カカシ真伝II 白き閃雷の系譜   作:碧唯

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過去編 巻の四 白光のチャクラ刀

それから三日、皆は各々物見遊山という名の情報収集をして過ごした。

オレは三日目にようやく医者から、少しずつ動き始めても良いと言われたので、翌日に帰国を控え、庭で鈍った身体を鍛えなおしていた。

 

どうせ汗だくになるからと上衣を着ないで上半身裸でいたら、ツバキが帰宅し、また顔を赤く染めて、手ぬぐいを持ってくると言って走って行った…。

 

その間に、皆も帰って来て、綱手もまた顔を赤らめていると自来也が茶々を入れる。

「オレも裸になってやろうか!」

「だからお前じゃ赤くもならんと言っただろ!」

飽きもせず、数日前と殆ど同じやり取りをしている…。

 

「オレだって、お前みたいなマナ板じゃ赤くもならんしな! 同じヒメでも、こっちの豊満なヒメなら…ウシシ」

自来也はヒメの方をみて「ニシャー」と笑った…。

そのなんとも言えない顔を見て、綱手が怒鳴る。

「このドエロ助がー!そんなにヒメさんがいいなら、そっちの三人一組(スリーマンセル)に入れてもらえ!」

それを聞いて、ヒメがあっさりと言った。

「私、この任務から帰ったら異動だから、うちの班に来てもいないわよ?」

…その通りだった、オレ達の三人一組はこの任務が最後。ヒメは里に帰ったら暗部への配属が決まっていた…。

 

そこに、ヒルゼン先生と、湯の入った桶と手ぬぐいを持ったツバキが戻ってくる。

しかし、気にせず、自来也が綱手に言い返した。

「どうせお前、オレとサクモの兄ィを入れ替えたかったんだろう!残念だったな! それに、サクモの兄ィは女嫌いだからな!ざまあみろ!ワハハハ!」

 

…オレを巻き込むな。

 

「ぷっ」…ヒメが吹き出したので、オレが睨むと、わざとらしく口を押えた…。

 

自来也を止めてくれるのかと思ったら、ヒルゼン先生まで余計な事を言ってくれる…。

「サクモは女嫌いではないだろう。下忍の頃、いつも女の子が弁当を持って来ておったな」

 

ツバキが持ってきた手拭いをお湯で濡らし、絞って渡してくれたので、それで身体を拭きながらオレは言う。

「先生まで…、いい加減にしてくださいよ…。 あれは幼なじみです。オレの家は両親共早くに死んでますから、母親同士が親友だったとかで、あいつの母親が時々オレの面倒も見てくれてたんですよ…。それもオレが下忍まで…、6歳の頃の話じゃないですか…」

 

「じゃあ、なんで兄ィはくノ一のラブレターを受け取らないんだよ!?」

自来也の矛先がオレに向かってきた…。

…しかしコイツ、なんでそんな事知ってるんだ…。

 

「一言も喋った事が無い子に手紙貰ってもなぁ…、一体オレの何を知ってるんだと、何も知らないくせにどこを好きなんだと…、…いい加減うんざりもするよ」

「かー!オレも一回言ってみてーな! な!な!兄ィ嫌な奴だろ?」

自来也が皆に同意を求める…。

 

「嫌な奴で上等だよ…」上衣を着ながら呟く。

 

それをオレの白旗だと思ったのか、自来也が追い打ちをかけて言った。

「だからツバキもこんな男やめておいたほうがいいぞー!惚れてもムダムダ!」

 

そう言われて、ツバキが走って家に入って行った…。

 

「サクモ!」ヒルゼン先生が顎でオレに行けと指図する…。

「なっ」んで、オレが!?

「いいから!早う!」

面倒くせー…とか、こういう場合はそっとしておいた方が…とか、言いたかったが、オレはヒルゼン先生には逆らえない…。

 

「…ったく!このガキが…」自来也の頭に拳骨を落としておいてツバキを追う。

 

勝手場にいたツバキを見付けたが、なんと声をかけていいのか分からず躊躇っていると、ツバキが先に口を開いた…。

「私、年上ですし…、ご迷惑ですよね…」

 

今の今まで齢がいくつかとか気にした事も無かったです…というのは言わない方が無難だろう…位の分別は、オレにもある…。

 

「ご迷惑とかそういう問題じゃなくて…。えぇーっと、そういえば…、吊り橋効果というのがあるんです。 緊張感とか恐怖を感じた時に一緒にいた相手に、恋をしてると勘違いしてしまう事があるらしいんです。 だから、きっと…」

「違いますっ!」と言いながら、ツバキはオレの胸に飛び込んで来た…。

 

こうなったら、もうはっきりと言うしか無い…

「さっきの話聞いてただろうから分かると思うんですけど、オレ、あまりよく知らない人に好意を寄せるってこと自体が理解できないんです」

 

「でしたら…、この国に残って下さいとは言いません。私をあなたの国に連れて行って下さい。そこでサクモさんの事をもっと知ります。私の事も知って下さい」

 

自来也…、後で覚えてろよ…

 

「ご存知だと思いますが、忍の世界はいつ開戦してもおかしくない状況です。せっかく忍とは関わらないこの国にいるのに、わざわざその渦中に連れて行くなんて…、あなたのお父上やミフネ殿に恩を仇で返す様な事、できる訳ないでしょ…」

「サクモさんなら、兄上はきっと認めてくれると思います!あなたの事を並の忍ではないと言っていましたから」

 

ツバキの両肩を掴んで、オレから離しながら言う。

「あなたはオレの事を分かってないだけじゃない。忍というものも全然分かってない。あなたを助けたのがたまたま忍だっただけだ…。 忍は人を助けるより、はるかに多くの人を殺めるのです。今後、万が一、あなたの父上の暗殺依頼が木ノ葉にあったとして、オレがその任務を遂行する事になれば、オレは迷うことなく恩など忘れ、お父上を暗殺するでしょう。忍とはそういうものです。 あなたはオレや忍に幻想を抱いてるだけだ…」

 

「サクモ!」勝手場の入り口から、ヒメの呼ぶ声が聞こえた。

 

「オレ自身あなたを連れて里に帰るつもりもありません…。では…」会釈をしてオレはそこを離れた。

 

「助かったよ」ヒメに礼を言うと

「ふーん」何か言いたげにニヤニヤ笑う…。

「うるさい…」と言ってそれを遮ると

「まだ何も言ってないじゃない」と言いながら、クスクス笑った…。

 

 

皆の所に戻ると、自来也はヒルゼン先生にしこたま叱られたのだろう…、不貞腐れた顔をしていた。

 

その後、居心地の悪い中で夕飯を食べて、早々に床に就き、朝を迎えた。

 

 

 

「それでは長らくお世話になりました」

ヒルゼン先生がミフネさんとツバキに挨拶をしている。

 

オレ達もその後ろで揃って頭を下げた。

瞳いっぱいに涙を溜めるツバキを見て、自来也が肘で突いてくるが、オレは無視する。

 

歩きはじめると、自来也がオレを振り返って後ろ向きに歩きながら言ってきた。

「なんで兄ィはそんなに冷たいんだ?」

「…………」

オレが黙っていると、代わりにヒメが語り出す…。

「想いに応えられないなら、冷たくする事も優しさなのよ」

「応えてやりゃーいいじゃないか!」

「想いに全部応えてたら、里中サクモの恋人だらけになっちゃうよ?それでいいの?」

ヒメは笑いながらそう言ったが、オレはジロリと睨む…。

…まったく、いい加減オレの事は放っておいてくれ…。

 

「オレならそれでも構わんが、サクモの兄ィがそうなったら気に食わんな!」

自来也が全く筋の通ってない事を言ってのけた…。

 

「「サクモ殿ー!」」

オレには救世主の声にも聞こえたそれは、ミフネさんと鍛冶師の声だった。

「先生、先に行っててください。後で追いつきます」

ヒルゼン先生が頷くのを確認してオレは踵を返した。

 

 

「サクモ殿、間に合いましたな」鍛冶師が言って、短刀をオレに差し出した。

オレは両手でそれを受け取り、頭を下げる。

「ありがとうございます…」

柄頭にあの琥珀色の石が埋め込まれていた。

 

「抜いてみてくだされ」

「はい…」

数日前と同じ様にチャクラを練って抜くと、短刀はブンという音を立てて、白い光を帯び輝いた。

「「ほぉ!」」

ミフネさんと鍛冶師が揃って声を上げる。

オレも驚いていた…。

先日、五本のチャクラ刀を抜いた時、三本目の雷のチャクラ刀は青白いチャクラを纏っていたが、この短刀は白く光っている。

それが薄まったり弱まったのではなく、濃密になったのだというのは、握っている右手に伝わる感覚で分かった…。

 

「如何でござるか?」鍛冶師が尋ねた。

「正直…、ヒルゼン先生はあの様に簡単に言いましたが、オレは使いこなせるかどうか半信半疑でした…。 でも今は…、絶対に使いこなして見せると思っています。 こんな素晴らしい刀を鍛えていただき、本当にありがとうございます。大将殿にもよろしくお伝えください」

オレがもう一度深々と頭を下げると、鍛冶師も満足げに頷いて言った。

「ご満足いただけた様で安心しました。いや実はここだけの話、性質変化を確認する為のチャクラ刀があの様に反応したのは初めてでしてな、サクモ殿のチャクラの『質』は並のものでは無いと思うと、拙者もその短刀を鍛えるのに今までにないくらいの熱が入ってしまいました。いやいや、ミフネ殿、これはサンジュウロウ様にはどうかご内密に!」

「ハハハハハ!では、拙者にも一本鍛えてくだされ」

ミフネさんと鍛冶師は二人して笑っていた。

 

オレは短刀を鞘に収め、柄頭の琥珀色の石を眺めていた。

それでオレはようやく、この琥珀色の石が巨大狼の瞳の色と同じだという事に気付いた。

 

オレが石を眺めていると、ミフネさん達の後ろに控えていたツバキが言った。

「その短刀と、マカミ様の石がどうかあなたをお守り下さいますように…。どうか、お達者で…」

「ありがとうございます。あなたもお元気で」

オレが頭を下げると、ツバキの嗚咽の声が漏れ聞こえた…。

 

「それでは皆様、ありがとうございました」

頭を下げたままそう言って、ツバキの顔を見ない様に、そのまま踵を返して駆け出した。

 

 

昨日、あれだけ冷たくあしらったにも関わらず、なお、オレの身を案じてくれる…

その想いが嬉しくない訳がない…

 

冷たくすることも優しさ? …ヒメ、オレはそんなんじゃない

オレはただ怖いだけだ。

 

ツバキや里のくノ一がオレに寄せる好意はただの幻想にしか過ぎない。

現実のオレを知れば、幻想のオレとの違いにがっかりもするだろう…

それが怖くて逃げているだけだ…

 

己が傷付くのが怖くて先に相手を傷付けてる

自来也をガキだガキだと言いながら、オレ自身がどうしようもないガキだ…

 

 

ヒルゼン先生達を追いかけ山道に入ると、どこからか狼の遠吠えが聞こえた。

 

アオォォォォン アオォォォォォォン

 

お前達も別れの挨拶か…

でも、お前たちにはまた会えるよな…

 


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