カカシ真伝II 白き閃雷の系譜   作:碧唯

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エピローグ 邂逅

オレはどれだけの間、こうしているんだろう…

 

 

ここには何も無い。

ただ、赤々と燃える焚き火と、椅子代わりになる岩があるだけだ…。

 

 

ずっとここで、オレはこうして焚き火の火を見ている。

 

 

あれから……、オレが死んでから…、どれだけ時間が経ったのだろう。

短い気もするし、ひどく長い間こうやっている気もする

なんせ、眠くもならないし、腹が減る事もないし、火は消える事もない

ただこうやって火を見ているだけだ

 

どれだけ経ったのか…、もう時間の感覚などない。

 

 

早く向こうに行ってセイランに会いたい。

でも、合わせる顔が無い…

 

オレがカカシを守ってやらなきゃいけなかったのに、逆にカカシを傷付け、嫌な思いをさせちまった。父親として大切な…、肝心な事を話してやれなかった…。

ごめんな、カカシ…。 せめて最後に詫びたかったな…

 

本当はもっといっぱい話したい事もあった…。

結局、雷遁を教えてやれなかったし

忍術の事だけじゃなく、セイランの話ももっとしてやればよかった…

 

あの頃のオレは、まだセイランを亡くした事を受け止めきれていなくて、カカシに話すのが辛くて逃げていた…。

 

今もまたセイランに合わす顔が無くて、セイランの所に行くのを逃げている…。

 

 

 

結局またこうやって火を見つめ続けるしかできない…

 

そして、同じ悔恨を繰り返すのだ…

 

 

 

いつまでオレはこうやってるんだろう………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オレがここに来てから初めて、他の人間の気配がした…

 

振り返ると、オレと同じ白銀の髪でマスクを着けた忍だった…

 

一目でわかったよ…

 

 

「カカシか…?」

ハハッ、コイツ、大人になってもマスクしてるのか。

もう今じゃ、なんでマスクし始めたかも忘れちまってるんだろうな…。

 

「…こんな所に居たんだ…」

カカシはそう言って微笑みながら、岩に腰をおろした。

 

息子と会えたことは嬉しい…

しかし、此処に来てしまった事が非常に残念でもあった…

 

「お前いくつになった?」

「もう30だよ」

「30か…、子供は?」

「…いや、いないよ。 まっ…、子供どころか、結婚もしてないし…ね!」

「何?オレはお前ぐらいの齢にはもう」

「ハハッ、父さんの頃とは時代が違うでしょ!」

「そんなもんか…。オレの時代はずっと戦争だったからなぁ。でも、お前がその(とし)でここに来たって事は…、今もそんな平和じゃないんだろ?」

「まっ、そんなとこだね…」

「そうか……、お前の話を聞かせてくれないか?」

「ああ… すごく長くなるから、ゆっくり話したいんだけど…」

「ああ…いいさ」…時間はたっぷりある。

セイラン、もうちょっと待っててくれ。

もう少しだけ、父子二人の時間を取り戻させてくれないか…

 

 

「あのね、父さん」

 

…コイツ、全然変わってないな。

カカシはパックンを連れて帰って来た日と同じ笑顔で話し始めた。

 

 

 

 

 

 

「そうか…、お前もそれなりに大変だったようだな…」

「ああ」

「しかし…、お前もオレもこう早死にするとはな…」

「………」

「母さんほどじゃなかったが…」

「………」

 

カカシは黙って何か考えているようだったが、ぽつりぽつりと喋り出した。

 

「結果はどうであれ、 父さんは精一杯やったよ。 今なら父さんを理解できる…。 皆の為に掟を破った父さんを… 今は誇りに思う」

 

 

オレはあの時、肝心な事を話さないまま死んで、結局お前を一人にしてしまった…

忍としての生き方だけじゃなくて、人としての生き方も教えてやることができなかった…

 

その所為で、あの後どれほどお前が辛い思いをし、悩み、回り道をしてきたか…

 

 

こんな父さんを許してくれるのか…

 

 

オレが教えてやらなかった事も、あの後、自分で学んだって事だな…

どうやら、いい仲間を持ったようだな。

お前はオレ達の自慢の息子だよ。

 

カカシ、オレを許してくれて…

そして何より…、オレとセイランのところに生まれてきてくれて…

 

「ありがとう…」

 

 

 

その時、暗闇の中で一筋の光がカカシを射し、体が光った。

 

「…これは?」

「どうやらお前はまだここに来るには早過ぎたようだ。お前にはまだやるべき事があるはずだ」

 

オレは若干の寂しさと一緒に、大きく安堵もしていた…。

良かった…、まだお前は生きてくれ…

オレ達が見られなかった未来を…その目に映してくれ…

 

「父さん…」カカシの身体はもうほとんど消えかけていた。

 

「お前と話せてよかった。オレを許してくれてありがとう…。これで安心して行ける。母さんにやっと会えるよ…」

 

 

あぁ…、また詫びれかったな…

でも、ありがとうは言えたしな…

詫びるのはカカシが本当に来てからでいいか…

 

何故いつまでもこんな所で火を見てるのかと思ってたけど…

この為だったのかもな…

この為だったら、セイランも遅れたの許してくれるかな

 

ハハッ、成長したカカシが見れて、ちょっと得した気分だな…。

セイランには「ずるい」って怒られそうだけど、でも、ま、お前が早く逝きすぎたんだ…。

置いていかれてオレも辛かったんだから、これくらいいいだろ?

 

 

しかし…、オレ、自ら命を絶ったことになってるのか…

何でそんな事になったかは…、まぁ、あっちでヒルゼン先生にでも聞くか。

 

ヒルゼン先生、貴方は素晴らしい里にしたようですね。

里を見なくてもわかりますよ

カカシを見ればわかります…

貴方や里の大人たち、沢山の仲間があの子をここまで育ててくれた…。

ありがとうございます…。

 

 

セイラン、やっと会えるな…

お前が先に逝っちゃった後、オレ少し弱気になってな…

オレ達が出会った意味があるのか…、忍の存在意義ってなんだ…って考えた事あるんだ。

 

でも、やっと、わかったよ。

カカシが今も命を懸けて守っている里を、オレ達も守ってたんだからな…

その想いをきっと次の世代に繋げてくれるはずだ。

オレ達の短い生涯じゃ見つけられなかった事も、カカシ達やその次の世代の子達がきっと見つけてくれる。

 

 

オレ達が出会った意味もちゃんとあったな…

オレ達が生きた証は、今も頑張って里を守ってるよ。

 

オレなんかとっくに追い越しちゃって、あいつの名前に込めた願いも話してやる機会なかったけど、あいつの話聞いたらわかったよ…。オレの願い通り、いや、それ以上かな…、素晴らしい忍になってた。

 

 

セイラン、早く会って聞かせたいよ…

あぁ、でもその前に力いっぱい抱きしめたいな…

 

 

 

いつの間にか焚き火も消え真っ暗な中、そこだけが光る場所に向かってオレは歩き出す。

 

 

光の中で見慣れた影が手を振っていた…

 

オレはその光に向かって走り出す。

 

 

 

セイラン!待たせてすまない!

 

 

 

 

 

 

 

火影

 

 

第四次忍界大戦終結から一年あまりが過ぎた。

 

オレは「六」の字の接ぎがあてられた白いマントを羽織ったまま、火影室の窓から里を見渡していた。

 

六代目火影…、いわゆるオレ…の就任式は先刻、滞りなく終わったが、里はまだお祝いムード一色だった。

里のあちらこちらでは「祝!六代目火影」「六代目おめでとう!」なーんていう、のぼりや垂れ幕が上がり、「六代目饅頭」とか「六代目煎餅」とかいう、写輪眼をかたどった土産物まで販売され出した…。

 

オレはもう写輪眼じゃないでしょーが…

それ、「うちは饅頭」とか「オビト煎餅」って名前の方があってるんじゃないの…

 

しかし、商魂たくま……、いやいや……里が潤うのは良い事だ。

それに、そういうことができるのも、まっ、平和な証拠……だーよね

 

平和な里を見渡し、頬を緩めていると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。

 

「はいー」

先代や先々代と比べたら威厳の欠片もない声で返事する。

 

シズネさんが入ってきて来客だと告げた。

はて…、来客の予定は無かったはずだが…、まぁ誰かお祝いにでも来てくれたんだろう…。

「わかりました」

ニッコリ微笑んでそう言うと、シズネさんが出て行き、代わりに一人の白髪の男性が入って来た。

 

この人は……

 

「ご無沙汰しております、火影様」

白いマントを着たオレを見て、その男性は目を潤ませて言った。

 

 

「お久しぶりですね、カズサさん」

父さんの仲間、いや、親友ともいえる方だった。

 

カズサさんは目をゴシゴシ擦りながら言った。

「いや…、すいません…。そのマントを羽織ったあなたを見たら、サクモさんがそこに立っている様に見えて…。本当に……似ておられる……」

 

…オレは不思議に思った。父さんが火影室で執務していたのは確かだが、火影ではない。この火影のマントを着たオレを見て父さんを思い出すというのが少し不思議だったのだ。

 

「そうですか…」そう言いながら、椅子をすすめて、オレも向かいに腰かける。

「サクモさんや、…三代目がその姿を見たら、きっと喜ばれるに……っ」

カズサさんが、腰かけながら言った最後の方は言葉にならなかった…。

優秀な忍だったように記憶しているが、どうやら涙もろいようだ。

 

しかし…、父さんはともかく…

「三代目が…、ですか?」

 

「…はい。今日はその話をしようと思って、就任式直後のお忙しい中と思いながらも、お邪魔させていただきました」

「ハハハ、就任式直後だからですかね、誰もやって来ないし、執務も一通り綱手様が片づけてくださっていたので、暇を持て余して、里の様子をぼーっと見てたところですよ」

「そうですか…、それはよかった」

「それで、三代目の…お話しですか?」

 

「ええ、あれは…あなたがナルトくんや、うちはの子の担当上忍になった少しあとでした。サクモさんの墓で三代目とばったり会いましてね、そこで三代目が仰ったんですよ。『カカシにサクモの話をしてやろうかと考えておるのじゃが…』と…」

 

「三代目が… 父の…?」

 

「はい、でも、三代目は迷っておられました。どちらにしろ、あなたに手のかかる下忍を任せてしまったから、奴らが中忍にでもなって手を離れてからにすると…。でも、その前に…、あの木ノ葉崩しで…」

 

「そうですね…、しかし、三代目が迷うほどの事とは…」

 

「ええ、三代目も迷っておられた事を一介の上忍でしかない私から申し上げるのもはばかられて…、ずっとお話しできずにいました。 しかし…、あなたは今日、里の長、火影になられた。あなたが里に起きた事を知るのに何一つ差し障りがあるようなことなどありません」

 

オレは己の心臓がドクリと鼓動を打つ音が聞こえた。

 

三代目がオレに話すのを躊躇うほどの事…

それは、父さんに関わる事で…、里に起きた事…

 

「…それは、もしかして…、父が死んだ時の…」

 

「はい…、サクモさんが掟を破る事になった例の任務の詳細は、サクモさんが亡くなった後に汚名を雪ぐ為にと三代目が上忍会議でお話しされました。そして、私は隊員としてあの任務と、恐らくサクモさんが亡くなられた原因になった任務、二つとも就いていたので、私が誰よりもよく知っている筈です」

 

二つの任務…?

父さんはやはり自ら命を絶ったんじゃなかったのか…

 

「私一人が第三次忍界大戦も生き延びてしまったのは…、あなたにお話しするという使命があったからなのかも知れません…」

「そう言えばスオウさんは…」

「ええ、あの戦争で死にました…」

カズサさんはまた目を潤ませながら呟く様にそう言った。

 

「そういえば先の大戦は引退した身でお役に立てず、申し訳ありませんでした」

「いえいえ、引退された皆さんが率先して里を守ってくださったので、現役の忍達が皆、安心して戦地へと赴けたのです」

オレがそう言うとカズサさんは、何かを思い出したのか、フッと笑って頷いた。

 

 

それから、カズサさんは、例の任務の依頼内容、それに隠された謀略から、任務遂行中の事、その後に語った父さんの想い、三代目の想い、全てを話してくれた…。

 

オレは鼻の奥が痛くなるほど痺れて、目頭が熱くなったが、今は涙を隠す額当てもなく、オビトの眼ではないから、泣き虫忍者の所為にすることもできない事に今更ながら気付いて…、必死に涙を堪えた。

 

 

…父さん、父さんは本当に英雄だったんだね…

 

 

カズサさんは、三代目の水晶玉盗難事件と、その後の体調不良について、父さんの死後、スオウさんの奥さんが考えた事についても詳しく話してくれた。

 

話し終えると、カズサさんは窓の外に目をやって何か思い返すように続けた。

「今の様に医療忍術が発達していたらまた変わっていたのでしょうが…、あの頃はまだ、戦闘忍術よりも研究が遅れていましたからね…。もしも病院で診てもらったのがスオウの嫁さんだったら…、もしあの任務でサクモさんが腕を折られていなかったら…、もしあの崖が崩れていなかったら…、考えても詮無い事だと思いながら、何度も何度も考えてしまいました…」

 

「敵国の間諜(スパイ)、しかも…、母さんの仇を助けた事が原因で死んじゃうなんて…、父さんらしいと言えば父さんらしいですね」

オレが笑いながらそう言うと、カズサさんも微笑みながら答えた。

 

「そうですね…、そう言われてみればサクモさんらしいですね。 いつも自分の事より他人の事ばかり考えて、あんなに実力のある人なのに自分を平凡だと言い張る人でしたからね…、山祇ヶ原(やまつみがはら)の事だって、自分のおかげで助かった50人程はすぐに忘れちゃって、助けられなかった残りを自分の所為だといつまでも責めて…、あれもサクモさんの所為なんかじゃなかったのに…」

 

「ヤマツミガハラ…?」

オレは火の国の北西にあるその平原の名を繰り返した。

 

「え?ご存知無い…?」

 

「第二次忍界大戦の初期に、そこで戦闘があった事は史実として知っていますが…、それに父が関わっていたというのは初めて知りました…」

 

オレがそう言うと、カズサさんは呆れた様に笑いながら言った。

 

「男親なら、息子に自分の武勇伝を語りたくなるものですけどねぇ。私なんて、大して活躍してなくても、さも活躍したように聞かせたもんですけど…。 まぁ、サクモさんらしいと言えば、そういうのもサクモさんらしいですけどね…」

 

カズサさんは山祇ヶ原の戦の話もしてくれた。

 

当時中忍だったスオウさんが、指揮官を止めようとした父さんに「どういう事ですか?」と聞き、父さんの指揮でそこを離脱できたカズサさんとスオウさんは、その後、父さんを目標にしてずっとやってきたと言った。

 

父さんも「出る杭」だったんだよね…。

だから、打たれて踏まれてきた父さんは、オレが急いで忍者になろうとしたのをあんなに心配したんだね…。

 

 

オレとは別の事を思い出していたのか、カズサさんがぽつりぽつりと言った。

 

「己を誇示せず、ただひたすらに、黙々と…。あなたの名前に込めたサクモさんの忍の理想…、それをそのまま生きた人でした……」

 

「私の…名前…ですか?」

自分の名前の由来なんて聞いた事がなかった…

 

「え!? それも話してないんですか…、まったく…、何やってんだあの人は…」

 

そう言って、カズサさんはオレの名前に込めた、父さんの忍の理想も語ってくれた。

 

名前をからかわれた事が無かった訳じゃない。けど、オレは別に嫌いじゃなかったし、とはいえ、特に好きでもなかった…。

でも、父さんの想いを聞いて、自分の名前に誇りを持てたよ。

…まっ、もっと早く聞かせて欲しかったけどね!

 

 

窓の外はいつの間にか、夕焼けに染まっていた。

 

「父の事は、一緒に暮らした7年よりも、この数時間で知った事の方がずっと多い気がします…。前、あっちで会った時も何も言わなかったから…」

 

「え?あっちで…?」

 

「ええ…、以前、暁の襲撃で木ノ葉が壊滅的な被害に遭った事がありましたよね。 実は私はその時、一度死んでまして…。その時、あっちとこっちの狭間みたいなところで父に会ったんです…。その後、ナルトが説得した敵の術で死者が蘇って、お陰で私もこっちに帰ってくることができたんですよ…」

 

「そうですか!じゃあ、サクモさん、成長したあなたを見られたんですね!」

カズサさんは顔を輝かせてそう言った。

 

「そうですね。まっ、その時に、私はずっと言いたかった事は言えたので、少しすっきりしましたが…、今日、真実を伺って、死ぬ前でも、あの時でもいいから、少しくらい言い訳してくれててもいいんじゃないかって思いましたね! 自分の話なんて一っつもしないで、私の話を聞いてばかりでしたから…」

 

「ハハハ、サクモさんらしいけど、でも親なんていうのはそんなものですよ。 自分の話を聞かせるよりも、子供が何をやって何を考えてるか知りたい…そんなもんです。 あぁ、でもサクモさんがあなたに会えたなら何よりです。サクモさんがそんなところで20年以上も待ってたのは、あなたがそこにやってくるのを待って、あなたが言いたかった事を言わせる為だったのかも知れませんね…」

 

しみじみとそう言ってから、カズサさんは何故か笑い出しながら話し続けた。

 

「クックッ…、でもそんなところで一人で居たなら、セイランも待たせてたんですよね。きっとたんまり怒られたんだろうなぁ…」

 

父さんは母さんの話をほとんどしてくれなかった…。

興味をそそられ、恐る恐る聞いてみた。

「……母は、怖い人だったんですか…」

 

「いやぁ…、あなたが生まれるまでは、まさに隊長と中忍がそのまま夫婦になったような関係で、セイランは結婚してからも、ずっと丁寧語で話してましたし…。でも、あなたが生まれてからですねー。 今でも覚えてますよ。サクモさんがまだ赤ん坊だったあなたを抱いて、私に言ったんです。 『カズサ…、気を付けろ、女は子を産むと変わるぞ…』って…。 でもそう言って笑ったサクモさんの顔がすごく幸せそうで…、『オレも早く結婚してー』って思ったもんですよ」

 

カズサさんは当時を思い出したのか、笑いながら窓の外を見て、そして真顔に戻った。

 

「こりゃいかん…、懐かしい話が楽しくて、つい長居してしまいました。お忙しい所申し訳ありません」

 

「いえいえ、私の方こそ、父や母の話を聞かせていただいて、お陰でずっと心の奥で引っ掛かっていたものが取れました…。ありがとうございます」

 

オレ達はお互いに頭を下げながら握手をし、そしてカズサさんは部屋を出て行った。

 

 

 

オレは一人になると、また窓の外を見て、里にともる一つ一つの暖かな灯りのもと食事する人々を思い浮かべた。

 

父さん…、オレ火影になっちゃったよ。

正式に任命を受ける儀式の時にね、大名もさっきのカズサさんみたいに目を潤ませて、オレに火影の菅笠を被せたんだ…

なんでかわかんなかったけど…、きっと、父さんを思い出してたんだろうね。

 

でもさー…、ホントもうちょっとくらい、言い訳してくれてても良かったんじゃないの?

いくら口外無用だからって、もうちょっとくらい、なんか…ねー…

あぁ…、でもオレが父さんの話、遮ってたんだっけ…ごめんね。

 

次、会った時は絶対邪魔しないから、今度は父さんの話、聞かせてよね。

 

でも、まっ、それはもう少し先の話だけどね。

ナルトに無事、火影を引き継ぐまで、それまでこの暖かな灯りをみんなと一緒に守っていくね。

それまでゆっくり、母さんに叱られるといいよ。

もうちょっと、二人で待ってて!

 

 

と、オレが感傷に浸っていると…、火影室の扉をノックもせず奴らが入ってきた。

 

「先生ってばよー!えらく暇そうじゃねーか?火影ってそんな暇なのかよ」

「あのねー…、暇な訳ないでしょ…。今はこうやって里の人たちの」

「あー、そんなことより、とりあえず就任祝いでラーメン奢ってくれってばよ!」

 

「ナルト!せっかくなんだから、もっと高いものにしようってさっき決めたじゃない!」

というのはサクラ。

 

「そうですよ、火影ともなれば料亭の一つや二つ貸し切りにするくらい」

これはサイだ…。

 

サスケは三人の後ろで何も言わずにぼんやり火影室の中を見回している。

 

 

「……どうでもいいけど、なんでオレが奢る話になってんのよ。就任祝いって言ったら、ふつーはオレが奢られる方でしょ!」

 

「いやいや!そんな!天下の六代目火影様に奢るなんてそんな恐れ多い事、できる訳ないってば!だから先生の奢りで一楽!」

「「ナルト!だから」」

「ハイハイハイ!わかったわかった!一楽ね!れっつごー」

ラーメン四人分ならまだマシだ…。サクラとサイに押し切られる前に早く行こう!

 

明朝にはサスケは旅立つ事になっている。

四人が次、揃うのは少し時間がかかるだろう…

 

この四人が揃っている事が、今のオレにとってどれだけの意味を持つか…

その感慨深さと、ラーメン四杯分…、いやナルトはおかわりもするか…

五杯分と比べたら、お安いもんでしょ!

 

そんなことを考え、一人頬を緩めながら火影のマントを脱いで壁にかける。

 

 

 

 

 

しかし、部屋を出ると…

 

そこにはナルトの同期達とガイ班、なぜかハナビと、ついでにヤマトやガイ、紅とその娘までいた…

 

 

 

…やられた

 

 

 

そうか…、全員集合ってことか…、ハナビはネジの、ミライはアスマの分か…

この人数じゃ、一楽は無理だ…。

しかもミライまでいたんじゃ、あそこは絶対無理でしょ…

 

 

 

…はめられた

 

 

 

オレが口を引きつらせているのがマスク越しでもわかるのか、ナルトが勝ち誇ったように言った。

「なー、作戦成功だろ? ぜってー四人で一楽なら渋々OKすると思ったんだよ!」

 

 

「ハイハイ、わかりましたよー…、何処でもおともしようじゃないの!」

 

オレはそう言ってから気付く………、あ、チョウジがいたんだったね…

 

 

ナルトは頭の後ろで両手を組んで、ニシシシと笑っていた…

 

 

 

まったく…、奢られる為の作戦だけは上手く練れるようになっちゃって…

 

そんな事、オレは教えた覚えは………

 

 

 

 

 

……………あったねー…

 

 

 

父さん…、そっちに行くのは「もう少し」じゃなくて、「まだまだ先」かもねー…

ナルトが火影らしく成長するまで、もぉーーーーちょっと待っててよ。

 

 

 

 

 

  -----Fin-----





■□■あとがき■□■

原作準拠なので、主人公=サクモさんが死んでしまうという結末は最初からわかっていたにもかかわらず、最後まで読んでいただき、ありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ

途中、延々と重くて辛い話が続いてしまいましたが、それに懲りずにお付き合いいただきありがとうございました!

サクモさんが死んでしまう事を変えずに、でも、やはり最後は、はたけ父子二人共納得できる終わり方で、ほのぼのと終わらせたかったので、書き終えて満足しています。

前作の「雪花の追憶」と、本作「白き閃雷の系譜」は、原作の脳内補完として、自己満足で書いているものなので、途中や結末など読者様の納得のできるものではなかったかも知れませんが、はたけ父子ファンとしての私の理想です。


とりあえず、書き尽くした感はあるので、しばらく新作を書く予定はありませんが、ネタがあれば短編を書いていきたいです。

それでは、最後までお付き合いいただきありがとうございました!

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