東方殺意書   作:sru307

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 2つの希望が戻った直後の物語。
 殺意リュウと狂オシキ鬼に隠された真実が少しずつ紐解かれる―――


第22話「出会い」

第22話「出会い」

 

―白玉楼―

 

「むうん!!」

 

 殺意リュウは大ぶりな一撃をどんどん前に詰め寄りながら出していく。その様子はまるで興奮した闘技場の牛のようだ。

 

「投皿『物部の八十瓮』!!」

 

「式弾『ユーニラタルコンタクト』!!」

 

 対する紫一行も弾幕で応戦する。だが殺意リュウの避け方が的確で、避けられる弾の間を縫うように移動するかと思えば阿修羅閃空で弾幕を突っ切ってきたりする。今まで多くのスペルカードを宣言してきたが、どれも効果がなく紫達はジリ貧になりつつあった。

 

 だがそれは殺意リュウも同じだった。いくらどんな弾幕でも避けられる動体視力、阿修羅閃空があったとしても、接近したところに弾幕があれば避けざるを得ない。しかも真正面から接近しなければいけないということは、弾幕の発射口に自ら近づくというある意味自殺行為に走らなければならない。そう、殺意リュウ得意の接近戦に持ち込めていないのが問題なのだ。弾幕は1つの弾が当たれば次々に被弾する。むやみに接近しようとすれば、その連鎖になりかねない。殺意リュウは攻めあぐねていた。

 

 両者の戦いは、だんだんと持久戦に近くなっていった。

 

「まだ当たらない…あれだけ避ければ、少しくらいは疲れが見えてくるはずなのに…」

 紫はにらむ目で殺意リュウを見る。ひたすら弾幕を避け続ける殺意リュウの様子をうかがう。体に纏う殺意の波動が隠しているのか、汗の一筋も見えない。

 

「でもうかつに接近すれば、あの強烈な威力の餌食になるだけ…こちらに力自慢の者がいればまだ少しはいいんですが…」

 藍がそう言うのも無理はない。神霊廟の者達、妖夢など接近戦ができる者は一応いるが、その接近のリスクが大きすぎる上、リターンも少ない。せめて少しでも前者を小さく、後者を大きくできる者がいればいいのだが、そんな人は今いない。

 

 一方の殺意リュウも、考えを巡らせていた。

 

(まだ来ないか…こちらから接近する機会があれば、一気になぎ倒せるがその機会ができる隙がない…焦らず、まだ待つが得策か)

 

 殺意リュウは八方ふさがりの紫達と違って、落ち着いて待っていた。それでもこれ以上の硬直は避けたかった。このまま待っていても、時間が無駄になるだけだとすでに割り切っていたからである。しかしここで紫達を始末しないと、またこの待つだけの戦闘が始まってしまう。そしていくら割り切っても、弾幕の連続直撃は耐えることができない。それが接近できない理由だった。

 

 しかし殺意リュウが接近できない理由は、弾幕だけではなかった。戦っている途中から、何か分からないが引っかかる事が頭に浮かんでいるのだ。

 

(しかし何だ…さっきから何か、妙に引っかかるような、気に障ることがある…何か分からないのがもどかしい…一体何だ?)

 

 殺意リュウは、わずかに表情をこわばらせていた。そのこわばった顔を、紫達は見破ることはなかった。

 

―太陽の畑―

 

 一方、こちらも激闘続く太陽の畑では聖達と狂オシキ鬼の追いかけっこが始まっていた。接近しようとする狂オシキ鬼を逃げながら弾幕を放つ聖達の構図は、本物の鬼ごっこだった。

 

「豪昇龍!」

 

「うっ…!」

 

 狂オシキ鬼が空を飛ぶぬえの真下に潜り込み、豪昇龍拳を放つ。ぬえはさらに上に飛んでかわす。

 

「そこ! 屍霊『食人怨霊』!」

 

 そこにお燐がスペルカードを宣言する。弾幕が展開されるが、狂オシキ鬼は少しも動かず、弾幕を見つめる。そして狂オシキ鬼は自分に当たる弾を完全に見切り、両手ではじいていく。

 

「くっ…やっぱり危険を冒してでも接近しないと駄目なのか!?」

 ナズーリンの頬に汗が見える。その汗は焦りの色を表していた。

 

「弾が全然当たらない…あの大きな体になら、1つや2つは当たってもおかしくないのに…!」

 村紗が悔しそうに言う。狂オシキ鬼の体型を考えると小さな弾はすぐに当たりそうだが、その前に手が弾をさばいてしまう。狂オシキ鬼の動体視力、空間把握能力の前では弾幕はほとんど効かないものと化していた。

 

 弾を全てさばききった狂オシキ鬼は再び追いかけようと体勢を前のめりにする。だが何かに気づいたか、先ほどの攻撃的な態度から一変して、どっしりと構えて聖達を見始めた。

 

「!? 攻めてこない…?」

 はたてが狂オシキ鬼の変わりように気づく。何か狙っているのかと疑いをかけるが、狂オシキ鬼の体に変調は見られない。

 

「…! あのOniの心が少し落ち着きました…相変わらず、行動は読めませんが…」

 さとりが狂オシキ鬼の心の変化に気づく。耳を塞ぎたくなる気持ちも自然にとれ、しっかりと狂オシキ鬼を見るようになっていた。

 

 狂オシキ鬼は顔も変えずに、ただじっと構えを維持したまま動かない。そこに弾幕を撃てば簡単に当たるだろうが、今までが今まで、うかつに弾幕を放てば懐にいきなり潜り込まれ強烈な攻撃の餌食となる。

 

 しばらくの間、沈黙が場を支配する。動いたのは狂オシキ鬼だった。両手を下に構え、力を溜め始める。

 

「何かしてきます!! 皆さん、警戒を…!」

 聖が警戒を促す。狂オシキ鬼は力溜めをやめない。そして―――

 

「おぉりゃぁぁ!」

 

 狂オシキ鬼は聞き取れない大声を上げながら両手に溜めた弾を、なぜか誰もいない真上に撃ち出した。

 

「!? な、何をしているんだ、あのOniは…」

 

 弾は上空の彼方に消えた。突然落下してくることもなく、本当に消えてしまった。

 

 この弾の真の目的は、ある者を察知することだった、ということを―――

 

―白玉楼―

 

「!?」

 

 殺意リュウは突然顔をゆがめた。何かを感じ取ったのだ。

 

「…!」

 

 その様子に神子が気づく。

「どうかしたか? まさか、ここで投了するとは言わないよな?」

 

 殺意リュウはゆがめた顔を元に戻した。

「…残念だが、お前達との戦いには期待できないな。今まで渋ってきたが、ここで終わりだ…」

 

 殺意リュウは突然、紫達に向けて一直線に阿修羅閃空をして接近してきた。紫達は殺意リュウの腕と脚の動きに警戒する。

 

 ―――が、殺意リュウは紫達の脇をすり抜けて、白玉楼の階段で阿修羅閃空を止め、そこから飛び降りたのだ。

 

「!! 逃げられた!?」

 

 紫がすぐに階段を降り始めようとする。

 

「追うわよ! 人里にたどり着いたら、それこそ最悪の結果になる!」

 

 一同は、殺意リュウの後を追うのであった。

 

―太陽の畑―

 

 狂オシキ鬼が謎の弾を撃った後、場は再び沈黙が支配した。

 

(あのOniが動かないのが不審に思えてきた…さっきまでの威勢のいい攻め姿は一体…)

 さとりがそう思い始めた時、狂オシキ鬼が動いた。

 

「!!」

 

 狂オシキ鬼は突然、聖達のいないあさっての方向の空を見た。そしてあっという間にその空向けて大ジャンプをしてその場を去ったのだ。

 

「!? 逃げた!?」

 

 幽香が驚く。自分から『死合え』と言ってきた者が突然戦いの場を去るなんてあり得ないはずだ。

 

「逃がすわけにはいきません! 追いかけましょう!」

 聖がそう言い、一同は狂オシキ鬼を追いかけた。

 

 殺意リュウは道をひたすら駆け抜ける。その道をこのまま進めば、人里だった。

 

「足が速い…! このままじゃ、人里に―――」

 妖夢がそう言いかけたとき、殺意リュウがいきなり道からそれ、森の中へと身を投じた。

 

「道をそらされた! 我らを欺こうという気か…!」

 神子が悔しそうに殺意リュウの狙いを推測する。だがその推測は間違っていた。殺意リュウは、すぐに森の中から空へと飛び出したからだ。紫達はすぐに空を飛ぶ。殺意リュウの飛び上がりは遅く、追いつける―――そう思われた。

 

 狂オシキ鬼は手から青く燃える炎のようなものを出し、それを推進力として空を飛んでいた。そのスピードは意外に速く、聖達も全速力で追いかけざるを得なかった。

 

「あいつ、空も飛べるなんて聞いていないわよ! しかもこのスピード…もしかしたら文を越えるんじゃ…」

 はたてが頬に風を受けながら言う。はたての空を飛ぶスピードも相当なものだが、狂オシキ鬼の姿が一向に大きくならない。

 

「…まずいよお姉ちゃん。このままじゃ、私たちが助けを求めたあそこに行っちゃう…!」

 こいしがそう言うのは、狂オシキ鬼の向いている方向が里を向いていたからだ。

 

「うう…これ以上は飛ばせないよ!」

 

 空も制御棒をエンジンのように吹かすが、それでもまだ遠い。だが狂オシキ鬼の目的地は里ではなかった。その証拠に、狂オシキ鬼が体を急激に右に傾けて方向転換したのだ。そのせいか、スピードが落ちた。いや、わざと落としていた。

 

 殺意リュウの目の前にいたのは、狂オシキ鬼だった。そして狂オシキ鬼の目的も、殺意リュウだった。紫・聖達は偶然の再会を喜ぶ事なぞできず、お互いを止めようと必死だったため、止めることはできなかった。殺意リュウと狂オシキ鬼の出会いを―――

 

「貴様かあっ!!!」

 

「オオオオオオオオ!!!」

 

 2人の拳が、出会い頭にぶつかり合った。

 

 その瞬間、空間が大きく揺れた。その衝撃は、万物を粉々にしてしまうのではないかと思えるほど強烈なものだった。紫達は抵抗する間もなく衝撃波に巻き込まれた。真下に広がる森の木が、根っこからめくれ上がり宙に舞う。空気が、強烈な振動を引き起こす。

 

 全てが収まった後に残ったのは、誰もいない、クレーターのようにへこんだ地面があるだけで、それを作り出した生き物らの姿はどこにもなかった―――

 


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