だいぶ前に投稿したのでちゃんと投稿できてるか不安(5/15に投稿)
きっと大丈夫さ(確認できないので諦め)
感想への返信が送れます(おそらく)
「ここは・・・・・・・」
紅樹が目を覚ました場所はとても広い病室のような雰囲気のある部屋だった。
だが、病室でないことはぼぅっとする頭でもすぐに理解できた。
自分の体に大量に貼り付けられた電極と、そのコードが繋がるごつい機械がそれを端的に示している。
紅樹がそこまで確認している時に、紅樹の側に立っていた白衣の男性が紅樹の目が開いていることに気が付いた。
「おやおや、目が覚めてしまったか。おい、No.74の麻酔が足らないぞ!下手に意識があると厄介だろうが!」
「いいさ、そのままやりな。私が許可するよ」
「しゅ、主任!?し、しかし「私が許可するって言ったんだ、黙ってやりな」・・・・・了解しました」
「よう、お前さん。気分はどうだい?・・・・まぁ、いいわけが無いか」
「お前は・・・・・」
「おや、声が出せるのかい?驚きだね。一応あんたには麻酔をかけてある筈なんだけどねぇ?」
再び麻酔をかけようとする男性を止めたのは先程まで紅樹が戦っていた女性だった。
女性は紅樹が喋れることに少し驚いたが、先程までの戦いで驚く点が多すぎたためそれほど驚きはしなかった。
そのまま女性は紅樹の横たわらされているベッドの横に丸椅子を引き寄せて座った。
「・・・・・織斑弟をどうした」
「おや、お前さんから話しかけてくれるのは初めてじゃないかい?これは嬉しいねぇ。・・・あの坊やならこの施設内にはいないよ。既に他の場所に運んであって今は取引のために使われている頃だろうさ」
「・・・・・・・・」
「聞きたいことを聞いちまったら今度はだんまりかい。お前さん、本当にいい性格してるねぇ。・・・だけど丁度いいさ。そのまま黙って聞いておくれよ。これはこれからお前さんが受ける実験の話なんだからね」
紅樹は女性の話を聞いて一夏の救出を断念した。
自分は麻酔をかけられて全く知らない場所へ連れてこられ、動くことも出来ない状態。
更に、目的の一夏もどこにいるのかわからず交渉の材料にされているという。
はっきり言ってどうにかできる状態ではない。
そんな紅樹を見ながら女性が勝手に話し始めた。
「これからお前さんに施す、というより試す実験は“berserker計画”と言ってね。人工的に狂人を作り出す実験の改良版なのさ。まぁ、なぜ狂人を作り出すのかっていう疑問に答えるとだね。弾を恐れない、刃を恐れない、死を恐れない戦士が戦争に参加したら、怖いと思わないかい?つまりはそういうことなのさ。人工的に人の精神を弄り回して崩壊させ、それから洗脳波によって洗脳をかけることで戦うことしか考えられない戦士を作って戦争に投入する。その計画の礎にお前さんにはなって貰う。・・・ちょっと、“ブレイカー011”を持ってきておくれ」
「えっ・・・?自分ですか?」
「あぁ、そうだよ。分かったらさっさと持ってきな!」
「は、はい!」
女性が側にいた研究員を使って何か液体の入った注射器を持ってこさせた。
その液体はドロリとした深みのあるエメラルドグリーンで、見るからに毒々しい見た目をしていた。
女性はそれを愛おしむかのように眺めながら紅樹にもよく見えるようにちらつかせた。
「コレが今からお前さんに投与する“ブレイカー011”だ。まぁ、簡単に言うと精神安定剤の反対みたいなものさ。こいつを投与された人間は体に激痛が走り、脳波が滅茶苦茶になる。そしてその痛みが最高潮に達するとき、投与された人間の精神は・・・・ボンッてわけさ。これは本来半分に希釈して使うもんなんだが・・・・お前さんには特別に3倍濃度でぶち込んであげるよ」
「ちょっ、主任!そんなことしたらそいつ簡単に死んじまいますよ!?そうでなくてもその薬はまだ未完成で生存確率が3割切ってるんですから!」
「うるさいねぇ?私がやれと言ったらやるんだよ!いいね!」
「・・・・・・了解しました。・・・・・ちっ、今回の実験は失敗か」
女性のとんでも発言に機械を弄っていた研究員が止めに入ってきた。
かと言って、彼が紅樹のことを心配したとかいう訳ではない。
ただ、折角の実験体に簡単に死んで欲しくなかったのだ。
踵を返して自分の持ち場に戻る男性の後姿はどうしようもなく勿体ないというオーラが溢れていた。
「・・・私は人が狂ったような声をあげて叫ぶのを見るのが大好きでねぇ。この薬を投与するときは絶対に側で見てることにしているのさ。・・・お前さんもいい悲鳴を聞かせておくれよ?」
「主任!こっちの準備終わりました!」
「こっちもです。実験、いつでも開始できます」
「よしっ!それじゃあ、始めてみようかねぇ」
そう言うと女性は機械のところまで下がっていった。
それと同時に紅樹の四肢を拘束するように機械製のベルトが装着され、紅樹をベッドへと縛り付けた。
そんな彼に先程女性が楽しそうに説明していた“ブレイカー011”の入った注射器を付けたアームが伸びて来て紅樹の右腕に針を突き刺した。
「~~~っっ!!??」
その瞬間、とてつもない激痛が紅樹を襲った。
体中の筋肉が断裂するような痛みが走り続け、頭がガンガンと鐘を打ち鳴らすように痛む。
それでも、紅樹は声を洩らさなかった。
それと同時に、自分の体に投与された薬に抗い始めた。
だが、その抵抗は長くは続かなかった。
すぐに体の痛みがさっきの倍以上に膨れ上がり、最早体をバラバラに引き裂かれるかのような感覚が走り始めた。
紅樹の黒かった髪があまりの痛みにより色素が抜けて白へと変わった。
それをあざ笑うかのように痛みが更に上昇した。
それでも紅樹は叫び声を洩らそうとはしなかった。
いくら痛くても、酸素を求めて口をパクパクさせても、叫び声だけは漏らすことはなかった。
そんな痛みが最高潮に達しそうになったその時、籠の中に纏められて部屋の隅に置かれていた紅樹の荷物の中から何かが紅樹めがけて飛び出した。
それはかつて束から紅樹が譲り受け、活動を停止させてあったはずのコアナンバー002のISコアだった。
そのコアが紅樹の胸に突き刺さった瞬間、紅樹の意識は完璧に途絶えた。
◇
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・くっ、紅樹、頼むから無事ていてくれ!」
千冬はドイツのとある森の上を示された座標に向けてISを纏い飛翔していた。
本来彼女はモンド・グロッソの決勝戦に出ているはずなのだが、決勝戦直前に日本政府から弟とその友人が別々に誘拐されたという通達が入ったのだ。
その通達を聞いた千冬は止めようとする政府関係者を蹴散らして試合を棄権し、協力を申し出てきたドイツ軍の情報を元にすぐさま一夏の元へ向かった。
これは弟を守るという自分の夢を果たすためという理由と、紅樹への信頼からの行為だった。
千冬は今まで紅樹に鍛錬を受けさせていた。
何せ初めて自分が本気を出しても壊れない相手を見つけたのだ。
つい鍛錬に力が入り、大人でも見るだけで卒倒しそうなメニューをやらせたこともあった。
だが、紅樹はそれをことごとく消化していった。
だからこそ、千冬は誰よりも紅樹の実力を知っていると自負していた。
それが今回の判断ミスにつながった。
ドイツ軍の提示してくれた情報によって一夏を助け出した千冬は一夏から紅樹の危機を知らされた。
何を馬鹿なと一笑して終わらせようとした千冬だったが、一夏の必死の説明と泣きそうな表情にすぐさま紅樹の元へと向かい始めたのだ。
一夏は監禁されていた倉庫の中で、その場にいた誘拐犯から自分を使って紅樹を誘拐したことを聞かされていた。
丁度その場に一夏を人質として紅樹を降伏させた男性がいたことにより説明は忠実に目の前で話された。
一夏は聞かされた事実に絶望しかけたが、紅樹の強さを知っていたため紅樹の無事を確信していた。
一夏が絶望しないのを見てイライラした男が漏らした人体実験という言葉を聞くまでは。
だが、一夏がその意味を男性に問い詰める前に軍と修羅と化した千冬が突入してきて一夏を救出してしまった。
ドイツ軍は一夏という織斑千冬の弟を救出できたことで気が緩み捜索を解こうとしていた。
だからこそ、一夏は自分の姉に懇願したのだ。
自分の親友を救ってくれ、と。
「ここかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ようやくたどり着いた廃工場のような場所の壁をISで無理矢理突き破った千冬は思わずその場で停止してしまった。
目の前には外見からは想像できないような高性能の機器を備えた研究室が広がっていたが、千冬が停止した理由はそこではなく一面に広がる虐殺の跡だ。
その研究室は恐らくベッドが真ん中に設置されていてその周りに機器を置く形になっていたのだろう。
だが、その面影はよく探さないとわからないレベルでバラバラにされていた。
最高級だったであろう機器はボコボコにへこみ火花を散らし、脚をむしり取られて大穴のあいたベッドが側に転がっている。
そしてその場にはおびただしい血痕と、人だったであろうと思われる肉塊が落ちていた。
千冬はその光景に思わず胃の中のものを全て吐き出しそうになったが、ギリギリで押しとどめすぐさま紅樹の捜索を再開した。
だが、紅樹はどこにも見つからなかった。
後のドイツ軍の調べによりわかったことは確かにここに紅樹が連れ込まれたことと、何かしらの実験を行われたこと。
後、紅樹の血痕がベッドにこびりついていたことだけだった。
結局如月紅樹という人間は見つかることなくこの事件は幕を引くことになった。
◇
「ここは・・・・・・、このセリフも2回目か」
紅樹が目を覚ましたのはまたどこかの研究室のようだが、前回の研究室から感じられた清潔感が感じられない。
自分に取り付けられているのが医療器具なのは見ればわかるが、とりあえず点滴や電極などを全て外した。
それから体のあちこちを触診したり、動かしたりしてみて異変が無いかを確認した。
体中に見覚えのない縫合痕や銃痕、更に胸に丸くえぐれたような跡があるが、それも塞がっているようで今は痛みもない。
確認を終えて問題なく動けることを確認した紅樹の耳に聞きなれたドドドという走る音が聞こえ、部屋の扉を吹き飛ばしながら束が飛び込んできた。
その顔は焦りと恐怖に侵されたような表情で、目の下の隈を見る限り何日も寝ていないのだろうということが推測できた。
束は紅樹が起き上がっているのを見るとブワッと涙を浮かびあがらせながら飛びついた。
「ごめんね、こーくん!本当にごめんね!束さんが・・・・束さんがISなんて物を作ったばっかりにこーくんがこんな目にあうなんて!」
「とりあえず落ち着いて状況を説明して欲しいんだが?束」
「だけど!だけどぉっ!!!」
「・・・・わかった。分かったから今はとりあえず泣け。泣いてスッキリしたら説明してもらうからな?」
「うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
紅樹に優しく背中を叩かれ、抱きしめられた束は今まで張りつめていた糸が切れたかのように泣き出した。
そんな束を紅樹はあくまで優しく抱きしめ、相変わらずメカニックなうさ耳のついた頭を撫でてやった。
それにより束の泣く勢いが更に強くなったが、10分程で泣き止んだ。
まだ涙目になりながらも束は一度紅樹から離れ、紅樹が座っているベッドの側に立って紅樹の体調を検査した。
特に検査結果に異常な数値が見られないことを確認した束はどこからともなく椅子を取り出し腰掛けた。
「それで・・・・こーくんはまず何から聞きたいかな?」
「そうだな・・・あの事件で、織斑弟が無事だったかどうかと、千冬がどうなったかを教えろ」
「いっくんは無事にたいした怪我もなく救出されたよ。ちーちゃんは決勝戦を急に棄権したことで国家代表を引退、その後契約で1年ほどドイツ軍に入るらしくて今はドイツ軍のIS部隊の教官をやってるよ」
「ほう・・・・?で、あの事件から一体何日経った?」
「日じゃないよ。こーくんが誘拐されてから今日までで1か月半。その間ずっとこーくんは眠り続けてたよ」
「1ヶ月半だと・・・?それにしては俺の体に不具合が無さ過ぎる。なぜ俺は動けるんだ?普通ならリハビリを行わないと動けないレベルだろうに」
「その説明の前に・・・・・これを見て」
そう言いながら束は紅樹の前に空中ディスプレイを投影し、そこにデータを映し始めた。
そのデータの切り替わる速度は人間の動体視力では黙視できないスピードだったが、紅樹はそれが頭の中に全て流れ込んでくるのを感じた。
そしてそのデータを頭の中で処理して、ようやく自分の現状が理解できた。
「・・・・・・束、こんなことがあり得るのか?」
「・・・実際に目の前で起こってるからあり得るんだと思う。だけど、まさかこんなことになるなんて束さんも思ってなかったよ」
紅樹の体は今、半分ISのコアと融合したような形になっていた。
紅樹が持っていたコアナンバー002は紅樹の体の半分を代償に“ブレイカー011”で破壊されそうだった紅樹の精神を繋ぎ止めていた。
その代わり、紅樹はISを展開しなくてもハイパーセンサーを使って360度が見渡せたり、体の一部が欠損しても量子化して元に戻すことが出来たりと、最早人間とは言えない体になっていた。
そもそもどうしてコアナンバー002がそのような行為をとったかがわからない。
ISコアには人格がある、このことはISに関わったことがある人間なら誰もが知っていることだ。
これは束がISが自己進化できるようにといって自ら開発し取り入れたものなので、目の前で見ていた紅樹もよく知っている。
だからこそ、紅樹をこのような体にしたのはコアナンバー002の人格なのだろうと予測できる。
「だが・・・俺はISを起動できない筈じゃなかったのか?」
「うん、確かに最初に調べた時は反応しなかった。だけど、今はちゃんと適性があるんだよ。しかもちーちゃんと同じSランクの適性が」
「動かせなかった筈が動かすのに最も適した体になっているだと?・・・・何故かはわかるか?」
「ううん、こればっかりは束さんもお手上げだよ。ナノ単位でこーくんを分解してもいいっていうならわかるかもしれないけど」
「いいぞ?分解しても」
「えっ・・・・・?」
「お前の夢へこれでまた一歩前進できるかもしれないんだ。俺を分解してそれが成し遂げられるなら、やれ。お前が拾ったこの命だ。お前のために使えるなら本望d「こーくん、ちょっと黙ろうか?」・・・・束?」
紅樹が束の声のトーンの変化に気が付き束の方を見ると、そこには珍しく目を吊り上げたような束が座っていた。
紅樹には束が怒っているのはわかったが、なぜ怒っているのか全くわからなかった。
束はそのまま紅樹の肩を異常な握力で握りしめると、顔がくっ付きそうになるほどまでに近づけさせた。
「私はそんな理由でこーくんを助けたわけじゃない。束さんはこーくんが自分の命を大事にしない理由も知ってる。だけど、もう二度と束さんの前でそんなこと言わないで」
「・・・・・わかった」
「ありがと、こーくん。・・・・今日はもう疲れたでしょ?一応病み上がりなんだから今日は寝て明日起きたら説明の続きをするよ!」
「じゃあ、そうするか。おやすみ、束」
「うん!おやすみだよ、こーくん!」
楽しそうに立ち去る束を見送った後、紅樹は再び眠りについた。
これから自分がどのように過ごせばいいのかさえ分からないまま、今はとりあえず束の言葉を信じることが紅樹に出来る唯一のことだった。
次回も1週間後に投稿予定