東方殺意書   作:sru307

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 こちらも決着、殺意フランvsレミリアの物語。
 殺意フランが見せた、元に戻りかけようとする動作の真意は―――


第21話「一家」

第21話「一家」

 

―紅魔館跡地―

 

 一方、紅魔館跡地での戦いはレミリアと殺意フラン、2人だけの戦いではなくなっていた。

 

「禁忌『過去を刻む時計』!!」

 

 殺意フランのスペルカードが、レミリアだけでなく見届けるつもりだった4人にまで飛んでくるからだ。

 

「くっ…金符『シルバードラゴン』!!」

 

 パチュリーが応戦するが、弾幕の相殺が限界で攻撃には移れない。

 

「何よ…やっぱり私たちもまだ標的じゃない…!」

 

 パチュリーがそう漏らす。見守ろうとした矢先にこれでは、つかみかけた目的を離すことになりかねない。

 

「禁忌『カゴメカゴメ』」

 

 殺意フランは待ったをかける間もなくスペルカードを宣言する。

 

「ちょ…早すぎませんか、スペルカードの発動!?」

 

 小悪魔が必死に弾幕を避けながらそう言う。スペルカードは元来一回の戦いで2度宣言してはいけない上、それ相応の力(霊力・魔力・妖力など)を使うので同じスペルカードの連発・長期使用は体に負担がかかるはずだが、殺意フランはお構いなしだった。

 

(ここで時を止めても、あの状態のフラン様なら難なく避けて反撃してくる! 連続して止められない以上、少しでも隙ができればいいのだけれど…)

 

 咲夜は弾幕を避けながらなんとか隙を突こうと考えるが、スペルカードを宣言し続ける殺意フランに隙は見当たらない。

 

(あの声が聞こえてから行動がだんだんと激しくなってきた…間違いない、明らかに殺意の波動が、元のフランの意識を否定しようとしている!!)

 

 レミリアは殺意フランの暴れようを見てすぐそう判断した。フランを救出するあと一歩までは来ている。だが、その一歩がほど遠い。

 

 殺意フランはただただ弾幕を力の限り撃ち続ける。その顔は元の意識を消そうとする必死の形相だ。

 

「…フ―ッ…フーッ…」

 

 だがその行為も流石に疲れを浮き彫りにした。殺意フランの息は荒れ、もし空気が冷えていたら白い息が何度も口から出るような息づかいだ。もちろん弾幕を撃つ手も止まる。

 

 そこを咲夜は見逃さなかった。

「幻世『ザ・ワールド』!!」

 

 咲夜は時を止め、一気にナイフの弾幕を展開する。その中でこう思っていた。

 

(フランお嬢様…申し訳ありませんが、容赦はしません。美鈴が言っていたあの移動を持つ可能性がある以上、全力でこのナイフを当てにいかせていただきます)

 

 咲夜は360度にナイフを投げ、元の位置に戻って言った。

 

「そして時は動き出す」

 

 咲夜が能力を解除すると、ナイフは殺意フランにめがけ一直線に動き出す。

 

「!!」

 

 殺意フランはすぐに周りを見て弾幕の抜け目を探すが、そんな隙間は見当たらない。

 

(これで回避する手段はあの移動だけのはず!)

 

 咲夜は確信を持って殺意フランを見つめる。その予想通り―――

 

「ウウッ!!」

 

 殺意フランが殺意の波動をゆるがせ、謎の体勢で移動を始めた。阿修羅閃空だ。

 

「来たっ!! 美鈴、頼むわよ!!」

 

 咲夜は大声で美鈴に頼む。美鈴は殺意フランの阿修羅閃空の移動先を読み、止まった所を叩こうと画策する。

 

 殺意フランは順調に阿修羅閃空でナイフの弾幕を避ける―――はずだった。

 

「!?」

 

 殺意フランが顔をゆがめる。すると突然、殺意フランの阿修羅閃空が止まる。ナイフの弾幕は殺意フランの正面のみしか抜けておらず、背後からのナイフにはまだ回避し切れていない場所で足を止めてしまったのだ。

 

「ウグッ!!」

 

 殺意フランの羽、背中にナイフが数本刺さる。そして阿修羅閃空の終わり際を狙っていた美鈴もその弾幕の範囲内だった。

 

「ひょえ―!!」

 美鈴は急ブレーキをかけ、殺意フランに背を向ける形で後ろに飛んでナイフをかわした。

 

「!? フラン様の…動きが止まった!?」

 小悪魔が瓦礫の影に隠れながらそう言う。

 

「ウグ…ウウ…」

 

 殺意フランは背後に刺さったナイフを抜こうとするが、背中は体が柔らかくない限り手が届かない場所、殺意フランも身体能力は高くても、体の柔らかさはなくナイフは抜けなかった。

 

「…! 弾幕を撃つのをやめなさい、みんな!! 後は私がなんとかする!」

 

 レミリアはそう命令する。動かないところに追い打ちをかければ、フランの命が危ないと判断しての事だった。

 殺意フランは動きを止めている。ナイフの痛みに耐えているのか、背を丸めて顔を下に下げる。

 

「ウウ…ハア!!」

 

 殺意フランは丸めた背を一気に伸ばし、その反動で刺さったナイフを全て抜いた。もちろん痛みは伴うが、ずっと刺さっているよりは幾分マシだ。足がふらつくが、持ち直した。

 しかし痛みから脱しても、あの衝動はまだ続いていた。

 

「ウウ…ウウッ…」

 

 殺意フランの殺意の波動は、何か迷っているように揺らぎを激しくする。そして―――

 

「―――ごめんね」

 

 殺意フランの口から、明らかにフランの声が出た。

 

「!!」

 

 レミリアは動揺を隠せなかった。構えをわずかに緩め、殺意フランの言葉を聞こうとする。しかし次に殺意フランの口から出たのは、本来の言葉だった。

 

「…ッ!! 違ウ、違ウッ!!」

 

 殺意フランは頭をブンブンと振る。レミリアは殺意の波動と必死に戦うフランの意識に向けて大声を上げた。

 

「フラン!! しっかり歯を食いしばりなさい!!」

 

 その声が通じたのか、殺意フランが歯を食いしばった。レミリアは紅い大弾を1発だけ放つ。しかしその弾は異常なほど速度が遅かった。

 

「な…まさか、ここでレミィの体力が…!?」

 

 パチュリーが心配するが、美鈴が狙いを見抜いていた。

 

「いえ、わざと遅い弾を撃ったんです! お嬢様の手が、弾と合わさるように…!」

 

 レミリアは前に踏み出し、紅弾の横に踏み込んだ。そして右拳を握り、弾と合わさるように大きく振りかぶった。弾が拳に宿り、紅色に輝く。

 

「お嬢様、思いっきりいってください!」

 

 咲夜が自身の願いも込めて叫ぶ。レミリアはそれに応えるかのように、大声で言った。

 

「いい加減に…フランから離れなさい、殺意の波動っ!!」

 

 レミリアの拳は殺意フランの顔をとらえた。殺意フランは抵抗もできず真後ろに体ごと吹き飛んだ。そして背を地面に打ち付け、体の動きを止めた。

 

「た、倒れました!」

 小悪魔が歓喜の声を上げる。

 

「まだです! 殺意の波動が、フラン様から抜けきっているか…!」

 殺意フランは息をしている。殺意の波動も―――まだ体に纏っている。

 

「!! まだ残っているわ!! もう一押し…!」

 パチュリーがそう言うが、それは殺意フランの口で間違いだと分かった。

 

「―――ごめんね、お姉様…」

 

 殺意フランの口からフランの声が出る。レミリアは殺意フランの顔をじっと見る。

 

「私、考えていたの。どうやったら私も外に出られるかな、って。お姉様を安心させて、何にも起こさずにまだあったこともない友達とつきあえるかな、って」

 

 殺意フランは静かにフランの声で語る。その動作にはもう振り払おうとする所作は見られなかった。完全に意識は元のフランに戻っていた。

 

「分かってるの。私が地下にいるのは、この能力のせいなんだって。だから自分なりに頑張って制御しようって思ったの。あの時、制御できる自信があったから、お姉様に会いに行こうと思ったの」

 

「フラン…」

 

 レミリアが思い出したのは、殺意リュウに襲われる直前の、何も知らなかったフランの顔だった。あの顔の裏では、そんな大切な事を考えていたのだ。

 

「でも心の中じゃ、まだ不安があったの。お姉様が、そう簡単に許してくれるだろうかって…そこにリュウっておじさんの殺意の波動がつけ込んで来ちゃったの。だから…」

 

 殺意フランはそのまま泣きそうだった。

 

「…もっとすぐに、みんなの急変に気づけていればよかった。ずっと1人で悩んでなくて、パチェ、美鈴、こあ、咲夜の誰かに言えば良かった…!」

 

 殺意フランの言葉が終わると、レミリアは倒れた殺意フランの体にのしかかるように抱きしめた。

 

「…成長したわね、フラン」

 

 レミリアは静かに殺意フランの胸の中で言った。

 

「私は、あなたの成長を見ることができなかった。だって、私はずっとあなたを地下に押し込んで、いないように振る舞っていたから…」

 

 レミリアは今までフランにした間違った行為を思い浮かべた。ここまで自分の事を知って行動するフランをレミリアは本当に知らなかった。

 

「もしそれがなくて、成長を見ていれば、こんな…」

 

 レミリアは目に涙を浮かべていた。必死に涙をこらえながら、さらに言葉を続けた。

 

「こんな…大切な家を、失う事なんて…っ!」

 

 だがレミリアは耐えられなかった。ついに涙が、レミリアの頬を伝った。

 

「…許してくれるの…? お姉様…」

 

 その言葉の後、殺意の波動が少しずつ消えていく。

 

「そりゃそうでしょ…フラン、あなたに間違いなんて…ないもの…その間違いは…私の間違いなのよ…だから…ごめんね…フラン…!!」

 

 心からの謝罪に、フランの目から涙があふれ出した。

 

「お姉様…ありがとう…ありがとう…」

 

 殺意の波動が完全に抜けきったフランはこう言い続けていた。もう2人の間に思い違いはない。今ここに、本当の姉妹としての関係が復活したのだ。

 ようやく終わったのだと確信した一同は、雰囲気を邪魔しないように2人に近寄った。レミリアが元に戻ったフランの体をゆっくりと起こしてあげる。フランは一同を見て笑顔になって言った。

 

「みんな…ただいま」

 

 その言葉に意味を求める必要はなかった。

 

「お帰りなさいませ、フランお嬢様」

 咲夜が丁寧に迎える。

 

「お帰り、フラン」

 パチュリーが静かに迎える。

 

「「お帰りなさい、フランお嬢様!」」

 美鈴と小悪魔が元気よく迎える。ここに建物はなくとも、心にはよりどころが残っていた。それは、紅魔館一同が、あるべき家族の形となった瞬間だった。

 

 ここに、元の姿を取り戻した博麗の巫女と悪魔の妹。この2人の復活が、異変の真実を解き明かしていこうとは、まだ誰も知らない―――

 


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