IS~夢を失くした少年~   作:百鬼夜行

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忙しいけど、投稿はする
後、ルビ機能を初めて使いました
なんか、快感・・・・



第6話 警告する夢

 

「頭がいてぇ・・・・・・」

 

二時間目の授業が終わったころには一夏は頭を抱えていた。

ちなみにこの痛みは勉強がわからないから痛いのではない。

そのことを知った千冬からの制裁で出席簿アタックの餌食となり、物理的に痛いのだ。

更にそれにプラスして自分の横で腕を組んで目を閉じている幼馴染(一夏が一方的に思っているだけ)も頭痛の種だ。

紅樹は授業中も一夏か千冬の言葉にしか反応せず、しかも授業が暇という理由で教科書を開けさえしない。

そんな紅樹を目の前に一組の副担任である山田麻耶は涙目だった。

その上、何があったかはわからないがもう1人の幼馴染である箒が紅樹のことを睨んでいるのである。

もうこの状況に一夏は頭を抱えたくなった。

そんなことを真剣に考えていた一夏は横で騒いでいる金髪縦ロールの女性の呼びかけに気が付くことが出来なかった。

呼びかけにも答えず頭を抱えてうんうん唸る一夏を見た女性は米神に青筋をたて両手を思い切り振り上げると一夏の机に叩き付けた。

教室に響く快音で流石の一夏も目をあげて怒り心頭な女性に気が付いた。

その音を聞いた紅樹も一瞬だけ細目を開けて女性を確認した後、再び目を閉じた。

 

「このわたくしが話しかけているのに、うんうん唸って反応しないなんてどういうことですの!?」

 

「あぁ~、話しかけてたのか。悪かったな、少し考え事しててさ。えっと・・・・・・どちら様で?」

 

「わたくしの名前を知らない!?このイギリス国家代表候補生で入試主席のセシリア・オルコットをっ!?」

 

「あ、質問いいか?」

 

「えぇ、いいですわよ。下々の質問に答えるのも貴族の務めですから」

 

「代表候補生って何だ?」

 

一夏の質問を聞いた周りで聞き耳を立てていた女子生徒達が椅子から滑り落ちた。

国家代表候補生。

ISの国家代表を決めるために各国から選出されるエリート集団。

女性なら一度は目指したことがあるかもしれない地位の内の1つである。

一夏の姉、千冬はモンド・グロッソに出場する際に日本の国家代表として出場していた。

要するにその国家代表の弟である一夏がそんな常識的な知識を知らないとは思わなかったのである。

ちなみに自分の国の総理大臣の名前は知らなくても国家代表の名前をこたえられない人はいないくらい有名である。

セシリアはそんな一夏の質問に対して思考を停止する以外に対処法が思いつかなかった。

そしてそれと同時に男子操縦者という存在に失望した。

自分はこれまでそれこそ血のにじむような努力をしてこの地位まで辿り着いたというのに目の前の男はただ男であるがためにこの場にいるのだ。

その上横で眠っている男はわからないが、全くもって知識らしい知識を持っていないのだ。

この事実に失望以外のどんな感情を抱けばいいのだろうか?

目の前でなぜ他の人が滑り落ちているのかわからずにキョロキョロしている一夏がある男性と重なってイライラしたセシリアはそのまま八つ当たりのように一夏を糾弾した。

 

「し、信じられませんわ!極東の島国にはテレビというものが存在しないとでも言うのですか!?」

 

「いや、テレビぐらいあるよ。あんまり見ないだけで。で、代表候補生って何なんだ、紅樹?」

 

「・・・・国家代表の候補生。国語の勉強をやり直すことをお勧めする、織斑弟」

 

「そ、そんなに睨まなくてもいいじゃないかよ・・・・」

 

「そうですわ!わたくしはエリートなのですわ!本来ならわたくしと同じクラスであること自体が幸運であることを理解してほしいですわ!」

 

「・・・・・そうだな、ラッキーだな」

 

女尊男卑。

ISが社会に普及していくとともに広がっていった女性を中心とする考え方のことである。

全てのことで女性の立場が強くなり、男性を顎でこき使ったり、気に入らない男性に痴漢をされたとして無実の罪で牢獄にぶち込む。

そんな理不尽が今の世界では当たり前のこととして横行している。

更にその思考が最も強い女性が集まった女性権利団体という組織があり、その組織のひどさは最早語る気にもならない。

一夏は今までそこまでこの女尊男卑の被害を受けてこなかった。

生まれた時からのイケメンな顔、女性には優しくしなければならないという考え、そして何よりも後ろ盾として世界最強の姉がいるからだ。

だからこそ、一夏は目の前のセシリアの態度が気に入らなかった。

世間では本当はセシリアの態度が生温いと感じられるような女性がいることも知らないからこそ顔をしかめた。

勿論そんな一夏をとがめないようなセシリアではなかった。

だが、セシリアが何か言うよりも先に紅樹が割って入り一夏を思い切り殴って机へと沈めた。

 

「いってぇな!?急に何すんだよ、紅樹!」

 

「・・・お前は気が付いていないようだから言ってやる。お前は今千冬の名前に泥を塗ったも同然のことをした」

 

「・・・・どういうことだよ?」

 

「自分で考えろ・・・と言いたいところだが、どうせお前じゃ気が付かないだろうな。お前の姉はこの名前は好きではないようだが、世界最強ブリュンヒルデ様だぞ?それなのにお前はただの国家代表候補生程度と同じクラスになったから幸運と言った。・・・冗談でもそういうことを言うな」

 

「っ!?・・・・・・すまねぇ、紅樹」

 

「・・・・わかればいい」

 

それだけ言うと紅樹は自分の席へと戻り、先程と全く同じ体勢をとって目を瞑った。

だが、それをよしとしない人物が紅樹の机を思い切り叩くことで紅樹の目を再び開けさせた。

勿論その女性はセシリア・オルコットだ。

セシリアは先程の紅樹の説明に少し納得しかけた。

確かに自分は世界最強と比べればはるかに劣る存在だということは知っている。

だが、それを男などという矮小な存在に言われたことが彼女のプライドを酷く傷つけたのだ。

紅樹が薄く目を開いた先には両手を紅樹の机につき青筋を立てて紅樹を睨みつけるセシリアの姿があった。

だが、紅樹にとってそんなセシリアはどうでもいいという風にしか映らない。

故に紅樹は再び目を閉じようとした。

 

「ちょっと、あなた!先程から聞いていたらわたくしが弱いとでも仰いますの!?わたくしは入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですのよ!?」

 

「ん?それなら俺も倒したぞ?」

 

「は・・・・・・・・・?」

 

その場に何気ない爆弾を投じたのは先程紅樹に殴られて机に頭をぶつけたせいで額に小さめのたんこぶを作った一夏だった。

ちなみに一夏が教官を倒したのはあくまで結果の上でだ。

どこぞの牛のような乳を揺らすメガネの教官が武器すら出さずに一夏へ突っ込み、一夏がそれを躱したことで壁にぶち当たるという自爆で終わったのだから。

ちなみに本気で戦う気だった一夏はそんな教官の姿を見て呆気にとられ非常に物足りなさを感じたのだが・・・・こんな話はどうでもいい。

だが、勝ちは勝ちなのでたとえこの場にその教師がいても一夏の言葉を訂正することは出来ないだろう。

その時の自分を思い出して恥ずかしがる可能性はあるが・・・・。

そんなことを知らないセシリアは驚愕の余り開いた口が塞がらなかった。

確かに教官を倒したのは自分だけという話を聞かされていたのだ。

まぁ、確かにその人の言ったことは嘘ではないのだろう。

 

「そ、そんなはずが・・・・・」

 

「いや、まぁ、確かにあれは倒したのかなぁ~?でも一応判定上は俺の勝ちって出たしなぁ・・・・・ほんとあの人大丈夫なのかな?」

 

「何なんですかそのはっきりとしない言動はっ!勝ったなら勝ったとおっしゃいなさい!!!」

 

―キーンコーン、カーンコーン

 

「くっ・・・・・また来ますわ!逃げるんじゃありませんことよ!」

 

追求しようとしたセシリアをチャイムの音が止めた。

去り際に次の時間も来ると言い残したセシリアに対して一夏は来なくてもいいのにと心の中で愚痴をこぼした。

そんな一夏の気持ちを知る由もなくチャイムに少し遅れて千冬が教室に入って来た。

副担任である山田先生は教室の後ろの扉から入りパイプ椅子へ腰かけノートを開いている。

そのまま授業に入ろうとした千冬だったが、ふと連絡しなくてはいけないことがあったのを思い出した。

 

「あぁ、そう言えば再来週のクラス対抗戦に出る代表者を決めなけばならなかったな。自薦他薦は問わん。さっさと決めろ」

 

「織斑君に一票!」

 

「私も同じく織斑君に清き一票を!」

 

「ふむ・・・・では織斑一夏が他薦だな。で、他にはいないのか?」

 

「ちょっ、ちょっと待って下さい!」

 

「ちなみに推薦されたものに拒否権はない」

 

「くぅっ・・・・・・・じゃあ、俺は紅樹を推薦します!」

 

「・・・・・・如月くんはちょっとねぇ?」

 

「・・・・・うん、なんだか怖いしね」

 

「ちょっと言い過ぎだr「納得がいきませんわ!」・・・・はぁ」

 

苦し紛れで一夏が逃げ道として紅樹を推薦したが、周りからの評価は酷いものだった。

紅樹は他の人と喋ろうとしない上に、一夏に対しても暴力を遠慮なくふるう。

そこだけを見た女子が紅樹を恐れても不思議はない。

だが、そんな評価が一夏は許せなかった。

自分が推薦したことも忘れて紅樹の援護にまわろうとした一夏の言葉を止めたのは肩を怒らせて立ち上がったセシリアだった。

一夏は最早飽き飽きしながら一応形だけセシリアの方を向いた。

 

「そのような選出を認めるわけにはいきませんわ!大体クラス代表が男になるなどあっていいことではありませんわ!わたくしにそのような屈辱を1年間も味わえとおっしゃるのですか!?実力で言えばわたくしがクラス代表になることは必然ですわ!それをただ珍しいという理由で極東の猿にやらせる何て愚の骨頂ですわ!大体このような後進的な島国で暮らさなければならないこと自体が私にとって屈辱で・・・・・」

 

「ならとっとと自分の国に帰れよ。そもそもイギリスだって大したお国自慢無いじゃないか」

 

「・・・・あなたわたくしの国を馬鹿にしてますの?」

 

「ふんっ、どっちが先に馬鹿にしたかなんてまるわかりだけどな!」

 

「・・・・・ですわ。決闘ですわ!!!」

 

「あぁ、やってやんよ!話し合うよりわかりやすい!」

 

段々と一夏とセシリアの間の空気が険悪なものとなって来た。

セシリアと一夏の間の女子達は段々と悪くなっていく空気に耐えられず顔を行ったり来たりさせている。

千冬はそんな空気を全く気にする気配もなく放置している。

山田先生はこの空気に耐えられずオロオロと一部の生徒と同じ行動をとっている。

紅樹は相も変わらず目をつぶって我関せずを貫き通している。

空気が最悪なことになりそうになったその時、パァンっという机を出席簿で叩く音が教室内に響いた。

その音で睨み合っていた2人が驚いてお互いから目を離したことにより空気が元に戻った。

 

「止めろ、お前等。それでは一週間後の月曜日の放課後に第3アリーナにおいて織斑、オルコット、如月の3名でISを使って試合をしてもらう。各々準備しておけ・・・・・いいな?」

 

「ふっ・・・・勿論ですわ!」

 

「あぁ、こっちも了解だ。ところでハンデはどのくらいいる?」

 

「あら、戦う前からハンデのお願いですの?いいですわよ?さて、どのくらいのハンデをお付けすればよろしいでしょうか?」

 

「いや、俺のハンデをどのくらいにすればいいかなんだけど・・・・」

 

一夏の疑問に対して返ってきたのはクラスの女子の大部分からの嘲笑だった。

先程も言った通り社会は既に女尊男卑の考えが蔓延っている。

その中で女性の専門分野であるIS戦闘で代表候補生相手に男性の方がハンデをつけるというのである。

これを聞いて笑わない女性の方が今では少数派なのだろう。

一夏は何故自分が笑われているのかわからず、千冬はそんなクラス全体を見て呆れたようにため息をついた。

 

「織斑君、君それ本気で言ってるの?」

 

「男が女よりも強かったのは大昔の話だよ?」

 

「確かに織斑君も如月君もISが使えるかもしれないけどそれは無理があるよ」

 

「ふぅ・・・・、なら試してみるか?女性より男性が強いなどという言葉がどこまで保てるかを?丁度いい機会だ。お前等にはその天狗の鼻を折ってもらわなければならんからな。・・・・如月、見せて()れ。」

 

「・・・・了解」

 

千冬の命令により今まで黙って目をつぶっていた紅樹から濃厚な殺気が噴き出した。

先程まで笑っていた女子生徒達は1人残らずその殺気に怯え顔が蒼白となり震え始めた。

セシリアや一夏、箒でさえ紅樹の殺気の中で動くことが出来ず冷や汗を垂らして固まった。

この殺気の中で山田先生ともう1人裾の長い制服を着た女子生徒だけが特に問題なさそうな顔をしている。

そのまま10秒ほど殺気を出し続けた紅樹が突然殺気を収めた。

その途端固まっていた生徒達が動き出し、荒い呼吸をし始めた。

ちなみにこの間、紅樹は少しも動いていない。

椅子に座って腕を組み、目を瞑ったまま教室内にいた30人程度の人間の動きを止めさせたのだ。

 

「わかったか?この程度の殺気の中で動けないお前達が男のことをあざ笑うんじゃない。それと如月、お前には私からハンデをつけさせてもらう。あぁ、安心しろ。そんなに難しいものではない。・・・・絶対にやり過ぎるなよ?」

 

「・・・・・了解した」

 

「そうか。・・・・・すまなかったな。お前はこの後の授業を休んでいいぞ。外でも散歩してこい。だが、放課後にはこの教室に戻っておいてくれ。伝えたいことがある」

 

「今伝えられないのか?」

 

「あぁ、今は駄目だ。放課後に連絡する」

 

「了解」

 

紅樹はそのまま千冬と事務的な会話をした後、教室を出て行った。

紅樹が教室を出た瞬間、緊張していた教室内の空気が弛緩し、何人かの女子生徒が机に突っ伏した。

千冬はそれを見ながら教科書とチョークを持ち、黒板に文字を書き始めた。

 

「それでは授業を始める。・・・・・さっさと起きんか!」

 

その後の千冬の授業では出席簿で頭を叩く音が何度も響き渡ることになるのだが・・・・・それはまた別のお話。

 

 





次回も1週間後を予定

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