カカシ真伝II 白き閃雷の系譜   作:碧唯

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願い

オレは執務に戻る為、スオウとカズサは任務の報告の為に、三人で火影室に向かっていた。

 

情報部からしばらく歩いた街角で、任務服の忍達が集まって何やら言い争っていた。

 

今までであれば、一応、里の上役としての威厳もあったのだが、今のオレに敬意を払う奴はそうそういない…

かと言って、このまま見過ごすわけにいかない…

 

声をかけようと近付いて、集団の真ん中にいたのがタキギとシマだと気付いた。

 

騒動の原因はあの噂か…。こりゃ、オレが出ない方が良かったな…

 

しかし、時すでに遅し…、何人かがオレに気付いていた。

「おい、あれ…」「サクモさん…」

 

はぁー…、面倒臭いが仕方ない…

 

オレを見る全員の眼に非難の色が見えるが、オレはそれに気付いていない様にして尋ねる。

「どうしたんだ?」

 

しかし、皆一様に押し黙っていた。

タキギやシマを糾弾しても、立場的にはまだ上役であるオレには面と向かって非難できないって訳か…。

だが、何故二人があの時のメンバーだと知られたんだ…。

 

 

非難の矛先を二人から転ずるためにはどうしたら良いか考えていると、タキギがオレに言った。

「サクモさんがあの時、オレ達を放っておけば火の国は莫大な賠償をさせられることも無かったんです!そうしたら、オレ達だって、大名の依頼で殉職したと英雄碑に名を刻むこともできたかも知れないのに!」

 

オレが言葉を発するより先に、カズサがタキギの胸倉を掴んで言った。

「元はお前らの所為だろ!なんでサクモさんが腕を」

「カズサッ!」

二人の間に割って入って、カズサの肩を掴み言う。

「任務中の事は口外無用だ!」

「でも、サクモさんっ!」

「カズサ…」 頼む…、堪えてくれ…

オレは祈るように言った。

 

「サクモさんの腕が…どうしたんですか…?」シマが聞いてきた。

「どうもしない。お前らには関係ない事だ」

シマに言ってから、タキギに向かって話しかける。

「すまなかったな。 お前の言うように、あの任務の責任は全てオレにある」

「サクモさんっ!」カズサが抗議するが、それに被せるようにタキギがオレに言った。

「そうですよ!アンタも白い牙とか言われるほどの忍なら、もっと上手く切り抜けられたはずでしょう!」

「お前!誰に向かって」殴りかかろうとするカズサを止める…。

「サクモさん、オレ黙ってられません!」

「カズサ…、いいか、もう一度言うぞ?任務中の事は一切口外無用。それが掟だ」

オレがそう言うと、集団の中でささやいた声が聞こえた…。

「任務放棄の掟破りが言うなよなー…」

それを聞いて、またカズサがいきり立つ…

…まったく

 

「確かに、タキギの言うように、あの場を切り抜ける方法があったにも関わらず、オレはできなかった。だから、全ての責任はオレにある」

「サクモさん、あの時、他の手段なんて無かったでしょ!」

カズサはそう言うが、オレは首を横に振る。

「いや、あったんだ…。ただ、オレはそれができなかった…。それだけだ…」

「そんな…」カズサが呟く。

 

「そういう事だ。お前らも気が済んだだろう。もう解散しろ」

オレがそう言うと、皆は口々にオレをそしりながら去っていった。

 

 

皆が居なくなると、カズサの肩を叩いて詫びる。

「カズサ…、すまなかったな。オレの所為で嫌な思いさせちまったな…」

「…サクモさん」

カズサは目にいっぱい涙を溜めていた…。

「なんでサクモさんがあんな事言われなきゃいけないんですか!? あいつらが今、生きてるのはサクモさんのおかげなのに!! なのになんでサクモさんが!!」

「カズサ、サクモさんだって辛いんだよ」

スオウがカズサを諭そうとするが、オレは笑って否定する。

「こんな事、辛くもなんともないよ…」

「そんなっ!」

 

「セイランを亡くした事に比べたら、こんな事…、どうってことないさ。あれ以上に辛い事があるとしたら、オレより先にカカシまで死んでしまう事位だろうな…。それと比べたら、今更里の奴らに何を言われようがどうでもいいよ」

 

先刻の間諜に言った事と同じだ…。「元から牙なんて無いものを、お前らが勝手にそう呼んでただけだろ」…

敵国の奴らはまだかわいいもんだ。

里の奴らなんて、「天才忍者」だ、「白い牙」だと勝手に持ち上げておいて、落とすとなれば、これだもんな…

まぁ、こんなもんだと最初から分かってたから、どんなに持て囃されてもオレは冷めてたのかも知れないな…

 

「でも、任務に行ってないオレにだってこんなのおかしいってわかりますよ!? 里の奴ら全員が誤解してるんですよ!? それでいいんですか!?」

スオウまで熱くなってしまった…

 

「全員じゃないだろ…、少なくとも… お前らと火影様は分かってくれてる。オレはそれで十分だよ」

オレが笑ってそう言うと、カズサは目をゴシゴシ擦りながら笑って言った。

「何言ってんすか…、まったく…。助けた奴にまであんな口利かれてるのに…」

 

「オレは任務に就かないから里の奴らにどう思われようが構わんが、タキギやシマはまだ新人上忍で実績も少ない。これからいろんな奴と組まなきゃいけないってのに、非難されたままじゃ、チームワークもあったもんじゃないだろ? あいつも自分が忍として生きてく為に必死なんだよ…。 まぁ、タキギもいつかは分かってくれる。いくら大名の依頼だからって、あんな任務じゃ例え死んでても英雄碑になんて名を刻めないって、そのうち気付くよ」

「フハッ、しかも自分でトラップに嵌って死んでちゃ無理でしょ!」

「カズサ…」「あっ」二人してスオウに目をやる…。ま、こいつならいいか…

 

「まぁ、サクモさんが出張ったって聞いた時点でただ事じゃないなって思ったし、怪我も何かあったんだろうなとは思ってたところに、あの胡散臭い噂ですからね…。さっきのカズサの憤り様見てもだいたい読めてきました」

 

「ハハ…、まぁ聞かなかった事にしてもらってだな…、お前も口外無用だ!いいな!」

スオウの肩を叩いてそう言うと、カズサが尋ねてきた。

「でもサクモさん…、オレやっぱりわかんないっすよ」

「ん?」

「さっき、サクモさんが言ってたこと。切り抜ける方法があったのにできなかったって…、そんなの本当にあったんですか?あったなら、なんで?」

 

「…あの時、オレは三つの選択肢を考えた。ベストなのは二人を救出奪還して任務に戻り、最終的に捕虜も連れて里に帰る事。だが、それはあそこに行って状況判断してすぐ無理だと分かった」

「そうですね…」

「それで、オレは捕虜の交換を選んだ」

「まぁ、オレも嵌めましたけどね…」恨めしそうにカズサが言う…。

苦笑いしながらオレは続ける。

「それが二つめだった。でも三つめの選択肢もまだあったんだ。オレはそれをやり遂げられた自信はある…。でもできなかった…。それが本当は最善だったのかなぁって今でも考える時があるよ…」

「やり遂げられたけどできなかったって、なんすか?トンチみたいじゃないっすか」

「フッ…、教えない」オレはニヤリと笑って言う。

「「えぇぇぇぇぇ!そりゃないっすよー」」

 

「皆が考える理非曲直、善悪が必ずしも同じとは限らないんだよ…。オレはそれをどうしても正しいと思わなかった。でも、他の人にとっては正しい事だと考える人もいる。だから、オレ自身は自分のやった事を間違ってないと思ってるけど、オレを非難する人達もまた間違ってないんだ」

 

「意味わかんないっす…」カズサが言って、スオウも頷いた…。

 

「まぁ、人間なんてのはな、世の中の人全部に理解してもらおうなんて、土台無理な話なんだよ。オレがこういう状況でも恵まれてると思うのは、少なくともオレ自身が大切に思う人達は皆、オレを理解してくれてるって事だ! 十分幸せ者だろ?」

 

オレが、己自身より大切だと思う存在

セイラン、スオウ、カズサ、火影様、あと…、何より大切なカカシ…

 

真っ青な空を見上げて、願いを口にする。

「まぁ、カカシはまだ年齢的にも理解するのは難しいだろうから、それは辛いけどね。それでも、生きてさえいてくれたら…。いつか分かってくれる事を期待するしかないな…。オレの選択を理解してくれるような忍になって欲しいなぁ…」

 

「なりますよ!なんて言っても、サクモさんとセイランの子供ですからね!どっちに似てもなるでしょー」

「ハハ、そうだと嬉しいなー。 そうだ…、それより、早く帰らないと!」

ふと、出かける前の火影様の渋い顔が思い浮かんだのだ…。

 

 

オレが部屋を出る前よりも更に増えた様に見える書類に囲まれて、火影様はスオウの報告を聞いている。

一緒に行っていたオレはそれを聞く必要が無かったので、少しでも書類の山を低くするべく格闘していた。

 

「そうか…、あの時の間諜(スパイ)だったのか…」

火影様が呟いた言葉を聞きながら、オレは視線を感じて目を向ける。

何を言おうか迷ったが、結局、頷いただけで書類に目を戻した。

 

何も言葉にできなかったのは、間諜を捕らえたところで、オレにとっては何一つ変わらないからだ…

 

一つの区切りである事は確かだが、それに安堵するよりも、今は別の事がオレの頭を占めていた。

里の奴らが、オレを無能だ掟破りだと責めるのは仕方ない。

元から、掟を破る事になることは覚悟の上で任務に就いたのだから…

しかし、オレだけでなく、タキギやシマにまで…か…

 

まいったな… どうしたもんか…

 

オレが火影の器で無い事は、あの人よりもオレ自身が重々分かっている。

それは互いに一致しているのだが、相容れない部分もある。

あの人はオレを火影に就かせない為には、オレの生死は問わない…、というか、どちらかと言えば、死んだ方がいいと思っておられるのだろう…

 

残念ながら、オレはまだ死ぬわけにはいかないんですよ…

 

かつてのオレなら、己が死ぬことが里の為になるならと考えたかも知れない。

しかし、セイランが死んで、オレは忍の生き方が分からなくなった。

里を守る為に忍としてやってきたことが、愛する人の命を奪う事になったから…

 

それでも、今もまだオレが忍として生きているのは、オレの大切な人たちを守る為に他ならない。

ただ、その大切な人たちが暮らすのが「里」なだけだ

火影様が治める里、スオウやカズサが住む里、カカシを育んでいく里

だから、オレはそれを守る。

 

オレが望むのは、それだけなんだけどなぁ…

火影になりたいなんて最初っから思ってもないのに…、なんで皆オレを放っておいてくれないんだろう…

 






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