上海可愛い
闇の中から聞こえるものはこの妖怪の息くらいだろう。
今私は妖怪の見張りをしている。ついさっき昼寝をしたので眠くはないが、少々物静かでつまらない。
この妖怪は喋りかけても無視してくるので、おしゃべりでの暇つぶしは出来ない。
ちなみに天子は寝室で寝ている。起こそうとしても起きないのでこの見張りは私と衣玖さんで行われる。
「上海さん、交代です。」
「やっとか.....」
正面の襖を開けて衣玖さんが部屋に入ってくる。
その手にはおにぎりが3個乗っていた。
「そのおにぎりは?」
「これは上海さんへの差し入れです。ツナとシャケとワサビどれが良いですか?」
「それじゃぁツナとシャケをくれ。残りは衣玖さんにあげよう。」
「冗談ですよ、ツナとシャケと塩です。」
と微笑しながら私の隣に座る。お米のいい匂いがふわっと広がる。
とりあえずシャケを取り、塩を妖怪の口に咥えさせる。衣玖さんはツナを食べる。
「.....何これしょっぱい.....」
私からの呼び掛けには反応しなかった妖怪がやっと口を開いた。にしても私の呼び掛けよりおにぎりの感想かぁ.....悲しいなぁ...
「まぁ、塩だからな。」
「何なら他の作ってきましょうか?食べたい味はありm「ツナマヨ」
「...えっとあなたは.....どう呼べばいいんだろう」
「.....私の名前はどうでもいい.....お肉.....」
どうでもいいと言うが呼ぶ方がどうでもよくないんだがな。
「あ、じゃあ名前決めよう。」
「.....私の名前?.....」
「良いですね、名前があった方が呼びやすいですしね」
「んじゃとりあえず名前の案を出してこう。」
「.....私は何でもいい.....」
「えっと.....思い浮かびませんね...」
「私に名付けを任せるのか.....それじゃぁ[ルーミア]ルーミアで。え?」
「いい名前ですね!!」
「.....いい名前.....私はそれでいい!.....」
「...それじゃぁ私は休憩に入るよ。」
「お疲れ様です。上海さん!」
「.....ありがとう!.....」
私はそそくさとその場を去る。
そして外に出て月を見上げ、意識を集中させてとある奴を呼び出す。
[何ですかぁ?]
(何故あの時口を出してきた?)
[あの人にはあなたの記憶に該当する雰囲気を感じました。]
(つまり?)
[外の世界で見たじゃないですか。未来を変えたら取り返しのつかないことになるって]
(あの青狸の映画か.....まぁ、あの妖怪は宵闇の妖怪だったって推理するという事か。)
[別人だったとしても同じ名前の人なんていくらでもいますよ]
私はため息を付きながら地面を眺める。土とも名称し難い何かが地面に広がっている。
忘れかけていたがここは天界。周りの風が冷たく鋭い。
(大体見た目が違うだろ。私が知っているのは子供の姿だ。あれはどう見ても大人だ、つまり別人だ。OK?)
[あなたはここが過去という事を分かっていますか?あなたの幻想郷から何年前か知りませんが、その数年の間に何かがあったと考えた方がいいでしょう。ここは幻想郷です。何が起きてもおかしくありません、子供になることもありますよ。]
(ああそうかい)
[え?反応それだけですか!?なるほどとか言わないんですか!?]
(花の名前を言っただけだ。そんなに喚くな。)
まぁ、確かに...そんな事があってもおかしくは無いな。外の世界で見た名探偵みたいな事があっても不思議ではないな。
そういう事で話を終わらせ、私は家の中に戻ろうと踵を返す。
いつのまにか月は雲に隠れ、辺りは真っ暗だった。
[やっと出番ですよ!!ちなみに本編中に名前を言ったのは、出番が欲しかったからですね。その後理由を聞かれた時は即興で言い訳を考えました。我ながら素晴らしい言い訳だったと思いますね。]