カカシ真伝II 白き閃雷の系譜   作:碧唯

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忍者学校

カカシが4歳になった年、開戦から約16年という長い時を費やして、ようやく第二次忍界大戦が終結した…。

五大国は大きな戦を続ける体力は既に無く、かと言って、休戦を申し出れば自国の立場が不利になると考え、どこも言い出せずにいたのだろう…。

 

五大国の意地の張り合いは、それぞれの体力を奪って弱体化させただけではなく、周辺の小国にも争いの種を落としていた。

内乱の勃発や、弱体化した五大国の地位を脅かそうと企むものが現れるのも珍しくはない。

国と国が表立って争っていないだけで、水面下では際どい攻防が繰り返されている。

戦争が終わってもオレ達忍のやることは変わらなかった。

 

 

終戦の翌春、その年5歳になるカカシは忍者学校(アカデミー)の入学試験を受ける事になった。

 

木ノ葉の忍者学校は年一回入学試験があって、5歳以上の里の子供なら誰でも受ける事ができる。これは創設時から変わっていない。

しかし、この「5歳」という決まりを、里は都合よく、巧みにその時勢に合わせて解釈を変えていた。

オレ達が子供の頃は入学する4月の時点で満5歳になる子供という解釈だった。

よって、オレは満5歳で入学し、1年後、満6歳で卒業したという事になる。

 

しかし、第二次忍界大戦が始まってしばらくすると、里は満5歳ではなく、その年に5歳の誕生日を迎える子供という解釈に変えた…。

 

と言っても、5歳くらいの子供にとって数ヶ月の成長の差は大きい。

1月生まれと12月生まれでは約1歳分の差がある。後半の生まれ月の子供はまだ4歳になったばかりなのだから、受験を翌年にずらす事も良くあった。

 

カカシは生まれた時から標準より少し小さかったが、この頃でも同じ年頃の子供より少し小さかった。

そのせいもあってなのか、侮られない様にと鍛錬を怠らないのは良い事なのだが、女の子並に口まで達者になって、言葉遣いも大人顔負けになってしまった…。

 

少々…どころか、大いに不安なのだが、これはオレの責任だろう…。

オレの執務中留守番をするカカシに次々と本を与え、これが年相応のものではなく、本人の希望するまま小難しい本ばかり与えていたのだ…

 

身体は小さいながらも、3歳の誕生日を迎える前から手裏剣を投げ、オレが家にいれば基本忍術、体術をできる限り教え、オレが留守の間は小難しい本を読み漁っていたカカシにとって、忍者学校の入学試験などそのどれよりも簡単だったのだろう…

 

当然の様に合格し、正確には4歳6か月の時、カカシは木ノ葉の忍者学校に入学した。

これはオレの入学より丸一年早い事になる。

 

多少の不安はあったものの…、子供の成長が嬉しくない親なんていない。

今となってはトレードマークの様にもなってしまったマスクを着けて、毎日学校に通うカカシを見て、嬉しさと若干の寂しさも感じていた。

 

我が子が成長するのは嬉しいけれど、その分、オレの下から飛び立ってしまう日がどんどん近付いているっていう事だ…

 

…カカシ、父さんはお前に、なるべくゆっくり成長して欲しいよ

まぁ、オレがそう願っても、負けず嫌いのお前は聞いちゃくれないだろうけどね…

 

 

アカデミーに通い始めて数日した頃、帰宅したカカシが、縁側に座っていたオレのところにやって来て尋ねた。

「あのね、父さん、あのアカデミーの前で会った眉毛の子覚えてる?」

オレは読んでいた本を閉じ、答える。

「うん、覚えてるよ」

 

「あの子、父さんの言った通り補欠で入学したよ」

「そうか!やっぱりね」

「なんで父さんわかったの?」

「まぁ…なんていうか…。 ま、なんとなくだ!」

「何それ…」

カカシは、呆れたように半目でオレを見た…。

アカデミーの先生にもこんな感じなんだろうか…、今度会ったら謝っておこう…

 

 

オレは庭におりて枝を拾い、それで土に文字を書いた。

「青」

「藍」

 

「これは母さんの名前でもある」

「セイラン…?」

「そうそう。『あお』と『あい』っていう字だ」

 

オレは書いた文字の横に、更につけたして書いた。

「青」「は藍より出でて」

「藍」「より青し」

 

「青はわかるよな?青色だ。 それで、藍って言うのは藍草(あいぐさ)っていう草の事だ。 例えば、着物を青く染めたい時、藍草から作った染料を使って青く染めるんだよ。 でもな、その藍草っていうのは青くないんだ。 面白いでしょ」

「………」 …全然面白くないって顔をしている。

 

「普通、枯れた葉っぱは茶色くなるだろ?だけどな、藍草って呼ばれる草は、枯れると藍色になるんだ。それに気付いた人間が色々試行錯誤して、その藍草から青く染まる染料を作って、更にまた試行錯誤して、より美しい青色に染める方法を見付けていったんだよ」

「ふーん、…で?」

コイツ…、話が回りくどいって思ってるな…

 

「この言葉は学ぶ事や努力する事を続けなさいっていう言葉なんだ」

「それがあの眉毛の子とどう関係があるのよ?」

…こりゃ先生も大変だ。

 

「………。 カカシ、たぶん同級生の中で、今お前が一番優秀でしょ?」

「そうだね!」カカシは誇らしげに笑って即答した。

 

「お前には確かに忍者の才能がある。それだけじゃなく、今一番なのは人より早く修業を始めたからでもあるんだよ。生まれつき才能があるから、今一番だからって、うかうかしてると、頑張ってる子にすぐ追い越されちゃうよってこと」

 

あの子の傷だらけの手と足は、オレがチャクラ短刀を手にしてからの一年間を思い出させたのだ。

オレはあの時で16歳、まだ5歳のあの子が、あの時のオレと同じくらいの鍛錬を重ねてるって事なんだろう…。末恐ろしいという以外に言葉が無かった。

 

「まぁ、でもカカシも努力家なのは父さんよく知ってるから。 せっかく、あの子と同級生になったんだ、仲良くするといいよ。長い付き合いになるしね」

「まぁ、でもオレ、すぐ卒業しちゃうしね」

…オレの口調を真似してるのか?

しかし、ちょっと前までボクって言ってたのになー。

 

「だって、忍者学校で教わる事全部知ってる事ばっかりだし、先生だって、どうせ父さんの方が強いんでしょ?」

 

「でもな、カカシ。学校は学問や忍術だけを学びに行くところじゃないんだよ?」

「じゃー、何しに行くのよ?」

この喋り方は絶対オレじゃないだろ…、一体どこで覚えてきたんだ…

 

「…うーん、ま、一つは仲間だな。確かに学問や忍術は父さんでも教えてやれる。でも仲間との絆とかそういうのは、父さんは教えてやれないんだよ。カカシが自分で仲間と向き合って知っていくしかないんだ」

 

「絆…? でも忍者に感情は要らないんでしょ?」

 

…まいったな

 

「…カカシ? 感情ってなんだ?」

「気持ちでしょ」分かり切った事を聞く…という風に答えた。

 

「うん、そうだね。カカシは忍者になって、里を守りたいと思うか?」

「うん、思うよ!」

「それも気持ちだ。感情じゃないのか?」

「そうだけど…」 納得いかないって感じか…

 

「要らないわけじゃない。でも、忍者はいつも冷静でいないとダメなんだ。 だから、感情を抑え込む訓練をする。 守りたい、助けたいと思う気持ちがあるから、冷静になる必要がある。父さんはそう思うよ?」

「うん、分かった!」

カカシはそう言ってから、ふと思いついたのか、付け加えて言った。

 

「でも…、父さんも一年しか学校行ってないんだよね?」

 

それを言われると何も言えなくなるから、黙ってたんだけどな…

誰かに聞いたのか…

しかし、頭が良すぎるのにも困ったものだ…。

 

「ハハ…。お前よく知ってるな…。まぁ、だからこそ、そう思うんだよ。父さんができなかった事をお前にはやって欲しいってね」

 

「うん、でもオレ、父さんみたいな忍者になりたいから、父さんと一緒でいいよ!」

…なんだこの、嬉しいんだけど、困った様な…、複雑な気持ちは…

 

自分のやってきたことを後悔はしてないけど

我が子には自分と同じ苦労はさせたくない…、それも親心だろう…

 

まぁ、そんな親心をまだ5歳の誕生日も迎えていないカカシが知る由もなく…

加えて、相変わらず親バカなオレは、ゆっくり成長して欲しいなんて願いながら、カカシの乞うままに修業に付き合っていた…。

 

オレは執務、カカシは学校、二人の休みが合えば修業

父子二人で、そんな穏やかな日々を過ごしていた。

 


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