天使の討論   作:狼 冬樹

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天使と無口

僕は『天使』を殺した……。

 

 

僕は学校なんて大嫌いだ。

 

人間が嫌いな僕には苦痛でしかない。それなら行かなければ良いじゃ

 

ないかと思うが、義務教育だからサボることも出来ない。なら、通信

 

制にすれば良いんじゃないのか?と思うだろう。しかし、僕にはそれ

 

が出来ない。どこの家でもそうか分からないが、僕の家はとてつもな

 

く親が厳しいのだ。お陰で何処に行くにも、「誰と?何処へ?何をし

 

に?」と毎回聞かれるのである。これでは、彼女と遊びにも行けない

 

のである。まぁ僕には彼女どころか友達もいないのだが。

 

要するに、僕は自由ではない。

 

そんな僕にとって入学式は最悪だ。 僕からしたら『地獄への歓迎会』みたいなものだ。周りのみんなは、ワクワクしているが、僕にはさっぱり理解できない。まぁ理解する気なんて無いが。

1年生は約200人いる。男子よりも女子の方が異様に少なく、女子は

 

20人いるかいないかぐらいだった。元々、この学校は男子校だった。

 

2年前から共学になったらしい。それから徐々に女子の数が増えて来て

 

いるようだが、男子に比べるとやっぱり少ない。そのせいで男子が妙

 

にざわついていた。貴重な女子だから仕方無いのだろう。まぁ僕には

 

どうでもいい事だ。僕は人間が嫌いなのだ。勿論女子も大嫌いだっ

 

た。

 

入学式を終えてから、今日で一週間が経った。僕の周りでは、すで

 

にグループが出来ていた。僕はずっと本を読んでいたので話しかける

 

こともなかったし話しかけられることもなかった。全くありがたい人

 

達だった。僕は本を読んでいる時に話しかけられるのが大嫌いだっ

 

た。特に『人間論』シリーズで話しかけられるのは、どんな奴だろう

 

と生まれて来たやつを後悔させてやろうと思うほどだ。それを知って

 

か知らずかわからないが、兎に角クラスの人達は僕に話しかけてこな

 

かった。……一人を除いては。

 

「ねぇ!何読んでるの?」

 

「……。」

 

「その作家が好きなの?」

 

「……。」

 

僕は無視を続けた。

 

「ねぇ。折角口があるんだからさ何か喋ってよ!!」

 

妙にクラスの人達の目線が気になりながら、僕は仕方がなく本から顔

 

を上げて彼女を見た。

 

「!?」

 

僕は驚いてしまった。なんと、僕に話しかけていた人物は『天使』だ

 

ったのだ。僕は、こんがらがった思考を元に戻そうと焦った。

 

「何か喋ってよぉー!」

 

尚も『天使』は騒ぎ続ける。お陰で僕は男子から非難の目で見られて

 

いるのと同時に羨ましがられていた。それもそのはず、『天使』が話

 

しかけて来たのだ。それを拒む男子も女子もいない。

 

勿論僕を除いて。

 

そんな相手に、無視を続けていたのだ。それでは非難の目で見られる

 

のも当然と言えるだろう。僕からしたらなかなかの理不尽だが。

 

「僕じゃなくて、他の人と話しに行ったらどうですか?」

 

僕は出来うる限り丁寧に聞いた。すると男子が少しソワソワし始め

 

た。全く馬鹿な奴らだ。しかし彼等の緊張は無意味だった。

 

「やだ。」

 

彼女が一瞬にして拒否しだからだ。僕は困惑してしまった。理解でき

 

なかったからだ。

 

「何故ですか?」

 

僕は聞いてみた。少し理由が気になってしまったのだ。こんな僕に

 

『天使』が話しかけて来たのだ。何か特別な意味がなくてはつまらな

 

い。少しの間をおいてから『天使』が答えた。

 

「君と……話したいから。ただそれだけだよ!」

 

僕は驚いて声が出なかった。いや僕だけじゃなくクラスの全員が固ま

 

った。

 

『天使』と呼ばれる彼女は一体どんな人なのだろうか。

 

この時から僕は『天使』の事が、少し気になり始めていた。


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