里に帰る途中で「任務失敗」の一報を先に飛ばしてあったので、火影室に行くと、既にダンゾウ様、ホムラ様、コハル様が揃っていた。
「申し訳ありません」
オレは最初に頭を下げ、謝罪する。
その後、二つの事柄をあえて除き、あらましを報告した。
すると、ホムラ様が苦い顔をして仰った。
「カズサは何故新人二人を残してその場を離れたんだ…。そもそも、タキギとシマが指示に従わず動いたのは命令違反、トラップに掛かったのは自業自得だろう。それと捕虜の交換をするなど…、お前もこの件が謀略だと分かっていただろうに…その証人をむざむざ返してしまうとは…」
「申し訳ありません。私が一人で敵陣に潜入した為、カズサはそのバックアップに備え、非常時の為に捕虜を安全な場所に動かしたのでしょう。タキギとシマも、私とカズサの不在により指示が行き届かなかった結果です。全て私の行き過ぎた独断専行が招いた結果です…」
「ほぉ、全てお前の責任だと言うのか?」
ダンゾウ様が、また口元に薄い笑みを浮かべ言った。
「はい、三人に落ち度はありません。捕虜の居場所も、カズサは口を割りませんでした。私が居場所を推測し、私の判断で交換に応じたのです。任務失敗と捕虜を取り逃がした責任は全て私にあります。申し訳ありません。お咎めは如何様にも…」
オレが再び頭を下げると、火影様が仰った。
「ふむ、分かった。しかし、これは大名の依頼だからな、話が話だけにワシが直接赴いて報告してくる。処遇はその後だ」
「それでは私も同行いたします」
「いや、お前はまず病院に行って来い」
火影様は優しく微笑まれてそう言った。
「では、後の事はヒルゼンが帰ってからだな。ワシらはこれで退席するぞ」
ホムラ様とコハル様が席を立った。
ダンゾウ様はまだ何か言いたげだったが、同じ様に席を立った。
オレは耳を澄ませ、三人の足音が遠ざかるのを確認した。
確実に三人が離れてから、声をかける。
「火影様…、今から報告する事は、どうか火影様お一人の胸の内に留めてください。それができないようでしたら、申し訳ありませんが、私は報告できかねます」
火影様はオレをジロリと睨みつけながら言う。
「お前は師匠でもあり、火影でもあるワシに、隠さねばならんことがあるのか?」
「はい、父を知らない私にとって、私が6歳の頃より師匠であった貴方は、父でもあります」
「それでも言えんというのか?」
「言えないという訳ではありません。ただ、大名への報告には一切この件を入れないでいただきたい。また、今後この件に関して、どなたにも話さないと仰っていただかないと…」
「聞いてから判断する。サクモ、長い付き合いだ、互いの性格は十分に分かっておるだろう」
…父とも思うからこそ、報告するのを躊躇ったのだ。
これを知れば一番心を痛められるのは火影様だ。
しかし、里長として、知らないでいるには事が重大過ぎた。
「……わかりました。先程の報告で、私は二つの事柄をあえて抜きました」
「ふむ」
「まず一つめ、タキギとシマが掛かったトラップです」
「時空間忍術の札だと言っておったな。 時空間忍術… まさか…、お前」
「はい、あの術式は扉間様考案のものに間違いありません。あの術式を知っているのは扉間様の側近か、私の様に孫弟子にあたるような者だけです。他里の忍があれを使うとは考えられません」
「うーむ…」
火影様は考え込んでしまわれた…。
しばらく時間を置いてから、オレは話し出す。
「二つめです。岩隠れの装束を着ていた謎の部隊は、″白い牙″が行くことを知っていました」
「それはお前を見れば、″白い牙″だとわかる者も多いだろう」
「確かに、捕虜にした男は私をひとめ見て白い牙だと言いました。しかし、問題はそこではありません。その男の受け渡しの時に、別の男が言ったのです。 『ラウ!だから″白い牙″に気を付けろって』と…」
「何!?」
「戦時中の岩隠れならともかく、ここ数年任務に出ていない私が来ることを元々想定していたというのは…、どうにも解せません」
「………」火影様は先刻より厳しい顔になって黙り込んだ。
「私が行くことを知っていた…というより、私が行く前提の謀略だった…という事なのではないでしょうか?」
あの一連の罠は木ノ葉をおびき寄せる為、というよりは、究極の状態で木ノ葉をおびき寄せる事で、オレが行かざるを得ない状況にしたのでは?という事だ。
オレが自ら志願する事も織り込み済みだろうが、あの時、ダメ押しで推薦したのは…
「ダンゾウ…」火影様が唸るように呟いた。
オレはそれを遮るように呼び掛ける。
「火影様。これは全て推測にすぎません。そして、この二つの事柄はこのように要らぬ憶測を呼ぶ結果になります。ですので…、どうか火影様お一人の胸の内にと言ったのです…」
「しかし、大名には言っておかんと、お前を処分すると言ってきたらどうするんだ」
「それならばそれで仕方ありません。元より、私は大名の依頼を遂行するつもりはありませんでしたから、お咎めが無いとは考えていません」
「フン、『戦争は何としても回避します』か」
「ハハッ、よく覚えていらっしゃる。大名には申し訳ないですが、私は先代大名の遺品など毛頭ありませんでしたから、処分があるのも当然です」
しばらく考え込んだのち、言葉を続ける。
「この一連の謀略が私を陥れる為のものなら…、私が生きて里に戻った事は不本意でしょう。何か次の手を考えるでしょうね…」
「そうだろうな…。しかしそれならば、なおの事、その二つの真実を表に出すべきではないのか? でないと、お前は余計に立場が悪くなるぞ?」
「いえ、それでも出すべきではありません。土の隊商を三度襲っている襲撃部隊が使うのが扉間様の術だと他国に知られては大変な事になりますし、国内、里内も大混乱になります。里中が疑心暗鬼に陥るような事は避けなければなりません」
「うーむ…………」
火影様は目を瞑って考え込んでしまった。
オレの言う正論と、オレを案じる師匠としての気持ちの間で揺れているのだろう…。
だが、火影として取るべきは弟子ではなく、里の安泰だ。
ま、オレにはそれができないから火影の器では無いのだが…。
しかし、この方は「火影」だ。
何としても里を守ってもらわねばならないし、オレは弟子として、この方が「火影」である事を妨げたくはない…。
オレは己の命を懸けて、この方が治める里を守り、この方の意志を守る事を誓ったのだ。
貴方には何としても、「火影」として、正しい判断をしていただきます。
「貴方が私に言ったんですよ? 人の上に立つ者は冷徹に、時に厳しく、非情になる事も必要だと…。そして、初代様の意志を貴方はこうも言った。『忍とは目標に向け耐え忍ぶ者』だと…。貴方の目標を見失ってはいけません」
「ふーむ…。 しかしなぁ、なんでお前を貶める必要が…」
「まぁ、アレでしょう…。次期火影とかいう里の奴等のバカな話からでしょうね…。私みたいな者が火影になっては里の為にならない…と思われたのでしょう…」
「バカな話か?」
「そうですね、まぁ、この件で今後そんな話をする奴等もいなくなるでしょう。私にとって、それはありがたい事です」
「…フン、まぁいいわ、その件はこれが落ち着いてからだ。お前は早う病院に行って来い。あの新人上忍の応急処置だけなんだろう?」
「やった事が無いって言うのを無理やりやらせましたからね…、実は少しだけ不安だったりもします…」
オレが苦笑いしながらそう言うと、火影様は言葉とは裏腹に面白そうに笑って言った…。
「ハハハ!そりゃアカン!早う行け!」
「アカンは無いでしょう…。ご自分が上忍昇級を承認した医療忍者の処置ですよ…?」
はぁー…
病院に向かうというだけで憂鬱になる…。
元より病院なんて楽しいところでは無いが、どうしてもセイランが死んだ時の事を思い出すからだ…
しかも季節がちょうど同じ頃… 年の瀬だ…
どうしても憂鬱になってしまう…
重い足取りで病院に入ると、受付にシマがいた。
オレも火影様の所に行ってそのままここに来たから、薄汚れてボロボロだが、彼女も家に帰ってないのだろう…、オレに負けず劣らず薄汚れている…
「シマ、お前も治療か?」
「いえ、私はかすり傷だったので自分で治せます」
「まぁ、そうだな…」
「サクモさんの応急処置したのは私ですから…、気になって…」
オレはその時の事を思い出した。
「あぁ、そう言えば、あの時は怒鳴っちまって悪かったな…すまん」
「いえ… クスッ 医療忍者なんですから、怪我人を前にオロオロしてちゃダメですよね」
「…? ま、まぁそうだな…」 なんで笑ったんだろう…
オレが不思議そうな顔をしていたからか、シマは気付いてその訳を話した。
「あ、ごめんなさい。 私、セイランと忍者学校で同期だったんです」
「!?」
「まだお二人がお付き合いもされてない頃だったんですけど、セイランに聞いた事あるんですよ。噂の″白い牙″とよく一緒の隊になるみたいだけど怖くないのー?って」
″白い牙″はともかく、噂のってなんだよいったい…
「そしたらセイランが、全然怖くない、怒るのは隊員の命に係わる時だけだって。それで、自分は悪くないのに、いつも『すまん』とか『悪い』とか謝ってるのって、笑ってたんです。だから、それ思い出してホントだーって思っちゃったんですよ」
「………ハハ、あいつそんな事言ってたのか…」
「でもその時から、セイランすごく嬉しそうで、あぁサクモさんの事、好きなんだなって思ってたんですよ」
「…ハハ」 どうもこの手の話題は苦手だ…
「じゃ、じゃあ、診察行ってくるよ」
と、オレが言うとシマも
「一緒に行きます」と言ってついてきた…
結局のところ、オレはそのまま入院になった…
担当の医療忍者が言うには、応急処置は「奇跡的に」うまくいっていた。今後このような事があったら、必ず専門の知識がある医療忍者に整復してもらえと言われた…
今後このような事が無い事を祈ろう…
夜になると、任務中にシマが処方してくれた薬が切れて痛み出し、ついでに熱まで出たので、最悪な気分だったが、それでも任務に出る前は帰って来られない事も覚悟して出たのだから、まぁ入院で済んで良かったってことだろう…
そうだ…、木ノ葉の痕跡は全て消した。戦争は回避できた筈だ
そして、四人共無事で戻って来られた…
これ以上何を求めるって言うんだ…、これで十分だ…
疲れている筈なのに、痛みのせいかなかなか寝付けず
色々思考した事もあり、一睡もできないまま朝を迎えた。
病院の受付が開く時間になると、またシマがやってきた…。
花を持ってきて、必要なものが無いかと聞いてきたが、後でカカシに持って来てもらうからと断った。
昼前に、カズサとスオウが見舞いにやってきた。
シマはそれまで居たが、二人がやって来たので入れ違いに帰った…。
二人には入院になった事を知らせていなかったが、何故知ったのかは聞くまでも無かった。
スオウの嫁さんはこの病院の医療忍者だったからだ。
スオウは任務の内容や成否は知らずとも、オレが任務に出て、怪我をして帰って来たという事だけで、相当困難な任務だったと分かっていて、自分が行けなかった事をひどく悔しがっていた。
カズサの方はシマが居た事を不思議そうにしていたので、一応言い訳をしておく…
「応急処置がうまくいってたか心配して、昨日も来てくれてたんだ」
カズサとスオウが二人顔を見合わせて笑った…
「何だよ、お前ら」
「いやぁー、相変わらずっすねー」カズサが言った…
「何がだ」
「そう言えば、シマを怒鳴りつけてるの見て、
「は!?」
「オレ、サクモさんとは結構組んだけど、あんな風に怒鳴ったの見たのは、あの時と今回、二回だけっすね」
「お前…、あそこに居たのか…」
10年以上の付き合いになるが、初めて知った…。
「オレだけじゃなく、コイツもいましたよ」
スオウを指して言った。
「まぁ、サクモさんにとっちゃ50人近くいた中の一人だから覚えてないと思いますけど、オレ達にとっちゃ、ただ一人でしたからね…、あの時の事は今でも忘れられません」
スオウがしみじみと言う。
「あの時、先陣切って走っていったあの背中を、いつか越えてやろうと思ってやってきたんすけどねー…、越えられないまま半分引退っすからねー」
カズサは聞き捨てならんことを言った…。
「おい、それオレの事か? 半分引退って…お前なぁー」
「いやー、でもこの数年任務に就いてなかったし、流石にちょっとは鈍ってるっしょって思ったら全然…。あの短刀と見せかけてーからの千本はマジでしびれました!惚れましたね!」
「クッ…、だいたいあんな暗闇でチャクラ刀抜けるかっての。目立ちすぎるだろ。しかし、お前の洞穴の入り口偽装工作も良かったぞ。あれは惚れたな!」
「うわぁぁぁぁー、オレも行きたかったぁっ!」スオウが叫んだ。
「「「ハハハハ!」」」
その後、オレに出された病院のとても美味しくなさそうな昼食を見て、奴等はうまい飯を食いに行こうと出ていった…。
…三人でメシ食いに行きましょうって言ってた癖に。
夕方になると、任務から帰ったカカシが、オレが入院したと聞いてやってきた。
着替えなど持って来てくれたかと思ったら、持って来たのは本だった…。
いや…、それはそれで嬉しいけどもだな…
しかも、持ってきた本は、オレがカカシの為に随分前に買ってやった、忍術と体術の指南書…
これは、いったい…
カカシは思いっきりジト目でオレを見て言った。
「父さん、怪我なんかしちゃってさ…、久しぶりの任務で気が緩んでたんでしょ?」
命懸けの任務から帰ってきて、一番厳しいのが我が愛息とは…
「ハハ…、そうだな。やっぱり鈍ってたかも知らんな。この本読んで勉強しなおすよ。ありがとな。 そうだ、次は着替えなんかも持って来てくれると父さん助かるなー」
「わかった…。それで、その腕…、治るの?」
…元通りになるか、心配してくれたのか。
「うん、しばらく動かせないから筋肉が落ちちゃってリハビリは必要だけどね。任務に一緒に行ってた医療忍者の人の応急処置が奇跡的にうまくいってて、神経も血管も問題無いらしいから…リハビリしたら元通りに治るよ」
「奇跡的にって… どうよそれ…」
「ラッキーだよな。カカシは怪我しないようにしなさいね」
能天気にそう言うと、カカシはまたジト目でオレを見た。
今のオレがそれを言ってもあまり効果はなさそうだな…
「じゃあ、明日非番だから、ついでに着替えも持って来るよ」
「非番」と「ついで」が全く繋がってないけど、まぁ、突っ込まないでやろう…
「うん、多分明日退院させてもうから、着替えは一着でいいよ。ここに着てきたのが任務に行ったままだったから、汚れててね…」
「え!?もう明日退院なの?」
「悪いのは腕だけだからね、ベッドに寝てると退屈で…、ほら、余計鈍っちゃうから」
「ふーん…」と、またジト目でオレを見て「じゃあ明日ね」と言って、帰っていった…。
なんか…もう、全然信用されてない気がする…
まぁ、実際のところ、退院したいのは、明日には火影様が帰られるだろうと予想しているからなのだが、カカシに言ったのも全くの嘘でも無い…
なんせ、暇つぶしが忍術と体術の指南書だけなんだから…
病院の夜は早い…。ただでさえ冬は暗くなるのも早いというのに、暗くなったらすぐに夕飯だ…。
その後、消灯までの短い時間何をして過ごそうかと悩んだが、昨晩が寝られなかったお陰で、オレは早々に眠ってしまった。
おかげで夜明けの前から起きていた。
仕方なく指南書を読んで時間を潰すが、読むとわりと面白くて読みふけってしまう…
朝食を食べて、担当の医療忍者を探しに行くと、午後からの出勤だと衝撃の事実を告げられたので、今日退院しますと自ら宣言してやった…。
しかし、オレはモンスターペイシェントではないので…(たぶん)、担当の医療忍者が出勤するまでは待つことにした。
ベッドで指南書を読んでいると、またシマがやって来た…。
…まいったな。どうしたもんか…
「あぁ、もう退院するから大丈夫だよ」
そう言うと
「じゃあ、お家の事不便ですよね?お手伝いに行きます」と、彼女は答えた。
曖昧に断るより、はっきりとさせた方がいいだろう…
「いや、そこまでしてもらう筋合いは無い」
「でも…」
「こうやって病院に来てもらう必要も無いんだ。お前の応急処置はうまくいっていたし、万が一うまくいってなかったとしても、それはオレが命令した事だからお前が責任を感じる事じゃない。任務以上の事をお前がオレにする必要は無い」
「サクモさん…。まだ、セイランの事…」
「オレがセイランを想う事と、お前がオレの世話を焼こうとするのは関係無いだろ? だけど、それを繋げて考えたいのなら、はっきりと言っておくよ。オレはセイランを忘れた事はない。オレの中ではまだあいつは生きてるし、何も終わっちゃいない」
オレはいつになくイラついていた。
オレは自分の中で、まだセイランの死を消化しきれていない。
それをなぜ自分の口で言わされなきゃいけないんだ…
オレを想ってくれているのなら、何故放っておいてくれない…
頼むからもう放っておいてくれ!
しかし、その願いは叶わなかった…
「それでもいいんです」と言って、彼女はオレの胸に飛び込んで来た…。
はぁー…、困った…
廊下を歩く、聞きなれた小さな足音が聞こえる。いつもと調子が違うのは、誰かと一緒に歩いているからだろう。
「お前が良くても、オレは良くないんだよ。迷惑でしかない…。悪いが、カカシが来た。離れてくれないか?」
殊更に冷たい声で言う。
病室の扉が開く直前、彼女はオレの胸から離れ、カカシと入れ違いに走って出て行った。
カカシが出て行ったシマを不思議そうに振り返りながら言った。
「今の人誰なの?泣いてたよ?」
カカシの後ろから病室に入って来たのは火影様だった…。
「サクモ…、相変わらずだのォ」
この方のタイミングの良さというか、悪さというか…
それに、聞かせたくない相手がいる時に限って、余計な一言を言う所とか…
「まったく…、自来也が貴方に似たのか…、それとも元から似ている似たもの師弟なのか…」
「それはお前もだろう。ワシが扉間様に何度それと同じことを言われた事か…」
「私と自来也では受け継いでいるところが違います」
オレは大真面目にそう答えたが、火影様と目を合わせると互いに吹き出して笑ってしまった。
「「プッ…、ハハハハハッ!」」
カカシは「何この二人…」と言いたげに半目でオレ達を見ていた…。
「悪い悪い。カカシ、着替え持って来てくれたのか、ありがとな」
布団の上に本を伏せて、着替えの入った袋を受け取る。
火影様が、オレが伏せた本に気付いて尋ねた。
「指南書を読んどるのか?」
「ハハッ、コイツが、任務で怪我して帰ってくるなんて気が緩んでるからだ!って言って持って来たんですよ。読んでみると結構面白くて、真剣に読んでしまいました」
「ハハハハ!そうか、サクモは息子に叱られて指南書からやり直しか! えらいぞ、カカシ!」
火影様は面白そうにそう言って、カカシの白銀の髪をわしゃわしゃと撫でまわした。
カカシは半目になって、思いっきり迷惑そうにしていたが…、一応「火影」という立場を気にしているのか、いつもの達者な口をつぐんでいたので、オレは内心胸をなでおろした…。
火影様が護衛小隊や暗部も連れないで、お一人でオレの病室に来られたという事は、例の話をする為だろう。
「昼になったら担当の医療忍者が出勤してくる様なので、そうしたら退院させてもらって火影室に伺おうと思っていたのですが…。まさか、こんな早く戻られるとは…」
「うむ、朝早くにむこうを出たからな…」
お互い本題を切り出せずにいると、カカシがそれを察して言った。
「じゃあ、オレはついでに寄っただけだから、もう帰るね」
何のついでかは…、聞かないであげよう。
「うん、ありがとな」
カカシが駆けていく足音が聞こえなくなると、火影様が話はじめた。
「大名もお前の怪我を案じておったぞ。お前が任務に就いたことに感謝はしても、処分など考えてもおらんと…、無理難題な依頼をしてしまった許せと詫びてもおった」
「そうですか…、例の件は…?」
「話しておらん…」
恐らく、戦争の引き金にもなり得た事など、火影様が諭してくださったのだろう…。
大名は確かまだ26歳、第二次忍界大戦のさなか亡くなられた御父上に代わって若くして跡を継がれている。
御父上の形見と聞いて、無理と思いつつも木ノ葉に依頼されたのだろう…。
「しかしサクモ、大名がお咎め無しとした以上、ワシも処分は考えていないが…、そうすると、お前も危惧していた様に何か仕掛けてくるやも知れんぞ? 形だけの処分をするという手もあるが…。どう思う?」
「ハハッ、己の処分をどう思うと問われましても。御心のままに…と答えるしかありませんよ。 ま、乗りかかった船です…。自分が乗りたくて乗ったわけじゃありませんが、何処かに辿り着くまでは降ろしてもらえそうもありませんから、どの様な事になっても精一杯やるだけですよ」
「フン、お前は…相変わらずだの…。 相変わらずと言えば先刻の…」
「もうその話はいいでしょう…」眉をひそめて言う。
「ハハハ、そうか。では、ワシはひとまず三人を集めて…、大名とワシからも処分は無いと言っておくか。お前はゆっくりと休んでから出てこい。どうせその腕じゃ執務もできん」
「まぁ、それはそうですが、悠然と構えていられるような気分ではありませんので…、それに、昼飯の前には退院したかったんですがね…」
これからどうなるのかと危惧しながらも
またあの昼飯を食うのか…と、目先のどうでもいい事を考えてしまうオレ自身に呆れてしまった…