魔法薬を好きなように   作:烏鷺烏鷺

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第19話 やっぱり、惚れ薬です

今日のティファンヌとのデートは、アルゲニア魔法学院前で待つことになっていた。

杖が軍杖なので、目の前を通る生徒たちには、奇妙な視線を向けられたが、生徒の通学時刻のピークだろうと思われるころに、ティファンヌが来て、

 

「待たせちゃったわね」

 

「まあ、ちょっとばかりね」

 

あれだけ、アルゲニア魔法学院の生徒が見て行ったし、今も見られているというか、ティファンヌが見せびらかせたいのだろう。手をつないで、街の中心方向に向かうが、

 

「あら。その人、ティファンヌの彼氏?」

 

「そうよ」

 

俺は目礼だけしてその場をやりすごすが、俺は金髪の碧眼だから比較的多いし、目立つとしたら、少々ばかり同年代より身長が高い程度かな。顔は好みもあるだろうが、普通ぐらいだと思っている。

ティファンヌも美人というよりは、今日はあいらしいという感じだから、意識して化粧の仕方を変えているのだろう。

 

街中では、いまだに戦勝パレードの露店がならんでいて、2人で見ながら歩いていた。すでに、売れ残り品のバーゲンセールみたいな感じで投売り状態だが、掘り出し物もみつからないので、時間つぶしといったところだろう。

 

夕食も、今までの個室とは違い、広いスペースのレストランにて食事をするが、家族連れも多いのか、アルゲニア魔法学院の制服姿連れの家族も多く見受けられた。

 

「こうやって見ると、アルゲニア魔法学院の生徒って、制服に手をあまりいれていない子が多いね」

 

「あら、トリステイン魔法学院の生徒って、そんなに制服を改造しているの?」

 

「まあね。あれも見栄をはるうちにはるんだろうな」

 

「たとえばどんなの?」

 

「金の刺繍をいれていたり、スカートのすそをひざ上まであげていたりとか」

 

「スカートをひざ上まで?」

 

「そう」

 

キュルケだけどなぁ。

そんなたわいのない話をして、家まで送っていく。以前だと、家の近くまでだったが、今日ははっきりとまわりに見られてもよい、ティファンヌが住んでいるアパルトメンの前までこれている。

 

「ちょっと、家によっていかない?」

 

「いや、さすがにこの時間だと、家の人が良い顔をしないだろう?」

 

今までに比べると、家に帰る時間は早いけど、別れたくないという気持ちもあるが、親のイメージも大切だからなぁ。

 

「そうだけど……」

 

「夏休みになったら、昼間にこれるだろうから、それまで我慢してくれないかな」

 

「……もう、約束だからね!」

 

「俺も楽しみにしているから」

 

そうして、別れのキスをしたが、窓辺付近から視線を感じる。この感じだと、父親かな。もう少し見えづらいところで、別れのキスでもすればよかったかなと思うが、ここらあたりが別れ際にキスするのが普通っぽいんだよな。だから、親もわかるんだろうけど。あまり好意的な視線ではなかったが、見知らぬ男と娘がキスをしていたら良い感じはしないだろうなと思うしな。さて、夏休みに家の中へ入った時にはどういう対応をされるだろうか。そんな考えとは別に家の前で別れた。

 

 

 

翌日は、昼食まで家にいて、トリステイン魔法学院につくのは夕刻だ。家には、魅了の魔法薬はおいてきてあるし、ティファンヌからリクエストのあった、香水の調合の準備でもするか。

 

夕食はモンモランシーを迎えにいってから、いつもの席についたが、話としてはモンモランシーがアルビオン軍の水兵服をきて、それがとても似合っていたという話だった。アルビオン軍の水兵服っていったら、前世のセーラー服とほぼ一緒か。出どころはサイトのアイデアだろう。出どころがサイトだと言ったら、ルイズとの関係からモンモランシーの機嫌が悪くなりそうなので、

 

「似合っていたのなら、いいんじゃないのかな」

 

「あら、興味ないのかしら」

 

「服装の趣味は人それぞれですしね」

 

セーラー服って、俺が高校生だった時の女子生徒の制服だったから、そんなに見てみたいとも思わない。あとは、ティファンヌとのデートのこともきかれたが、特に隠すようなこともなかったので、質問されるがままに答えていた。

 

 

 

翌日の教室は、タバサとキュルケがいない。そういえば、タバサは時々いない日があるけれど、キュルケも一緒にいないというのははじめてか?

 

ルイズも休んでいるとのことだが、体調を崩して休みのようだ。

 

昼食後には、食堂からモンモランシーとギーシュが並んで歩いているが、仲がよさそうだ。俺は二人の後ろを歩いていて外へでたところで、モンモランシーの腕が突然つかまれている。油断した。そう思いつつも、軍杖を引き抜いて、出口にでてみたところ、モンモランシーの腕をつかんでいたのは、サイトだった。

 

サイトには、モンモランシーに余計なちょっかいをかけないように、忠告したつもりだったのだが、あれじゃ、足りなかったか。そう思ったが、モンモランシーの様子がおかしい。普段の調子なら、サイトに腕なんかひっぱられたら、さわぎまくるだろうに、また精神の様子がおかしいのか?

 

「サイト、ちょっと手をひけ! モンモランシー、精神的な調子が悪いのかい?」

 

「いや、そういうわけじゃないけれど……」

 

俺に言われて、いったん手をひいていたサイトが、モンモランシーのその言葉を聞いて腕を再びつかもうとしたので、軍杖を間に突き出して

 

「事情はよくわからないが、ここは食堂の出入り口だ。目立つので場所をかえないかな?」

 

「だったら早く場所をきめてくれー」

 

「モンモランシー、場所をかえてもいいかな?」

 

モンモランシーの顔色はまだ青いが、こくりとうなずくので、一瞬、俺の部屋とも考えたが、男子生徒の部屋に女子生徒を連れて入るのは、ここの寮ではないようなので、

 

「それでは、モンモランシーの部屋でもどうだろうか?」

 

「いいわよ」

 

ギーシュとサイトにも了承がとれたので、モンモランシーの部屋に入ったところで

 

「じゃあ、サイトはモンモランシーに何をききたいのかな?」

 

「俺がモンモンに聞きたいのは、ルイズに何を飲ませたかだ」

 

モンモンと呼ばれても、モンモランシーは文句をいうどころか、気まずそうにサイトや俺から目をそらしている。ギーシュが話したりサイトが問いただしたりしてモンモランシーが大声で叫んだ。

 

「あの子が勝手に飲んだのよ!」

 

モンモランシー逆切れをしたてるし、その上ギーシュの鼻に指を押し付けて

 

「だいたいねえ! あんたが悪いのよ! あんたがいっつも浮気するから、しょーがないでしょー!」

 

「お前、! ワインに何を入れた!」

 

「……惚れ薬よ」

 

これを聞いた瞬間、俺は頭が痛くなってきた。禁制品の中でも、なんとなくタチが悪そうだ。それをメイジが集まる魔法学院、つまりばれやすい場所で使うって、別な意味で精神的なストレスがあったんだなぁ。

 

サイトが

 

「いいから、早くルイズをなんとかしろ!」

 

「そのうち治るわよ!」

 

「そのうちっていつだよ!」

 

「個人差があるから、そうね。1カ月後か。それとも1年後か……」

 

刑務所入り確定の強さの魔法薬だなぁ。

 

話を聞いていると、昨晩、ギーシュがもってきたワインを注いだグラスに、ほれ薬を入れたところで、なんだかサイトがモンモランシーの部屋逃げ込んできたところで、ルイズがその惚れ薬入りのワインを飲み干して、最初に見たのがサイトだったとのことだ。

 

結局は、モンモランシーが解除薬を調合することになった。モンモランシーに飲ませていた魔法薬の話にもなったが、魔法薬で精神状態が変わった相手に試したことがないので、いきなり試すのは無理だと伝えた。

 

それで、水の秘薬の入手で金銭の話になり、サイトに対してモンモランシーのモンモランシ家もギーシュのグラモン家も、お金に縁のない貴族だということを白状した。

 

ちなみに俺の家の話となったが、

 

「まあ、アミアン家はほどほどにお金と縁のある家だが、今回の件を素直に親父へ伝えるのは問題だな。親から金を借りるには、何らかの理由を作らないといけないだろうな」

 

「なんで?」

 

サイトがそう聞くので、

 

「まあ、俺の親父にそのまま言ったら、モンモランシ家へ金を貸すのと同時に、金銭以外の交渉を持ちかけるはずだ。しかもモンモランシ家が、譲歩せざるを得ない形でな。しかし、なるべく少ない時間にはするだろうが、それでも手紙ではなくて直接の交渉となるだろうから、モンモランシ家から首都まできてもらって、交渉終了まで2,3日はかかるだろう」

 

「2,3日って、長い! 何らかの理由っていうのは無いのか?」

 

「思いつかん。それよりも、サイト。自分の首がすっとぶかもしれないことを心配しろよ」

 

「えっ! なんで?」

 

「ルイズが惚れ薬を飲んだ異常な状態で、すでに一晩すごしたのだろう? それをまわりに知られたら、どんな噂が魔法学院内にとびかうやら。多分、娘に手をだした平民として、父親に首をさらされるぞ」

 

「そんな、馬鹿な」

 

「それが、ここでの常識だ」

 

とは言ってみたものの、ルイズの状態をこのまま放置しておいたら、モンモランシーも本当に刑務所に入ることになりかねない。モンモランシ家もそれを見過ごすことはなかろう。

 

「まずは、ルイズに即効性の睡眠薬でも飲ませて、なるべく寝かせておくことだな。それくらいなら、この部屋でも作れるよな?」

 

「ええ、まあ」

 

「そうすると問題は、水の秘薬の購入代金をどうするかだ」

 

って、俺としては、モンモランシ家に貸しを作る状態にしてもよいのだけどなぁ、と考えていると、サイトがなにやら服のポケットをごそごそとしているかと思ったら、テーブルの上に金貨がテーブルへ山盛りのように出してきた。500エキューはあるだろう。

 

ギーシュが

 

「うおっ! なんでこんなに金をもっているんだね! きみは!」

 

「出所は聞くな。いいか、これで高価な秘薬とやらを買って、明日中になんとかしろ」

 

まあ、出所がルイズの懐からなら、惚れ薬が効いている間の記憶も残るのが普通だから、そっちから言及されるだろう。

 

とりあえずは、ルイズを眠らせておくのに睡眠薬を作って、ルイズの部屋へ睡眠薬をもっていくと、ルイズはすでに眠りについていた。サイトはなんだか疲労しているようだが、使い方だけは説明しておいた。

 

翌日は虚無の曜日なので、モンモランシーやギーシュとともに、首都トリスタニアへ向かって、この前安く水の秘薬を購入できた魔法屋やピエモンの秘薬屋に行ってはみたが、水の秘薬が売り切れているとのことで、入手がいつになるかわからないとのことだった。

 

トリステイン魔法学院にもどったが、さて、どうしようかとモンモランシーの部屋で話していると、サイトがきたので

 

「解除薬を作るための、水の秘薬は手に入らなかったわ」

 

「解除薬が作れないだと?」

 

俺が、モンモランシーのかわりに

 

「しかも、作るための水の秘薬は入手の時期は不明とのことだ」

 

「なんだよそれ」

 

「水の秘薬っていうのは、ラグドリアン湖に住んでいる水の精霊の涙なんだが、その水の精霊と、最近連絡がとれなくなったとのことだ」

 

「じゃあルイズはどーすんだよ!」

 

学校にまだ在庫はあるかもしれないが、現状がもれると犯罪者としてつきだされることはないにしても、モンモランシーは退学で、ルイズの件でヴァリエール公爵家とモンモランシ伯爵家との間で、何かがおこなわれるだろう。そっちは、よしとして、モンモランシーが退学となると、結婚相手を探すのに苦労するだろうな。行き遅れになる可能性は大きいからな。

 

サイトが、

 

「じゃしょうがね。惚れ薬のことを姫さまに、いや女王さまだっけ? どっちでもいいや、とにかく相談していい案を出してもらう」

 

「おいおい、こんなことでサイトが、アンリエッタ女王に会えるわけがないだろうよ」

 

「いや、その、ルイズと一緒にいけば会える!」

 

「いや、ルイズだって、簡単に会えないだろう」

 

「いや、ルイズなら会えるかもしれないぞ」

 

ギーシュが言ったので、

 

「公爵家の長女ならともかく、三女はきびしいんじゃないのか?」

 

「いや、ルイズは、アンリエッタ王女のご学友だったそうだから」

 

俺もそれは情報としてもっていなかったなと思いつつ、どちらにしろ、ルイズをこのままにできなさそうだと思い、

 

「そういえば、モンモランシ家ってラグドリアン湖に住む、水の精霊との交渉役を行っていたことがあったよな」

 

「そうだけど……」

 

「行くしかないと思うんだが」

 

「わかったわよ! 行けばいいんでしょ!」

 

とりあえず今いるモンモランシー、ギーシュ、サイトに俺と、ルイズを連れてラグドリアン湖へ明朝向かうことになった。

 


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