Fate/Grand Order-Veritas-   作:蒼天伍号

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ついにやってしまった……

ぼくのかんがえたさいきょうのサーヴァントでオレTueeeな作品を投稿してしまった……!!


プロローグ

思えば、何の面白みもない人生だった。

 

 

 

見渡す限りの真っ白な空間を漂いながら(・・・・・)、俺はそんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

思い出すのはつい先ほどのこと。もはや恒例行事となった残業を終えてくたびれた俺は、帰路についていた。

仕事先は都心ゆえに夜が更けても喧騒の中にあったが、郊外に当たる我が家周辺に差し掛かれば見事に静寂に包まれた深夜の住宅街だ。

人っ子一人居らず周囲の家々にも明かりは無く、ただ静かなだけだ。

 

皆さん健康な生活を送っておられるようで。

 

ぼそりとそんなことを呟きながらもポケットを漁りスマホを取り出す。

歩きスマホとか日中にやれば危なくて仕方ないが、幸い今は深夜なので事故ることはない。たまに車やバイクやら通るが辺りが静かすぎて近づく音は嫌でも耳に入るし避けることなんて楽だ。

 

ホームボタンを押してスリープ状態を解けばお気に入りのキャラの画像の上にデカデカと日付と現在時刻が表示されていた。

 

01:50。どうやらとっくに日付を跨いでいたらしい。我ながら遅くまでご苦労なことだ。ここから更に歩いて三十分はかかる。その頃には二時を過ぎているだろう。どう足掻いても十分以上に短縮はできそうにない。

 

明日も早いというのに。

 

ため息が漏れそうになるが、ため息ひとつで幸せが一つ逃げて行くとどこかで聞いたことがあるので我慢する。

というかこれ以上現実を見ていると寝付けなくなりそうだし早速現実逃避に走る。

逃げることに関しては俺の右に出るものなどいないからな。

 

ポチポチと画面をタッチしてロックを解除、ホーム画面をスライドさせてお目当のアイコンをタッチする。

……と同時に素早く縦持ちから両手の横持ちにスマホを持ち替える。

今からやろうとしているアプリは横画面仕様だからな。

 

真っ暗な画面の右端で必死に走り続けている四足歩行の獣にほっこりしつつ、すでにワクワクしている自分に気づく。

なんてったってこのゲームは飽きっぽいことで定評のある俺が唯一一年以上続けているものだからな。そりゃあロード画面でワクワクしてもおかしくない。

 

そうこうしていると画面はいつの間にかキャラ説明に移り変わっていた。

この仕様になったのもつい最近というか、最初期からプレイしている俺としては未だに改善と改良を続けている運営様と偉大なるシナリオライターに尊敬の念を抱いてしまう。

 

もうお気づきの方もいるかもしれないが今から俺が始めようとしているのはかの有名な『Fate/Grand Order』である。

型月厨の皆様方や古参のFateファンの方には耳にタコかもしれないが簡単に説明するとこのゲームは英霊という史実、伝承の英雄達を使い魔サーヴァントとして連れ歩き世界を救うお話だ。

サーヴァントたちは皆誰もが個性的で、善悪バラバラなくせに魅力的で見ていて飽きないし、そんな雑多すぎる集団をなんやかんやあっても率いてしまう逸般人の主人公が織りなすストーリーがとても面白くてさらに飽きさせない。

特に第一部の最終章とか涙なしでは見られなかった。

 

そんなこんなで俺は人生で初めてオンラインゲームを一年以上続けてしまっている。

幸いというかお給金はたんまりもらっているので課金などし放題だ。そのぶん、残業とか急な仕事が入るなどで自由な時間が無くなっているが。

 

考えつつ、歩きつつ、俺はタイトル画面をタッチし、早速ゲームを始めていく。早々にお知らせ画面が飛び出てくるが素早くタッチして閉じる。この動作も慣れたものだ。

左手に浮かんでいるのは我らが英雄王。半裸でほくそ笑むその姿は彼だからこそ許された所業にも思える。

 

あ、スタミナが……

 

とりあえず種火周回でもと思ってたらスタミナを表すAPが39と表示されていた。そういえば電車の中でも種火を回っていたので減っているのは当たり前だった。それにしてもここまで減ってるとは思わなかったが。

 

とりあえずあと二分ほどで一メモリ回復するそうなのでおとなしくこのまま待つことにした。

 

十秒。

 

二十秒。

 

三十秒。

 

歩きながらジッと減って行く回復までの時間数を見つめている。……しかし、なかなかにもどかしい。こうしていると二分というのも存外に長く感じられた。

 

気晴らしにと目線を画面外、即ち現実世界へと戻す。相変わらず静まり返った住宅街でしかないが……ふと、辺りを見渡す俺の耳に気になる音が聞こえてきた。

ブンブン、と品のないエンジン音が静寂の世界に響き渡る。それは段々とこちらに近づいてきていた。

 

うるさいなぁ、近所迷惑だからそういうのは国道とかでやってもらいたいものだ。

 

おそらくはハッチャケちゃってる若者あたりだろうと思いつつ、ふと、音の聞こえる前方に視線を移した。

 

すると、そこには今まさに大通りを横断しようとしている女子高生らしき少女。こんな時間に危ないなぁとか思っていると、その奥、カーブになっている道路の先からちょうど車が現れた。先ほどから聞こえるエンジン音を響かせながら。

車はその音に無駄に見合うほどに凄いスピードでこちらに迫ってきた。

このまま行けばタイミングよく横断中のJKと激突するほどの勢いだ。

 

あれ?これって、やばくね?

 

即座に思考を回転させる。この場には俺とJKと暴走車。このまま行けば数秒で事故案件。

あれ?これ物凄く既知感があるぞ?たぶんネットとかで良く目にしていた展開、俗に言うテンプレ的転生案件。

 

うわー、マジか。これマジか。俺助けないとあの娘死ぬ系?うそだろおい、さすがに目の前でうら若き少女がバラバラになるなんてシーンはゴメンだぞ。

 

ちなみにこの間実に二秒。我ながら非現実なことに対しては恐ろしい速度で頭を回転させられる人間だ。

 

とか言ってる間にも車は迫ってきている。で、お約束みたいにJKは車に気付いていない。

どうする?声をかける?いやダメだ、間に合わない。

ならば助ける?それこそ不可能だ。彼女と俺は結構距離が離れていて、『危ない!』って突き飛ばした上で俺がボカーン!みたいなこともできない。

 

ありていに手遅れ。

これもう無理だな。早々に諦めた俺はせめてスプラッタシーンからは目を逸らそうとして……不意に思い出した。

 

俺が今手に握るスマホの中に出てきた人たちは、主人公は絶望的な状況に陥っても決して諦めなかったことを。それに倣うように他のキャラたちもそれぞれに希望を見出して強大な敵に立ち向かっていた。

 

……でも所詮はフィクションだ。こんなのは作り話で現実でそんなことしても奇跡的にハッピーエンドに繋がることなんて皆無だ。それは俺が一番よく知っている。

頑張れば必ず報われるとか誰かが助けてくれるとか、そんなものはまやかしに過ぎず、出過ぎた真似をした者は無慈悲に叩きのめされて放逐される『運命』にあると。

所詮、この世は無慈悲だ。不条理なまでに秩序付いている。それは貧富の差とか関係なく、ただ単に“運が良いか悪いか”。

 

きっと、ここで俺が出て行けば最悪の結果に終わるだろう。これ以上ないほどに。

 

無駄、無価値、無慈悲。それでいい。俺はそういう人間なのだから。

 

 

 

 

……だというのに。

 

なぜこの脚は駆け出しているのだろう?なぜこの口はしきりに彼女に注意を呼びかけているのだろう?

なぜ、俺はこんなにも必死になっているのだろう?

 

パッパァー!!

 

気付けば俺は彼女に手を伸ばしていた。あと少し、あと少しで手が届きそうな位置まで迫ったところで横から眩しいほどのライトが照らし出していた。

車もまた俺と同じくらいに迫っていたのだ。

 

くそが、何クラクション鳴らしてやがるんだ。もう手遅れだろ。あー、やっぱダメだったわ。しゅーりょー。この後俺とあの娘は仲良くスプラッタに……

 

直後、これまでの人生で間違いなく最大であろう凄まじい衝撃を感じた。すぐに左半身が潰れたのがわかった、同時に視線の先で彼女の半身が歪に捻じ曲がるのも。

 

まったく、どうしようもなくクソッタレな世界だ。

どいつもこいつも……

 

 

 

 

 

……そこで俺の意識は途絶え、気付いた時には妙な浮遊感とともに今の状況に至る。

 

おそらく俺は死んでしまったのだろう。おー死んでしまうとはなにごとか!……ほんとに何事だ。

俺は見ず知らずの女の子を半端な正義感から助けようとして諸共車に跳ねられて犬死、ご臨終だ。

 

ほら見ろ、柄にもなくしゃしゃり出た結果がこれだよ。もっと早く助けに動いていればあるいは……とも思わなくはないが結果はこれなので今更感がでかい。

 

死んでしまった影響か妙に冷静に思考を巡らすことができている。思い出していると、なんというか、深い虚脱感と喪失感と、罪悪感がこみ上げてきた。

 

あの娘は死んだ。それは確実だ。なにせ最期に見たときには首がありえない方向に曲がってしまっていたのだから。

はは、笑えねぇ。本気で笑えねぇ。

 

何やってんだよ、いきなり主人公ばりに覚醒して華麗に助けられるとでも思ったのか?それともあの娘にフラグでも建てたかったか?

……いや、違う。きっと、いや、確実に俺はあの時、『彼』のように、彼の従えた万夫不当の英雄たちのように誰かを助けられる存在になりたいと思ってしまった。否、できると誤認してしまっていた。

 

思い返すと吐き気すら催す。この歳にして遅めの厨二病発症である。

 

 

と、そういえばこの空間はなんなのかと思い始めた。かれこれ数時間ほどここを漂っている感覚だが一向に転生用の神様が現れる気配がない。多くの創作品の中ではとっくに現れて説明と、転生の提案をしてその際の特典を選んでいる最中とかじゃないのか?

……まさか、このまま。なんてことはないよな?

 

まさかまさかそんな無間地獄みたいなのは流石にないだろうと思いつつも、俺のラック値からしてあながちウソとも言い切れない。

 

………………。

 

………………………。

 

 

 

 

 

 

いやいやいやいや!!それはないでしょう!?さすがにそれは!

だって、あれよ?ここ、ほんと何もないのよ?ここに永遠に閉じ込められるとか嘘でしょ?いや、ない。人権団体が黙ってないもん。

 

ほら、あれだ!神様抜きのパターンでしょ?事故での憑依とか転生とか。あながち邪道とも言い切れないもんね。準王道だよね。

 

 

…。

 

……。

 

………。

 

 

嘘だと言ってくれぇぇぇぇぇぇぇ!!

 

体裁とかそんなの御構い無しで泣き叫ぶ。いや、さっきから感覚がないからちゃんと叫べてるのか、そもそも手とか足とか見えないのだけどね。

この分だと動くとか以前に身体がない可能性が高い。

 

完全に詰んだ。

 

終わりだ終わり。あー、もー、なんだよそれ。ほんとついてねぇーな俺。今なら某トゲトゲ頭の代名詞を叫んでもいい気がしなくもない。どうせ誰にも聞こえないし、そもそも誰かいるかも分からんし。

 

もうどうでも良くなってきたので俺は考えることをやめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

それからどれだけ経ったのだろう?ふと、思考を再開してみると、遠くに小さく点のようなものが見えていた。

 

豆粒サイズのそれはだんだんと大きくなっていて、ここに来て初めての変化に少し歓喜する。

しかし、もうやる気も何もなくなってしまったので冷めた目つきでその様子を静かに眺めていた。

 

 

ん?

 

よく見たらそれは穴のようで中は螺旋状に渦巻いて奥へ奥へと吸い込まれていた。

きっと、これをくぐれば何かしらの変化があるのだろう。しかし悲しいかなこの身?はすでに自由を無くしている。行きたくても動けないのだからしょうがない。

もどかしいながらその穴を見つめていた。

 

と、いきなり凄い力で穴へと引っ張られた。

なんだなんだ?!

いきなりのことで混乱するが、抗う術もないのでなされるがままに穴へと吸い込まれて行く。

先ほどまでの浮遊感はどこへやら、今はただダイソン真っ青なほどの吸引力で穴の奥へと引っ張られながら目まぐるしく移り変わる螺旋状の内部に軽い吐き気を覚えていた。

 

もうやめて、俺のライフはとっくにゼロよ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に意識を取り戻せば今度は一面が星空のようになっていた。真っ白空間からブラックホールを抜けた先は宇宙らしい。今後、使いそうにない知識を無駄に頭に詰め込む。

 

そして目の前に意識を向ければ巨大な球体?のようなものが宙に浮いていた。ガ◯ツ系じゃなくて、こう、縁がモヤモヤしているタイプの球体だ。

 

度重なる非日常と、さらにはこの身が既に死人であることから俺はもうどうにでもなれ、と半ば自暴自棄な思考をしていた。

 

しばらくして、目の前の球体から光で出来た触手のようなものが出てきた。ウネウネ動くそれは某巨大ダンゴムシから出てきた奴とよく似ていて、俺は漠然とこれから走馬灯でも見せられるのかと思っていた。

 

しかし、その予想は触手が俺に絡みつく感覚と共に消え去った。

 

 

【Q:あなたは世界を救いますか?】

 

▶︎はい

いいえ

 

 

いきなり脳内に選択肢が現れたからだ。一瞬、俺はこれからラブコメでも始まるのかと歓喜しそうになったがよくよく考えればこの場に金髪も桃髪もいないのでそれはないと理解した。

 

ならばなんだ?まさか本当に未知の異世界に飛ばされちゃうのか?

そうなったら絶対に死ねる自信がある。だって無理だもん。原作知識なしで、もし魔物とかいる世界だったら開始一分で死ぬ未来しか見えない。

 

 

【Q:それともこのままおとなしく輪廻の輪に還りますか?】

 

▶︎はい

いいえ

 

 

なかなか答えない俺に今度は設問を変えてきた。いや、輪廻の輪とかなんだよ。もし本当にそんなのがあるのなら、もしかして、そこに帰ると俺の意識とか記憶は無くなるんじゃなかろうか?

 

……怖い、怖すぎる。圧倒的にノーだろ。

 

 

【Q:それともこのままおとなしく輪廻の輪に還りますか?】

 

はい

▶︎いいえ

 

 

どうやら念じることで選択肢を選ぶらしい。ピッ、というこのファンタジー空間にあるまじき機械音と共に矢印がいいえの項目に移り変わった。

 

 

【Q:ならば世界を救いましょう。これはあなたにしかできないことです】

 

▶︎はい

いいえ

 

 

なんか軽い詐欺にあってるような気もするのだが。明らかに俺に世界救済をさせようとしている質問集に軽く恐怖を覚える。

なんか分からないけどこれは答えちゃいけない類の質問な気がする。

 

 

【Q:もし、救済できれば間違いなくあなたは『英雄』として崇められることでしょう。あなたが憧れる彼らのように】

 

 

っ!?……その文面に俺は少なからず揺らいだ。というか選択肢がない問いとかなんだよ。とうとう実力行使に出たのか?詐欺師め。

 

 

解答:_

 

 

しかし下の方をよく見ると解答という文字の横で横線が点滅していた。まさかの自由回答形式か。

 

 

【世界は未曾有の危機に瀕しています。人理の焼失に加え未知の敵性概念により、最後のマスターも死ぬ運命に陥っています】

 

 

とうとうQの文字すら消して熱心に勧誘を始める詐欺師。どんなにおだてられようが俺は面倒はごめ……ん?

 

人理?最後のマスター?

詐欺師の文面に既視感のありすぎる単語を見つけ俺は一転して彼?彼女?に問いかけてしまった。

 

まさか、貴様、いや、お前は……

 

 

【抑止力の一端、俗にアラヤと呼ばれる存在です。そしてあなたに救っていただく世界は人理焼失により2016年以降の歴史を閉ざされた世界。

抑止力も、アラヤも、人理焼失も、人類悪も、最後のマスターも、その結末の一つさえあなたならよくご存知のはずです】

 

 

俺が問いかけると途端に饒舌になったアラヤ(仮)が色々とまくし立ててきた。

どうやら俺は集合無意識から守護者とした絶賛スカウトされているらしい。俺は特に英雄でも正義の味方でもないんだがなぁ。

 

というか、俺の知識が漏れている。とくに教えた覚えはないが、たぶんに、こうして思考している状態でもダダ漏れになっている可能性が高い。

 

 

【恐れながらあなたが私の元に落ちてきた際に色々と調べさせていただきました。その上であなたにお願いしたいのです】

 

 

いや、読んでるだろ、思考。しかし奴の説明に自然と納得してしまう。どうやら俺のことは丸っと筒抜けらしい。

さて、ならどうするか?まず、こいつがアラヤというのが怪しすぎる気もする。そもそも原作の描写からしてエミヤが守護者となったシーンくらいしかないので全くもって未知の存在だ。

その特性についても世界の滅亡を食い止めるために誰かを後押ししたり守護者を派遣するくらいしか知らない。

 

それとも、こいつは……

 

 

【失礼ながら文面という形であなたと交渉しているのはそれがあなたに一番適していると判断したからです。なのであなたが知り得る知識と矛盾しているということはありません】

 

 

なんか言ってるけど胡散臭い。

が、このまま問答を続けても拉致があかないのは理解できた。こいつはどうしても俺を守護者に仕立て上げたいらしい。

 

 

【あなたは少し勘違いをしています。私たちが求めるのは救世主であって守護者ではありません。役目を無事に果たし終えれば無事に解放することをお約束いたします。受けていただけるのであれば、少々、霊基を弄らせてもらうことになりますが、決して貶める真似はいたしません。

『人間』として送り出すことを約束いたします】

 

 

立て続けに語られて、しかも、その内容がどうにも魅力的に見えて俺は激しく葛藤していた。

 

まず、こいつの提案に乗ったとして俺は守護者にはならないようだ。しかし少々霊基を弄ると言っていたのが気にはなる。人間として送り出すとはいうがそれは何をもって人間と定義しているのか?その辺についてイマイチ俺には型月知識が不足していた。

 

ならばもう一つ聞きたい。もし、断った際に俺には他にどんな選択肢があるのか?輪廻に還る以外の選択肢は……

 

 

【ありません。仮に運良く逃れたとしても、それは亡霊か亡者か、はたまた魔術師の奴隷のようなものかもしれませんよ?】

 

 

いや、わかった。つまりは俺には受ける以外の選択肢はないわけだな?

 

ならもう答えは決まっていた。

もとより死した身だ。これより他に行くところなどなく、ならばより“面白い”方を選ぶのは人間として当然のことだと思う。

 

 

【本当によろしいのですね?】

 

 

なぜか確認してくるアラヤ。地味にバッドエンドフラグっぽい聞き方ゆえに妙に不安を煽られる。

しかしいまさら引き下がることもできず、そもそも他に選択肢がないのだ。

 

 

【ならば改めて問いましょう。】

 

 

【Q:あなたは世界のため、人類のためにその命を、魂を、世界に託すことを誓いますか?】

 

▶︎はい

いいえ

 

 

……なんだか、質問が変わっている気がするがどちらも同義だろう。

俺は迷わず『はい』を選択した。

 

 

【ご契約ありがとうございます。つきましてはあなたの仕事内容をご提示させていただきます。並びに、あなたの霊基を改造させていただきます】

 

 

ついに改造と言ってしまったアラヤ。しかし突っ込むほど野暮でもないのでスルーしておく。

そして、しばらくして脳内に新たな情報が送られてきた。

 

 

【依頼内容】

 

・敵性概念の排除。

 

※注意事項

 

・本来の歴史には極力干渉しないようにする。

 

・改造により与えられるステータスは相対する敵性個体の脅威によって変動する。敵性個体の脅威度によりリミッター解除が行われる。常に確実に勝利できる数値になる。

なお、アラヤからの接続も上記の条件により制限がかけられる。

 

 

改めて依頼内容を見てみると物の見事にそのまんまだった。幾ら何でも適当過ぎるだろう。まさか本当に未知の敵と戦えというのだろうか?

それにステータスが総じて脅威度頼りなのは痛い。これではザイードにも殺されかねない。抑止が確実と判断した案件で普段はリミッターが掛けられているというと、一番近い存在としては死徒の姫か?

だがまあ、慣れないことには不便に変わりない。

 

まあ、元が一般ピーポーなので仕方ない。そう考えれば改善された方だろう。決して人王と殴り合いしたり、仏に立ち向かったり、無限の剣製ができる逸般人とは一緒にしないでほしい。前世の俺は正真正銘一般人だ。

 

地味に面倒なのが歴史に干渉しないことだが、それはたぶん、俺という個体が現れた時点で既に致命的な気がする。それとも、これ以上原作ブレイクするな、という神の啓示だろうか?

いずれにしろ、もとからぐだ男の邪魔をするつもりはないので安心して欲しい。俺はただ、依頼をひっそりと完遂すればいいだけだ。

 

そういえば、今更だが、やはり俺はカルデアに召喚されるのだろうか?

 

 

【はい。もっとも、かのマスターの運次第ですが】

 

 

なんだそれ。初手から運試しかよ。

 

 

【そも、あなたの存在はこの世界には本来いないはずのもの。加えてその魂も異質であり、これ以上の干渉は不可能です】

 

 

霊基は弄れるのに召喚を左右したりはできないのか。不便だな。まあ、ガチャ制度の説明としては妥当なところか。

もし干渉できるのなら十連引いてほぼタケシだった俺の前世のガチャ運とかありえないもんね。

 

 

【では早速、霊基の改竄に移りたいと思います】

 

 

軽い前世のクレームを思い浮かべたところで律儀にもアラヤがお伝えしてきた。……まあ、これも俺と対する時限定みたいだが。集合無意識というやつに人格とか無いに等しいし。

それと、改竄というと月の聖杯戦争を思い出すなぁ。一周目からキャス狐を選んでしまってかなり苦労した。エネミーに三発で殺される紙装甲はキツイ。

 

 

なんて、浮かれたことを考えていたら、次の瞬間には恐ろしいまでの虚脱感を感じた。何か、大事なものが引っこ抜かれたような感覚。

 

深い深い、絶望。……いや、それすらも抜き去られあれよあれよと言う間に俺を構成する要素が抜かれていく。

 

喜び、焦り、嘆き、恨み。あらゆる感情がまるで作業のように一定のリズムで消滅して行く。そのことに恐怖を感じるも、その恐怖すら次の瞬間には抜き取られた。

代わりに押し込まれて行くのは、全くの未知。感じたことのない第六感のようなものまで自然と己が身に埋め込まれて行く。

 

 

 

 

 

気付いた時には俺は一切の感情を無くしていた。

ただ、思うのは俺が俺ではなくなってしまったという厳然たる事実だけ。

この身はすでに■■ ■■ではなくなっていた。

……どうやら名前すら無くしたらしい。

 

元の俺ならここで『契約と違うぞ!』とクレームの一つでもくれてやるところだが、生憎と過去の俺が俺であった記憶は『記録』としてしか俺の中には残っていなかった。故に特に文句はない。

 

 

【改竄終了。これよりあなたは『抑止の体現者』。我らが一部です】

 

 

そのようだな。

 

脳内に流れるアラヤの言葉に応えつつ、新たな自分の身体について調べてみる。

 

 

【クラス】ガーディアン

【真名】抑止の体現者

【性別】男

【身長・体重】175cm・58kg

【属性】中立・中庸

【ステータス】筋力E 耐久E 敏捷E 魔力E 幸運E 宝具E

【クラス別スキル】

【固有スキル】

■■■■■■:?

 

異次元からの徒:C-

自身にかけられた状態異常を無効化する。

 

【宝具】

『■■■■』

ランク:? 種別:? レンジ:? 最大捕捉:?

 

 

ふむ、こんなものか。今、この場に脅威はなく、大元たるアラヤしか存在しないためにステータスは総じて最低ランク。加えてスキルや宝具も封印状態となっていた。

 

……しかし、クラス名・ガーディアンとは。守護者と相違ない気がする。真名に関しても仰々しく『抑止の体現者』となっているが、要は小間使い。ますます守護者との違いがわからない。

おそらくはアラヤからのバックアップの大小によるものだとは理解している。

 

まあ、ここで何を考えても今は仕方ない。敵の素性すら分からず何と戦うべきなのかもわからない。とにかく呼ばれるまではどうすることもーー

 

 

不意に、俺の頭上から光が注がれた。朝日、そう形容するのが適当な温かで穏やかで、眩い光。

 

【召喚要請を確認、ついで抑止の体現者・仮称ガーディアンとの因果律の接続を確認。

召喚者・藤丸立華、人類最後のマスターと断定。……要請を容認、これより召喚準備に入ります】

 

数秒遅れてアラヤからのメッセージが脳内に浮かび上がる。どうやらタイミング良くぐだ男が引いてくれたらしい。

……いや、あながちぐだ男とも断定できないな。もしかしたらぐだ子の方かもしれない。まあ、どちらであろうとも俺にはさしたる問題はない。

元の俺なら『ぐだ子なら絆レベル次第でアレな関係になれたりして!?』とぬか喜びをかましているところだが、今の俺は特に何も思わない。

何度も言うが“今の俺”は“かつての俺”とは別人だ。この身はアラヤの一部に過ぎず俺はただ役目をこなせばいい。

他の思考は要らず、信念も、感情さえ必要ではない。部品は部品らしく決められた作業をこなすのみだ。

 

【……の固定を完了、これより召喚に移行します】

 

そんなアラヤのメッセージが脳内に浮かぶと共に、浮遊感を得る。“身体”を確認するとうっすらと透けていて代わりに光の粒子が漏れ出ていた。どうやらもう召喚されるらしい。

 

浮遊感にそのまま身を任せじっとその時を待っていると、脳内にアラヤからの最後のメッセージが届いた。

 

【良き旅を。願わくば、貴方の行いが世界をより良い未来へと導かんことを】

 

驚くほど気持ちのこもっていない言葉だが、それも今となってはドウデモイイ。

ただ、俺は呼び出された後の状況を複数想定して、どんな不足な自体にも対応できるようにいくつかのプランを立てる。召喚が必ずしもカルデアの中で行われているとは限らないから。

……まあ、本音を言えばそんなことくらいアラヤも教えてくれればいいのに。と考えていたりするが、教えてくれないことに変わりはないので早々にその思考を隅に追いやり黙々と戦闘態勢を整える。

 

やがて俺の視界は光に包まれた。応じて俺もどんな状況にも応えられるように感覚を研ぎ澄ませる。

再度、自らのステータスを確認するとそこには新たな項目が増えていた。

 

 

『人理再録・虚空再現(アーカーシャ)』

ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:100

 

 

……宝具の限定的開帳(・・・・・)がされている。ということはつまりこの先に『敵』がいるということか。

予想が的中していると判断した俺は素早く動けるように気を張り詰める。同時に視界を覆っていた光も晴れていく。

 

徐々に明らかになっていく光景を元に、呼び出された場面を推定する。共に鼻腔をつく焦げ臭い匂いと赤みを帯び始めた視界に、俺はすぐに“いつどこで”呼び出されたか理解した。

 

特異点Fか……随分と序盤に呼ばれてしまったな。これは長い戦いになりそうだ。

 

どこか“気怠さ”のようなものを感じながらも俺はこれから出会うだろう、俺が唯一“憧れた”人物に少しばかりの“期待”を抱いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




とりあえずオリ主くんは一部の序盤から絡んで行きます。
ごちゃごちゃなオリ設定満載ですが、

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