初めまして、お久しぶり百鬼夜行です。
GWが始まったという事で(世間ではすでに始まっている模様)予告していた新作を投稿します。
リアルが忙しい影響で更新が滞ることが恐らく多々あるでしょうが、なにとぞ優しい気持ちでお付き合いいただきたい。
読んでいてこの作品合わないなぁ~と思った方はどうぞプラウザバックを。
夢とは何か・・・・
睡眠中にあたかも現実に起こったかのように感じる一連の観念や心像のこと。獏なんかが食べる。
それは確かに夢だ。だが、この場合の夢とは将来実現させたいと思っていること。願望。願い。
人は誰しも小さいころに夢を見る。
女の子であれば・・・・お姫様になりたい、ケーキ屋さんになりたい、お花屋さんになりたいetc.
男の子であれば・・・・ヒーローになりたい、パイロットになりたい、サッカー選手になりたいetc.
その夢を大きくなってから叶えられる人、夢に敗れる人、新しい夢を思い描く人。色々な人がいるだろう。
だが、小さい頃のちょっとした夢が一瞬で二度と叶わなくなる人は少ないだろう。
これはそんな経験をして二度と夢を描くことが出来なくなってしまった少年のお話。
◇
少年は小さいころからとても頭がよかった。運動能力が桁外れに高かった。言動が大人びていて年齢に合っていなかった。
そんな少年のことを人々は天才という。そしてそんな少年を・・・・・・妬み、気味悪がった。
だが、逆に少年は思っていた。何故自分と同じことが出来ないのか、と。
頭がよかった少年は理解した。自分に出来ることを妬み羨む人がいる、と。
だからこそ、気味悪がってきた相手を見下し、無視するようになった。
少年の人を見る目はいつからかそこら辺に転がっている石を見るような目になっていた。
だが、幸運なことに少年の両親は少年のことを気味悪がらなかった。
少年が難しい問題を解けば、家の子は天才だと大騒ぎし、少年が同い年の子では出来ない爆宙をしてみせれば、うちの子は将来素晴らしい体操選手になるに違いないと誉めそやした。
だから、少年は自分の家族だけは認識できた。いいや、自分の家族だけで満足した。
自分が何かをするたびに親がほめてくれる。そんな日々を過ごしていた少年は夢を見た。
―こんな日々がずっと続けばいいのに、と。
だが、現実は少年に対して残酷だった。
少年の両親が突然の交通事故で亡くなったのだ。
少年と違い凡人だった両親はその事故であっさりとこの世界から姿を消した。
これにより少年が願った日常は叶わないものとなった。
少年は理解した。自分の夢はかなわなかったのだ、と。
その日から少年は日々を過ごす気力を無くした。
最低限の食事、最低限の行動、最低限の睡眠。これらを無気力に行った。
だが、そんな生活をしていても少年の運動能力は向上し、頭は良くなっていく一方だった。
その事実に気が付いた少年は嘆いた。いくら運動能力が高くても褒めてくれる父はもういない。いくら頭が良くなっても笑ってくれる母はもういない。
その悲しみに溺れた少年は・・・・生きるということを投げ捨てた。
食べるのを止めた。動くのを止めた。寝るのを止めた。
生きるための全ての行動を投げ捨てた少年は自分の家でただただ死がやってくるのを待っていた。
だが、そんな少年を訪れたのは死ではなく1匹の兎のような少女だった。
「おやおやおや~?ここら辺で束さんと同じくらい凄い天才がいると聞いて態々束さんが来たのに死にかけじゃないか~。これは随分なお出迎えだねぇ~?」
「・・・・・・お前は誰だ」
「おっ?まだ喋ることが出来るんだ?ふぅ~ん?本当に君面白いねぇ・・・・あっ、ちなみに束さんは皆のアイドル篠ノ之束さんだぜ!」
「・・・お前は俺と同類だな」
「おぉっ!やっぱり君にもわかるかい?いやぁ~、束さん困っちゃうなぁ~。体から溢れに溢れる天才オーラが隠せてないや!」
「・・・愛が欲しいのか?」
少年の一言で今まではしゃいで少年の周りをクルクルと回っていた少女が止まった。
少女は実に興味深い対象を見るような目で少年を見ると一つ頷いて少年を抱え上げた。
暫く物を食べずに過ごしていた少年は少女の手を振り払う気力もなくあまりにも呆気なく抱えあげられてしまった。
「うん、決めた。君はこれから束さんと一緒に過ごすんだ。君みたいな逸材をこうやって日向に出さずに殺すのは勿体ないからね!」
「・・・・勝手に俺の処遇を決めるな。俺はもう死にたいんだ」
「ん~、駄目。君の命は今は束さんの手の中にあるんだから束さんの物なのさ!ねぇ、夢を失った少年?」
少女の最期の言葉で先程まで虚ろだった少年の目に光が戻った。
その時、初めて少年は少女の姿を見た。
歳は中学生くらいだろうか?セーラー服を着た少女の頭には何故かメカメカしいうさ耳が装着されていて、それが偶にピコピコと動いている。
「・・・お前は一体・・・何?」
「ぶぅ~、さっきから束さんは束さんだと言っているじゃないか!簡単に言うと君の同類だよ。・・・ねぇ、夢を失った少年よ。これから束さんの夢のために生きてみないかい?」
「・・・お前の夢のため?」
「うん!束さんの夢はね・・・・・この地球を抜け出して、広大な宇宙に飛び出し、月の兎と仲良く餅つきをすることなのさ!」
華やかな笑顔で夢を語った少女の顔は、少年にとって実に美しく、それと同時に眩しいものだった。
それは広大な夢だった。誰もが思い描くような夢だった。だが、少女はそれを叶える術を持っていた。
だからこそ、夢を失ってしまった少年にはそれが眩しくて・・・・とても羨ましかった。
気が付いたら少年は笑っていた。
両親を亡くしてから一回も浮かべることが無かった笑顔を無意識のうちに浮かべていた。
少女の腕の中で腹を抱えて丸まりながら大爆笑した。
「むぅ~、人の夢を笑うのは良くないんだぞ~!!!」
「アッハッハッハ・・・・げほっ!・・・フフッ、悪い。気を害するつもりはなかった。だが、あまりにもお前の夢が眩しくてな。・・・・・いいだろう、俺の命。お前の夢のために使え」
「いやいや、君の命を使うんじゃないよ?束さんはそんな非人道的なことはしないのさ!ただ、君には私の夢のために生きてもらうだけなんだよ?」
「フッ・・・どっちでも同じだろうに。・・・俺の名前は如月紅樹。これからよろしく頼む、束」
「うん、すべてこの束さんに任せなさい、こーくん!・・・さてと、まずは君をこの家から連れ出して病院へ運ばないとねぇ~。そろそろ意識が限界でしょ?」
「そうだな・・・・暫く寝る。・・・後はよろしくた・・の・・・む・・・・」
それだけ言うと少年は深い眠りについた。
その寝顔は今までの無表情で無気力な顔ではなく、明るく明日への希望に満ちた年相応なものだった。
少年を抱きかかえた少女は暫くその寝顔を鑑賞していたが、携帯を取り出してとある場所へ連絡を入れるとどこへともなく姿を消した。
少年がこの生まれ育った家に戻ってくることは二度とないだろう。
◇
「痛い痛い痛い!!!ちーちゃん、それは痛すぎるぅ~!!!束さんのスペシャルな頭に深刻なエラーがガガガガ・・・・むぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
「束、私はどうやら貴様を勘違いしていたらしい。貴様は児童誘拐などということはすまいと思っていたが・・・すまなかったな。これからは認識を改めるとしよう」
「だからそれは誤解なんだって、ちーちゃん!!!・・・だからこの手を緩めてぇぇぇぇぇ!!!メキメキ言ってるからァァァァァ!!!」
紅樹が目を覚ました時に見た光景は、見たことも無い病室で自分を連れだした束と名乗った少女が見たことのない少女にアイアンクローを喰らっている姿だった。
どう見ても束の足が床から離れてしまっている。
決して束も抵抗していないわけではないのだが、どういうことか束がいくら暴れても少女の腕が束の頭から離れることはなかった。
紅樹は目の前の光景に困惑しながらも状況の説明を頼むことにした。
「すまないが・・・・ここはどこなんだ、束?」
「おぉ、やっと起きたんだね、こーくん!いやいや、君あの後4日間も寝てたんだよ?いつまで寝てるつもりなのかと思ったよ、って痛い痛い!ちーちゃん!こーくんとお話し中も離さないその手を緩めてください!!!」
「私の親友が済まなかったな、少年。この駄兎が先程から君は私のものだとアホなことを抜かしているんだが・・・それは本当か?」
「・・・・・・・束を放せ」
「ん?・・・・・ちっ、気絶してる場合か!さっさと起きて説明しろッ!!!」
「げふぅ!?・・・うぅ、ちーちゃんの愛が痛いよぉ~」
余りの締め付けに意識を失いかけていた束を少女は病室の壁に叩き付けることで起こした。
流石にその光景には紅樹も引き攣った笑いを見せ、なるべく少女から離れられるように体の位置を調節した。
壁に叩き付けられて死んだかと思われた束だったが、むくりと何事もなかったかのように起き上り紅樹のベッドの側へと移動した。
「で、体の具合はどうかな?こーくん。束さんの見立てではもう体を動かせる程度には回復しているはずなんだけど」
「・・・・・確かに体は動かせるな。だが、本来の力の40%くらいしか出せないのが現状だ」
「ふむふむ、まぁ、動かすのに問題が無いなら退院は出来るかもね!とりあえず退院した後のことを話し合おう!」
「・・・・・・待て、2人とも」
「ん?何かな、ちーちゃん」
「・・・・・・・」
ハイテンションな束を止めたのは今まで口を出さなかった少女だった。
束は少女に反応したが、紅樹は目線を少し少女の方に向けただけだった。だが、少女にはそれで十分だった。
少女は紅樹の自分に向ける目を見て紅樹という人物を彼の隣にいる束と重ねた。
元々紅樹は束が私の同類、と言って連れてきた人物だった。
その時は衰弱していた紅樹を入院させたりという作業に必死になって忘れていたが今になってその意味が理解できた。
紅樹の目には自分は人間として映っていないのだろうと想像できた少女は思わずため息をついた。
「如月紅樹と言ったな?・・・お前あれ程までに衰弱して・・・一体何があった?」
「・・・・・・・お前に話すこと等何もない」
「こーくん、ちーちゃんは私の大切な人なんだ。だから、そう言う態度は・・・・・ね?」
「・・・・・・・・・・両親が死んだ。生きる気力を無くした。以上」
少女に冷たく言い放った紅樹だったがそれを束が抑えた。
束は今までに見せたことが無いようなプレッシャーを放って紅樹に微笑みかけ紅樹に無理矢理理解させた。
紅樹は仕方がなく簡潔に要点だけを述べた。
「他に親戚がいたんじゃなかったのか?その親戚に頼ったりは「皆、俺のことを気味悪がった」・・・・何だと?」
「事実だ。客観的に見ても納得できる。小学生の俺がこんな大人びた喋り方をして下手したら自分よりも頭がいいんだぞ?誰でも気味悪がるだろうな。それが俺の親戚たちだっただけだ」
「・・・・そうか。済まなかったな」
「・・・質問してもいいか?」
「何だ?」
「お前は俺や束が気持ち悪くないのか?」
紅樹の質問で少女だけでなく束までもが固まった。
篠ノ之束という人間は小さいころから頭が良かった。一を聞いて百を知り、どんな難問でも少し考えれば解けてしまう。
そんな彼女を両親は恐れた。彼女を遠ざけて彼女の妹の方を可愛がった。
あくまで人間だった束はそのことに絶望し、無償で与えられる愛を求めた。
その結果が今の彼女だ。自分に無償の愛を注いでくれない人物を認識することが出来ない。
そんな彼女が認めている少女が紅樹の問いにどのように答えるのか束には興味があった。
「別にどうとも思わんな。」
「・・・自分とは違う俺達を羨んだり妬んだりしないのか?」
「あぁ、思わんな。それに私とて普通の人間とは言えまい。さっき束を片手で持ち上げていたのを見ただろう?」
「成程な・・・同類か。・・・なぁ、お前の夢は何だ?よければ教えてくれないか?」
これは紅樹による興味を持てるかどうかの通過儀礼のようなものだ。
夢を失った紅樹は他人の夢を見ることで疑似的に夢を見ている。それが紅樹の興味対象になればその人は必然的に興味対象となる。
少女もそのことに気が付いたようでニヤリと微笑み自分の夢を口にした。
「私には弟が1人いる以外に家族がいない。私の夢はその弟を守ることだ。どうだ?束のような大きなものではなくて幻滅したか?」
「・・・いいや、幻滅などしないさ。素晴らしい夢だからな。・・・・ずっとお前というのも気が引ける。名前を教えてくれないか?」
「フフッ、お眼鏡にかなったと言ったところか?この生意気な小僧め。・・・私は織斑千冬。束みたいな呼び方以外ならどのように呼んでもらっても構わん。好きに呼べ」
「えぇ~、ちーちゃん、ひどーい!折角束さんが愛をこめてあだ名をつけてあげたのにさぁ~!」
「じゃあ、千冬と呼ばせてもらおうか。・・・それで、俺はこれからどうなるんだ?束」
「ふふ~ん、君はこれからこの束さんと「お前は私の家に来るといいぞ、紅樹」・・・・ちーちゃん?」
束の言葉を遮って千冬が紅樹を引き取ると言い出した。
千冬としては紅樹を束と一緒に住ませることで束以上のコミュニケーション能力欠如を避けようとしたのだ。
紅樹としては住める場所さえあればどこでもいいので千冬に従うことにした。
「それでは頼む。ところで俺は昼間のうちはどこにいればいいんだ?」
「私の弟と束の妹が通っている小学校に通ってもらう。安心しろ、転校手続きは既にそこの馬鹿が済ませている」
「束さんにかかればチョチョイのチョイなのさ!それで放課後には束さんと合流して束さんの研究を手伝ってもらうよ!」
「わかった・・・・これからよろしく頼む、千冬、束」
こうして夢を失った少年は大きな夢を持った愛を求める兎と、堅実でありながらも難しい夢を持った力の強い狼と共に過ごすことになった。
次回投稿は一週間後を予定。