カカシ真伝II 白き閃雷の系譜   作:碧唯

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過去編 巻の五 山祇ヶ原(やまつみがはら)

オレ達が鉄の国を訪れた翌年、遂に第二次忍界大戦開戦となった。

 

開戦までの約一年間、オレは任務の傍らで、短刀の扱いと、例の琥珀色の石について研究していた。

元々剣術は得手な方だったが、忍者刀と短刀ではまた違う。

それに、近接距離用武器である刀と、中遠距離の忍術を併用する事を考えて短刀にしたのだから、いちいち鞘に収めず、持ったままで印を結び、術を使えるようになるのが理想だった。

しかし、その訓練は困難を極めた…。

何度も指を落としそうになり、雷のチャクラと反応しやすいそれは、時に術者のオレにまで牙を剥き、オレの手はいつも火傷と斬り傷だらけだった。

 

数ヶ月かけて、それまでも使っていた雷遁・雷鞭(らいべん)の術を、短刀を持ったままで素手と変わりなく使えるようになり、雷鞭刀(らいべんとう)と名付け直した。

オレは雷鞭刀の訓練と同時に、この短刀の特徴である雷のチャクラと反応しやすい事を、最大限利用できる新術の開発を進めていた。

 

雷撃を(むち)の様に形態変化させてそれを操るのと、短刀に帯電させてそれを雷撃として放つのでは、一見、後者の方が簡単にできそうな気がする。

しかし、実際にやってみると、はるかに後者の方が困難だったのだ…。

 

前者の雷鞭刀は、稲妻となり常に放電されている状態であるのに対して、後者の新術、雷遁・雷霆(らいてい)の術は、練ったチャクラの量に合わせて短刀に帯電させるところから始まる。

この帯電が非常に厄介だった…。

 

一瞬の足止めに使ったり、一定時間身動きを出来なくさせたり、一撃で死亡させたり、その時の状況に合わせて加減できるのが理想だ。

練り込むチャクラの量に応じて雷撃の強さを変える為には、この帯電を完璧にマスターしないといけない。

帯電の途中で堪えきれず雷撃を放ってしまえば、練ったチャクラに見合わないものにしかならないし、気を抜くと意志に反して放電が起こってしまい自らも大怪我をしかねない…。

 

この新術を完璧に使いこなすまでは、あと数年はかかるかも知れない…。

 

 

しかし、戦争がオレの新術の完成を待ってくれる訳も無く…、新術は自ら封印したまま戦場に立つ事になった。

 

と言ってもまだ17歳のオレは、前線ではなく、後方支援部隊に配属されていた。

 

オレ達の部隊の拠点となるのが、火の国北西のはずれにある山祇ヶ原(やまつみがはら)という平原。

火の国は土の国と風の国、三国間で戦争をしていた為、この地に陣を構えていたのだ。

まだ戦力に余裕のあった木ノ葉は、前線に立たせるには早いという判断の下に、ハタチ位までの若い忍達、里の十代の忍の内、約半数をこの山祇ヶ原に集めていて、最年長がオレのかつてのチームメイトである22歳のツカサだった。

100名あまりの支援部隊が詰める山祇ヶ原、ツカサがこの陣所の指揮官だ。

 

平原には忍が寝泊まりする沢山の小さなテントの他、物資を保管しておく大きなテントや、生活の為の仮設の施設も設置されている。

四方には封印術に長けた忍を配備し、結界封印術が施されていた。

戦乱の世を知らないオレ達世代の忍は、開戦してまだ間もないという事と、ここが国内であるという事もあって、戦場の緊張感とはかけ離れた生活を送っていた。

 

一番年上でも22歳、この部隊には、昔を懐かしんで「あの頃はもっと…」なんて説教をたれる口うるさい世代が居ないのだ。

教師の居ない忍者学校のようなものだった…

 

「…んのエロ助がー!」

「待て待て!違う!壁に穴があったから見てみただけだ!」

「その穴をお前が開けたんだろーが!!」

今日もまた、仮設の風呂場を覗いたとかで、綱手を筆頭にしたくノ一達に自来也がどやされている…。

…まったく、平和なもんだよ。

 

自来也や綱手、大蛇丸、他にも、同世代ばかりなのだから、ここには見知った顔も多かった。だが、その中にヒメはいなかった。

暗部に配属されたからでは無い、暗部に配属後わずか二ヶ月で殉職したのだ…。

 

忍にとって任務中に命を落とす事は珍しい事ではないが、流石に10年一緒に組んだチームメイトの死は、少なからずオレの気持ちにも暗い影を落とした…。

 

「サクモ、どうした?」

オレが物思いにふけっているとツカサが声をかけてきた。

同じ三人一組(スリーマンセル)のメンバーだが、オレはヒメの事を考えていた事は口にしなかった。

「いや、里も何を考えてるんだろうな…。こんな所にオレ達世代の忍をこんなに集めて…、ここを狙われたら…」

「ハハハ、大丈夫だよ。ここは火の国の中なんだし、こんなところまで岩隠れも砂隠れも来れやしないよ。もし潜り込もうとしても、結界が張ってあるから大丈夫さ」

ツカサは朗らかに笑って言ったが、続く言葉はきっぱりとした口調だった。

「まぁそれに…、そんなことはお前が心配する事じゃない。ここの指揮官はオレだ」

「…そうだな」

オレがそれ以上何も言わないでいると、ツカサは無言で立ち去った。

 

ツカサがオレに対し良い感情を抱いていない事は、初めて会った時から気付いていた。

まぁ、そうなるのも仕方がない。

ようやく忍者学校を卒業したと思ったら、5つも年下のガキと組まされて同等に扱われるだけじゃなく、何かにつけ比較されたのだ…。

同年代ならライバルともなれるだろうが、5つも下では敵対心を持つのも仕方ない。

 

忍というのは己の能力に皆プライドを持っている。それを傷付けられれば、妬みや僻みという感情を抱くのも当然だろう。

それはツカサに限らず、他の年上の忍達にもそういう悪意を向けられる事は多かった。

あからさまに敵意を向ける他の奴等とは違い、オレと三人一組だったツカサはそれを隠していたから、オレ達は表面上うまくやっている様に見られていただけだ。

しかし、ヒメが抜けてバラバラの小隊になり、今は指揮官と一隊員という立場もあって、ツカサはオレへの敵対心を隠そうとしなくなっていたのだ…。

 

陣所の中では、久しぶりに会った忍者学校の同期同士語り合う様子も頻繁に見かけたが、一年しか学校に通っていないオレは、そういった同級生との絆というものも無かった…。

オレにとってこの山祇ヶ原は、決して居心地が良いとは言えないところだった。

まぁ、それは里にいても大して変わりない…。

何処だろうと、オレは与えられた任務を全うするだけだ。

 

 

 

ある日の夜明け頃、まだまどろんでいたオレは、複数の爆破音と、宿直で警備にあたっていた忍の「敵襲!敵襲!」という叫び声で飛び起きた。

 

テントの外に飛び出て周囲を窺うと、結界の四隅全てを爆破されたのだろう。四か所から煙が上がっている。

 

そして、まだ薄暗い平原の西側には、無数の人影が見えた。

 

ツカサが皆に指示する。

「東に退却だ!」

 

だが、オレはそれを制する。

「ツカサ、待て!すぐ動くのは危険だ!」

 

しかし、それは聞き入れられない。

「すぐ動かなきゃ囲まれるだろう!」

 

「待てって!」

オレはツカサの肩を掴んで引き止めようとするが、ツカサはその手を払いのける。

 

「既に」とオレが言いかけた時

パーンッ!!という音がして、左頬に衝撃を感じた。

 

一瞬何が起こったのか分からなかった…。

 

ツカサがオレの言葉を遮り、勢いよく平手でオレの頬を打ったのだ。

「黙れ!! お前が指揮官かっ!? ここの指揮官はオレだろう!?」

 

口の中が切れて鉄の様な味がするが、オレは構わず訴える。

「今はそんな事言ってる場合じゃない!」

 

「お前は黙ってオレに従ってりゃいいんだ!! 言い争ってる暇は無い!皆オレに続け!!」

ツカサはそう言って、東に駆け出して行った。

 

結界の四隅全部で煙が上がっていたという事は、全方位に敵がいると考えるべきだ…。

 

…バカな。全滅させる気か…

オレは茫然としていた。

 

 

「サクモさん!どういう事ですか?」

一人の中忍が尋ねてきた。

指揮官に逆らったオレを信頼してくれて聞いたのだ。

 

オレは、せめて残った者だけでも…と声を上げた。

「ここは既に囲まれてる!お前達は下手に動くな!」

そう言って、先行した連中を引き止めようと、ツカサが向かった先に駆け出す。

 

その時、ツカサ達の集団を無数の大岩が襲い、オレは足を止めた。

 

…岩隠れか。だが、西にいたのは砂隠れの忍だ…。

まさか同盟を? それか、この場限りの共同戦線か?

 

どちらにしろ、これは罠だ…、西の砂隠れだけ先に姿を現して、里に近い東に逃げるように仕向けた…。そこに岩隠れを忍ばせたんだ…

 

ツカサ達は大岩に埋もれて、一人も姿が確認できなくなってしまった…。

 

オレは迷った…。

 

今行けば一人くらい生存者を見付けられるかも知れない…。

しかし、そうすれば、恰好の的となり、オレ自身も死ぬ可能性が高い…

オレが死んだら…、オレの言葉を信じ陣所の中で待っている奴等はどうなる!?

 

チィッ

 

オレは踵を返し、陣所の中に戻った。

 

 

「全員集まれ!」

部隊の半数以下、50人程が残っていて集まって来た。

ツカサに付いて行ったのは、オレより年上の忍が多かった。

ここに残っているのは殆どがオレより年下…、子供の忍も多い…

その中に自来也達の姿を見付けてオレは安堵した。

 

しかし、その自来也がオレに食ってかかる。

「兄ィ! ツカサの兄ィ達放っておいていいのか!?」

「今行けば標的になるだけだ…」

「兄ィが行かんならオレは行くぞ!」

跳び出そうとする自来也の首根っこを捕まえて言う。

「わざわざ死にに行くつもりか!!」

「兄ィも前は犬とおなごを助ける為に飛び出して行ったじゃないか!!」

「アホゥ!あの時と今じゃ状況が違うだろ!! あの時はオレが死んでもお前たちまで死ぬことは無かった。 だが、今は違う! この人数でオレ達はここを離脱しなきゃいけないんだ! お前も貴重な戦力なんだよ!自覚を持て!!」

 

自来也が力を抜いたので、オレも手を離して、今度は全員に言う。

「いいか、木ノ葉のオレ達世代の忍、約半分がここに集められていた。このままオレ達が全滅したら、例え前線で戦に勝っても木ノ葉にとっては負け戦と同じだ。木ノ葉に未来は無いと思え! この戦争は簡単には終わらない。オレ達の世代が一人でも多く生き残る事が重要だ。 だから皆死ぬな! 意地でも生き残って必ず里に帰るんだ! いいな!?」

「「「「はいっ!」」」」

 

「東にいるのは岩隠れ、西にいるのは装束からして砂隠れだろう。このままオレ達は南東に抜ける。この中に通信班居るか?」

「はい!」

「伝令を飛ばせ。 岩と砂に囲まれた。オレ達はこの平原から南東の咲耶川(さくやがわ)方面に向かう。そこに増援を頼むと」

「時間は?」生真面目に聞いてきた…。

「即刻だ! こっちは準備できしだい包囲が狭まる前に動く、時間が無い!」

「ハッ!」

通信班の忍は伝令の文書を書き、鳩の足に付けた筒に入れて放った。

 

「向かう先にいるのは岩隠れの集団だ、先陣はオレが切る。雷遁、水遁が得意な奴はオレと先鋒に。 後方、西から来るのは砂隠れだ。火遁が得意な奴は殿(しんがり)を頼む。うちはと日向はいるか?」

「「「はいっ!」」」数人いた…。

 

血継限界を持つ者はなんとしても守らねば…

里の為にも死なせてはいけないし、敵国に(さら)われてもいけない…

中列までならオレの目も届きやすい…

 

「うちはの者は中列の後よりで、写輪眼が使えるなら砂隠れの動きを確認しつつ、火遁で加勢。日向は中列の前よりに居てくれ、白眼で分かる限り先鋒へ情報を伝えろ」

「「「ハッ!」」」

 

「よし、まず隊列を確認する。先鋒前列、中列、後列に分かれてくれ。先鋒の水遁は攻撃を考えなくていい。ただ敵を濡らすだけでいい。後はそれに雷遁を流すから」

「「「「はい!」」」」

 

「後列、殿(しんがり)…、お前らが敵陣を突破するまで必ずオレが持ちこたえる。だから、それまで堪えてくれ」

「「「「はい!」」」」

 

「陽動で北東方面にオレが雷撃を撃つ。その着弾と同時にオレが先陣を切るからその後に続いてくれ。敵は深追いしなくていい、オレ達の任務は敵の殲滅じゃない。木ノ葉の未来を守る事だ!いいな!」

「「「「了解!」」」」

 

右の親指を咬んで印を結び、地面に右手を付ける。

「口寄せの術」

 

「「「あ!」」」

現れた白と銀、二頭の狼を見て、自来也達三人が驚きの声を上げる。

あれから一年経ち、母狼には到底かなわないが普通の狼の倍くらいには成長している。

灰色の仔狼は美しい銀色の狼に、白い仔狼は輝くばかりの美しい雌狼になっていた。

 

鞄の中から刀帯を出し装着しながら二頭の狼に言う。

「オレは母上とやるからオレには構わなくていい。隊列を守ってくれ」

二頭はコクリと頷いた。

 

オレが実戦でチャクラ短刀を使うのはこれが初めてになる。

そのオレの支度を見て、皆は一様に唖然としていた…。

 

オレが短刀を抜くと、白光したそれを見て皆が目を丸くする。

 

雷遁・雷霆(らいてい)の術の印を結ぶと、チャクラ刀が輝きを増し、バチバチッという音を立てだす。

 

陣の北東にいる岩隠れの連中に向かって放っておき、着弾するまでの間に、また右の親指を咬み印を結ぶと、短刀の柄頭に押し当てる。

 

オレに重なって、白いチャクラの狼が現れた。

 

これが巨大狼が言っていた『(わらわ)の精神を呼べる』というもの

精神とは精神エネルギー、山を離れる事ができない巨大狼に代わって、そのチャクラだけを呼ぶ口寄せの術みたいなものだ。

 

雷撃が岩隠れの集団に直撃し、バッシャーンという轟音を響かせた。岩と砂の全員の注意がそちらに向いた瞬間

「行くぞ!遅れずついてこい!」

オレとチャクラの白い狼は咆哮をあげながら先陣を切って走り出す。

 

オレはこの一年間で巨大狼のチャクラの呼び方と、そのチャクラの性質を解明していた。

巨大狼のチャクラは風の性質。

実物の巨大狼と比べれば非常にコンパクトで、体高がオレの身長と同じ位だが、実体を持たないそれは攻撃を受ける事が無い、最強のバディだった。

 

岩隠れの連中がこちらの動きに気付いた時には、既にオレは一人目の岩忍を屠っていた。

砂隠れも気付き隊列を追ってくるが、殿の火遁班が出す火炎で近付けずにいる。

 

「水遁班!」

オレが叫ぶと、水の無い所なのでその勢いは少ないながらも、周囲に水がまかれる。

「雷遁・雷鞭刀(らいべんとう)

オレは印を結び濡れた岩忍達に次々稲妻を当てて行く。

雷鞭刀自体は雷霆の術より威力は低いが、連続して当てる事ができる。更に、敵が濡れていることによって威力は十分に増している筈だ。

それをくらった岩忍達は次々に倒れていった。筋肉が収縮し、しばらく動けないだろう…

 

岩忍が、木ノ葉で言う所の「土遁・土流壁」 岩でできた壁を立て、オレ達の行く手を阻もうとする。

 

「させる…かー! 雷遁・雷霆の術!」印を結び、岩の壁に雷撃を放つ。

 

ドッシャーン!! という派手な音がして、壁は粉々に砕けた。

 

オレを主戦力だと睨んだ岩隠れの忍が、何人かで一斉に飛びかかってきた。

しかし、オレの纏っているチャクラの狼が牙を剥き吠えると、それは風の刃となって岩忍達をずたずたに斬り裂いた。

 

「ひぃぃぃっ!白い牙!!」

戦意を喪失した一人が尻餅をつきながら、オレの纏う白いチャクラを見て悲鳴を上げた。

 

戦う気のない忍に用はない、オレは次の標的に向かい短刀で斬りつける。

雷のチャクラで刀身が伸び、切れ味を良くしたそれは、簡単に岩忍の身体を防具ごと真っ二つにした。

 

どれくらい屠ったのかわからない。

もうオレの耳には何の音も届かない。

ただ機械のように、濡れた敵に雷撃を放ち、短刀で二分していく。

 

オレの髪からは返り血が滴り落ちて、白銀の髪が赤く染まっているのだという事は分かった。

 

 

ここまでに木ノ葉の忍ニ人が命を落としているのをオレは確認している。

 

…助けられなかった

 

あともう少し、あともう少し…、みんな…、堪えてくれ…

 

咲耶川(さくやがわ)の川面が朝日を浴びてキラキラと輝いているのが見えた。

 

増援は… 援軍はまだか…

 

岩隠れの包囲を突破したと判断したオレは叫ぶ。

「全員このまま退却!! 殿(しんがり)はオレが引き受ける!」

 

 

砂隠れは追撃を断念して引き返したようだ。

 

岩隠れも包囲を突破されてまで深追いはしてこないだろう。

それでも追ってくる岩隠れの忍達を雷撃と、短刀で仕留めながら、自分のチャクラの残りを予想していた。

 

そろそろマズイな…

 

白いチャクラの狼は既に消えていた。

 

しかし、岩隠れ達はしつこく追ってくる…

恐らくこの戦で、オレをこのまま生かせば後々厄介になると踏んだのだろう…

 

 

二頭の狼がオレのもとに戻って来た。

こいつ等が離れたという事は、隊列は無事離脱できたという事か…

そう考えたオレには一瞬の隙ができてしまった。

 

横から飛んで来た無数の手裏剣に気付くのが遅れた…。

 

 

マズイ!

 

 

しかし、その手裏剣は身の丈程もある黒い棒が回転し、すべてを弾いた。

 

これは… 金剛如意(こんごうにょい)! 猿魔(えんま)か!

 

ヒルゼン先生と里の上忍達が増援に駆けつけてくれたのだ…。

 

 

「ヒルゼン先生…」

師匠の姿を確認すると、急に力が抜けて、その場に膝をついてしまった…。

 

鼻の奥がつーんと痺れて、目頭が熱くなる。

オレは眉をしかめて、必死に涙を堪えていた…。

 

 

「サクモ!遅くなった! ツカサは!? 奴が指揮官だろう?」

ヒルゼン先生がオレの横にしゃがんで尋ねた。

 

「…オレ、ツカサを止められませんでした…、すみません…」

「何!?」

「それに…、残った奴等も何人か…死なせてしまいました…」

「お前が指揮してきたのか?」

「すみません…オレが…死なせ…」

そこまで言うと、堪えていた涙が一筋こぼれてしまった…。

 

オレはこの時に、自らの指揮で隊員が死ぬという事を初めて経験したのだ。

 

「いや…、報せを聞いた時には誰もが全滅もやむなしと思ったんだ…。よくぞここまで率いた。後はワシらに任せろ!」

ヒルゼン先生はそう言うと、岩隠れの忍達を追っていった。

 

 

二頭の狼が座り込むオレの傍に来て顔を舐める。

「お前らもありがとな…、助かったよ…」

のどを撫でると、「クーン」と鼻を鳴らした。

「お疲れさん、ありがとな」もう一度礼を言って、「解!」口寄せを解く。

 

二頭の狼が白煙を残して消えた。

 

 

そこに自来也が戻って来た。

 

オレは気付かれない様にこっそり涙をぬぐう…。

 

「自来也…、無事だったか…」

「あぁ、なんとかな」

「どうした? 岩隠れならヒルゼン先生達が追っていったからもう大丈夫だ…」

「あぁ、さっき陣所で兄ィが言った事が間違っとったから、訂正しに来てやったんだ!」

「はぁー…、お前ねー。 まったく…、こんな時まで何なんだよ…?」

オレは呆れて溜息まじりに言った。

 

「兄ィは『あの時はオレが死んでもお前たちまで死ぬことは無かった』って言っただろ」

「あぁ、言ったな…。間違ってないだろ?」

 

「イヤ、間違っとる! 確かに鉄の国で兄ィが死んでても、あの時オレらが死ぬことはなかった。 だけどなー、あの時兄ィが死んでたら、今日オレは死んでたなー。オレだけじゃない、部隊にいた100人余り全滅だった…。50人近くが今日生き残れたのは、あの時兄ィが死ななかったからだろ? ほら、間違っとるわ!」

 

「そんな無茶苦茶な…。 ま…、お前の事、ただのバカなガキだと思ってたけど、ただのバカだって事は分かったよ…」

 

ガキじゃないってことは認めてやる…。言わないけどな。

 

「なんか気に入らん物言いだなー。まぁいいわ! 一人じゃ立てんのだろう?肩を貸してやろうか?」

自来也は、ニシシシと勝ち誇った顔で笑いながら言った。

 

「はぁー…、こんなチビに肩を借りる事になるとはね…。オレも鍛錬が足りなかったよ…」

そう言いながら、自来也の手を借りて立つ。

 

「覚えてろよー!絶対兄ィよりでっかくなってやるからなー!!」

「ハハハハ」

 

「そういや、兄ィ!さっきの狼、あの時のだろ?」

「あぁ、そうそう。大きくなっただろう?」

「それで、白いチャクラの狼が例の魔狼か?」

「本体はあの山から離れられないらしいから、チャクラだけで助けてくれるんだよ」

「岩隠れの奴等が兄ィを何て呼んでたか聞いてたか?」

「ん?」

岩隠れの奴らが、口をパクパクさせて怯えていたのは覚えているが…

「″白い牙″だと。あのチャクラの狼が牙を剥いて吠えたのが相当怖かったんだろうなー」

「実物はもっと怖いけどな…」

「そうだな!ワハハハ!それはオレ達七人しか知らんからな!」

「いや、もう…、五人だよ…」

「…そうか」

 

「うちの三人一組(スリーマンセル)はオレだけになっちまったからなー…。お前はあの二人と仲良くしろよ? 綱手の事もいくら惚れてるからって、いつまでもガキみたいにからかってたら、そのうち愛想尽かされるぞ?」

「な、な、何言ってんだよ! 惚れてなんかいるわけないだろ!あんなマナ板!」

「ハイハイ、わかったわかった…」

「大体なー、女の事については兄ィにはなんも言われたくない! 女心がちーっとも分かっとらんくせにー!」

「それは…、その言葉そっくりそのままお前に返すよ」

 

先刻までのあの死闘が嘘の様に、オレは自来也とバカみたいな事を話しながら里に帰った。

 

この山祇ヶ原の戦は、木ノ葉の白い牙の通り名とともに、火の国、土の国だけでなく、瞬く間に各国にも知れ渡る事になった。

 

そのお陰で、オレはこの後、「天才忍者」と「木ノ葉の白い牙」という二つの看板を背負っていく羽目になったのだった…。

 


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