ブラック・ブレット 【無限の剣製】   作:爆走ボンバー人間

3 / 6
第二剣 「呪われた子どもたち」

あの仮面男と遭遇して次の日

 

俺とシロエはデパートに来ていた

 

帰りが遅くなり夕飯も出前になってしまった事でへそを曲げてしまったシロエの

ご機嫌をとるのに大分苦労したが、誠心誠意込めて謝り続けさらにシロエと交渉をし、何とか昨日の事は水に流してもらえた

 

そしてその交渉の条件であったシロエの欲しい物…天誅ガールズのグッズを買うことになったのだ

 

俺自身はよく知らないが何でも子どもから大人にかけてまで大人気のアニメらしい

 

…だが、何故魔法少女なのに赤穂浪士なんだ?

 

コーナーの前には赤を主張とした魔法少女が「死ねぇぇぇぇぇぇ!!」と鬼の

形相で斬りかかってくる絵が張られていた

 

いったい誰が考えたんだこんなもの。全くもってこれのよさが分からなかった

 

「じゃあ俺はここで待ってるから、買うものが決まったら呼んでくれ」

 

「えー!お兄ちゃんも一緒にどれがいいか見てよ!」

 

「勘弁してくれシロエ、ただでさえ女の子もののグッズ売り場の近くで気まずいのに中に入ったら他の人にどんな目で見られるか分かったもんじゃない」

 

もし中に入ろうものなら俺は不審なものを見るかのような視線を受け続けることになるだろう

 

いや、ひどければ俗にいう『大きなお友達』になりより一層ひどい眼で見られる事になるだろう

 

「むー、ちょっと納得いかないけど…じゃあ選んでくるからちょっと待っててね!」

 

「ああ、ゆっくり選んで来い。約束したからな、何でも買ってやるよ」

 

うん!、と笑顔を浮かべグッズのコーナーに入り色々物色しに行った

 

シロエが商品とにらめっこをしているのを見ていると

 

「連太郎!これとかどうだ?」

 

「俺が斬られ役とかにされそうだから却下」

 

「じゃあこれはどうだ?」

 

「それ着て『連太郎の趣味なのだ!』とか言いそうだから却下」

 

「むー!連太郎は文句が多いぞ!」

 

ちょうど自分と、そしてシロエと同年代ぐらいの二人が買い物をしていた

 

どうやらあそこにいる彼も天誅ガールズのグッズの買い物に付き合わされているようだ

 

その彼と一緒にいたツインテールの少女はもう一度グッズコーナーへと走っていき

次の商品を探しに行った

 

「お兄ちゃーん!」

 

どうやらこっちは買う物が決まったようだ

 

シロエに手を引かれ俺たちはレジへと向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふんふふんふーん♪」

 

デパートでシロエのプレゼントを買ってから食材を買い終わり街中を歩いているが、シロエは手首に着けている自分と俺の物を見てはずっと機嫌がよく鼻歌を歌っていた

 

「そんなに気に入ったのか?」

 

「うん!だってお兄ちゃんとおそろいだもん!」

 

俺とシロエの手首に着けている物はシロエが選んだブレスレットだ

 

なんでもこのブレスレットは天誅ガールズの魔法少女たちが嵌めている仲間の証

であり、嘘をつくとひびが入って割れ嘘をついた事がばれてしまうそうだ

 

値段はこんなおもちゃのブレスレットでもなんと〈6980円〉だった

 

最近の子どものおもちゃは子どもに幸せを与える代わりに、大人に涙を与えるらしい

 

だが、これも妹のためであり、自分が蒔いた種であると腹を決めたのだ

 

妹の笑顔を見られてよかったがその代償は決して軽い物ではなかった

 

そのまま兄妹仲良く手をつないで帰路を歩いているとビルに備え付けられている大型のディスプレイに一人の女性が多くの記者達に囲まれ記者会見している映像が流れていた

 

その女性は雪をかぶせたような真っ白な服装にシロエとは少し違う銀髪だった

 

そう、この女性こそこの東京エリアのトップであり統治者である聖天子様なのだ

 

記者会見の内容はどうやら聖天子が発表した新しい法律『ガストレア新法』についてのようだ

 

この法案は呪われた子どもたちの基本的人権の尊重に関する事で、これが通れば外周区で暮らす事を余儀なくされている呪われた子どもたちにも戸籍などが与えられ

普通の生活を送れるようになるだろう

 

 

 

呪われた子どもたちは体内にガストレアウィルスを保持している事とその瞳が

ガストレア達と同じように赤く染まることから周りから畏怖され、差別をされているのである

 

いや、差別なんてそんな生易しい物じゃない

 

呪われた子どもたちのほとんどはもっとも幸福とはかけ離れた所にいる

 

親に化け物扱いされ捨てられるなら不謹慎ではあるが、まだマシなものだ

 

呪われた子どもたちはガストレアウィルスの恩恵により、バラニウムによる攻撃

でなければ考えられないほどの高い治癒能力があるためそれをいいことに肉親から

虐待を受ける者もいるし街中ではガストレアに恨みを持つ大人にリンチにされる

 

今世界で生きている人間のほとんどはガストレアを恨んでおり、同時に呪われた

子どもたちもガストレアと同様に見ているので人間ではなく化け物として扱い、

その恨しみを呪われた子どもたちで晴らそうとするのである

 

一昔前では出産を川近くで行いそのままそこで殺していたのが普通であるぐらいだった

 

だからこそ

 

「ガストレア新法、通るといいねお兄ちゃん」

 

「ああ、きっと通るさ。そしたらみんながみんなが幸せになれる」

 

「うん!」

 

そのまま通りを歩いていると通りの向こうに人が集まっていた

 

だが距離が開いていても聞こえるほどの怒声と、集まった者達がだしているだろう

異様な空気を感じて四郎は嫌な予感が体中を駆け巡り不快感を感じた

 

四郎はこういった直感は普通の人よりも優れており、大抵こういった時は最悪な

出来事しか起こらない

 

四郎は隣のシロエに視線を送ると少し怯えていた

 

あれだけの人の負の感情が例え自分に向けられていなくても、シロエもそういった

者には敏感なためになんとなく感じているのだろう

 

「なぁ、あんた。この騒ぎは何なんだ?」

 

「あん?警備員を半殺しにして盗みを働いた『赤目』が逃げてんだよ!」

 

近くにいる青年に話を聞くが、『赤目』というのは呪われた子どもたちの事だろう

 

そんなとき人ごみから一人の少女が人ごみの中から飛び出してきた

 

少女の手には食糧が詰め込まれた買い物かごを持っており、服は長い間洗っていない事が分かるほど汚れており何度も修復した跡が見られるほどボロボロであった

 

そしてその少女の眼は緋色に染まっている

 

あの少女がさっきの話の呪われた子どもたちであり、店から商品を盗んだのだろう

 

その少女は後ろから追いかけてきていた店員と思われる人物とその他の大人に捕まり、地面に組み伏せられていた

 

呪われた子どもたちの腕力は大人の男性よりも強いがあれだけの人数の大人に上から抑えられれば、力も上手く出せず僅かに身じろぐことしか出来なかった

 

そんな少女に向かって周りの者たちは口々に罵倒する

 

「東京エリアのごみ」「ガストレア」「人殺し」「赤目」「赤鬼」「死ね」

「消えろ」「出ていけ」「化け物」「クズ」

 

憎悪をむき出しにして容赦なく少女の心を傷つけていく

 

僅かやり過ぎなような気もするが、後は警察が来るのを待ち彼女の身柄を渡せばこの件は終わるだろう

 

可愛そうではあるがいくら飢えに苦しんでいたとしても犯罪が許されるわけではない

 

だが、自分の直感が未だに警鐘を鳴らす事を止めることはなかった

 

あの尋常ではない空気からこのまま穏便に終わるとは思えなかった

 

「シロエ、俺は…」

 

「うん、大丈夫だよお兄ちゃん。私の事は気にしないで」

 

一緒に暮らして十年ほどもいるためか、シロエは四郎の言おうとしてる事が分かっているようだった

 

それに対し四郎は

 

「ありがとう、シロエ。すぐに戻ってくるから、安心しろ」

 

「…昨日みたいに遅くならいでよ」

 

「ああ、約束する」

 

シロエの頭の高さにまで顔を屈めサラサラで触り心地の言い銀色の髪を撫でながら優しく笑う

 

シロエは少しくすぐったそうにしており撫で終わると先に家に帰った

 

 

俺はすぐに人ごみの中をかき分けながら今もなお苦しんでいるだろう少女の下に向かう

 

なんとか人ごみの中を抜けると、抑えられている少女が助けを求めるように店で見かけたあのツインテールの少女に手を伸ばしていた

 

そしてツインテールの少女もその手を掴もうとする

 

だけど、その手を掴むことはなかった

 

その手をツインテールの少女と一緒にいた男が払い落したからだ

 

その男の眼は険しく、『自分達を巻き込むな』といったような明確な拒絶の態度

だった

 

それを見た俺はあの時の光景が再現された

 

 

 

…救いを求める手を全て無視し、ただ自分の身可愛さに他を見捨てた自分の姿が

 

 

 

「ッ!」

 

それを思い出し気分が悪くなり、額に嫌な汗が浮かんだが無理やりに抑える

 

今はあの少女を助ける事が先だ

 

少女は男の態度を見て怯えており、手を取ろうとした少女も「何故?」と言いたげな表情だった

 

「貴様ら!そこで何をしている!」

 

人ごみが道をあけた先には事態を聞きつけたメガネをかけた痩せた男と小太りの二人の警察がやってきた

 

それを見て俺は内心胸をなでおろした

 

これでこの一件は終了し少女も身柄を確保されてこの空間から抜け出せると

 

二人組の警察は周りを見て状況を悟ったのか少女を周りの人たちと同じように冷たい眼で見降ろす

 

警察は周りから評際を聞かずに少女の手に手錠をかける

 

俺はギョッとして抗議する

 

「おい待てよあんた達!何してんだよ!」

 

「見れば分かるだろう?市民を脅かす化け物を連行しようとしてるんだよ」

 

「その子が何をやったのかちゃんと分かってるのかよ!なにも聞かずに手錠をかけてたじゃないか!」

 

「ふん!こいつらが何をやらかしたのかなど聞かなくても分かる。

どうせ窃盗か傷害といったところだろう」

 

「そんないい加減な事でそんな幼い子を捕まえるのか!それが警察のやる事か!」

 

「ならこの場で聞いてやろうか?皆様!この化け物はどんな悪行を行いましたか!

皆様の安全のため、協力をお願いします!」

 

すると静まり返っていた一気に騒ぎ立て始めた

 

「お巡りさん!そいつは盗みを働いた上に止めようとした警備員を半殺しにしてたぞ!」

「そうだ!ちゃんと見てたぞ!そいつが警備員を無慈悲に暴行を加えたところを!」

「そいつをとっとと牢屋にでもぶち込んでくれ!暴れでもしたら危険だ!」

「牢屋にぶち込むなんてことせずこの場で殺してくれ!そいつらは人間を襲う化け物だ!」

「その通りだ!この場で殺しちまえ!」

 

周りの人たちは彼女が犯したであろう罪を叫び牢屋に入れろと、終いにはこの場で

殺せと言う者までいた

 

それを聞いた痩せた警官はこちらを見てにやりと口元を歪めた

 

「これで分かっただろう?皆様!ご協力ありがとうございます!この化け物は我々

警察が責任を持って罰しますのでご安心下さい!」

 

警官の言葉に周りの者たちは喜びと感嘆の声を上げる

 

それに気をよくした警官はそのまま少女をパトカーの中に押し込む

 

それを止めようとすると警官は事らをギロリと睨みつけ

 

「貴様。これ以上邪魔をするようなら貴様も公務執行妨害で逮捕するぞ!」

 

「そうだ!引っこんでろ!」

「なんで化け物の肩を持とうとする!」

「お巡りさん!その化け物をとっとと連れてってくれ!」

 

警官の言葉と周りの非難を浴びせられる

 

公務執行妨害で捕まるのはごめんだ

 

俺には守らなきゃならないものが、成し遂げなきゃならない事があるから

 

でも、だからって目の前の出来事を無視する事は出来ない!

 

 

「正直に答えてくれ。君は本当に盗みをして、警備員に手を出したのか?」

 

周りの言葉は無視して少女に問う

 

優しく"絶対に信じる"という心をこめ目を正面から見て問い掛ける

 

それが伝わったのかは分からないが少女は泣きそうな顔で答えた

 

「確かに食べ物は盗んだけど、誰にも暴力なんて振ってない!これだけは本当!」

 

必死に答える少女に周りは「嘘をつくな!警備員もお前が襲ったんだろ!」と叫んでいるが気にしない

 

俺は微笑んで少女の頭を優しく壊れ物を扱うように撫でる

 

「わかった。君が嘘をついていないってことは、十分に分かったから」

 

立ち上がり頭を下げる

 

「この子がやった事は確かに犯罪だ。でもこの子はちゃんと自分の事を話した。だからこの子の罪を咎めるのはちゃんと調べてからにしてくれないか?」

 

誠心誠意をこめて警官に頼む

 

その時警官は怒りに染まった顔をするが次の瞬間、良からぬ事を考えたように顔を

歪めた

 

「ほう、そんなに言うなら貴様にも一緒に来てもらおうか?今ならこの無礼は

なかった事にしてやってもいいぞ?」

 

ゲスにまみれたような顔をする警官は、ここまで言えば俺が引くと思っているのだろう

 

「ああ、分かった。一緒に連れて行け」

 

即答する俺にまたしても警官は顔を怒りで歪め乱暴にパトカーの中に入れ運転する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい。俺の記憶が間違っていないならこっちは確か警察署はじゃなくて外周区の

はずだが?」

 

運転する事数分、俺たちを乗せたパトカーは明らかに行き先がおかしかった

 

既に壊れたまま放置されている建造物などがある外周区近くに来ていた

 

一緒に乗せられている少女はこれから連れて行かれる所に不安があり怯えていたので大丈夫だ、と少しでも恐怖を取り除く為に頭に手を乗せ声をかける

 

少女は俺の服の裾を掴むと少しは落ち着いたようだ

 

ようやく停車したところは警察署などではなく廃屋の前だった

 

すると警官二人はいきなり銃を突きつけてきた

 

「とっとと降りろ。撃つぞ?」

 

その脅しが本気である事が分かり俺たちはおとなしくそれに従う

 

歩け、と命令され後ろから銃を突きつけられたまま廃屋の中に連れて行かれる

 

その最中、少女はこれから起こる事に青ざめ裾をつかむ力が強くなることが分かった

 

「貴様もバカだな。こんな化け物をわざわざかばわなければこんな事にはならなかったろうに」

 

「生憎、俺は大がつくほどのお人よしって言われてるんでね」

 

「ふん、下らん正義感で動くから死ぬことになるんだ。今からでも謝って消えると言うのであれば見逃してやらんでもないが?」

 

「お気づかいどうも。それにしても警察が正義を否定していいのか?それになんだか手慣れてるな、前にもこんなとこをした事でもあるのか?」

 

「ああ、あるさ。なんせこの餓鬼どもはいくら殺しても罪にならんからな。

化け物退治も出来てストレスの発散になるからなぁ、いくらやっても飽きない」

 

「あんた、本当に警察じゃないだろ?テロリストの方がよっぽど似合ってるぞ」

 

「なんとでも言え。長話も終わりだ、死ね」

 

警官二人が俺たちに銃の銃口を定め引き金に手をかけたのが見えずとも分かった

 

だがここで死ぬつもりなんて毛頭ない

 

俺はこの状況を打破する、隣で死に恐怖する少女を救うための呪文を唱える

 

同調、開始(トレース・オン)

 

俺という存在を現す呪文を唱え魔術回路を開く

 

体の中にあるもう一つの神経とでも呼べるものに魔力を流し込み強化の魔術を起動する

 

強化によって底上げされた身体能力でこの場の誰よりも早く動く

 

隣にいる少女を突き飛ばして銃の射線外に出し深く、低くしゃがみこむ

 

銃の発砲音が聞こえ銃口から発射された銃弾が頭の僅か上を通り過ぎる

 

体を捻りその勢いのまま痩せた男の横腹に蹴りを叩きこむ

 

直後、蹴られた警官は吹き飛び壁に叩きつけられる

 

一瞬、何が起こったのか分からず茫然とする小太りの警官に肉薄し鳩尾に掌底を放つ

 

内部に浸透する振動に小太りの警官は目が限界まで開かれ口が半開きとなり白目を

剥いて気絶した

 

「ぐぅ、この、化け物が!」

 

痩せた警官は銃を構え発砲する

 

だが、それだけでは足りない

 

衛宮四郎にとって正面から放たれた銃弾など脅威にはなりえない

 

四郎は半歩横にずれるという最小限の動きでかわし男に向かって走る

 

警官は続けて発砲するがそのどれもが四郎には当たる事はない

 

弾丸をかわしながら警官に接近する

 

「うおおおおおおおおお!!」

 

咆哮を上げ固く握った拳を叩きこむ

 

「ゴハァッ!!」

 

口から空気と唾液を吐きだしそのまま地面に転がる

 

それを見ていた少女も未だに何が起きたか理解していなかった

 

四郎は踵を返し少女の下に向かう

 

「大丈夫だったか?いきなり突き飛ばしたりしてごめんな。どこか怪我したところはないか?」

 

こちらを心配した声音に先程の警官を倒したときとは別人のような四郎に困惑する

 

「あの、今のは、いったい…」

 

「ん?ああ、言ってなかったね。実は俺はね…」

 

一度区切り四郎は少女に言う

 

「俺は……魔法使いなんだ」

 

 

 

 

 




投影はもうちょっと先になります

次回か次々回辺りに四郎の強さの理由を紹介します

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。