「お酒くれへんと、骨、抜きおるで旦那はん?」 作:オートスコアラー
主「ヒャッホォォォォオオオオオオオオ!!!」
出ました。もう一度、出ました
次の日、ベルもヘスティアもまだ眠っている時刻、日も出かかっている時間帯に酒呑童子は起き出した。
軽く支度を済ませ教会から出て行く。向かう先はダンジョンだった。
「えらいはよぉに出てしまったけど、こないならゆっくりしてから来るべきやったなぁ」
ダンジョンに向かう途中で食事を買えばいいと安易に考えていたが、まだ完全な日の出には程遠く、商店街も閑散としていた。
仕方ないと、肩を落としてダンジョンに向かう酒呑童子。さすがに酒ばかりでは腹は膨れないようだった。
そうこうしている間に辿りついた。昨日とはまた違う印象を与えて来るダンジョンの入り口。
中に入り進んで行くと中はほんのりと明るく特に視界に不便はなさそうだった。昨日はベルを迎えに行くことしか考えてなかったが、こうして見ると意外と発見が出て来るものだ。
「さてと、特に考えへんかったけど、まあ死なへんように降りましょか」
一人で来たのはこれが初のダンジョンだが、特に気負った気配もなく、サクサクとダンジョンを進んで行く……はずだった。
「嫌やわぁ、うち道分からんから進まへんやない」
ダンジョンとはただの一本道ではない。幾多もの分岐が存在し迷路のように道を形成している。そこに地図もなしに単身突入すれば迷い込むのも当然だった。
「旦那はんに……は怒られなさそうやけど、あの神様はめっちゃ怒るんやろなぁ。あぁ嫌や嫌や」
と、少し先の壁にヒビ割れが入った。そのヒビ割れは徐々に広がっていき、やがてモンスターを生み出した。
コボルト、ダンジョン内では初心者冒険者がまず当たる敵としてある意味一番有名な敵だ。
コボルトは酒呑童子に気がついたのか、ギィギィと威嚇しつつも距離を保っていた。少ない理性で危険な相手と判断したようだった。
「どけや」
が、酒呑童子の睨みつけで尻を巻くように逃げていった。肩をすくめるように落胆する酒呑童子。単に睨んだだけで逃げたことに不満のようだった。
その後も敵対はするが逃げる敵ばかり、徐々に階層を増やすうちに流石に酒呑童子も飽きが回ってきた辺りで新たな敵が現れた。
ウォーシャドウ、全身が黒色の人形。長く伸びた腕の先には三本の鋭い爪が備わっている。酒呑童子を見ても逃げるばかりか、敵意を強めている。
「やっと骨のある奴が来はったか。あんだけ暇したんや、簡単に終わらんと頼みます」
じりじりと間合いを詰めるように徐々にウォーシャドウが近づいてくる。それを眺めるように力を抜く酒呑童子。
間髪おかずにウォーシャドウが切り掛かってきた。右腕を振るい酒呑童子を斬り裂こうとするが、腕の隙間に潜り込むように回避しお返しとばかりにがら空きの胴に手加減気味の拳を叩き込む。
紙吹雪のように飛んで行くウォーシャドウ。そのままの勢いで壁にぶち当たるとそのまま動かなくなった。
「……なんやぁ、手加減したはずやんなけどなぁ」
本人は手加減したと思っていたが、それでも存外に力がこもっていたらしく一撃で相手を叩きのめしてしまった。せっかくの敵を瞬殺してしまったことに保っていた熱も徐々に冷めてきた。
「……今日はもう終いやなぁ。でも帰り道わからへんし、どないしよ」
最悪の場合は野宿。そう考えていると通路の反対側から誰かが歩いて来た。
「あらら」
「ん?あっ、昨日の人!」
「おや」
「……チッ」
はたして、そこに居たのは昨日の酒場であったロキ=ファミリアだった。驚き、意外、嫌悪、反応はそれぞれあったが。
「やぁ、確か昨日酒場で迷惑をかけてしまったね。その節は申し訳なかった」
そのうちの一人が謝罪をしてきた。周りよりも一回り背丈が低いが、発している気は誰よりも大きく、嫌が応にも実力者であることを示して居た。
酒呑童子にはさして気にならないことではあったが。
「ええで、ただ暴れてる犬を躾けただけや。うちも退屈しのぎにはなったしな」
「んだと!」
「ベート、それ以上は許さない。悪かったね、お詫びというわけではないが、僕に出来ることなら何か君の助けになるよ」
「そら有り難いわぁ」
「……とこらで、君に聞きたいことがあってね」
途端、空気が張り詰めた。先程までのゆるい雰囲気は無くなった。
「君が良ければだが、僕たちのファミリアに来ないかい?」
「……なんて?」
「君が良ければだが僕たちのファミリアに来ないかい?自慢する訳ではないが、こちらのファミリアはそこそこ大きい。今のファミリアに愛着があるなら無理にとは言わないけどね。もし違うなら
「……ンフ…フフフハハハハハハハ!!」
ロキ=ファミリア団長、フィンの声を遮り酒呑童子が狂ったように笑い出した。濃厚な殺気が漏れ出し、目元もつり上り、纏っていた気だるげな雰囲気も霧散した。
「黙って聴いてたら色々言われたけど、あんたはん、随分と冗談が下手くそなんやね」
「冗談のつもりはなかったんだけどね」
「なんなら頭開いて中覗いてみたらどうや?虫喰いだらけの脳みそが出てくるんやないか?」
「君の気に障ったなら謝るよ、此方としてもなんと無く誘ってみただけさ」
「別に気ぃ障ったことないない。目の前で間抜けが笑いとろおしてたから笑っただけや」
「あんたねぇ!さっきから団長のこと馬鹿にしてんの?!ぶった斬るわよ!」
「嫌や嫌や、すっからかんの頭にうるさい猿、勝手に噛み付く犬までいて。なんや残りは雉連れてきてうちのこと退治でもすると?」
「分かったいいわ上等よ、ぶった斬る!」
一人がその身の丈以上の武器を取り出して、しかし団長の手に遮られた。
「団長!」
「下がりなティオネ、重ね重ね悪かった。不躾な質問だったよ」
「そら躾けのなってない獣連れてるのみたらわかるわ、うち暇と違うからはよ帰りたい……そうや」
そこで、ふと思いついたように酒呑童子は今までの雰囲気を消し去り問うた。
「出来る範囲で助けてくれるんやったなぁ。うち、ダンジョン来るの初めてやから出口まで案内してくれると助かるわぁ」
「……分かった、アイズ。行ってくれるかい?」
「…うん」
「ほな、おおきに。またどこかで会いましょか」
「ああ、きっと君とはまたどこか出会うだろうね」
そうして後は、振り返ることなくアイズをお供に酒呑童子は去っていった。
酒呑童子が煽りキャラみたいになってる……こんなはずじゃないのに。