DMMのアカウント作ったし、せっかくだから艦これ始めます 作:ほったいもいづんな
艦隊これくしょん、通称『艦これ』はDMMゲームの中の一つ。 実際にあった戦艦や駆逐艦などの艦艇が擬人化した『艦娘』と呼ばれるキャラを集めて育てたり、結婚したり重婚したり、最終的にログインしなくなるゲームのことだ。 最近ではメディアミックス化をしてマンガやアニメ、映画等の作品や企業とのコラボ等をしている。 今ではGoogleの画像検索で艦の名前を検索すると艦これのキャラが頭にくるほど艦これという作品は大きくなっている。
そんな艦これを知った人はDMMのアカウントを取りログインしようとした。 現在ではそうでもないが、以前はサーバーがすぐにいっぱいになり、運営が新しくサーバーを作ってもモノの数分で埋まるレベルでユーザーが殺到していた。 Twitterには鎮守府に着任出来なかった提督(未)が多く続出し、その怒りと悲しみを絵師のやらしい絵や薄い本(陵辱もの)などで発散していたそうな……
そんな紆余曲折した艦これだが、今年で4周年を迎える。 そんな記念すべき年になる1ヶ月ほど前、まだ春の目覚めに遠い3月の頭の頃に一人の提督が鹿屋鎮守府に着任した。 ユーザー名は『ほったいもいづんな』ではない。
この提督、別に新参ホイホイにかかった訳ではなく、アニメやマンガを見て始めた訳ではない。
ただ単純に。
「グラブルの為にアカウント取ったけど折角だし艦これもやってみっぺ」
不意に閃いただけである。 モノの数秒の出来事だ。
そこから画面に、ニコニコを左に、艦これを右に、ウィンドウをそれぞれ展開して着任を始めた。
「初期艦……? やっぱりブッキーだしょ!」
「特型駆逐艦の一番艦、吹雪です! よろしくお願いします、司令!」
「おっす、オナシャス! ……あ、俺は吹雪をお嫁さんにする夢とか見てないから。 そこんところよろしくね」
「え? あ、はい……?」
初期艦を決め……
「球磨型軽巡洋艦の一番艦、球磨だクマ。 提督、よろしくだクマ」
「クマクマ言ってんじゃねぇよ艦娘の癖にオォン!? オナシャス、センセンシャル!」
「それはキャラ付けした運営に言ってくれクマ……」
艦を増やし……
「金剛お姉さまの妹分、金剛艦の二番艦の比叡です!」
「 や っ た ぜ 」
「よろしくお願いしますね! ……ところで金剛お姉さまはどこですか?」
「比叡が初の金剛艦なんだよ」
「ひえー! そこは既にいるお約束じゃないんですかー!?」
「生ひえー! 頂きました! ひえー!」
仲間と出会い……
「重巡出ないかな〜ポチポチ」
「陽炎型駆逐艦八番艦、雪風です!」
「ひえー! 雪風じゃねぇか! ってかレア艦じゃん!」
「よろしくお願いしますね、司令!」
「おう。 ……もう一度回すか、ポチポチ……」
「雪風です! しれぇ! よろしくお願いします!」
「雪風じゃねぇか!」
『しれぇ! しれぇ!』
「やかましい!!」
無駄な運を使ったり……(実話)
「私が、戦艦長門だ。 殴り合いなら任しておけ」
「で、でたー! アニメでセリフ量上位の長門さん! あやねる一人劇場の片割れの長門さんちっーす!」
「あ、アニメの話はやめろ……!」
「まだ陸奥も来てないのに長門が来るなんて……いや別にあやねるのファンじゃないけどさ」
陸奥になるビームを知らずしらず回避しながら……
「……あ、2ー4クリアしたわ」
順調にマップを攻略していった! この間おおよそ一ヶ月、先輩提督に報告した際に、「その運なんだよ、こちとら雪風出るのクッソ遅かったんだぞ」と言われた。 めっちゃ嫌な笑みを向けてあげた。 殴られた。
そんなこんなで艦これが4周年を迎えて……提督はながら作業で艦これをしていた。
「……あの、司令官」
「ん? どったのブッキー」
秘書官は吹雪。 特に意味はない。 放置ボイスが可愛い。
「あ、ちょっとまった。 グラブルのガチャ更新されてるわ」
「いやまぁ、いいですけど……」
「……え、ハロウィン? この間カリおっさん当たったから今回は回さんでいいか」
提督、『最初』に始めたDMMゲームはグラブル。 主に共闘のため。
「んで、何ブッキー?」
「ブッキーじゃなくて吹雪です……もう。 司令官、お仕事をしている時に他のゲームをするのはやめてください」
「えぇ……スタミナ使うだけじゃん。 デイリー解消するだけやん」
「いけまん……その……」
吹雪は少し顔を赤らめて、提督の机の上にあるPCの画面から目をそらす。
「まま、遠征した連中がもう少しで帰ってくるし。 それまではええやろ?」
「……なら……ならせめて……!」
吹雪は恥ずかしさと怒りを混ぜ合わせて震える。 そんな吹雪を無視して提督はDMMゲームの中から『2番目』に始めたゲームを起動する。
「え……エッチなゲームはやめてくださーい!!」
提督のPCにはデカデカと『対魔忍アサギ〜決戦アリーナ〜』と表示されていた。 感度が3000倍になったりオークに乱暴にされたり洗脳されたり陵辱の限りを尽くされたりする内容のゲームである。詰まる所R18のゲームだ。
この提督、艦これを始めたのはアサギの次であった。
「作戦終了、艦隊が帰投いたしました」
「お、しらしら。 お帰り」
ちょうどアサギのスタミナ消費が終わったところで遠征部隊が帰って来た。 旗艦から順に『白雪』『島風』『天龍』『龍田』『瑞穂』『比叡』である。 ……後半から意味不明な人選……艦選ではあるが、全員キラ付け済みなので問題はない。 ……多分。
「司令官、その呼び方は恥ずかしいのでやめてほしいと……吹雪ちゃん? どうかしたの?」
「うぅ……白雪ちゃ〜ん」
少し涙目で白雪に抱きつく吹雪。 その様子を見て天龍と龍田は、またかと言った顔で提督を睨む。
「おい提督、まぁた駆逐艦泣かせてんのかぁ、あぁん?」
「だめよぉ提督〜?」
「あ、ちょっと早合点はやめてくださいよ。 ちょっと対魔忍してただけなんだよなぁ……」
「司令官……それセクハラですよ」
「あ、白雪まで吹雪みてぇなこと言うんじゃねぇ! ちゃんと気ぃきかして衣装を着てる状態でプレイしてたんだぞ」
「……いやそもそも執務中にエロゲーするんじゃねぇよ。 まだダラダラしてる奴らの方がマシじゃねぇか」
何だかいつも通りといった感じで提督を非難する。 因みにこの男、誰が相手でも構わずアサギをしだす、とんでもない男である。 そんな変態におずおずと進言をする瑞穂。
「て、提督? そういうのは……その……女の子の前でやらないほうが」
「あ、じゃあアサギやってる時の秘書官だけ瑞穂に変えようか?」
「すいません瑞穂が悪かったです」(直角90度)
「分かればよろしい」
瑞穂の繰り出した90度のお辞儀は、それはそれは美しかったそうな。 因みに瑞穂は大型建造で出てきた艦である。 これも先輩提督に報告したら殴られたそうな。
「提督ー! もう補給してきていいー? 話なっがーい!」
「まてよ島風、まだ報告途中だろうが」
「でも今のところ提督のせいで話が脱線してますよね?」(正論)
「あ、はい。 すみません」
「提督はもうちょっと真面目に働いたほうがいいと思いますよ」
「くっ……今この場で一番不真面目な格好してる奴に言われるとは……」
島風は見た目こそアレではあるが、何やかんや真面目でいい子である。
「司令、ところで今日のデイリー建造はどうでしたか? お姉さまは出ましたか!?」
「……でませんでした」
「あ……じゃ、じゃあ榛名は……」
「でませんでした……高雄が来ました……」
「あっ……」(察し)
比叡はとても優しい妹分です。 今日の建造で被りがでたからといって厳しく追従しません。 肩を落とす提督を見て言葉を続けるのをやめました。
「……ま、いずれ出るさ。 それまで比叡は霧島と待っててくり」
「はい! 司令も建造頑張ってくださいね!」
「あ、そういえば司令官。 北上さんが「大井っちはまだか〜」とさっきここに来る前にぼやいてましたよ」
「く、クレイジーサイコレズ姉貴はきっと稼ぎしてる時に落ちるから……」(震え声)
「そういえばぁ〜筑摩さんもねぇ〜、早くお姉さんに会いたがってたわよぉ〜?」
「ひえー! 提督だって頑張ってるんだってばー!」
落ちるときは落ちる、落ちないときは落ちない、を地で行く男である。 別に利根が出にくいとかそういう話はないが。 多分序盤でレア艦をいくつか手に入れたからだと思うんですけど。(物欲センサー)
「あ、そうだ。 もうちょっとでお昼やん? 午後は潜水艦狩りのウィークリー消化するからブッキー旗艦で出撃お願いね」
「はい、分かりました。 ……じゃあ午後の秘書官はどうするんですか?」
「適当に見つけとくわ。 遠征組みはもう今日楽にしてていいよ、ブッキーは出撃準備よろしくぅ」
『はい』
「んじゃめしめし〜」
遠征組みは補給をしに、吹雪は自分の艤装を取りに。 一人になった提督は軽やかな足取りで食堂へと向かった。
「……あ、司令官! ちゃんとPCの画面消してください! 節電ですよ」
「へいへーい」
食堂。
そこは艦娘達がお昼を取る場所であり、交流の場の一つである。 メニューは毎回間宮と伊良湖達が考えて作っている。 今日も食欲を唆るいい匂いが……
「今日の飯はなぁにかなっと」
「あら、提督も今お昼なの?」
「ん?」
声をかけられその方向に視線をやる。 そこには重巡洋艦の『妙高』『那智』『足柄』『羽黒』が席に座っていた。 この四人は妙高四姉妹であり、全員個性が強い姉妹達である。 妙高さんは事前に知っていても初見時は笑わざるを得なかったそうな。
「妙高四姉妹じゃねぇか」
「提督、ご一緒しませんか?」
「あぁいいっすね。 ちょっち待っててね」
「あまり急ぐとこけるぞ」
「あ、司令官さん……足元お気を付けて……」
本日の鹿屋鎮守府のお昼は親子丼と蕎麦のセットである。 注文の際に言えばサイズを小さくできる。 因みに冷たい蕎麦だ。
提督はそれをさっさと受け取り妙高四姉妹の元に気持ち早歩きで向かう。
「今日は蕎麦だったんだな」
「あら? 提督は蕎麦好きなの?」
「おう! うどんは嫌いじゃないけど好きでもないよ」
「あら〜そう言えば羽黒、あなたも蕎麦が好きだったわよね?」
「ふぇ? あ、はい」
「よかったわね、提督と同じよ」
「ふぇ!?」
「お、そうだな」
妙高からのパスに驚き顔を赤らめる羽黒。 何とか返事をしようと試みるも「あや、え、その……うぅ……」と言葉に出来ずに縮こまってしまう。 未だレベリングが足りないからか提督とのコミュニケーションの取り方が分からない様子。 しかし当の本人は提督とは仲良くしたいと考えているため、なんだかもどかしいのだ。
「……ほら、提督。 会話に困った時は男子が話を広げるのよ」
「え、足柄さん、それは無茶ぶりなのでは……」
「そんなんじゃモテないわよ、ほらほらほらほら」
「……えぇ」
足柄に小突かれながら提督は顔を伏せている羽黒に話しかける。 話題を広げるのに必要なのは一瞬の閃きである。
「……あ。(閃き) あー……羽黒?」
「は、はい……?」
「蕎麦派ならさ、今度俺の行きつけのお蕎麦屋さんにいかへん?」
「ふぇ……?」
「昔っから行ってる店でさ、確か二八なんだけとめちゃ美味いのよ。 今度一緒に行かないか?」
「あ、えと……」
食事に誘う、それは割りかし有能な親密度上昇イベントである。 なお断られた時の事は考えていない。 返事が出せない羽黒だったが、意を決して返事をする。
「えと……は、はい。 ご一緒させてもらいます」
「お、言ったな。 もう取り貸しは出来ねぇからな?」
「大丈夫です……ふふ」
『(あら〜)』
笑顔を浮かべた羽黒に姉達はほっこりとしたいい笑顔で妹を見ている。 そんな中羽黒は何かを思ったのか、一つだけ条件をつける。
「あ、でもその時は姉さん達も一緒で……」
「む、別に提督と二人で行ってきていいのだぞ?」
「変に私たちに気を使わなくてもいいのよ?」
「でも……」
羽黒は優しい笑顔で理由を言う。
「せっかく提督が案内してくれるから……みんなで思い出を作りたいな……て」
『…………』
「あ、その……変な事言ってしまいましたか……?」
『ふぅ……なんだただの天使か』
この時の四人は、進撃の巨人で結婚したがっていた人の気持ちがよく分かった。 こんなに出来たいい女の子が目の前で誰かを思いやれるのだ。 それは結婚したくなってもいたしかたなし。 ハグロスキーの提督の気持ちがよく分かる瞬間であった。
「羽黒……今度は妙高四姉妹のレベリングちゃんとするって誓うよ」
「へ? あ、はい、ありがとうございます……?」
昼食も食べ終わった所で提督は妙高四姉妹に午後の秘書官の話を持ちかける。
「あら、今日の秘書官は吹雪ちゃんじゃなかったっけ?」
「ブッキーは潜水艦狩りしてるからな。 明日は日曜だし、今のうちに終わらせておきたいんだよね」
せっかくだし誰か秘書官やるか? と大分適当に秘書官を探している提督。 ものすごく適当な男だ。
「……そういえば足柄姉さんはまだ秘書官やったことなかったですよね?」
「え? あぁそういえばそうね……」
「私や那智、羽黒はもうしたわねぇ」
「ふむ、なら足柄で決まりか?」
この提督、編成は真面目に考える癖に秘書官の事は物凄くいい加減なのだ。 書類処理能力とかそういうのは一切考えないで秘書官を決める。 一時期はずっと吹雪だった時もあった。
「なら秘書官は足柄でーー」
「ちょっと待ったー!!」
「ーーいっかーって時に誰だ?」
執務室に向かう方向とは逆の方から提督に声がかけられる。 全員がその声の主を確認すると、そこには『川内』『神通』『那珂』の川内型三姉妹がいた。
「なんだなんだお前ら、私に興味あんのかアァン?」
「提督、私だって秘書官したい!」
「那珂ちゃんはこの間したけど川内お姉ちゃんはまだしてないでしょ? ならお姉ちゃんを秘書官にしてあげてよ!」
「すいません提督……姉妹達がお騒がせしてます……」
まさかの川内のエントリー、那珂と神通は秘書官済みだが川内は違う。 何故なら川内は夜戦っ子なので朝は仕事をしない、昼は仕事をしない、夜は提督がグラブる、ので必然的に川内が秘書官になる事はなかったのだ。
「……つーか川内起きてんのな、珍しい」
「提督、私を秘書官にして! そして夜戦をしよう!」
「主訴が違う、お前の主張は夜戦じゃねぇか」
「いいじゃんいいじゃん! 私に秘書官やらせてくれれば提督の分の仕事やってあげるからぁ〜夜戦しようよ〜」
「む、それは魅力的……」
現在は終わっているがこの時の提督は水有利の古戦場を走っていた。 アサルトタイムが夜なので今のうちに肉集めもしたい所であったので川内の提案は非常に魅力的である。 夜戦もアサルトタイム終わってからすれば問題ないのだから。
「ちょっと川内、秘書官するのは私よ? 明日にしなさい」
「えぇ……明日は日曜でしょ? そしたら次の日は月曜だから余り夜更かしを提督がしないしぃ〜」
「そもそも私が最初よ? 日本人なら順番を守りなさい」
「私は艦娘だも〜ん、日本人じゃないも〜ん」
「ぐぬぬ……引かないってわけね」
「夜戦の為なら足柄さん相手だって引かないよ」
「……え、何してんの君たち」
何故か火花をぶつけ合っているが、提督の中ではもう足柄を秘書官にする事が決まっているのだ。 のにも関わらず何故か二人が勝手に盛り上がっているのだ。
「こうなれば決戦のバトルフィールドでどちらが秘書官になるか決めるわよ!」
「望む所!!」
「……え、秘書官は足柄でいいんだけど……」
「すいません提督……姉がご迷惑を……」
「すまんな提督、ああみえて足柄はアホだ」
「あぁ……二人ともネジが二、三本抜けてるわ」
隠して秘書官を決める戦いが幕を開けた。
執務室で。
「え、仕事させてくれよ……」
提督に決定権などない。
「えぇ……あ、妙高と羽黒、デイリーの三回分の建造お願いしてきて」
「はい」
「わ、分かりました」
執務室にいるのは川内三姉妹と那智と足柄。 そしてオマケの提督。 睨み合い牽制しあう足柄と川内。 その後ろで応援をするやかましい那珂と申し訳なさそうにしている神通。 そして提督はアサギのスタミナを消費していた。
「ルールはどうするのかしら?」
「それは足柄さんが決めていいよ」
「あらそう? なら……『あっち向いてホイ野球拳』三本勝負よ!」
「修学旅行中の中学生かよ……」
あっち向いてホイとは言わずと知れた遊びである。 野球拳も言わずもがなである。 人間がこれをやると無駄に盛り上がるだけだが、艦娘がこれをやると一味違った面白さがある。
艦娘程の身体能力があればじゃんけん時の相手の出し方を見破る事ができる上に指を指す方向も微細な動きで見破る事ができる。 すなわち超高度な読み合いと騙し合いが展開されるのだ!
「三回勝った方が勝ちで、一回勝つごとに、勝った方は負けた相手の衣服を一つ指定して脱がせる事ができるわ」
「そして提督の前で服を脱がされた方は羞恥でまともな判断がどんどん出来なくなるデスゲーム……那珂ちゃんじゃできないよ」
「いや誰もやらないと思うわ那珂ちゃん……」
那珂のノリノリの解説に思わず路線変更をしたのかと思いたくなる。 アイドルが実況解説をするのは激しく叩かれそうだが。
「さぁ……始めましょ! 勝利が、秘書官になる権利が私を待ってるわ!」
「絶対夜戦しようね! 行くよ!」
「お前ら公式ボイスで遊ぶなよ……」
『最初はグー! じゃんけんポン!!』
じゃんけんの結果は足柄がグー、川内がパー。 川内のあっち向いてホイする権利が与えられる。
「初撃は川内か……」
「いっけーお姉ちゃん!」
言わずもがな、といった表情で川内は間髪入れずに人差し指を足柄に向ける。
「あっち向いてーー」
「(上……下? いや右……左……? 全く読めない……っ!)」(約0.1秒)
「ーーホイ!」
「っ!?」
川内は指を右に向けている。 すなわち足柄からみて左。 二人の動きは見事に同じ方向を向いていた。
「やったー! まずは一勝だー! さっすが夜戦のプロ!」
「くっ……!」
「流石だと言わせてもらおう……夜戦を極めた川内だからこその動き。 動くその時まで行動の余波を察知させない見事な精神統一だ……」(解説)
「いや……夜戦は関係ないと……」
「禿同」
少しこの空気に追いつけていない提督と神通。 何が悲しくて艦娘達の全力のあっち向いてホイを見なければならないのか。
「さぁて……足柄さんには……」
「……」
「そのスカートを脱いでもらうよ!」
「いきなりスカート!? 川内め、やつは一点突破戦法で攻めるつもりか!?」
「おいやめろ那智、意味不明な設定をつらつら重ねるのはやめろ」
妙高型の服装は何となくOLっぽい格好をしている。 そんな彼女がスカートを下ろしてしまってはOL物の撮影っぽくなってしまう。 だが足柄はひるむ事なくスカートを脱ぐ。
「なっ……恥ずかしくないの!? 提督の前なのに!?」
「いや俺の前以外でも恥ずかしがれ」
「残念だったわね……私はいついかなる時でも提督に見せられる『勝負下着』を着ているのよ! よって私は精神的動揺によるミスなんてないわ!」
「くっ……まさか精神統一戦法の使い手だなんて……」
「その戦法はアイドルの那珂ちゃんにだってやる事を憚れる戦法……流石飢えた狼の異名を持つ足柄さん……っていけない!」
冷静な分析をしている那珂はあることに気付く。 それを川内に伝えようとするも、足柄が音頭をとってじゃんけんを始める。
「最初はグー!」
「くっ……じゃんけん……」
『ポン!』
今度の結果は逆。 川内がグー、足柄パーで足柄の勝利。 そして川内に息つく暇を与えずに足柄は人差し指を川内に向ける。
「マズイ……初っ端から相手に羞恥心を与える事に失敗したお姉ちゃんの方が逆に不利……ッ!」
「そうなのか神通?」
「すいません提督……私にはちょっと……」
「おう、その方が俺はありがたい」
那珂の迫真の解説の通り、川内は少なからず動揺していた。 いくら足柄とはいえ提督の前で下着を晒せば動揺を隠すことも出来ずにゲームの主導権を自分が握れると確信していた。 だがその結果どうだろうか?
「いやどうもしねぇよ。 そんな真面目にふざけんなよ」
「あっち向いてホイ!」
「しまっ……!?」
「よし、いいぞ足柄! これで取り返した!」
足柄はひるむどころか逆に自分の不動の姿を見せつけて川内を動揺させた。 やり返された、まさにカウンター。 ゲームの主導権を握っていたのは足柄であった。
「あなたに脱いでもらうのは……ブラよ!」
「ぶ、ブラ……!?」
「え、川内のブラジャー……」
「提督……?」(金剛力士像)
「あ、ごめんなさい、よそ見てますマジすいません神通様」(首140度)
「もう、提督ったら女の子の下着を見ちゃいけないんだぞ?」
「……え、じゃあ足柄のは?」
「足柄さんは……まぁちょっとアレをそういう目で見れたらただのスケベだよね」
「……ぶっちゃけ野球拳の8倍わちゃわちゃしてるからなぁ……あと本人が無駄にドヤってるのがまた……」
極力川内のお着替えとブラを見ないように努める提督、それをとんでもない覇気で脅しながら見守る神通と那珂。 着替え終わったらしいので視線を戻そうとして、(……いやでもあの不毛なあっち向いてホイを見ないといけないのか?)……としばし考えた後に、あとで見てなかった事を咎められるのも面倒なので視線をいやいや戻す。 そこにはまるで乙女の様な顔で恥ずかしがっている川内がいた。
「……え、綺麗な川内がいる……」
「うぅ……」
「……はっ! 那珂ちゃん気付いたよ!」
「おう、いらん気付きをありがとう」
「ノーブラってことは揺れるんだよ! そして川内お姉ちゃんの心も揺れるママママインドなんだよ!」
「語彙力をどうにかしろ! あとAVはNG!」
那珂の言う通り川内が身体を揺らすと胸も揺れる。 それを恥ずかしがってか左腕で隠す様に腕を上げている。 その様子を見て満足そうに足柄は語る。
「ふふふ……提督? あなた知ってるかしら?」
「はいぃ?」(杉下右京)
「艦娘はね、改二になると身長とか胸が大きくなる子がいるのよ」
「おう、うちにはまだ改二の奴はいないけどそうなのか」
「それでね? 改になると改二になるために身体が少しずつ成長していくのよ……そう、例えば胸とかね!」
「は?」
艦娘は改二になることでその見た目が大きく変化する。 身体的特徴もその一つだ。 五十鈴の改二を見たことがある提督なら分かると思うが、とんでもない成長をしている。 つまり川内の改二もまた同じとまではいかないが似た成長がされている。 当然胸もだ。
「川内お姉ちゃんは意外と大っきい……この間改になったばかりだけど当然胸は成長している……つまり恥ずかしさ二倍!」
「おう、それぜってーに龍驤に言うなよ。 あと聞いてる俺も恥ずいわ」
「そしてあなたが胸を揺らす度に提督は絶対に思うわ。 『川内のおっぱい大きいなぁ』と! その視線にあなたはまともに動けなくなる!」
「おい足柄、何人をおっぱい魔人みたいに言ってんだコラ」
「流石足柄……提督の趣味嗜好まで戦略に組み込むとは」
「おう那智、お前もな。 あとでな、覚えとけよ」
無駄に提督のフェチが露出したところで再開される。 当然川内は本調子ではない。 じわりじわりと足柄が追い込んでいく。
「じゃんけんポン! あっち向いてホイ!」
「くっ……ふっ……」
じゃんけんこそは負けるものの紙一重で交わしていく川内。 ジリ貧の状態が続き、このままでは川内の敗北かと思われた。
「じゃんけんポン!」
「やった! ようやく川内お姉ちゃんがじゃんけんに勝った!」
ここから川内の反撃が始まる。
「あっち向いて……!」
「こ、これは……っ!?」
あっち向いてホイは『あっち向いて』までは好きな様に指を動かしていいのだ。 『ホイ』のところでしっかりと十字のどれかに指が向いていれば問題ないルール。 川内はこれを利用はする。
「指が……いったいどこを狙っているの……!?」
「は、速い! 何という指捌き……これでは逆に視線が釘付けに……」
川内はまだ『ホイ』と言っていない。 そう、指を上下左右に高速に動かしているのだ。 これにより大量のフェイクが足柄を襲い、なおかつそれに釣られまいと指先にを集中し過ぎる余り釣られてしまう危険が増える。 そこから繰り出される渾身の一撃は……
「ホイ!!」
「ッッ〜〜〜!?」
「向いたね……ちゃぁんと私の指先の方に!」
足柄に見事刺さる。 この攻防で一気に二人は汗を描く。 じんわりと浮かび上がる汗は皮膚を、服を濡らす。 そんな中川内が脱がすのは……
「それじゃあ……足柄さんには上を一枚脱いでもらうよ」
「……上でいいのかしら?」
「うん!」
今更上を一枚脱いだところで、すでにスカートを脱ぎ黒のストッキングに勝負下着が見せている足柄にとって苦ではない。 苦ではないはずなのに川内は上の服を宣言した。 怪訝に思いつつも足柄は上を一枚脱ぎ……気付く。
「これは……!!」
「あ、足柄のシャツが汗で濡れて透けているだとぉぉ!?」
「そら(全力でじゃんけんしてあっち向いてホイしたら)そうよ」
濡れシャツ。 それは変態的なフェチズムを刺激するシチュエーションの一つ。 濡れることで透けて見えてしまう下着、くっきりと見えてしまうライン、どれをとっても恥ずかしいに決まっている。 流石の足柄もこれは予想外の様で柄にもなく顔を赤らめている。
「こ、この私にこんな辱めを……」
「いやお前ら中破するともっと凄いじゃん」
「これで五分五分……いや、二枚脱がせた川内お姉ちゃんの方が有利!」
「おう那珂、俺はこんな事で盛り上がっているお前が本当にアイドルかどうか怪しくなってきたぞ」
「さぁて、このまま押し切らせてもらうよ!」
「ふ……負けないわ!」
ここから白熱のあっち向いてホイが展開されると思われ……
「あ、あの、失礼します提督」
「提督、建造の報告に来ました」
そこにデイリーの三回建造を終えた妙高と羽黒が戻ってくる。 ちなみに足柄と川内はまだじゃんけんを続けている。
「えぇっと……足柄姉さんは何を……?」
「あぁ、あのアホどもはほっとけ。 それよりどう? 一応今日は空母狙いで資材回したんだけど……でた?」
「新しい子は来たけど……提督の希望通りではないですよ」
「あっ……そっか……」(落胆)
この提督は現在空母を欲しがっている。 保有している空母は『赤城』『蒼龍』『飛龍』の三人のみ、少々ローテーションを組むには足りないのだ。 主に赤城のボーキの消費量的な意味で。
「あぁ……それじゃあ新しい子通してくれ」
「あ、はい」
『じゃんけんポン! あっち向いてホイ!』
「お前らは声のトーンを落とせ!」
新しく建造された艦娘が部屋に入る。 部屋の中で全力でじゃんけんしてあっち向いてホイをしている足柄と川内を見て驚くも、「やべぇよやべぇよ……」と小さく呟きながら提督の前にビシッとした姿勢で挨拶を始める。
「陽炎型19番艦の秋雲さんだよ! 提督、よろしくね」
秋雲、またの名をオータムクラウド先生。 薄い本の書き手という設定を付けられた事により二次創作で動かしやすいキャラとして昇格する。 何かあれば明石か夕張か秋雲が原因と呼ばれるぐらいには認知度が高い。
「……今日の秘書官は秋雲に決定!!」
『なにぃぃぃぃ!?』
そんな秋雲を見た提督は、疲れからか秘書官を秋雲に指名した。 いや、多分ぶっちゃけ二人のあっち向いてホイ野球拳を見て頭が痛くなったからだと思うんですけど……
「お前らはあとでしばく! 執務室で遊びやがってよぉ〜ここは遊郭でもノーパンシャブシャブ会場じゃねぇんだよ!」
「何でよ! もうちょっとで私が勝つのに!?」
「もう少しで夜戦出来るのに!?」
「お前らは頭を入渠させてこい!」
かくして第1回『チカチカ秘書官争奪戦』を制したのは秋雲であった。
「もう提督〜? 艦娘の前でそんなエッチなゲームしちゃって〜セクハラだよ? いいの〜?」
「スタミナ消費してるだけだからセーフ」
「艦これ以外のゲームをしてるのもどうかと思うけど……あ、そのキャラの格好見せて」
「ん? ほいほい」
「うひょーエロいエロい。 これは捗るわ〜」
「あ、本当に薄い本描いてんのね」
因みに提督と秋雲は仲良くなった。 対魔忍アサギ〜決戦アリーナ〜で。
これを書いている途中で金剛をドロップしました。 次回は金剛を出します。 あと加賀さんが出たので加賀さんも。 ……でも榛名は出ませんでした……
今回も誤字脱字等のミスがありましたら、コメントにてお教えください。