カカシ真伝II 白き閃雷の系譜   作:碧唯

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カカシの誕生

まだ夏の暑さが残る9月15日、待望の赤ん坊が誕生した。

 

赤ん坊はオレと同じ白銀の髪がまだうっすらとしか生えてなくて、頭が丸見えの男の子だった。

その我が子カカシが面白くて、オレは嬉しいのと、おかしいので笑いながら、不覚にも少しだけ泣いてしまった…。

 

何より、母子ともに健康で生まれて来てくれたことに感謝…

「セイラン、お疲れ様、ホントに頑張ったね、ありがとう…」

手を握ってそう言ったオレに、セイランは微笑みながら言った。

「今日から三人ですからね、お父さんも頑張ってくださいね」

 

オレは今までも里を守りたいと思ってきた。

セイランと結婚して、里を守りたいと思う気持ちは二倍になった。

カカシが生まれ、その思いは何十倍にも膨れ上がった。

愛しい我が子を育む里、カカシが生きていく里を何としても守りたいと思った。

 

オレはカカシが生まれてようやく、ヒルゼン先生が「里の者全てが家族」と仰っている言葉の重さ、その本当の重さを理解できたように思う。

 

 

カカシが生まれてからの毎日は、一つ一つが驚きと感動で、全部が事件だった。

ちっちゃな手を指でつつくとぎゅっと握り締めるのが面白くて、何回もやってセイランに叱られたりもした…。

ミルクを飲んだ、やっと寝た…、毎日その繰り返しでも、それが2~3時間おきにもなると、セイランはほとんど寝てないんじゃないかと心配にもなる…。

任務で帰れない事も多いオレにとっては、その間セイラン一人に任せてしまう心苦しさと、数日家を空けただけでカカシの成長を見逃しているような気がする寂しさを埋めるように、非番や休みの日にはできるだけカカシと過ごした。

 

 

そんな慌ただしい日々も、もうすぐ一年が過ぎようとしていた。

 

里の掟ではないが、戦争中の不文律のようなもので、子供が一歳になると、母親忍者も任務復帰するのが当たり前になっていた。

セイランの忍者としての資質の高さは、里の中でオレが一番よく知っている。

確かにこの才能を埋もれさせてしまうのは勿体ないとも思うが、もう少しだけカカシとの時間を持たせてやってほしかった…

そう思うのは、ただの自分勝手な願いで、道理にかなうものじゃないのは分かっている…

 

ま、結局のところ、オレ一人の我が儘が許されない事は重々承知してるわけで、復帰に向けてしばらく前から庭に手裏剣投擲用の的を作ったりと、オレなりに復帰準備の協力をしていたりもするのだ…。

 

セイランはといえば、縁側に座って、その的に器用に手裏剣を投げながら、オレがあやすカカシを見て笑っていた。

 

復帰にあわせて里の保育園に預けるので、カカシの成長の遅さを少し気にしてるようだが…

成長が遅いと言っても、同じ月齢の子は皆はいはいしてるのに…、とか、○○ちゃんはもうたっちしたって…、なんていうママ友同士の比較でしかない…

しかし、母親というものはそういうのも非常に気になるものらしい…

 

カカシは生まれた時、標準より少し小さかっただけで、それ以外は健康だし、そんな心配すること無いんじゃないかな…と思い

「今ぐらいはゆっくりと成長させてあげてもいいんじゃないか?忍なんて、どうせ大きくなったら人一倍走り回らなきゃいけないんだから…」

オレがそう言うと

「…サクモさんはお気軽でいいですね」セイランは呆れたようにそう言った…。

 

なんとなく…、カカシが生まれてからオレの立場が弱くなってる気がする…。

 

母は強しって…、こういうことなのか…な?

 

 

そして、9月になってカカシの初めての誕生日を三人で祝った次の日から、セイランは復帰した。

…まったく、生真面目な奴だ。

 

当分はCランクやⅮランク任務でその日のうちに完遂できるものから始めて、徐々に慣らしていくらしい…

 

 

年の瀬も迫った12月、復帰して三か月も経つと、オレもセイランもその生活に慣れてきていた。

 

セイランは数日前から、火の国の海岸で行われる作業の警備業務、Cランク任務に就いている筈だ。

筈と言うのは、セイランが任務で家を出るそのまた数日前から、オレはスオウとカズサと三人一組(スリーマンセル)でAランク任務に就いていたからだ。

 

この頃、木ノ葉の戦力不足は深刻で、本来なら四人一組(フォーマンセル)で就く任務でも三人一組(スリーマンセル)というのはよくある事だった。

 

任務を終えて里に帰る道すがらカズサが言った。

「Aランクで四人一組(フォーマンセル)すら集められないっていうのは、ちょっともうヤバくないっすか」

「まぁ、そうだが…。今回の任務はお前らとなら三人一組(スリーマンセル)で十分いけると思ったから受けたんだよ?」

「え?隊長がメンバー決めるんですか?」スオウが聞いてきた。

「いやー、メンバーを決めるのは火影様や上役達だよ。ただ、指令書見て、明らかに遂行不可能なメンバーだったら、そこで上申するだろ。まぁ、そんな事はまず無いけどな。任務は完遂してなんぼだからなぁ…。お前らも隊長の時はそうするだろ?」

「んー、オレAランクで隊長やったことないですからねー…」

「あれ?お前、隊長やってないのか?」

「Bランクまではあるんですけどね、Aランク以上は無いですねー」

カズサも頷いている。

 

オレは思い当たることがあった…

「あぁー…、もしかしたら、それオレのせいかもしれんなー…」

「「え!?どういうことですか!?」」

二人声を揃えて聞いてくる。

 

「クッ…。ホントお前ら息があってるよな。いやー、以前火影様に、お前らと組むのが一番やりやすいって言っちまった事があってな、だから多分、お前らオレの小隊ばっかりになってるんだよ…。すまない…」

「そういう事ですか! いや、だったら隊長とかやらなくていいっすよ」

今度はカズサが言って、スオウが頷く。

 

「は?お前らオレの3つ下だから26だろ?確かハタチで上忍なったんだよな?上忍6年やってて、それはないって…」

「いやー、正直、隊長やれって言われるより、サクモさんに一番やりやすいって言われる事の方が嬉しいっすよ」

またカズサが言って、スオウが頷いている。

「なんだよ、それ…。 あーわかった、じゃあ、今度から三人交替で隊長やればいいんじゃないか?」

「「いやいや」」

また二人声を揃える…。

 

「クッ…、お前ら双子か!でも隊長だと、報酬に隊長手当てが上乗せになるんだけどな?」

「マジっすか!」「いくらっすか!」

今度は揃わなかった。

 

「…あー、聞いちゃうか…。Aランクは500両、Sランクは1000両だな…」

「「えぇぇぇぇっ!!たった!?」」

「んー、まぁ…、忍は金だけじゃないしな…」

「いやいや、Sランク1000両で隊員の命預かるんですよ? ってことは一人333両って事だ」

スオウが変な計算をして呆れている。

「まぁ確かに…、任務の成否と、隊員の生死、隊長の命令一つでどっちに転ぶか変わる事もある、その重責を金に換算したら…、そりゃ安いと思うかも知れんがな…、隊員だって命懸けで任務に就いてるんだ。あまり差があるのもおかしいだろ?」

オレがそう言うと

「じゃーやっぱりオレ、サクモさんとこでいいっす」

カズサが言って、スオウも頷いた。

「お前ら楽しようとしてるだろ…。やっぱり火影様に言って次から交替にしてもらおう…、お前らも指揮能力錆付かせないようにしなきゃならんしな!」

「「えぇぇぇぇっ!!」」

 

その時、上空を飛ぶ一羽の鳥に気付いた。

あれは里からの伝令用の鳥だ…。

 

「呼び出しだ…。悪いがここで解散にするよ」

「「了解」」

 

任務中の忍に呼び出しなんて通常はあり得ない。

余程の事なんだろう…。

オレは胸騒ぎを覚え、速度を上げて樹上を飛び移っていった。

 


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