上海可愛い
青い空、白い雲、そして落ちる私。
私は上海、今地上に向かって高速で落下中なの。そんな言葉が頭の中で聞こえたような気がした。
聞こえるのは風を切る音と、私の掴んでいる羽衣がなびく音だけだ。ちなみになびく羽衣を掴んでいる私は右へ左へ振り回されている。
衣玖さんは羽衣の中心でドリルを形成しているし、ルーミアはいつにも増して無表情.....あれ?気絶してない?
とかそんな事考えて現実逃避している間にも地上は迫ってきている。私は思わず目をつぶる。
大きな衝撃が私を襲う。
地響きと鳥の羽ばたく音が聞こえる。
どうやら無事(?)に地上に着いたようだ。私たちが落ちたのは森の中で、木々をなぎ倒し大きなクレーターが出来ている。
「いてて.....みんな生きてる?」
「私は何とか...」
そう言いながら衣玖さんが立ち上がる。いつのまにか羽衣を装備している。
まだ衣玖さんの肩に担がれているルーミアは、腕を上げ親指をたてる。
「とりあえず地上には着いたようですね。さて、ルーミアさんをどうするかですね。」
「木にでも吊るして.....あれ?どうやって帰るの?」
「え?また羽衣でヒューンと...」
「またあの地獄を味わうのか.....」
私がそう言うと衣玖さんはちょっと困ったような顔をした。
「そうですねぇ...それでは帰ることが出来ませんね...」
そんな話をしていると近くの背の低い木からパキリと木を踏む音が聞こえました。
3人とも音の鳴った方を見ました。するとその背の低い木の奥から男が出てきました。
その男の顔色はやけに白く、その色と真反対の黒いマントを纏っていました。
その男は私たち3人の姿を見つけるとニヤリと笑い、誰に届くか分からぬような声で呟きました。
「お、落ちてきたのはやっぱりお前だったか」
その姿を見て最初に声を発したのはルーミアでした。
「.....お前.....あの時の.....」
「ルーミア、知り合いか?」
「上海さん....こいつただ者じゃ無いですよ...」
衣玖さんはその場で少し腰を落とし、臨戦態勢に入りました。するとその男はその場で腰をおり、律儀に自己紹介を始めた。
「私の名前はヴェルヘル・ディルヴァルム普通の吸血鬼です。そこにいるのは天人のお知り合いの.....永江衣玖さんですね。そこのちっちゃいのは.....誰だお前。」
「ひでぇ!!」
私の事を知らないディルヴァルムとやらに腹が立つ。だが何故衣玖さんの事は知っていたのか....
それよりもルーミアは何故そいつを知っていたのか...
「にしてもそこの妖怪、お前には名前も家もくれてやると言ったのに.....まったく役にたたなかったじゃないか...まぁ、いいか.....だって...」
そこまで言われて気づいた。こいつはルーミアに天子を襲うことを命じた吸血鬼だと。
そしてその吸血鬼は目の前から消えた。
そして背後から消えるような声が聞こえる。
「お前らみんなここで死ぬんだからよぉ...」
[ヴェルヘル・ディルヴァルム.....一体どれほどの強者なのか...]