許してくださいなn(ry)
第18話「姉として」
―紅魔館跡地―
「水&木符『ウォーターエルフ』!!」
パチュリーがスペルカードを宣言し、殺意フランが出した弾幕と相殺していく。殺意フランはそれを見てさらにもう1枚スペルカードを宣言する。
「禁忌『恋の迷路』!!」
パチュリーの弾幕が全て相殺した後に殺意フランの弾幕がもう一度襲いかかる。
「幻符『華想夢葛』!!」
美鈴がスペルカードを宣言し、追加の弾幕と再び相殺する。突如紅魔館跡地に現れた殺意フランと紅魔館一同の戦いは、スペルカードの応酬で幕を開けた。
「アアアッ!!」
殺意フランは狂気に走ったまま、意味も分からぬ奇声を発しながら弾幕を展開し続ける。殺意の波動が、フランの狂気を目覚めさせているのはもう言うまでもない。
(…フラン…)
レミリアは殺意フランを見ながら、殺意の波動に苦しんでいるフランを思い浮かべた。―――救わなくては。フランの姉として。
そう考えていると、突然殺意フランがレミリアの方を向いた。
「お嬢様、気をつけてください…来ますよ」
咲夜がナイフを構えながらレミリアに警告する。
「…ドウシテ…」
殺意フランは変わらぬ片言の言葉でレミリアに向けてつぶやく。
「ドウシテ、私ガ自由ニナルコトニ誰モ理解シテクレナイノ…」
小さくつぶやいた殺意フランの言葉を、レミリアは聞き逃さなかった。
(…フラン、あなたは分かっているはずよ、この殺意の波動に狂気を任せるのは、間違っているって…)
レミリアはまだ残っている元のフランの意識を考えながら殺意フランを見ていた。その目は、自然と悲しい目になっていた。
弾幕合戦の幕開きから、一転して落ち着き静寂が流れる。
(!? フラン様が動かない…いつもなら、狂気に走ったときのフラン様はすぐに動くはず…)
突如として訪れた静寂に、美鈴が心の中で驚く。
(…何だかいつもの狂気に走ったフランのようには思えない…まさか?)
その疑問にはパチュリーも気づいていた。何か殺意フランの様子がおかしい。
「…ウウ…」
殺意フランは今までの支離滅裂な言葉とは違って、明らかに何かに苦しんでるかのようなうめき声を漏らす。その声にいち早く反応したのはレミリアだった。
「フランっ!?」
もしかしてフランは―――
そうレミリアに思わせるが、殺意フランは大声を出す。
「…ウルサイウルサイ!! ナンデ、ナンデ私ノ邪魔ヲスルノ!!」
殺意フランは誰に発しているのか分からない言葉を出す。おそらくその相手は自分だ。この言葉と先ほどのうめき声。紅魔館一同は確信した。
今の殺意フランは、元のフランに戻りかけている、と。
「攻めるわよ、みんな!! 出し惜しみはなしにして、フランを救うわよ!!」
レミリアが改めて号令をかけ、結束を強める。その声に反応するように
「禁忌『レーヴァテイン』!!」
殺意フランはどこからともなく剣を取り出し、レミリアめがけ斬りかかる。
「神槍『スピア・ザ・グングニル』!!」
レミリアは巨大な槍を出し、殺意フランの剣を防ごうとする。
ガキィン!!
鉄と鉄が当たったような鈍い音が響く。レミリアの槍が、殺意フランの剣をしっかりと防いでいた。殺意フランとレミリア、お互いに顔をにらみ合う。
「ハアッ!」
「うっ!」
殺意フランが剣を押してレミリアごと槍を後ろに後退させる。レミリアは体勢を崩すことなく踏ん張って耐える。
「レミィ!!」
パチュリーがそばに駆け寄ってレミリアを心配する。しかしレミリアはパチュリーではなく殺意フランから視線をそらさなかった。
「大丈夫よ! それよりパチェ、ここから離れないと巻き込まれるわよ!」
レミリアが言い切った瞬間、殺意フランが前に飛び出してきた。パチュリーはレミリアから離れた。再びレミリアの槍と殺意フランの剣がぶつかり合う。今度は後退しないが、殺意フランは次々と攻撃を入れていく。レミリアは必死に槍を動かして殺意フランの剣を防いでいく。しかし防ぐのが精一杯で攻撃できない。その原因を咲夜は一瞬で見抜いた。
「押されてる…! フラン様とお嬢様、単純な腕力の差があるんだわ!」
元のフランの能力『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』は単純に腕力の増大も意味する。殺意の波動で殺意リュウと同じ、接近戦に強くなっているのなら、なおさらだ。接近戦にレミリアが慣れていないのもあり、押されるのは当然である。
「援護に回りましょう! あの戦いに私たちがつけいる隙なんてないですよ!」
美鈴が慌てて言う。
「分かっているわ! 時符『パーフェクトスクウェア』!」
咲夜がナイフの弾幕を展開する。もちろん弾幕はレミリアを巻き込まないギリギリの範囲を入るように展開される。レミリアが槍のリーチを活かすように後退し、殺意フランの動きが咲夜の弾幕をさばくために止まった所で攻撃を繰り出す。
「はあっ!」
レミリアの槍は殺意フランの左腕をかすめる。
「ウッ!」
殺意フランが痛がる仕草を見せる。攻撃が通じない相手じゃない、すぐにレミリアはそう判断し再び前に出る。
「ガアッ!」
しかし殺意フランがレミリアに向け剣をひるまずに振ってくる。
「あのナイフの中で攻撃してきた!?」
弾幕を展開した本人の咲夜も驚く。弾幕の中を動くのは余計な被弾を招く可能性が高いはずだが、殺意フランは剣でナイフをはじき、掠る程度のナイフは我慢して受ける。致命傷を避ける殺意フランの動きは、レミリアに対する殺意がむき出しになっているように思えた。剣さばきが激しくなっていく。
(くっ…動きが良くなってきた…)
レミリアがそう思った次の瞬間、殺意フランが前に出てくる。
「危ない!」
小悪魔が叫ぶ。殺意フランの剣がレミリアの頬めがけ振られる。
「くうっ!」
レミリアの頬をかすめると同時に、槍も殺意フランの左腕を再びかすめる。
レミリアの頬から血が出てくる。殺意フランの腕にも切り傷が増えている。危ない場面は、相打ちでどうにか切り抜けたようだ。
「咲夜の援護が役に立っていない…まずいわ、レミィ! 接近戦をやめて、いったん距離を置くわよ!」
パチュリーがそう言うが、レミリアは殺意フランを見たまま動こうとしない。すると殺意フランが、突然持っていた剣を湖に捨てた。
「決着ハコレデツケル…モウ武器ナンテ必要ナイ!」
殺意フランは、殺意リュウや殺意霊夢と同じ、殴り合いを仕掛けてきたのだ。そこにはどんな理由があるのか、レミリアを除いた紅魔館一同には分からなかった。
しかし、レミリアには分かった。殺意フランが、殴り合いを望むわけが―――それを知ったとき、レミリアも槍を湖に投げ捨てていた。そして殺意フランの構えを見よう見まねで真似して構えた。
「お嬢様、あの状態のフラン様の言葉には乗らないでください!」
美鈴がそうレミリアに警告するが、レミリアは動じない。
「やめなさいレミィ! 慣れない接近戦をあの状態のフランに挑むなんて、自分からフランの能力を浴びたいって言っているようなものよ!」
殺意フランの接近戦で恐ろしいのは、なんと言っても能力だ。その手で身を捕まれたが最後、破裂してお陀仏の一本道をたどる危険性が高すぎる。
「…そんなこと分かり切っているわよ」
しかしレミリアはその危険を重々承知していた。その中で皆に言った。
「でもそんなことは関係ないわよ…」
レミリアはさらに言葉を続ける。
「フランに能力で殺されるとか、殺意の波動にフランが飲まれているなんて、もう関係ないわよ…」
レミリアは次の言葉を大声で言った。
「妹のわがままに、姉は付き合わなきゃいけない義務があるのよ!!」
そう言い切ると、レミリアは危険を顧みず自ら殺意フランの懐へと飛び込んだ。殺意フランはすぐさま反応できず、腹にレミリアの鋭いパンチを2発食らう。しかし効いている様子はなく、殺意フランも反撃してくる。そこから、もうレミリアも殺意フランを互いのことしか見なくなった。
その目は両者とも鋭く、誰がどう見ても戦う意志が流れているのが見て取れた。
「ま、まさか、お嬢様は…」
咲夜が気づいていることを美鈴が続けて言う。
「もうフラン様が言っていること全てに答えるつもりです…!」
小悪魔がその理由を問う。
「じゃあ戦っているのは―――」
その問いにパチュリーが答える。
「…レミィにしか分からないフランとの関係、って所かしらね。こうなったら、もう見守るしかないわ。全く、レミィはどうしていつも自分勝手なところが頑ななのかしら」
パチュリーは完全にあきれてしまい、頭を少し振っておでこに手を当てた。彼女らにできることは、何もせずに黙って2人の戦いに決着がつくまで見守ること、それだけだ。
「はああっ!」
レミリアが殺意フランの腹に一発入れる。
「ウッ…マダ…マダ!」
殺意フランが強気にレミリアの顔面に返してくる。
「ぬぐっ…」
レミリアがひるむ。姉妹の殴り合いは、一進一退の状況から始まった。
「竜巻旋風脚!」
殺意フランはわずかに飛び上がり、回し蹴りをする。しかしレミリアはしゃがみ、回し蹴りはその上を通過し、殺意フランの体もレミリアの背後に移動する。
「! シマッ…」
「もらったわよ、フラン!」
レミリアが殺意フランの軸足に右足を引っかける。殺意フランは前のめりに倒れた。レミリアはすぐに追撃を入れようとするが、殺意フランが横に転がって避けたため入らない。
殺意フランは素早く起き上がり、レミリアを見た。その顔を見たレミリアは、わずかに笑みを浮かべた。
殺意フランの顔が、ほんの一瞬だけ笑顔を見せたのだ―――