カカシ真伝II 白き閃雷の系譜   作:碧唯

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極秘任務

現在地は滝隠れにある小高い丘の上

渓谷沿いに整備された街道の脇に宿営する土の国の隊商を、単眼鏡で覗いている。

 

「いましたね」同じ様に単眼鏡を覗いているカズサが言った。

「あぁ」オレは短く返事し、隊商と岩隠れの忍を一人一人確認していた。

「しかし、よくここがわかりましたね」

「まぁ、土には嫌というほど行ったからな、ほとんどのルートは把握してるよ。その中で鉱石なんて重い荷物を運ぶことが可能なルートは限られる。隊商は一般人だし、荷車をひくのは牛…昼行性だからな、夜は休息するだろう。そのポイントだって絞られるさ」

「いったいサクモさんの頭の中はどうなってんすかね…」

どういう意味だ…と突っ込みたかったが、その前にタキギが聞いてきた。

「あの…、本当に積荷をチェックしなくていいんですか?」

「あぁ、構わん」

 

タキギと、医療忍者のくノ一シマは上忍になったばかりで、オレと組むのは初めてだ。

いくらオレが里の上役の一人と言っても、お互いに信頼関係のできていない状態で一方的に命令を伝えても納得がいかないのだろう…。

 

「皆、もう一度確認するぞ、今回の任務で最も優先させなきゃならんのは、悟られない事と、痕跡を一切残さない事だ。それができなければ、火と土は開戦すると肝に銘じろ」

「「「ハッ」」」

 

「確かに任務指令には輸送品の確認も記載されていたが、あの状況で相手に悟られずその確認ができると思うか?見てみろ」

オレはそう言って、単眼鏡をタキギに渡す。カズサはシマに渡して、見てみろと促した。

二人は単眼鏡を持って来ていなかった…。

これが経験値の差だろう。

 

タキギは27、シマは29で、35のオレと32のカズサとはそれ程年齢差は無いと思ってはいるのだが…、やはり、戦地を渡り歩いてきた世代としては、戦後に上忍になった彼らを心なしか頼りなく感じてしまう…。

まぁオレ達だって、昔は散々「最近の若い忍は…」って言われてきたんだ。

 

「見張りがあんなに…」タキギが単眼鏡を覗きながら呟いた。

「あぁ、木ノ葉が火の国、風の国間の輸送に出す護衛は二個小隊だ。だが、今確認できるだけで三個小隊は居るだろう。潜んでいる者も含めれば、それ以上という事だ。流石に二回も行方不明になってちゃ向こうもピリピリしてるだろう。そんな中に積荷の確認なんて行ったら…」

「見つかって、戦争…ですね」オレの言葉を続けたのはシマだった。

「そうだ。積荷の確認が最優先事項の任務だったら、危険を冒してでも行く。だが、今回は違う。だからやらなくていい。理解してくれたか?」

二人がコクリと頷いた。

 

「では予定通り、このまま監視を?」

タキギが尋ねるが、オレは首を横に振る。

「そう言いたいところなんだが、ちょっと状況が変わった…」

三人がそろってオレを見つめる。

 

「あそこにいる岩隠れに一人気になる奴がいる。恐らく奴は岩の忍じゃない」

「え!?何故そんな事が?」カズサが驚いて尋ねる。

 

五大国はそれぞれ風土が違う。

各々が風土に合わせた生活をし、習慣や身のこなしも自然と変わってくる。

当然の事ながら、自国の習慣なんてのはあまり気にしないが、他の国の者からしたら、それがとても独特なものに見える事もある。

それに、岩隠れの特徴的な片袖だけの忍装束…、あの長い左袖は慣れなければ、ただ動きにくいだけ…。オレは戦場で経験不足の岩忍を見分ける為の、一つの着眼点にもしていた位だ。

 

しかし、それらの違和感を言葉で説明しろと言われても難しい…

結局は長年の経験によって培ってきたもの…、勘でしかないのだ。

 

「んー…、何て言うか…、ま、何となくだ。あくまでもオレの勘でしかないが、奴を拉致する」

「「「えぇ!?」」」三人が揃って驚く…。

「里に戻って情報部で尋問させれば何かつかめるだろう」

「拉致なんて…、どうやって」タキギが尋ねた。

「オレが行く。この先はハンドサインでやるから、質問があれば今のうちに」

 

オレは額当てを取って、右脚に付けた手裏剣ホルスターも外しながら言葉を続ける。

「お前らは皆上忍だ。全員のスキルは信頼しているが、最後に確認しておく。この先はトラップだらけだろう。分かりやすいトラップの周囲にはさらにトラップが仕掛けてあると思え。 戦闘は極力避けるが、万が一戦闘になった場合、周囲に悟られない様に仕留めるんだ。音や光の出る術は使うな。 それと、手裏剣やクナイを投げたら数を数えろ。戦闘後に、必ず全て回収するんだ。投げた数を数えられないなら投げるな。いいな」

 

皆、コクリと頷いた。難しい注文だが、木ノ葉の上忍ならどれも可能な筈だ。

 

外した額当てとホルスターを鞄にしまって、カズサに差し出しながら言う。

「カズサ、すまんが預かってくれ。 オレが行動中は三人一組(スリーマンセル)、隊長はカズサだ。二人はカズサの指示に従うように。 じゃあ、質問が無いなら行くぞ」

 

 

宿営地に近付くと、案の定トラップがそこら中にあった。

 

(止まれ!)

短い草の生え方が僅かに変わっている場所がある。そこがトラップ。

そしてその横、草が生い茂っている中にもう一つ。

最後尾にいるカズサには言わなくても分かるだろうが、念のため、オレの後ろにいるタキギとシマにハンドサインで確認する。

(コレと、コッチが、トラップ。OK?)

二人が親指を立てた。

大丈夫だろう…。新人とはいっても、木ノ葉の上忍だ。

 

隊商が目視できるところまで近づいて、藪の中で身を潜める。

(ここで待て)

 

オレは藪から抜け出し、先刻、丘の上から見た例の岩忍がいる辺りに向かう。

 

 

ありがたい事に、彼は単眼鏡で見た時から変わらず、一行が眠るテントや荷車から離れた場所に一人でいた。

 

しかし、オレが接近した気配に奴は気付いた。

…結構やるな。

 

走り出たオレを見て、奴の口が微かに動く「シロイキバ」

背中の短刀の柄を握ると、奴の視線はオレの右手に集中し、短刀での攻撃に備え両手でクナイを構えた。

 

…オレの目立つ髪と、通り名もこういう時は役に立つな

 

そう考えながら、右手は柄を握ったまま、左手でベストに仕込んだ千本を出して男のむき出しになっている右脇を狙って投げる。

 

「うっ」男のその僅かな声を口を塞いで封じ、同時に崩れ落ちる身体を支えて担いだ。

オレは男にささやく。

(″白い牙″は短刀しか芸がないとでも思ったのか? まぁ、安心しろ。即効性の麻痺毒だから、死にゃしないよ)

 

 

男を担いだままカズサ達の所に戻り、そこに男を下ろしてカズサに耳打ちする。

(オレはコイツに変化して偽装工作してくる。遅くとも10分で済ませるから、それまでにオレが戻らない場合、若しくは、どこかで起爆札が使われた場合は即刻、お前が隊長となって三人でこの男を連れて離脱し、里に戻れ。いいな)

カズサは一瞬目を見開いたが、コクリと頷いた。

それを確認し、オレは捕らえた岩忍に変化した。

 

変化した影分身を男が元いた場所に残し、周囲を探る。

 

丘の上から見た時に違和感を感じた忍は他にいなかったが、必ずどこかに仲間がいる筈だ。

このまま影分身を残しても、仲間と合流すればすぐ変化だとバレる…。

仲間がいるなら、そいつも始末しなきゃならん。

そして、その死体が此処に残っていれば、岩隠れはそいつを調べる事になるだろう。

そうすれば、火の国、木ノ葉による仕業では…という疑いを、晴らす事ができる筈だ。

オレ達が十分に離れた頃に、死体が発見されるようにすればいい。オレはそう考えていた。

 

 

しかし、仲間がどこにもいない…

 

まさか…、一人で潜入なのか?ありえないだろ…

これ以上は時間がかかり過ぎる… 限界か…

そう考えた時、虫や蛙の声に混じって、キョキョキョキョという、ヨタカの鳴き声がした。

 

「!?」これは…、夜間潜入時用のカズサの合図だ。「すぐ戻れ」

 

 

三人が潜んでいる筈の藪に戻ると、そこにはカズサしか居なかった…。

 

(どういうことだ?)

(オレが捕虜を連れて離れ、戻ったら二人がいなくなっていました)

(捕虜は?)

(無事です。他の場所に)

(分かった)

 

潜んでいた藪を注意深く見て、二人の足跡を探す。

オレ達がここに来た時とは違う方に、草が踏まれていた。

(こっちだ)

カズサに合図して足跡をたどる。

 

(待て)

先刻と同じトラップがあった。草の生え方が僅かに変わっている場所がある。

しかしそれに掛かったわけではない。

 

という事は…、この周囲の別のトラップに…?

 

 

周囲を確認すると、四本の樹に小さな札が張ってあった。

二人の足跡は、その四本の樹を結ぶ四角い範囲の中に入り、途中で消えていた。

(コレに掛かったんだ)

 

オレはその範囲に入らない様、樹の後ろ側に回り込み、札を確認する。

 

 

…この術式は。これは…いったい、どういう事だ。

 

 

「これは時空間忍術の術式だ。この範囲に入った者を何処かに飛ばさせるものだ」

「じゃあ、あいつら…岩に」

カズサが茫然と呟くが、オレは首を横に振る。

「いや…、この術式は岩じゃない。それに岩に見つかってたら、もっと大騒ぎになってる筈だ」

 

 

いっそ、岩に見つかってた方が良かった…

岩に二人が捕らわれたのなら、例の捕虜を差し出し、それが岩忍では無いと分かればこちらの事情を聞いてくれる可能性もあった…

 

だが、このトラップは謎の襲撃部隊のものだろう…

奴等に二人が捕らわれたとなれば、殺されるだけじゃない…

賊が木ノ葉の忍である証拠として使われる可能性だってある…。

そうなれば、最悪だ…

 

どうする… どうすればいい…?

 

この場を切り抜ける為にオレがやるべき事、考えられる選択肢は三つか…

 

 

しばらく逡巡した後、言った。

「………どれにしろ、行くしかないようだな。 カズサ、お前は安全距離まで離れて潜伏。その後、自分で状況判断して、場合によっては里に戻れ」

「いえ、あの二人から目を離したのはオレの責任です。オレが行きますから、サクモさんが残ってください」

「それを言うなら、お前達三人を残したのはオレの責任だ…。 フッ…、これじゃ埒が明かんな」

「ですね…、じゃいっそ二人で行きますか。この先は敵の巣窟でしょ? 一人じゃ無理でも二人なら何とかなるかも知れないじゃないっすか」

 

選択肢の一つは確かに二人でないと難しいだろう…

しかし、それを取る可能性は低い。

なら、せめてお前一人だけでも…と言っても、聞くやつじゃないな…

 

「仕方ない…」

「一蓮托生です」

 

変化を解いて、クナイを握り術式の範囲の中に入る。

 

周囲の景色が一瞬にして濃いモヤにつつまれたように消えた。

 

 


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