カカシ真伝II 白き閃雷の系譜   作:碧唯

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風の国潜入

長きにわたる第二次忍界大戦は多くの忍の命を奪い、小隊の編成など毎回変わるのが当たり前だった。

任務指令書と共に、その日の隊員を知らされることも多い。

隊長は資料だけで隊員の性質、使う忍術、体術、手裏剣術などを分析し、作戦を練る。

 

…こんな状況では仲間とのコンビネーションなんて望める訳がない。

 

今日のメンバーは…、まずスオウとカズサ、この二人、齢はオレの3つ下、21か…、昨年揃って上忍になった筈だ。

何度か組んだ事があるが、忍者学校からの同期で昇級も同じ、仲も良かったはず…、二人一組(ツーマンセル)を組ませても問題ないだろう。

もう一人がくノ一のセイラン、中忍、Aランク任務は初か…。

 

まだ若い、と言うより、まだ少女とも見えるくノ一が駆け寄ってきた。

栗色の長い髪は忍者としては珍しく結わえていない。

邪魔じゃないんだろうか…。

くノ一は薄茶色の瞳を輝かせて一息で言った。

 

「はっ、はじめまして!サクモ隊長!セイランと申します」

 

初めてのAランク任務でガチガチに緊張しちゃってるよ…。

 

「はじめまして、君とは初めて組むね。よろしく」

 

全員揃ったところでオレは話し始める。

「では、説明する。今日の任務は風の国への潜入偵察。向こうの軍備の調査だ。途中、川の国を通過するが、紛争地帯である雨隠れからも近いので警戒を怠らないように。基本的には四人一組(フォーマンセル)で行動するが、知っての通り、風の国は国土の殆どが砂漠地帯だ。状況により隠密性を高める為、二人一組(ツーマンセル)に切り替える。その場合は、セイラン、キミはこの中で唯一の中忍だから、オレと組む。皆、それでいいね?」

「「「了解」」」

「セイランは水遁が得意なんだよね。川の国では期待してるよ」

「はいっ!ご期待にそえるよう頑張ります!」

「ハハハ、まぁそんな気負い過ぎないで」

 

正直、そこまで期待はしていなかった。

五大国最強の木ノ葉隠れといえども、現状、戦力不足は否めない。

だからこそ、まだ経験も浅い中忍がこの重要任務のメンバーに選ばれたのだ。

 

しかし、オレはその考えを改めさせられることになった…。

 

川の国では予想通り雨隠れの忍が侵入しており、殺気立った連中から襲撃があったが、セイランはその戦闘を難なくこなしていた。

使う術の選択、タイミング、印のスピード、どれも既に上忍の域に達している。

それまで表には出さなくても、中忍の抜擢に不満と不安を抱いていた他のメンバーも納得したようだった。

 

その日の休息ポイントまで辿り着くとスオウとカズサがセイランに言った。

「お前やるなー!」「センスいいよ!」

「ありがとうございますっ!」

 

彼女自身が初めてのAランク任務で、いきなり上忍の中に放り込まれて、不安で一杯だったのだろう…。

やっと緊張から解き放たれたのか、彼女は初めて心からの笑顔を見せた。

 

オレはその時、彼女の口元のほくろに、柄にもなくドキドキしてしまった…。

 

…オイ!サクモ!お前任務中に何ドキドキしてやがる!

いいか、平常心だ…。忍たるもの、如何なる時も平常心が大切なのだ…。

アレはほくろじゃない! そうだ、ゴマだ!きっとゴマだ!

 

オレは自らの自制心を試すかの様に、彼女をもう一度見た。

…アレはゴマ、アレはゴマ、アレはゴマ。

 

「クッ…、ククッ!ハハッ」

 

思わず笑い出したオレを三人が不思議そうに見た…。

 

「いやいや悪い悪い。今回のチームはいいチームだなーと思ってな。これなら安心して遂行できるよ」

 

とっさに言い繕った言い訳だったが、別に嘘では無い。

その証拠に三人とも誇らかな表情で笑った。

 

「私、サクモ隊長ってもっと怖い方なのかと思ってました」

セイランがばつが悪そうに言った。

 

「あぁ…、オレ里ではそういうイメージなのか…」

「いえ、″木ノ葉の白い牙″って言われてるって聞いたので、怖い方なのかなーと」

「バッカ、お前、それは敵国の奴らが呼んでる通り名だよ。味方にとっちゃサクモさんほど優しくて頼もしい隊長はいないぞ?」スオウが言ってくれた。

「えぇぇ、そうだったんですか!だって、牙なんて怖いじゃないですかぁ…」

「だから、それは敵だったらだよ。バッカだなぁ」

「「「「ハハハハハッ」」」」

 

「まぁ、さっきはお前がほとんどやっちまったからサクモさんの出番がなかったけどな、一度でもサクモさんの本気を見たら、きっとその通り名も納得するぜ?」これはカズサ。

「へぇー」

「あ、お前、ぜってー疑ってるだろ!戦闘中はこんなボーッとしてないんだぜ?」

 

…ちょっと訂正しておこう。

「いやいや、今も任務中だから、ボーッとはしてないつもりなんだけど…」

「あぁっ!スイマセン!そういう意味じゃ…」

「「「「ハハハハハッ」」」」

 

 

オレの言い訳は実に的中していた。

二人一組で風の国に潜入したが、予定よりもずっと早く調査が終わりそうだった。

スオウとカズサは忍者学校からの同期だからコンビネーションも問題無いだろうと思ったが、意外にもこのセイランとオレも初めて組むとは思えない程やりやすかった。

まぁ、彼女の場合はオレとのコンビネーションと言うよりは、彼女自身の能力の高さだろう…。

 

と言うのも、一個小隊で敵国の軍備の調査を行えなんて任務、はっきり言って無茶だ。

常識的に考えれば、指定された期日までに全ての調査を終える事は不可能。

しかし、合理主義である二代目が遂行不可能な任務を命じる訳がない。

という事は、火影様や上役たちが望んでおられる情報は限られているという事で、それを把握して必要最低限の調査を行うだけで良い筈だ、とオレは考えた。

かといって、指令書にそこまで書いてある訳でもなく、当たりを付けて遂行せざるを得なかった。

 

スオウとカズサにはチェックすべきポイントを細かく指示したが、セイランには特に指示していない。にも関わらず、最初の拠点でオレが幾つか書き止めさせただけで、オレの意図を理解し、次の拠点では指示を待つ前に書き始めていたのだ。

理解力、分析力とも非常に高い事がうかがえた。

 

 

幾つかの拠点を回った後で、調査終了の合図である、カズサの鳥が飛んでいるのが確認できた。

「よし、こんなもんだろう。じゃぁ、砂隠れに見つかると面倒だから、さっさとスオウ達と合流して撤収しようか」

コクッと頷くセイランと踵を返す。

 

が、既に感付かれているようだ…。一人追ってくる気配がある。

地の利は向こうにある、どうする…。

オレ一人なら逃げ切れるかも知らんが…

仕方ない…、セイランが離れるまで時間稼ぎするか…。

 

風の国では数少ない、樹木が茂る林に入ったところで言う。

「お前は先に行って合流しろ。すぐ追いつくから」セイランに指示し、オレは足を止めて、砂隠れの忍を迎える事にした。

 


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