けます! 魔法『マジックバタフライ』!!」

 

 聖は蝶型の弾幕を追加で放つ。が!

 

「むう!!」

 殺意リュウは両腕を巧みに動かして弾幕をはじいていく。

 

「んなっ!? そんなのありかよ!?」

 

 弾幕を相殺するのは見たことがあっても、体に当たりながらもはじくのは初めてだ。しかもはじいているのは魔理沙と聖両方の弾幕だ。彼が今までの戦いで弾幕に見慣れているのがすぐに見て取れた。

 

「…くそっ、スペルの時間がきれる…!」

 

スペルカードの制限時間―――弾幕を撃てるスペルカードだが、その展開時間には制限がかかっている。強力なスペルカードならその制限時間も長いが、その時間は持って100秒ほど、その時間が過ぎるとスペルカードの効力が切れてしまうのである―――

 

 魔理沙のスペルカード魔符『ミルキーウェイ』が途切れた。

 

 殺意リュウはそれを待ってましたとばかりに、フランめがけジャンプしてきた。

 

「フラン様、危ないっ!!」

 咲夜が手を伸ばすが、その手は届かない。

 

 だがフランは逃げなかった。むしろ空中の殺意リュウをしっかりと見て、構えていた。そこに狂オシキ鬼を見た時の震えも、殺意リュウの気配を感じたときの震えもなかった。

 

 フランは体を捻り、足に力を入れて飛び上がった。腕を高く上げ、殺意リュウの顎に拳をぶつけた。

 

「昇龍拳!」

 

 フランは反射的にそう言っていた。なぜそのように体が、口が動いたかは分からない。

 

バキャ!!

 

 殺意リュウは空中で上に吹き飛んだ。流石の殺意リュウも、空中で体勢を整える事はできず、そのまま背中から落下した。

 

「!! あやつの体が、吹っ飛んだ!!」

 布都が声を上げる。

 

 殺意リュウは受け身を取って素早く立ち上がる。だがその立った瞬間、顎に痛みを感じた。

 

「うぐお…っ!」

 顎の痛みで殺意リュウの足がわずかにふらついた。

 

「!! 効いていますよ!!」

 美鈴が驚く。

 

「これよ! これが、私たちが―――リュウに対抗できる、唯一の手段!!」

 

 ついに発見した殺意リュウへの対抗手段。果たして、この対抗手段はどこまで通じるのか―――

 


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