【完結】ハーマイオニーと天才の魔法式   作:藍多

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この話が秘密に部屋編で一番書きたかった話です。

では30話どうぞ。


30. 蛇の王の願い

「ハーマイオニー……。」

 

授業が終わり図書館で本を読んでいたら声をかけられた。声の主を見るとジニーだった。最近はちょっと疲れているのか調子が悪そうだ。

 

「どうしたの? 何かあった?」

 

「あのね、優秀なハーマイオニーに折り入って頼みたいことがあるの。誰にも聞かれたくない話なの。三階の女子トイレ、嘆きのマートルのトイレがあるでしょ? そこなら誰も来ないと思うから夕食後、消灯までのちょっとの時間でいいから一人で来てほしいの。お願い!」

 

それだけ言ってジニーは走り去ってしまった。

話って何だろうか? いくらレオから魔眼防御の眼鏡を貰っているからといって一人では危険だし、最近の様子を考えると無視するわけにもいかないよね。とりあえず行って話だけでも聞かなくちゃ。

 

 

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夕食後、寮の門限まであと十分の時間に三階の女子トイレに到着した。しかしジニーの姿はなく、おまけにマートルの気配も感じられない。

不審に思っていると凄まじい気配がトイレの奥から溢れ出した。何か巨大なモノが這い出てくるような、不気味な感じだ。

 

(ここは……マズいわ! 急いで逃げなきゃ!)

 

トイレから飛び出し走り出した瞬間、トイレから巨大な蛇の頭が出てきた。蛇はこちらを見る。つい後ろを振り向いてしまったので目が合ってしまった。その瞬間、ネックレスから嫌な音がした。走りながら確認するとひびが入ってる。おそらく後1~2回しか耐えられないだろう。肉体強化を施して全速力で離脱準備に入る。

 

ステューピファイ(麻痺せよ)。」

 

肉体強化がかかるわずかな隙をついて失神呪文が飛んでくる。とっさに横に転がって躱すがバジリスクに追いつかれてしまった。

どこからかシューシューと声のような何かが聞こえてくる。バジリスクはその音に反応してこちらを丸呑みしようと大きく口を開けた。反撃しようと杖を構えるが正確に武装解除が杖を弾き飛ばしてしまった。

丸腰の私は恐怖で思わず目を閉じて助けを呼んだ。

 

「助けて……。レオ!」

 

「もちろん。」

 

「え……?」

 

バジリスクに吞み込まれる感触はなく、代わりに優しく抱き上げられているのを感じる。

目を開けるとバジリスクは遠くに、そしてすぐ上には最も優れた魔法使いの姿があった。

 

「大丈夫かい、ハーマイオニー。ちょっと待っててすぐ終わらせてくるから。」

 

「レオ! どうしてここに?」

 

「そのネックレスが破損すると僕に知らせが来る仕掛けが施してあったのさ。間に合って良かった。防御陣を創るからそこから出ないように。」

 

立たせた私の周りに薄い膜のようなものが囲んでいく。レオはバジリスクに向かって歩いていく。

 

「レオ! 死なないでね! まだまだあなたと一緒にいたいんだから! 絶対戻ってきてね!」

 

レオは笑顔で手を振りながら向かって行ってしまう。

私は祈ることしかできない。ならば彼の無事を祈り続けよう。

 

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バジリスクと対峙するレオ。その『眼』に映るバジリスクの美しさに思わずため息が出る。

 

「初めましてスリザリンの遺した怪物、バジリスク。ああ……。それにしても、なんて……。なんて美しいんだ! 君の体、鱗一枚一枚に施されている天然の対魔法。一目見るだけで致死成分の塊だと解る牙の毒。そしてその目! 良い、すごく良い! 最高だ!」

 

そうしている間にもバジリスクの目を見ていることで防御用の指輪に負荷がかかっている。

落ち着いておかなければ。

 

「ふぅ。うん、落ち着こう。さて君には実験材料になってもらおうか。そのためには出来るだけ無傷で死んでもらいたいが……、うんアバダ・ケダブラ(息絶えよ)も効きにくそうだ。どうしたものか。」

 

どうやって仕留めようか考えているとバジリスクが噛み殺そうと口を開けて迫ってきた。

『増強』を全開にして躱し続ける。試しに麻痺を当てるがまるで効いていない。

しばらく攻撃を繰り出していたがバジリスクが止まり互いに様子見に入った。

レオは無傷で殺す策を思いついた。

 

グラビトン(重力場生成)。10倍!」

 

急にバジリスクにかかる重力が増加した。動きが鈍ったところに四方八方から鎖が巻き付いていく。

 

「さて、ドラゴンを捕縛する用の鎖を改良したその鎖には行動阻害がびっしり付加されている。それでも君を押さえているのは数分が限界だろう。その間に終わらせようか。」

 

バジリスクはもがきそのたびに鎖は少しずつ壊れていく。レオの予測通り2分ほどで鎖はすべて破壊され突撃してきた。だが。

 

「一歩遅かったね。じゃあ、さようなら。」

 

突撃するバジリスクの目前に鏡が現れた。ただの鏡ではない。バジリスクの即死の魔眼の効果を100%反射し、対魔眼の防御もすり抜けるように調整された特別製だ。

バジリスクは鏡に映る己の姿を見つめる。次の瞬間には死の運命がやってくるだろう。

 

それでもバジリスク胸中には鏡を創り出した小さな魔法使いへの感謝しかなかった。

 

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思えば生まれてから千年近く時が過ぎた。

我が主、サラザール・スリザリンの命でこの地下深くでほとんどの時を過ごした。

主は我に使命を与えた。

 

「バジリスクよ。私はここを去る。だがもしもここを、ホグワーツを、そして魔法界をマグルが滅ぼそうとするならばその全ての力をもってマグルと戦うのだ。その時は私の継承者が現れるであろう。願わくばそのような未来が永遠に来なければ良いのだが。」

 

千年前はマグルによって魔法使いは捕えられ、殺されるのが日常的に起こっていた。

ホグワーツを創った四人の賢者たちはここをそのようなことから守るための場、特に魔力を制御できない子供の為の教育施設として創った。

だが、主は他の三人と決別した。主は純血のみを受け入れるべきだと主張した。

 

「マグルの血が入った子供を受け入れれば無用な争いが起こる! まずは純血の魔法使いのみを受け入れるべきだ。マグル生まれや混血を受け入れるには今の世では厳しい。魔女狩りがなくなった平和な世界になってからにしなければ、下手をすれば魔法使いは全滅してしまうぞ!」

 

主は他の魔法使いよりもマグルの力を正しく認識し、そして恐れていた。

マグル生まれや混血も同じ魔法使いではある。だが、その親族のマグルに魔法使いの存在が発覚してマグル生まれを含む全ての魔法使いが死ぬことが怖かったのだ。本心では全ての子供を受け入れたかったのだ。だがより安全のために、より多くの命が助かるために純血のみを保護するしかなかった。

他の三人との議論は長く続いた。だが最終的には主はホグワーツを去ることになった。主はマグルから魔法使いを守るための旅に出るらしい。我にマグルからここを守る使命を残して永遠にホグワーツ戻ることはなかった。

 

 

それから千年近く経過したが我が戦うことは無かった。それでよい。我が不要とはそれすなわち世が平和である証拠だ。

だがある時、この部屋が開かれた。

主の継承者を名乗るあの小僧はあろうことかマグル生まれや混血を全てホグワーツから全て消すなどと言った!

冗談ではない! こいつは主の考えなど何も理解していない。マグルが攻めてきたわけでもないのに、平和な今の世界でなぜ純血以外を受け入れないのか!

我はこんな阿呆の言葉には従いたくはなかった。だが、この体が主の血を引く蛇語使いからの命令には逆らえないようになっていた。

そのせいで一人の子供を殺してしまった。

後悔した。絶望した。主からの使命は魔法使いを殺すことではない! 

我はこの命を使って愚か者からの命令を拒絶した。反動で寿命は大幅に減り動くこともできなくなったが、これで良い。ヴォルデモートと名乗る小僧は我が命令を聞かなくなると出ていった。残りの寿命は百年もないだろうし、次に命令されたら抵抗するだけの力は残っていない。

次にここに誰かが来る前に我の命が消えていることだけを願おう。

 

願いと言えば主が我に願いがあるか聞いたことがあったな。主の望みが全てと言ったら「自分の為の願いを考えておけ。」と言われたな。残りの命で叶えられる願いなどあるのだろうか。

 

 

数十年後、再び部屋が開かれてしまった。

今度は抵抗することもできず、また子供を我が魔眼で見てしまった。幸運にも死なすことは無かったがこんな幸運は二度もないだろう。

またくそったれな命令で子供を襲ってしまう。だが、守護者が現れた。

その守護者は強かった。我の目が効果がないばかりか全力での攻撃もかすりもしなかった。この者ならば我を殺してくれるに違いない!

体が重くなり縛り付けられる。振りほどいて突撃した先に鏡が現れた。

 

鏡を見る。我の姿が映った鏡を見る。

初めてだ。初めて我は己の姿をしっかりと認識した。

 

あぁ、気付かなかった。我の願いは自らの姿を見ることだったのか。

この全ての生命を絶命させる目のせいで我は今まで自分の姿をハッキリと見たことが無かった。水面を見ても我だけ霞がかったぼやけた姿が映るのみだった。

鏡には我の鱗、牙、目全てがはっきりと映っている。我はこんな姿をしていたのか……。

刹那の後には絶命する我が身。だがそれまでのわずかの間、しっかりと魂に我の姿を、この蛇の王の全てを刻み込もう。

 

最期に我の心の奥底にあった願いを叶え、継承者に操られた我を殺してくれた小さな魔法使いに最大の感謝を。




狙撃手トム・リドル。相手が最も嫌がるタイミングで正確に魔法でサポートしてました。なお、レオの登場と同時に全力で逃げ出しました。

本作のサラザール・スリザリンと純血主義
スリザリンはマグル生まれも混血も等しく魔法使いであると考えていました。
純血の魔法使いはマグル生まれたちを導く存在で誇りを持つべきだと主張してましたが時とともにその考えはねじ曲がって伝えられてしまいました。
本当は全ての子供を受け入れたかったが、危険性は少しでも排除したかった。
決別した時も残った三人に惜しまれ、スリザリン自身もホグワーツに危険が及んだら戻るつもりでした。

バジリスクは対マグル用の防衛装置。
御辞儀は真逆の思想であったが、スリザリンの末裔なのでバジリスクは逆らえずマートルを殺害。
これによって全力で抵抗したので50年前は犠牲者が他に出なかったという設定。ダンブルドアの監視もあるため御辞儀も諦めた。
バジリスクの魔眼は自身には効かない。鏡や水面を見ても正確に己の姿を認識できなくなる防御がかかっていたため。レオはそれを解除して魔眼を反射して絶命させた。

では次回お楽しみに。

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