カカシ真伝II 白き閃雷の系譜   作:碧唯

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仇(かたき)

あれから、ふた月あまりが過ぎ…

案の定というか、危惧した通りに、″白い牙″Sランク任務失敗の噂は木ノ葉隠れの里、どころか、火の国中でも知らぬ者はいないのではないかと思うほど広まっていた。

 

『土の国の隊商が三度襲撃された。その隊商を大名の依頼で密かに警護していたのが″白い牙″と木ノ葉の忍だったが、仲間を捕虜に取られた″白い牙″は、身柄と引き換えに任務続行を諦めた。その為に隊商と護衛の岩隠れは皆殺し、かつて岩隠れに奪われた先代大名の宝物(ほうもつ)と輸入品は全て賊に奪われた』

 

まぁ、ほぼ真実だから仕方ない…

宝物についても確認していない以上、「無かった」とは言い切れない。

 

とはいえ、実際任務に就いた隊員ですら知らなかった事実までが、周知の事となってしまった。

依頼主と里の上層部しか知らない筈の、最高機密Sランク任務の内容がこうも簡単に白日のもとにさらされる事自体が異常なのだが、依頼主が大名であっただけに、その側近から漏れたという事も考えられない訳では無い…。

 

悪い事に、その噂は岩隠れまで届く事となり、土の大名と土影オオノキ殿は大いに怒った。

三国貿易の協定は解消され、土の三回分の貿易品代金は火の国が支払う事になった。

まぁ、それで納得してもらえたので、火影様も大名も、戦争になっていた場合の損害と比べれば至極些細なものだと言っていただいたが、やはりオレ自身は申し訳なく、あの時に他に取れる手段があったのではないか…と、何回も繰り返し考えていた。

だが、何度シミュレーションしても他に方法は無かった…、あの日オレが選べなかった三つめの選択肢を除いては…だが

 

 

そんな中でもオレは火影様の補佐役として、今までと変わりなく執務に追われていた。

「里の者達の心情を思うと、私は謹慎していた方がいいのではないですか?」と言ったが

「今まで通りである事が、お前に非が無かった事の証明にもなる」と、火影様は仰る。

「間違った事はしていないという自負はありますが…、一切非がなかったかと言われると…」

「ワシもお前が間違った事はしておらんと思っとる。だから不問にしたんだ」

「はぁ、ありがとうございます…」

「だいたいお前に休まれるとワシの仕事が片付かんのだ!」

「そういう問題ですか…」

なんだかんだ言って、傍に置く事で守ろうとしてくださっているのだ…。

 

 

ある日のこと、いつもの様に大量の書類に埋もれていたところ、廊下を走ってくる足音に気付き、火影様と顔を見合わせる。

「火影様!大変です!!」書庫の管理をしている中忍が火影室に飛び込んで来た。

「なんだ!?部屋に入る時はノックぐらい」

「そんな事より」おいおい…、火影様に向かってそんな事とは…

「火影様の水晶が盗まれました!」 あぁ、確かにそれと比べたら、そんな事だったな…

「何だと!? お前らどんな管理を!」

「申し訳ありません!!」

中忍は膝に頭が付くんじゃないかという位に頭を下げて謝った。

 

「火影様、お叱りはごもっともですが、それは後程。それで、気付いたのはいつだ?最後に確認したのは?」

「ハッ、気付いたのは今です。15分前の巡回の時には確かにありました」

「すぐ報告したのは正しかったな。それなら、盗まれたとしてもまだそれほど遠くには」

指示を伺おうと顔を向けると、火影様は「暗部を」と言いかけて、言葉を止めた…。

 

オレは現在任務遂行中の忍者と、非番の忍者が一覧になっている書類に目を通す。

「スオウとカズサが非番です!」

「すぐ呼べ!」

「ハッ」

伝令係のところに駆け込んで、二人を呼ぶように伝える。

 

ほどなくして、二人が火影室にやってきた。

事情を説明すると

「それは暗部の領域では?」とスオウが尋ねる。

「暗部は今、滝隠れの事後処理で動いてもらっている」

オレが答えるとスオウがハッとした顔をした。

滝隠れの事後処理とは、例の土の隊商襲撃事件の事だ。

通常の任務では無いので、火影直属部隊である暗部を動かしてもらっていたのだ。

二人一組(ツーマンセル)ですか?」とカズサが聞くので

「いや、オレも行く」と言いながら、既にオレはホルスターを着けて出動の準備をしていた。

「「は!?」」「何!?」二人と火影様が驚いた。

「暗部が動けないのは私の責任でもありますから」

そう答えると、火影様がオレの右腕を見て仰った。

「しかし、まだ完治しておらんだろう…」

「まぁ、短刀は使えませんが、術は使えます。二人のバックアップ位には動けるでしょう」

「しかしなぁ…」火影様は渋っている。

「私が今後任務に就く事はほとんどないと思います。あの任務が最後では私も寝覚めが悪いんですよ」

「ふぅー…、分かった。早う終わらせて、これの続きだぞ!」

山積みになった書類を指して言われた…。

「あぁー…、なるべく進めておいていただけると…」

「早う行け!」

三人で顔を見合わせて笑い、火影室を出る。

 

 

表に出るとオレはスオウに声をかけた。

「ところで、スオウ隊長。提案があるんですけど」

「な、な、な、なんですか!?」

「追跡ならカカシの忍犬を使ってみるのもよろしいかと」

ニヤリと笑いながら言う。

 

「は!? カカシくん、忍犬飼ってるんですか?」

「すごいでしょ?うちの子」オレは自慢げに言った。

「うわぁー、他の親子なら親バカって言えるけど、サクモさんとこだけは実際すごいからなぁー」カズサが言う。

「ハハッ、オレもおまけで契約させてもらってるから口寄せしてみるね」

 

親指を咬んで印を結び地面に右手を付ける。

 

ボンッ ボンッ ボンッ と連続して白煙があがり、八匹の忍犬が現れた。

 

「なんだ、父上か」

パックンが喋るとスオウとカズサが唖然として口を開けた。

「悪いね、パックン。追跡が得意だって言ってたから、お願いがあるんだ」

「追跡なら任せておけ! しかし父上、言っておくがカカシが第一位の契約者だからな。カカシが途中で口寄せしたらそちらに呼ばれてしまう。早く済ませよう」

「そうだね」

 

「「ぶっ!!」」スオウとカズサが二人して吹き出した。

「なんすか、これ…」

パックン達が着ているちゃんちゃんこに描かれている「へのへのもへじ」に気付いたようだ。

「可愛いでしょ。カカシの忍犬っていうマークなんだ」

 

「みんな、この匂いね」管理係から借りた水晶の座布団を八匹の忍犬に差し出す。

 

座布団の匂いをかぐと、八匹はそれぞれ空に向かって鼻をヒクヒクさせた。

 

「父上、こっちだ!」パックンが駆け出し、オレはスオウとカズサの背中を叩いて、パックンの後を追う。

 

 

しばらく忍犬達の後を追って、気付く…

「スオウ」呼びかけると、前を行くスオウが振り返りコクリと頷く。カズサも頷いた。

 

フッ…、お前らとなら言葉は要らないんだよな…

 

「パックン、このまま行くと海に出る。急ごう!」

「了解!」

 

 

海岸に出たところでようやく敵の姿が確認できた。

「パックン、ありがとう!助かったよ! 解!!」

戦闘になる前に口寄せを解く。

 

敵が印を結び始め、それに合わせてカズサが印を結ぶ。

 

海岸に向かったところで敵を霧隠れと想定し、水遁に対抗する為、土遁の使えるカズサが前に出たのだ。

この三人一組(スリーマンセル)なら、特に指示がなくとも阿吽の呼吸で動ける。

 

海水が龍の形になりオレ達に襲い掛かるが、カズサの立てた土流壁が全てはね返した。

男は自らの術で作った水流に飲み込まれ、断崖の下でようやく止まった。

 

水が引いた瞬間を狙って

「雷遁・雷鞭(らいべん)の術」

稲妻の鞭をあてて、しばらく動けないようにしておく。

 

 

オレは男の荷物から水晶玉を取り出し、割れていないか確認してからスオウに渡す。

ふぅー…、危ない…

さっきので割れてたらどうやって火影様に謝ろうかと思ったのだ…。

 

「白い牙…」男が呟いた。

 

オレを見て白い牙だと分かってたなら…

「雷遁使いの前でてめェで海水かぶるなんて…、お前バカだろ…」

 

「報復か…」男は唸るように言った。

 

「何?」

一瞬意味が分からなかったが、オレの脳裏に過去の記憶が蘇る…。

二人の忍が建物の陰でささやき合っている… あの時の光景…

オレはあの時と同じ様に、全身の血が音を立てて引いていくのを感じていた。

 

「お前…、セイランの…」

自分でも驚くほど掠れた声だった…。

 

「気付いてお前が追ってきたんじゃないのか…」

男は鼻で嗤いながら続けた。

「フフッ。場所もちょうど、この先だったよ」

オレを嘲笑っているかのようだった…。

 

 

無意識に拳に力がこもるが、オレは天を仰ぎ、鋭く息を吐く

 

「フゥーッ…」

 

こわばった拳を開放するように力を抜いていく。

 

「うちの里の奴らにも困ったもんだな…、6年以上お前を野放しにしてたわけか…。道理で書庫までやすやすと忍び込めたわけだ…」

 

「どういう事ですか?」スオウが尋ねた。

 

スオウとカズサはセイランの死の真実を知らない…。

「セイランは…ただ任務中に死んだんじゃないんだ…。任務中に出くわした霧隠れの中にオレに恨みがある奴がいて、そいつに仇討ちとして殺されたんだ。 恐らく、コイツは当時から木ノ葉に潜入してた間諜(スパイ)。オレ達が夫婦だと…コイツが知ってて教えたんだろう…」

 

男はバカにするように「ご名答!」と言った…。

スオウとカズサが殺気をみなぎらせる。

「殺せよ」オレの雷撃で筋肉が収縮し動けない男は観念したのか、吐き捨てるように言った。

 

「ご期待に添えなくて申し訳ないけど…、復讐に復讐で返す気は無い」

 

「「サクモさんっ!」」相変わらず、スオウとカズサは声を揃えてオレに訴える。

 

「フンッ、白い牙もいまや形無しだな。牙を抜かれたか」

 

「ククッ、元から牙なんて無いものを、お前らが勝手にそう呼んでただけだろ。 まぁ、目の前で傷つけられてたら、そうだなぁ…、すぐ死なせるのは勿体ないから、生きながら自分の身体がどんどん壊死していくのを感じられる位には雷撃をくれてやるんだけどな」

その様を想像して笑いながら男を見下ろすと、男の眼に戦慄の色が宿る。

 

「お前を殺ればアイツが帰って来るっていうなら、何べんでも殺してやるよ…」

 

「サクモさん、コイツ許すんですか!?」スオウが尋ねた。

カズサは冷たい殺気を放って、男がこれ以上何か言えばすぐにでも殺るつもりだろう…。

 

「許す…か、赦すなんて大層なものじゃないよ…。復讐するのは簡単だ。でもな…、セイランの復讐でコイツを殺ったら、オレの中でセイランの命とコイツの命を同等に扱ってしまうような気がして…、それだけはしたくないんだ…。セイランの命は、コイツの命なんかで代わりができるものじゃない…。 悪いが、オレにとってお前は仇討ちする価値も無いってこと」

 

そこまで言った時、先刻の水流が当たった断崖の上の方から、小石がコロコロ落ちてくるのに気付いた。

 

「…!? 崩れる!!」

言いながら、オレは雷撃の影響でまだ動けない男を抱えて横っ飛びに飛ぶ。

 

「…っ」

右腕が完治していないのを忘れていたオレは、男を落としそうになって庇った為に、変な倒れ方をしてしまった…。

 

「「サクモさんっ!!」」また二人が声を揃えて言った。

「大丈夫だ…」 頭をぶつけたようだが、手で触れても血も出ていないようだし、ま、大丈夫だろう。

 

頭をおさえながら立ち上がるオレを、男が不審そうに見て言う。

「なぜオレを助けた」

「なぜって…、オレの雷撃でお前が動けないからだろ」

「オレは仇だろうが」

「そんなにオレに仇討ちしてほしいのか…? まぁ、そう死に急ぐ事もない。うちの情報部はそんなに甘くないからな。6年以上も野放しにしてて面子を潰されてるんだ…、奴ら張り切るだろうなぁ。ま、せいぜい健闘を祈るよ」

笑いながらそう言うと、男は顔をこわばらせた。

 

 

「カズサ、悪いがコイツを情報部まで………、あ…、すまん…。スオウが隊長だったな…」

いつもの調子で指示してしまった…。

「「ブッ!…ハハハハハ!」」二人が全く同じタイミングで吹き出して笑った…。

 

カズサが男を縛り上げるのを見ながら、オレはばつが悪いのを誤魔化すように本音を漏らす。

「しかし、まぁ…、やっぱりオレは火影室で机に向かってるより、外で任務に就いてる方が性分に合ってるよ」

「まぁ…、たまにはこういうのもいいですけど、やっぱりサクモさんには…」

 

スオウが何が言いたいかは推し量れたが、それには触れずに答える。

「じゃあ、隊長、帰りますか。早く帰らんと火影様がご立腹だ」

 

 

情報部に行き、男を預け経緯を説明すると部隊長は青ざめていた…。

ま、そりゃそうだ…、6年以上も潜入を許し、里の中枢にまで忍び込まれていたとなれば、沽券に関わる。

 

6年前、オレは携わる事が出来ないからと、霧隠れの間諜についての調査を、欠片すら己が知る事が無いように締め出してきた。

それが、こんな形で結末を迎えるとはな…

 

 

…セイラン、お前は仇を取って欲しかったか?

 

ごめんな…

 


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