カカシ真伝II 白き閃雷の系譜   作:碧唯

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過去編 巻の三 狼の恩返し

その日の夜、オレは痛み止めの薬の影響と、ふかふかの布団での就寝にぐっすりと熟睡していた。

 

ところが真夜中になって、ミフネさんとツバキが起こしにやってきた…。

「サクモ殿」「サクモさん」

 

「…何か?」

「マカミ様が表にいらっしゃって、サクモさんを呼ぶようにと…」

目をこすりながらミフネさんとツバキに付いて行く。

ヒルゼン先生も気配に気付いて一緒に来られた。

 

外に出ていくと、確かにあの巨大な白銀の狼がいた。

『夜更けにすまぬ』

「まぁ昼間に来られたら目立ちすぎるしね…」

『ヒトの子よ、お主、忍であったな』

「そうです…」

『ならば、息子を助けた礼じゃ、血の契約をかわそう』

「は?」寝起きの頭でいまいち理解できていない…。

「口寄せの契約という事ではないか?」ヒルゼン先生が言ってくれた。

「そういう事?」

『うむ、妾はこの山を離れる事はできぬ故、口寄せされるのは我が仔らになるがの』

 

そう言うと、いつの間にか仔狼が目の前にいて、くわえていた巻物をオレに渡す。

それを開けると、巻物という割にはとても短い…。

オレの知っている口寄せの術に使う契約の巻物はもっと長くて、何人もの名前を書けるようになっている。

 

「あれ?これ一人だけ?」

『当り前じゃ。妾がそう何人ものヒトと契約をかわすわけがないであろう』

「あ、そう…、それ…、オレでいいの?」

これ…、ホントに口寄せの契約なんだろうな…

オレは少し怪訝に思っていた…。

 

『うむ』

「……。じゃあ…」

訝しみつつも、オレは右の親指を咬んで、血で名前を書き込み、五本の指全ての指紋を血で押した。

『印は…戌未卯酉子巳虎戌じゃ』

…やっぱり戌が多いんだな。オレは少し笑いそうになったが堪えた。

「了解。ありがとう」

 

『もう一つ』

また一匹別の仔狼が暗闇から出てきた…。

こっちはあの時の灰色の仔狼よりも、もっと白く夜の闇の中でも輝いて見えた。

白い仔狼が咥えていたものをオレの手に落とすと、それは琥珀色の小さな石だった。

『血の契約では我が息子らを呼べる。その石では妾の精神を呼べる。そう覚えよ』

「………。わかった、ありがとう」

実はよく分かっていなかったが、まぁ、いいだろう…。

 

『娘よ、其方にも礼をせねばならぬ。其方はこの国の民じゃ。この山にいる限り、妾の一族が其方を守護しよう』

「ありがとうございます!」

ツバキとミフネさんが深々と頭を下げた。

 

これで、めでたしめでたしってところかな…

オレは、事の重大さよりも寒い方が気になっていて、早く布団に潜りたい…ばかり考えていた…。

 

 

翌朝、昨晩の事が現実なのか夢だったのか、オレはボーっとした頭で考えていた。

しかし、手元の小さい琥珀色の石が現実だった事を証明している。

 

朝食の後、また来客があった…。

 

今度は大将サンジュウロウ殿からの依頼との事で、ミフネさんが鍛冶師を連れて来た。

ヒルゼン先生と一緒にお会いすると、ミフネさんが姿勢を正し言った。

「本来、我が国の技術は国外不出。しかし、『義を見てせざるは勇無きなり』。サクモ殿の『義』には父も『義』を以って返さねばならぬと申し、刀を一本謹呈致す事に相成りました」

ヒルゼン先生と顔を見合わせる。

 

「既にこんな大人数で宿泊させていただいて、それで十分に…」

鉄の国で見分を広める…という、密かな計画を皆が実行していただけに、少々後ろめたかったのだ…。

 

「侍は義の精神を何より重んじるもの。妹はサクモ殿に命を救われただけでなく、そのお陰でマカミ様の守護を受けられるのでござる。このまま捨て置けば我らは道義にもとると嘲笑さるるは必定」

「…しかし、オレは忍です。忍者刀も決して不得手ではありませんが、戦闘は忍術タイプの忍です。ですから…、せっかく刀を頂いても宝の持ち腐れになってしまうのでは…と」

ヒルゼン先生に助け舟を求めるが、意外にも薦められた…。

「サクモ、鉄の国の刀はただの刀ではないぞ。侍が帯びているのはみなチャクラ刀だ。忍術を使うにもきっと役立つだろう。 刀では動きが阻害されると言うなら、短刀をお願いしてみてはどうだ? 短刀なら巻物とさして変わらんだろう」

「それが良いでござる」ミフネさんも賛成した…。

「…では、それで…」

とオレが言うと、鍛冶師が五本の刀を差し出して言った。

「承知仕った。それではチャクラを練って、この五本をそれぞれ抜いて見せてくだされ」

 

オレは言われた通りにチャクラを練って一本ずつ刀を抜いた。

 

一本目を抜くと、薄いチャクラの層が刀身を覆う。

この五本の刀も普通の刀ではなく、チャクラ刀なのだ。

 

二本目…、一本目よりはチャクラの層が厚い

これはチャクラの性質による違いか…

 

三本目を抜いてチャクラを流し込むと、手に伝わる反応がそれまでと全く違い、オレは驚いたが、ブンという音がして刀身が伸びたように分厚いチャクラを纏うと、鍛冶師もミフネさんも驚いたように目を見張った…。

チャクラは青白く発光し、パチパチパチという音を立てる。

「ほぉ」鍛冶師は感嘆の声のようなものを漏らす…。

 

四本目、一本目と同じく薄いチャクラが刀身を覆うのみ。

五本目、これも手に伝わる反応は強いが、三本目ほどの変化は見せなかった。

 

五本目を鞘に収めると鍛冶師が言った。

「サクモ殿のチャクラは雷の性質でござるな?これ程強い反応を見たのは拙者も初めてでござるが…。そのチャクラに相応しい刀を鍛えてみせよう」

「よろしくお願いします」

頭を下げて言って、ふと思いつき、ついでにお願いしてみた…。

「あの…、厚かましいお願いなのですが、その短刀のどこかにこれを埋め込んでいただけないでしょうか?」

ズボンのポケットから、例の巨大狼に貰った琥珀色の石を取り出して渡す。

この小さな石をどうしようか悩んだあげく、無造作にポケットに突っ込んでいたのだが、鉄の国の山を守る狼の石なのだから、鉄の国の刀と一緒にしてあげるのが良いような気がしてお願いしたのだ。

 

「わかり申した。お預かり仕る。満足なものができるまではお渡しできませぬ故、サクモ殿の帰国には間に合わないかも知れませぬが」

鍛冶師がそう言うと、ミフネさんが続けた。

「その場合、父サンジュウロウの名の下に必ず木ノ葉にお届け致す」

「「よろしくお願いします」」ヒルゼン先生と一緒に頭を下げて言った。

 

ミフネさんと鍛冶師が部屋を出ていくと、ヒルゼン先生が笑いながら言った。

「大きな収穫だったな」

「ハハ…、なんか話が大きくなり過ぎて戸惑ってます…」

「お前は剣術もなかなかのものだからな、鉄の国の刀とお前の剣術、雷遁…これが合わされば、きっと二代目様もご満足いただける結果になるだろう」

「ご期待に添えるよう精進します」

「開戦してしまえば、このように鉄の国まで足を運ぶこともできんかっただろうからな、二代目様は本当に良い機会を与えてくださった」

「そうですね。綱手は毎日オレの薬を貰いに行くと言っては医者の所に通っていますし、医療忍術はまだ研究も進んでいませんから、戦場に立つ身としてはそれもとても期待しています」

「ハハハハ、これぞ正に怪我の功名だな」

「死にかけた甲斐もありました…。大蛇丸ももうオレを責めませんよね?」

苦笑いしてそう言うと、ヒルゼン先生は

「大蛇はわからんなぁ」と言って、もう一度笑った。

 

大蛇丸の言うように、オレは確かに愚かで、甘いのかも知れない。

しかし、大蛇丸の合理主義は流石に行き過ぎていて、利己主義とかそういうレベルでも無いような…、オレは彼に一抹の不安を感じていた。

 

「ヒルゼン先生は大蛇丸を買っているようですが…、オレは…」

言いかけて止めた…。

弟弟子に嫉妬していると思われるのでは…と、言葉に出した事を後悔したのだ。

 

「うむ…、これからの戦乱の世には輝く、稀有な忍者の資質を持っておると思っておるのだが…、少し危ういところがあるのも確かだ…」

ヒルゼン先生も彼に言い知れぬ不安を抱いているのかも知れない…。

 

「まぁ、オレはいつも火影様に叱られている不肖の弟子ですからね…」

オレが笑って言うと、ヒルゼン先生も笑いながらそれに答えた。

「ハハハ、何が不肖だ。お前が二代目様に叱られとるのはいつも、貴様の甘さはサル譲りだのォ…ではないか!」

「ハハッ、そうでしたね!」

 

「二代目様は初代様の何ごとにも寛容で豪放磊落なお人柄をいつも心配されておったからな、お前を見ておると気になるんだろう。人の上に立つ者は冷徹に、時に厳しく、非情になる事も必要だと仰りたいのだ。ワシにもお前にもな…」

「柱間様やヒルゼン先生の様に強い忍なら、幾らかの甘さも許されるのでしょうが…オレはただ甘いだけです…」

「ならば、強くなれば良いだけの事だ!」

ヒルゼン先生はそう言ってオレの肩を叩いた。

「…っ、ハハハ…、精進します」傷に響いて顔をしかめながら、苦笑いで答えた。

「おぉ、すまんすまん!」

 


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