IS~夢を失くした少年~   作:百鬼夜行

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忙しいったら忙しい!
だけどなんか楽しくなってきたかも?
ウへへ・・・・



第11話 噂になる夢

紅樹が懲罰房に入れられてから10日が経った。

千冬は紅樹をここに入れてから初めてこの懲罰房へとやってきた。

これは千冬の職務怠慢という訳ではなく、ただ担任としての仕事の多さが原因だった。

寮長を兼任している千冬の普段の暇な時間はあまりなく、来ようとしてもなかなか来ることが出来なかったのだ。

とにかく、懲罰房へとたどり着いた千冬はその重々しい扉を開けて中へと入った。

 

「反省は出来たか、如月?」

 

「・・・・・反省などする気は元々ない」

 

「だろうな。まぁ、ここでお前の監禁期間を増やすことは可能だが、お前をいくらここに入れていても無駄なのは私がよく知っている」

 

「なら、どうするつもりだ?」

 

「どうする気もない。このまま普通に出すさ。その代り反省期間として2か月ほど私の仕事の手伝いをしてもらう。本来なら教師全員にするはずなんだがお前は私の言うこと以外に耳を傾けないだろうからな」

 

「了解。・・・・・まさか書類仕事までやらせる気か?」

 

「いや、そこらへんは機密情報もあるから私がやる。お前には主に力仕事などをやってもらう。授業後のISの片づけが主な作業になるだろうな。・・・・まぁ、それは出てから話そう。とりあえず、出ろ」

 

そう言って外に出た千冬を追って紅樹も懲罰房の外へと出た。

肩や腰を回してストレッチをしている紅樹を横目に懲罰房の扉を施錠し終えた千冬はそのまま紅樹を伴って歩き始めた。

歩きながら千冬は紅樹にこの10日間にあった出来事を必要そうなものを抜粋して伝えた。

紅樹が専用機持ちに勝ったことで女尊男卑な生徒達があの試合は紅樹のインチキによる勝利だったという噂を流していること。

一夏がクラス代表となって今度行われるクラス代表戦のために練習をしていること。

そして2組に凰鈴音が遅れて入学してきて、クラス代表になったということ。

紅樹は鈴が入学してきたという情報にだけは興味を示したが、それ以外はどうでもよさそうに聞いていた。

そんな話をしながら歩いているうちに2人は教室へとたどり着いた。

千冬は何の躊躇もなく扉を開けて中に入り、紅樹もまた何の感情も見せずに中に入って席に着いた。

クラスで談笑していた全員がその様子を見ながら呆けていたが、千冬が出席簿に手を伸ばした瞬間にすぐさま席に戻った。

その動きに対応できなかった一夏だけが出席簿の餌食となり、そのまま授業が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紅樹!久しぶりじゃない!元気にしてた?」

 

「凰か。久しいな」

 

「もう、私のことは親しみを込めて鈴って呼んでくれていいのに・・・」

 

「ハッ!」

 

「あんた今鼻で笑ったわねッ!今までもずっと私の名前呼んでくれなかった上に今度は鼻で笑ったわねぇッ!!!」

 

「落ち着け、鈴ッ!紅樹が人の名前を呼ばないのはいつものことだろッ!だから、とりあえず落ち着けって!」

 

「離しなさい、一夏!この急にいなくなって人を不安にさせた上に久しぶりに会った友人への態度がなってない野郎に世間の辛さっていうのを教えてやるんだからッ!離せぇッ!!!」

 

「ぐおぉぉぉッ!?ちょっ、強ッ!?セシリア、箒!見てないで手伝ってくれぇ!!!」

 

昼休みになり紅樹が懲罰房から出てきたという噂を聞いた鈴が1組へと突入してきて、そのまま紅樹と一夏を引っ張って食堂まで連れて行った。

それを慌てて追いかけた箒とセシリアは食堂の入り口付近で紅樹に殴りかかろうとしている鈴と、それを必死の思いで羽交い絞めにしている一夏、そしてそれを鼻で笑いながら見ている紅樹の図に唖然としてしまった。

とにかく、荒れ狂う鈴を抑え付けて宥めた後、全員で食券を買い席に座ることになった。

ちなみに一夏の両隣はずっと腕をつかんでいた鈴と紅樹の横に座るのを顔を真っ青にして断ったセシリアが座った。

箒も流石にあそこまで怯えている人間に無理をさせる気はないらしく大人しく鈴の横に座り紅樹とセシリアとの幅を広げてあげていた。

紅樹はどうでもよさそうに注文した日替わり定食(トンカツ定食)を机に置くとそのまま食べ始めている。

 

「にしても、あんた最後に見た時から全く変わってないわねぇ、紅樹」

 

「・・・・どういう意味だ?」

 

「へ・・・?いや、そのままの意味よ?あの時のまんま、ほんとに腹立たしい性格のまんまだわ」

 

「あぁ、それは激しく同意するぞ、鈴。ということで、俺の名前をちゃんと呼んでくれよ、紅樹!」

 

「ごちそうさまでした」

 

「待ってッ!悪かった、俺が悪かったから無視して立ち上がろうとするのやめてくれッ!それにトンカツもまだ半分くらい残ってるじゃないか!食べ物を残すのはよくないんだぞ!」

 

「本当にこの光景見ると昔に戻ったような気分になるわね。そうだッ!今度弾も呼んでまた4人で遊びましょうよ!どうせ紅樹は殆ど見てるだけだけどね!」

 

「そうだな!そういえば弾に紅樹が生きていたことを伝えるの忘れてたな。今度伝えておかないとな」

 

「一夏・・・、弾とは誰のことだ?少なくとも私は聞いたことがない名前だが?」

 

「あぁ、弾は中学入ってから仲良くなった奴でさ。五反田弾っていうんだけど、紅樹に苗字を呼ばれるくらいには興味を持たれてるやつなんだ。どんな理由で苗字を呼ばれてるかだけは教えてくれなかったけどな」

 

「五反田か、懐かしいな」

 

のんびりと昼食を食べながら鈴と一夏は中学のことを思い出していた。

中学に入ってすぐに弾と友達になってからは大抵こうして3人で無理矢理紅樹を捕まえて昼食を食べていたのだ。

紅樹も久しく会っていなかった弾の話を聞いて少々思うところがあるのか残っていたトンカツを食べながらしみじみとしている。

しかしこの状態を良しとしないのが、セシリアと箒だった。

箒は小学校4年の時点で転校したためにこのノリについていけず、セシリアは全くわからないのと共に紅樹が話すたびにビクビクしているので話にすらならない。

だが、この2人にも運が回ってきた。紅樹が定食を食べ終わって席を立ったのだ。

一夏は紅樹を引き留めようとしたが、紅樹はその静止を聞かずに食堂を出て行ってしまった。

一夏は残念そうにその後姿を見ていたが、セシリアが机に伏せているのに気が付いて慌てた。

 

「おっ、おい、大丈夫か?体調悪いんなら保健室に行った方がいいぞ、セシリア?」

 

「い、いえ、大丈夫ですわ。ちょっと気が緩んだだけですので」

 

「気が緩むって・・・・なんでだ?」

 

「いや、少しは考えなさいよ、一夏。セシリアは紅樹に殺されかけたんでしょ?しかも紅樹が懲罰房から出てきたのは今日の朝よ?久しぶりに自分のことを殺そうとした人をこんなに近くで見ることになるなんてかなり精神的に来るわよ」

 

「あっ・・・・、すまん、セシリア。俺、全然考えてなかった」

 

「いえ、一夏さんが謝ることはありませんわ。私が勝手についてきただけですもの。それに先ほどまでの如月さんを見ていてわかりました。あの人にとって私はそこらに転がっている石のようなものなのですね。そんな存在に殺気を放つことなどないとわかりましたからもう大丈夫ですわ。・・・釈然としないものはありますが」

 

「そうか・・・・。というか、鈴はよく紅樹のこと知ってるな。こっちに来てから調べたのか?」

 

「えぇ、勿論よ。こっちに来て紅樹に会おうとしたら懲罰房に入れられてるっていうから、いろんな人に話を聞いて調べてみたのよ。そのせいで色々と聞きたくない話も聞いちゃったけどね」

 

「聞きたくない話?」

 

「もしかして、わたくしと如月さんの決闘のことについてですか?」

 

「えぇ、あんたは知ってるの?」

 

「はい、いろんな方がわたくしのところに来ては話していって下さったので・・・」

 

「おい、紅樹とセシリアの決闘がどうしたんだよ?」

 

「あれ、あんたにはこの噂入ってこなかった訳?まぁ、確かにこんな噂を一夏にしたらした人は嫌われるかもしれないからしないのかな・・・?」

 

「いい加減教えてくれよ、鈴。噂って何のことだよ?」

 

「そうだな。私も気になっている。教えてはくれないか?」

 

「はぁ?あんたも知らない訳?しょうがないわね。実は・・・・」

 

鈴が箒と一夏に語ったのは今朝千冬が紅樹に話したことであった。

その内容に一夏は思わず顔をしかめ、箒も機嫌が悪そうな顔になっていった。

更に鈴の話を裏付けるようにセシリアも自分の周りに集まってきた人の話をしだした。

基本的に女尊男卑に染まりきったその人達はセシリアに何かを言うこともさせずに紅樹の悪口を言いながらセシリアのことを慰めていった。

弁解も擁護もさせてもらえずただ慰めて去っていくその女性たちを見てセシリアは今の風潮の恐ろしさを思い知った。

そしてその女性たちと自分が同じ行動をとっていたということを深く受け止め恥じることが出来た。

そういう意味ではセシリアは幸運だったのかもしれない。

自分の恥を知ったセシリアは、その日のうちに1組の全員に謝罪を行い千冬に対しては土下座までして見せた。

その上で一夏との決闘を行い、慢心なく一夏を落としたのはいいのだが自分が落とされてしまったちょろいセシリアである。

全ての話を聞き終わった一夏は思わず手にしていた茶碗を荒々しくトレーにおいて立ち上がりかけた。

しかし、それは鈴が一夏の腕を掴んだせいで未遂に終わった。

 

「何処に行こうとしてるの、一夏?」

 

「今すぐあの試合をインチキだって言ってる奴等を問いただす。確かに紅樹はあの試合でちょっとやり過ぎたけどあの試合をインチキなんて言わせておけるかッ!」

 

「それを紅樹のためにやろうとしているんならやめておきなさい。それにそういう思考に染まりきってる奴等に男であるあんたが何言ったって無駄よ」

 

「紅樹は確かにやり過ぎたけどそれでもちゃんと正々堂々と戦ったんだ!それをずるをして勝ったなんて言われてるなんて・・・・そんなの俺は認められねぇ!」

 

「いくら認められなくてもこうやって広まっちゃってる時点でそれが真実のように聞こえるのよ。それに試合が終わってからすぐに懲罰房に入れられたのも噂が広まるのを助長してるわね。懲罰房に入れられる理由がわからない以上勝手に想像されてそれが広まったんでしょうね。本当はやり過ぎで入れられたのに、ずるをして勝ったから入れられた・・・みたいにね」

 

「おそらく鈴さんの言う通りですわ。先ほど言った人達がそのようなことを言っていた気がしますので」

 

「じゃあ、どうすればいいんだよ!このままじゃ紅樹は試合にずるして勝った奴って言われるじゃねぇか!」

 

「・・・男では駄目なら、女である私が言えばどうだ?不幸にも私の姉はあの篠ノ之束だ。いくら女尊男卑の輩でも無視することは出来まい」

 

「そうか!確かに箒が意見すれば「いいえ、やめておきなさい」・・・・何でだよ!鈴は紅樹が色々言われてるのに悔しくないのかよッ!?」

 

机に両手を叩きつけながら立ち上がり叫んだ一夏を、同じく立ち上がった鈴が無駄のない動きで平手打ちした。

食堂に響き渡る快音に周りの生徒が何事かと覗こうとしたが、鈴が怒りのこもった視線を向けたことによりすぐに目をそらした。

平手打ちされた頬を抑えてしばらく放心していた一夏だが、周囲の生徒が散った瞬間正気に戻り鈴を睨みつけた。

鈴は睨んでくる一夏を真っ向から睨み返しながらも一旦席に座った。

一夏も自分達がいる場所が一応食堂であることを思い出して席に着いたが、目だけはいまだに鈴を睨んでいた。

その様子を見た鈴はため息をつきながら説明を始めた。

 

「今回の件はかなり大規模で話が回ってるの。勿論、教師陣にも噂は入ってきてるでしょうね。ここまではわかる、一夏?」

 

「つまり何が言いたいんだよ」

 

「要するにね・・・・千冬さんの耳にもこの噂が入ってるのにもかかわらずあの人が止めてないっていうことよ」

 

「えっ・・・・・?」

 

「この件は千冬さんが黙認してるからこそこうやって学校中に広まっている。そうでもない限りこんな噂があの人のいる学園に広まるわけがないじゃない」

 

「ち、千冬姉が黙認ッ!?そんな・・・・何で・・・・」

 

「馬鹿な、あの人がこの噂を黙認しているだとッ!?」

 

「織斑先生が黙認・・・・道理で・・・・」

 

「あぁ、あの噂を聞かされ続けたあんたならわかるのね。まぁ、一夏も篠ノ之さんも噂を聞いたばかりだからわからないか・・・」

 

「いい加減説明してくれよ、鈴!一体どうなってんだよ!」

 

「一夏、あんた少しは考えなさいよ?要するに今回の件は紅樹に対する認識をずらすために必要な噂だったっていうことよ」

 

「認識をずらすため・・・?」

 

鈴が言った言葉を理解できなかった一夏は不審そうな表情でオウム返しする。

それに対してセシリアはやはりといった表情で頷き、箒はわからないという雰囲気ではあるが一言も聞き漏らさないように姿勢を整えた。

その様子を見ながら鈴は物わかりの悪い自分の想い人に向かって人差し指を突き付けながら話し始めた。

 

「今回の噂で一つだけ明らかに噂になりそうなことが広まってないのよ。今ある噂はそれをごまかすための隠れ蓑的な存在となってるって訳」

 

「その隠された出来事っていうのは一体・・・・」

 

「それは「そのことについてはわたくしが説明いたしますわ」・・・・まぁ、確かに本人からの方がいいか」

 

「セシリアもわかってるのかッ!?」

 

「えぇ、一応私も噂の中心人物ですので」

 

普段なら一夏との会話を打ち切られた場合、怒り狂う鈴も今回ばかりは身を引いた。

セシリアは鈴の様子を見て一礼をしてから、一夏へ向かい合った。

普段なら間違いなく顔を染めるような一面であるが、今回は話の内容が無いようなだけに真面目な顔だ。

聞く側の箒と一夏もその真面目な空気を感じ取り、つばを飲み込んだ。

 

「今回の噂を話に来ていただいた方々の話の中で全くと言っていいほど触れられることがなかった点がございました。それが、織村先生と戦ってまで如月さんが私を殺そうとしたということですわ」

 

「あっ・・・・・」

 

「話しかけてきた方々は全員が全員あの試合を見ていない、外部からの情報だけで判断を下した人達だけでした。ちなみに実際に試合を見ていた人達は噂を聞いて本当に不正があったかどうかを確かめに来る方ばかりでしたので、不正はなかったという旨を伝えてありますが・・・・あの人達はわたくしが殺されかけたことを他に話すことはないでしょう」

 

「それは・・・・何で・・・・」

 

「簡単な話ですわ。あの時の如月さんの姿が目から離れず非常に恐れているからですわ」

 

「紅樹を恐れる、か」

 

「えぇ、実際に聞きに来た殆どの方は肩が震えていらっしゃいました。聞く際もチラチラと如月さんの席を見ていましたし、真実を知った後は逃げるように立ち去っていきましたわ」

 

「ちなみにあたしもそういう人たちを見つけて何とか本当に何があったかを聞き出したのよ。女尊男卑の連中の話だけじゃ納得できなかったからね。それよりも、これでわかったでしょ?この噂を止めるのは紅樹にとってはいいことにならないってこと」

 

「あぁ・・・、わかったよ。・・・・・・悔しいな、鈴」

 

「・・・・・えぇ」

 

鈴が今回の件を必死になって探っていた理由は、昔自身がいじめられていた時にできた借りを返せるかもしれないという思いからだった。

しかし、調べ続けるうちに真相に気が付いてしまってからはこの噂を止めることが出来なくなった。

この噂の原因が紅樹の自業自得の動きだったという現実を知っても、鈴は自分の非力を恨んだ。

もっと自分の頭が良ければ今の噂を潰してからの対応を考えられたかもしれない。

そして何よりも、このことを知っているであろう紅樹が全く気にしていないのが悲しい。

このままでは中学と同じように紅樹は孤立していく。

それだけは阻止しなくてはという思いを込めて鈴は席を立った。

 

 

 




重大なお知らせです
と言ってもまぁ、ストック切れたんで更新速度が激落ちしますってだけなんですけどね!(オイ)
正直次の話をいつ書き終えることが出来るかわかりません
自分の時間が取れるようになって来たら書くつもりでいます!
待っていていただけると幸いです!

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