カカシ真伝II 白き閃雷の系譜   作:碧唯

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はたけカカシ

「オレは″白い牙″を本当の英雄だと思ってる…」

オビトはあの日、オレにそう言った。

 

オレだってそう思ってた…。

自慢の父さんだった、憧れてやまない…忍者だった。

 

オレが物心ついた頃には、もう任務に就く事は少なかったけど、それでも僅かな記憶で、父さんが背中に短刀を帯びて出かけていく時の空気は、いつもの「父さん」ではなく、「忍者」で、それがものすごくかっこよくて…、いつかあの背中と並びたいと思ってた。

 

母さんがいないことを寂しいと思った事は一度も無い…

だってオレの記憶に「母さん」は居ないから。

 

オレが生まれた頃はまだ世界は第二次忍界大戦のさなかだった。

戦争は多くの忍の命を奪って、オレと同じ年頃の子供たちは両親揃っている事の方が珍しかった。両親共亡くした子も多い。

だから、オレは父さんしかいなくても、忍者の子供なんてそんなものだと思ってた。

 

それにオレの父さんは里の皆が「天才忍者」「里の英雄・白い牙」と呼ぶ忍者で、オレもそんな父さんが大好きだったから、寂しいなんて思った事はなかったんだ。

 

 

 

オレは、無残にひしゃげている一軒の家を見ていた。

 

周囲の家も同じ様な有様だった。

木ノ葉の里は、九尾に潰された…

四代目火影であるミナト先生が里への被害を極力少なくするため、九尾を里の外に連れ出したけど、多くの民家がこの家の様に跡形もなく、潰されてしまった…。

それでもオレは、この家をすぐに探し出すことができた。

 

 

父さん…

 

父さんと母さんが二人で暮らし、短い間だけど親子三人で暮らし、その後、父さんとオレ二人で暮らした家が…、無くなっちゃったよ…

父さんが愛した桜の木も潰されちゃった…

父さん毎年、桜が咲くの楽しみにしてたのにね…

 

桜が咲くと、父さんはいつも幸せそうに微笑んで、…でもそれは、少し寂しそうでもあって…、子供心にも胸が痛くなるような顔をしていた。

あの桜にどんな想い出があったのかなぁー…

 

優秀な忍者である父さんは、感情を表に出すことはあまりなかった。

声を荒げるようなところは一度も見たことがない…。

叱る時は淡々と諭されるだけだった。でも…いつも、話が長くて回りくどいから、オレはそれがちょっとめんどくさかった…、ごめんね。

 

オレが我が儘を言っても、いつも少し困った顔をしながら、結局は何でも聞いてくれたよね。

オレの願いを聞いてくれなかったのは、「雷遁教えてよ」だけだったなぁ…

「もう少し大きくなったらね」…なーんて言っちゃってたけど

いったいいつになったら教えてくれるつもりだったんだろう…。

教える前に死んじゃうなんて…、思ってなかったんだろうなー…

忍者なのにね………。

 

 

オレは一人で微かに笑いながら、もう一度だけ…、ぺしゃんこになった我が家を見てから踵を返し、変わり果てた里を歩きはじめる。

 

 

 

父さん…、オレもう14になったよ

 

でも、あの頃はまだガキで…、いろんな事を受け入れる事ができなかった…

 

今になって見たら、ちっちゃい家だけどさ…、あの頃はすごく広く感じたんだ。

父さんが死んで、一人でそこに暮らすのが嫌で、すぐ家を出た。

「住まないと家は悪くなる。売ってしまった方がいいのではないか?」

三代目はそう言ったけど、それはできなかった…。

 

なんでだろう…

この家を出て、父さんを思い出させるもの全部失くしたかったはずなのに…

 

そう、あの頃のオレは父さんを全部否定したかった…

 

 

「仲間は命を預け合うんだから何より大切にしなきゃいけない」

そう言ってた父さんは、その言葉通り、仲間を守る為に掟を破った。

そしたら里の奴らは父さんの事を「掟破りのクズ」だとののしった…

 

父さんは間違ってた。 …そう思った。

 

 

あの日、最後に父さんと喋った時、オレが父さんの言葉を遮ってしまったけど、でも父さんは確かに言ったんだ。

 

「掟は守らなきゃいけない」

 

オレにとっては、父さんの最期の言葉になったそれを、オレは父さんの「後悔」だと考えた…。

 

 

だからオレは…、絶対に「クズ」にならない様に、掟やルールを守る事に固執した。

 

そして、オレが「白い牙の息子」じゃなくなることを願ったんだ…

 

それまでオレは何をやっても、「流石、白い牙の息子」と言われてきた。

それが誇らしかった…。

 

でも″白い牙″は掟破りのクズだ。

父さんの事を一切口にしないようにしただけじゃなく

オレは、どうしたら「白い牙の息子」と言われなくなるか考えた。

そんなの簡単だ。全部″白い牙″の上をいけばいい。

 

ちょうど良い事に、忍者学校卒業と、中忍昇級はオレの方が早かった。

″白い牙″は学校を1年間かけ6歳で卒業、7歳で中忍に

オレはたった半年、5歳で卒業し、6歳で中忍になってたから…。

 

次の目標は上忍

″白い牙″は15歳で上忍になったけど、実はそのニ、三年前から昇級は確実だと言われていたらしい…。

ただ、当時最年少で忍者になった″白い牙″をねたむ人も多く、周囲との軋轢を減らすために元担当上忍だった三代目が、三人一組の一人の昇級と合わせるように計らったのだとか…

だからその上を行くには、オレは遅くとも12歳で上忍にならなければいけなかった。

 

オレはそれもやり遂げた。

掟やルールを徹底的に守り、12歳で上忍になった。

 

 

そんなバカみたいな事で、「掟破りのクズ」と言われた父さんを否定できたつもりだった。

 

 

でも、今になって思えば…、オレが父さんを否定したかったのは、罪悪感の裏返しに過ぎない…。

 

あの日、オレは父さんを責めた…。

 

ガキだったけど、父さんを取り巻く状況が、何かがおかしい事には気付いていた。

だってあの任務の後、病院で、父さんと三代目はすごく楽しそうに笑い合ってた…、父さんが本当に皆の言うように「クズ」なら、里長とあんな風に笑い合えるはずがないんだ。

あの噂には何かがある。それにオレは気付いてた…。

気付いてた癖に、感情に任せて父さんを責めてしまった。

それでも、父さんは具合の悪い中、何か伝えようとしてくれたのに、オレはそれを最後まで聞かず遮ってしまった…。

 

それが最後になるなんて…思わなかったんだ…。

 

 

皆が噂するように、父さんが自分で命を絶ったかどうか、当時のオレには分からなかった。

 

でも、もし、本当に自分で命を絶ったのなら…、里の皆だけじゃなく、たった一人の家族、息子のオレにまで責められたからじゃないのか…?

いや、そうじゃなかったとしても、最後にオレに責められた事はひどく辛かっただろう…

 

オレが父さんを追い詰めた…

 

そう思いたくなくて、全部父さんの所為にしたんだ…

 

オレは悪くない…、悪いのはクズの父さんだ…

 

ごめんね、父さん…

 

 

 

 

オレ上忍になったんだ。今は暗部にいるよ…

忍の世界の事、表も裏も知った。

 

だから、今ならはっきりとわかる。

父さんは間違ってない。

 

息子のオレは父さんの想いを否定したけど、

息子でもないオビトは父さんの想いをわかってくれてたよ…

父さんの事、本当の英雄だって…言ってくれたんだ…

 

オレ…、そのオビトも守れなかった…

 

「自分で自分を守れるように、カカシの力で仲間を守れるようになりなさい」

そう言って、オレにいっぱい教えてくれたのにね…

 

 

 

 

 

合同葬儀の会場に遅れて来たオレは、人混みをかき分け、四代目とクシナさんの遺影が見えるところまで進んだ。

 

 

額当てを引き上げて、左眼を開く

 

 

 

 

 

…オビト、見えるか?

 

ミナト先生とお別れだよ…

 

 

 

 

 

不意にオレは目頭が熱くなって、涙が溢れてきた。

 

オレは平然を装って、額当てを戻す。

右眼はいつも通りのオレ…

しかし、左眼から溢れた涙が額当ての布を濡らしているのが分かった。

 

これは、オレが泣いてるんじゃない…

左眼の泣き虫忍者が泣いてるんだ…

 

また、どーせ、目にゴミが入ったとか言うんでしょ…

 

でも、まっ、今日はゴーグルしてないからね、ミナト先生も許してくれるよ。

 

 

 

 

オビト、リン、ミナト先生…

 

みんないなくなっちゃった…

 

 

父さん…、オレ、また一人になっちゃったよ…

 

 

でもね、一人でもオレはもうガキじゃない。

 

…大丈夫だよ。

 

 

 

 

父さんやオビトの想いは、オレが絶対繋いでいくから…

 


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