また、リミットレギュレーションはブルホーン禁止直前の物を使用しています。次回からはブルホーンが禁止になったりブラックホールが二枚になったりします。
新入生が入学してから二週間程が経った、そんなある日の放課後。
二年生のクラスに、一人ぼんやりしている生徒が居た。
その姿は数十年前に在学していた『英雄』遊城十代と瓜二つ。
赤い服を着た男子生徒は、言うまでもなく遊城十哉だ。
(……さぁて。どうしたもんかな)
そんな十哉の手には未開封の一通の手紙。
(思い出すな……入学したての頃、似たような……いや、これそっくりな手紙見っけて……)
十哉はそこで思考を止める。思い出す気になれない記憶だからだ。
しかし、だからこそ思い出したくないその記憶を元にして行動を決める。
「よっし。今日はあの『眠り姫』はブルー女子んとこ行かせてるし、ノンビリするかぁ!」
十哉は帰る。そこそこ遠い自らの寮へ。
手紙は、雪矢雪の机の中で眠りに付いた。
「あ、遊城十哉!」
「おお、昨日は『眠り姫』のお世話お疲れさん。じゃ」
「あ、ちょっ!」
遊城十哉のスルースキルは高い。小さい頃から『英雄の孫』として羨まれ、同時に妬まれたが故の処世術だ。
『結局、デュエルとはデッキパワーと運』が持論の彼は、やはりリアリストと呼ぶに相応しい。
誰も呼ばないが。
「ちょっと、待ちなさいよ」
「うっせぇドローパン買わなきゃいけねぇんだよ」
「そんなの後で幾らでも買えるでしょ! そんな事より―――」
「ンだと?」
ブルー女子は気付かない。自分が然り気無く地雷を踏んだ事を。
「こちとら朝は飯食ってる暇がねぇんだ分かったら失せろ……!」
しかし、このブルー女子は幸運であった。
一つ、十哉に用事(ドローパン)があったこと。
二つ、女子であったこと。
三つ、ブルー女子が週一で『眠り姫』の世話をしていたこと。
「そんなの知らないわよ! 良いから―――」
「はあ? そんな態度のアホに着いてくバカ居ねぇよ寝言は寝て言え。急いでるんだよこっちは!」
「ちょっ」
十哉は走ってその場から逃げ出す。
ブルー女子も慌てて追い掛けるが人混みにまみれて追い付けなかった。
人混みをするすると抜ける技術は役に立つ。
遊城十哉はそれを体現していた。……誰も気付いていないが。
(ちっ、女子じゃなきゃ三発ほど殴ってたんだが―――)
「あーくそっ! 腹へった!」
遊城十哉。普段の態度の割に、紳士であった。
ちなみにドローパンは売り切れていた。
その日最後の授業が終わった直後、遊城十哉は同じクラスのブルー女子に囲まれた。
「……おうおう、何処のハーレムだよ」
十哉の軽口には誰も答えない。
他の生徒たちのほとんどは(またか……)という気持ちでさっさと帰っていく。彼らの中の遊城十哉は『不良でトラブルメイカー』というレッテルが張られている。それに加え、好んで女子の敵になりたがるバカは居ないのだ。
『眠り姫』はいつも通り普段通り寝ている。ついさっきまでは欠伸しながらも一応授業を聞いていたが、終わると同時に寝た。流石である。
と、言うわけでこの場に十哉の味方は居ないのであった。
「手紙、読んだんでしょ?」
「は? 何の話だ?」
「読んでないなんて言わせないわよ」
「知らないんだが」
このデュエルアカデミアでもトップクラスの実力者たち(しかも全員女子)に囲まれても一ミリたりとも物怖じしないその姿はある意味驚嘆に値するが……。
「そんな訳無いでしょ!」「私たちがちゃんとこの目でみたのよその机に入れたのを!」「リーちゃんが可哀想じゃない!」「そんなんだから」
「うっせぇ! せめて一人ずつ喋りやがれ!」
十哉が怒鳴る。一対一ならば大抵の相手が
―――とはいえ。次々と喋り掛けてくる女子たちを
「ったく。まず、確かに俺は手紙を見つけた」
「だったら―――」
「だが、差出人と宛先が書かれてなかったから捨てた」
「はぁ!? 嘘でしょ!?」
また女子たちがキャーキャー騒ぎ始める。
それを気にせず、
「あのな? そのリーちゃんとかいう奴に伝えとけ。ここ、デュエルアカデミアには『万能部』っつうほぼ何でもしてくれる部活があるんだ。そこにお願いして手紙を届けてもらえ。んじゃ」
言い切り、然り気無く窮地からの脱出を謀る。
―――が。
「行かせないわよ」
「……ですよねぇ」
リーダーっぽい女子に行く手を塞がれる。
そのあまりの面倒臭さに十哉の口調が崩れる。或いはそちらが本来の口調なのかもしれないが。
「美佳! リーちゃん呼んできて!」
「リョーカイ!」
「皆、絶対に逃がしちゃ駄目よ! 出入口全部塞いで!」
一人の女子が教室を飛び出て、残りは出入口をがっちり塞ぐ。リーダーらしき女子以外は全て『遊城十哉を逃がさない』事に心血を注ぐ。
恐るべし女子の連携。『霊獣』にも劣らない。
「ご丁寧に窓までガードかよ。ったく……しゃーねぇ」
十哉は仕方無く自分の席に座り、電話を掛ける。
「ちょっと」
「落ち着け。出来の良い後輩に色々頼んどくだけだ……おう遠亞。俺だ。……あ? んなの社長直々に教えてくれたぞ?」
十哉の口から出た『社長』という言葉に女子たちがピクリと反応する。
(そう言えば、今年の新入生にKCの御曹司が居るって噂が……まさか!)
「んー、ちょいと野暮用でな。戻るの遅くなるから先に夕飯食ってていいぞ……あ? 知らねえよそんくらい自分で用意しやがれ。……いや、いい。そんじゃ」
十哉が通話を切る。
「これでよし」
「ちょっと! 野暮用って何よ! リーちゃんは必死な思いで―――」
「それはお前らが仕立ててやってるだけだろ?」
「……!」
「さて、課題でもやるかね」
デュエルアカデミアといえど、授業はデュエルの事だけ行っている訳ではない。むしろそこらの高校よりもレベルの高い授業を行っていると言える。
今、十哉が出したのは英語の課題。お題について英文で意見を述べるタイプの課題だ。
「……ふん。皆、油断しちゃ駄目だからね!」
「「分かってる!」」
「………………」
十哉は女子を気にせず、英文を書き始める。
「連れてきたよ!」
さっき教室を出た女子が戻ってきた。後ろにはリーちゃんと呼ばれている女子(当然のごとくオベリスクブルー)。
「ふぅ。ま、半分行けば良いだろ……んで」
十哉は机に肘をついて『リーちゃん』を観察する。
(金髪で長髪。スタイルは良い。顔も良い。……んーで、だ)
「俺の記憶違いじゃなきゃ、前に一度会ったよな?」
「…………覚えてた、んだ。嬉しいです……」
十哉が声をかけると、リーちゃんは頬を赤く染める。
しかし十哉は真顔である。むしろ心なしか不機嫌そうだ。
「あぁ。お陰様でこんなんだ」
十哉は周りを見回す。ブルー女子たちが二人を遠巻きに囲んでいる。『眠り姫』は寝ている。
「十哉さんは、その、か、格好いいですから」
「んだったらこんな状況にならねぇんだよ」
テンテンが羨ましいと呟く十哉。
―――確かにテンテンだとこんな事にならないのだが。それはテンテンのイケメンスキルが高いというより、十哉の対応が悪いだけである。
「ほら、言っちゃいなよ」
「そうそう」
「応援してるから!」
ブルー女子たちが次々とリーちゃんに応援を送る。
「……」
「……」
「……その」
「何もないなら帰るぞ?」
その宣言に、恥ずかしがっていたリーちゃんもついに決心する。
「もう一度、あの時と同じデッキでデュエルしてください!」
「悪いな、忙しいんだ。じゃ」
無下に断られた。『一刀両断侍』でさえここまでスッパリとはいかないだろう。
あまりの事にリーちゃん含めた全てのブルー女子が固まる。
それを横目に、十哉は自分の鞄を持って教室を出ていく―――
「待ちなさいな」
事は叶わなかった。教室を出る直前に、いつの間にか起きていた『眠り姫』に服を捕まれる。
「…………はぁ。そうだった……忘れてたぜ」
「ふわぁ。……ほら、
「え、え?」
リーちゃんは訳が分からないと言った感じにオロオロしている。
「ほら、準備しなさい……ふわぅ……」
「嫌なんだが。本気で嫌なんだが」
「…………ふわぁ」
「せめて何か言いやがれ!」
服を掴む手は離れない。これでは逃げられないと十哉はため息を吐く。
「え、えっと……」
「やってやる。後悔すんなよ?」
「っ!」
十哉はデッキを入れ換える。あの日以降一度も使っていなかったデッキ。
その目が薄くだが―――黄色く発光する。
リーちゃんは少し気圧されるが、それでも堂々と言い放つ。
「―――望むところです!」
「「デュエル!」」
遊城十哉 LP8000
早野理玖 LP8000
「私の先攻、私は『儀式の下準備』を発動!『
『神光の宣告者』
レベル6 光属性 天使族 儀式
攻撃力1800 守備力2800
[手札の天使族を捨てる事で効果の発動を止めていく球体。実際強い]
(ブルー女子らしく『サイバー・エンジェル』デッキか。だが……前回混ざっていたのは『
そんな十哉の考えが分かったかのように、リーちゃんは言う。
「私だって負けから学ぶんです! 『サイバー・プチ・エンジェル』を召喚!」
『サイバー・プチ・エンジェル』
レベル2 光属性 天使族
攻撃力300 守備力200
[疑似『マンジュゴッド』なエセカー○ィ。ステータスが低いので以下にしてこいつを墓地に送れるかが鍵となる]
「召喚成功時の効果で『サイバー・エンジェル―弁天―』をサーチ!」
『サイバー・エンジェル―弁天―』
レベル6 光属性 天使族 儀式
攻撃力1800 守備力1500
[リリースされると光属性 天使族をサーチする強いやつ。サーチ先は『サイバー・エンジェル』以外にもオネストとかクリスティアとかヘカトリスとか色々いる。アテネとかテテュスとか
「……行きます。『宣告者の予言』を発動! 弁天をリリースして、来なさい! 『神光の宣告者』!
そして弁天の効果! チェーンして『宣告者の予言』! 『宣告者の予言』を除外して儀式素材の弁天を回収、弁天の効果でデッキから『サイバー・エンジェル―韋駄天―』をサーチ!」
『サイバー・エンジェル―韋駄天―』
レベル6 光属性 天使族
攻撃力1600 守備力2000
[儀式召喚で儀式魔法をサーチ・リリースされると儀式モンスターの攻守を1000アップさせるグラマー。よくもまぁ海外で絵柄変更を食らわなかったな]
「まだまだ! 『機械天使の儀式』! プチ・エンジェルと弁天をリリース! 降臨せよ、『サイバー・エンジェル―
『サイバー・エンジェル―茶吉尼―』
レベル8 光属性 天使族 儀式
攻撃力2700 守備力2400
[これが出てくると相手がモンスター一体を墓地に送ってくれます。更に貫通付与、墓地回収までこなす万能お姉さん]
「弁天でオネストをサーチ。そしてエンドフェイズに茶吉尼で墓地の弁天を回収してターンエンドです!」
早野理玖 LP8000 手札4枚
モンスター 『神光の宣告者』(守備)(中央)
『サイバー・エンジェル―茶吉尼―』(右から2)
「……ん、やっとか。ドロー」
十哉が閉じていた目を開く。そして自分のターンだと言うことを確認する。
その目は、いつもの目であった。普通、人の目は自然発光するわけない。
「さあどうします?」
「五枚伏せてターンエンド」
遊城十哉 LP8000 手札1枚
モンスター 無し
魔法・罠 五枚
「は?」「何あれ、バカなの?」「いや、きっとデクレアラーを倒せなかったのよ」「それにしたって伏せが五枚よ?」
一瞬で終わった十哉のターンに、観戦している女子たちが驚きの声をあげる。
……しかし、リーちゃんと『眠り姫』は驚かない。
十哉に至っては驚いている女子たちに驚いているぐらいだ。
「一年で人って忘れるもんなんだな」
「そう、みたいですね。ドロー!」
「スタンバイに『ブレイクスルー・スキル』を『神光の宣告者』に」
「当然無効です。…でも、ブレスル……」
『神光の宣告者』とて、止められない効果はある。
一つは、カウンター罠。
一つは、既に表側の魔法・罠の効果。
そして、『ブレイクスルースキル』は墓地で発動する効果もあるのだ。
「まあ確実に入れるだろ」
「……なら。フィールド魔法『祝福の教会―リチューアル・チャーチ』!」
「そこに『バージェストマ・オレノイデス』だ」
「無効にします!」
ドロー含めて五枚もあった手札が、あっという間に二枚にまで減っている。
「リチューアルチャーチの効果! 墓地の魔法二枚をデッキに戻して、『サイバー・プチ・エンジェル』を特殊召喚! そして効果。……『サイバー・エンジェル―韋駄天―』をサーチ。……何かありますか?」
「何もねぇよ」
「…………」
リーちゃんは一年前のデュエルを思い出す。
(あの時は徹底的に潰された。ほとんど何も出来なかった。……今は、逆。何もさせてない……けど)
十哉の伏せは三枚。リーちゃんの手札は三枚……それも『韋駄天』『韋駄天』『弁天』という、全部天使族モンスター。仮に伏せを全て使われても防ぐことが出来る。
それでも、油断はしない。
「デクレアラーを攻撃表示にしてバトル! デクレアラーでダイレクトアタック!」
「『神風のバリア―エアーフォース―』……だが、まあ」
「捨てて止めます!」
「だろうな」
遊城十哉 LP6200
「続けて
遊城十哉 LP3500
「エンドフェイズに茶吉尼で墓地の韋駄天を回収します。ターンエンド」
早野理玖 LP8000 手札3枚
モンスター 『サイバー・プチ・エンジェル』(守備)(左から2)
『神光の宣告者』(中央)
『サイバー・エンジェル―茶吉尼―』(右から2)
魔法・罠 『祝福の教会―リチューアル・チャーチ』
「んじゃあ、ドロー。スタンバイに墓地のブレスルを除外して、『神光の宣告者』の効果を無効」
「止められない、です」
「……どうせ手札に魔法は無いだろ?『バージェストマ・カナディア』を発動、対象は茶吉尼。チェーンして墓地のオレノイデス。『バージェストマ』はトラップに反応してモンスターになる―――オレノイデスを特殊召喚し、茶吉尼を裏側に」
「うわっきも!」「何あれ!」
ブルー女子たちから悲鳴があがる。それもそのはず、『バージェストマ』は深海生物を元にデザインされたが故に、『ワーム』とはまた違った気持ち悪さがあるのだ。
しかし、イラストにばかり目が行っていて『罠がモンスターになった』事に驚く女子は居ない。
「女子受けしねぇのは承知の上だ。『強制脱出装置』、チェーンしてカナディア。カナディアを特殊召喚してデクレアラーをバウンス」
遂に、リーちゃんの場から『神光の宣告者』が消えた。
これで十哉は自由に動ける。
「けどまぁ、そんな動けないけどな。カナディア、オレノイデスでエクシーズ召喚、『バージェストマ・オパビニア』」
『バージェストマ・オパビニア』
ランク2 水属性 水族 エクシーズ
攻撃力0 守備力2400
[バージェストマを呼び出し罠であるバージェストマを手札から発動させる、言うなればバージェストマの母親]
「んで、オパビニアの効果だ。素材を取り除いて、デッキから『バージェストマ・ピカイア』を手札に。……オパビニアが居る限り、俺は『バージェストマ』罠カードを手札から発動出来る」
「ええっ!?」
観戦している女子たちがうるさい。『眠り姫』は珍しく起きている。……欠伸はしているが。
「『バージェストマ・マーレラ』を発動、チェーンしてカナディア。カナディアを特殊召喚して、デッキから罠カードの『仁王立ち』を墓地に」
『仁王立ち』も墓地で発動する効果がある。
(確か……攻撃を逆指定出来るカード……)
「こりゃ駄目だ。勝てない。『バージェストマ・ピカイア』を発動、チェーンしてマーレラ。マーレラを特殊召喚、そして『バージェストマ・レアンコイリア』を捨てて二枚ドロー」
今、十哉の場にはオパビニアと、モンスター扱いのカナディア、マーレラが居る。
「バトル。カナディアで『サイバー・プチ・エンジェル』を攻撃。……モンスターとなった『バージェストマ』たちの攻撃力は1200だ」
「守備表示なのでダメージは無いです」
「ターンエンドだ」
遊城十哉 LP3500 手札2枚
モンスター 『バージェストマ・オパビニア』(守備)(Ex)
『バージェストマ・マーレラ』(右から2)
『バージェストマ・カナディア』(中央)
「やっぱり、凄いです」
「あ?」
リーちゃんが十哉に話し掛ける。
「貴方は強いです。とても……とても」
「『強い』だと? それは皮肉か? それとも侮辱か? 本当に強けりゃ、青い服を着てると思うぜ?」
「そうかもしれないけど。でも、私は素直にそう思います。でも、だからこそ、負けません……絶対に! ドロー!」
言葉を言いきると同時にドロー。
「スタンバイ飛んでメイン!『機械天使の儀式』! 弁天をリリースして、来て!『サイバー・エンジェル―韋駄天―』! そして韋駄天、弁天それぞれ効果! 『
「ちっ、手札から『バージェストマ・ディノミスクス』、チェーンしてレアンコイリア。レアンコイリアを特殊召喚、手札を捨てて弁天を除外!」
「リリース素材は手札の弁天です! 二度、現れなさい。『
再び
「弁天、『予言』の順に効果! 『予言』を除外して素材となった弁天を回収、弁天でクリスティアをサーチ!」
「またか……しかも手札が切れないときたもんだ」
「茶吉尼をリバースしてバトル!」
感心している十哉は、リーちゃんの宣言を聞いて我に帰る。
「墓地の『仁王立ち』を使おうか。対象は……オパビニア」
「っ……ここは……攻撃せずにターンエンド、エンドフェイズに茶吉尼で墓地の『サイバー・エンジェル―
「……成る程、デクレアラーで送られてたのか」
『サイバー・エンジェル―美朱濡―』
レベル10 光属性 天使族 儀式
攻撃力3000 守備力2000
[出てきたらExから出てきたモンスターを粉砕。つまり以前は十二獣メタ、今はリンクモンスターメタ。後地味に破壊無効化能力もある]
早野理玖 LP8000 手札4枚
モンスター 『神光の宣告者』(中央)
『サイバー・エンジェル―茶吉尼―』(右から2)
魔法・罠 『祝福の教会―リチューアル・チャーチ』(フィールド)
「ドロー。……オパビニアの効果発動。デッキから『バージェストマ・ピカイア』をサーチだ」
そして続けてカードを発動しようとしたとき。
「あれ、リーちゃん何で止めないの?」
外野から質問が飛んできた……が。
「ったく。お前、もうちょいちゃんと授業受けろよ。一応授業で『モンスターになる罠』やったぞ?」
「モンスター扱いのバージェストマは全て、他のモンスター効果を受けないんです」
「ふわぁ……こんなの良いから続けなさいよ」
質問した女子は三連撃を喰らって赤面した。
「んじゃあ、ピカイア発動。止めるか?」
「……いえ」
「じゃあチェーンして墓地のオレノイデスを発動。オレノイデスを特殊召喚、『バージェストマ・エルドニア』を捨てて二枚ドロー。両方伏せてターンエンドだ」
遊城十哉 LP3500 手札無し
モンスター 『バージェストマ・オパビニア』(守備)(Ex)
『バージェストマ・マーレラ』(右から2)
『バージェストマ・カナディア』(中央)
『バージェストマ・オレノイデス』(左から2)
魔法・罠 伏せ2枚
「私のターン、ドロー!」
「墓地の『仁王立ち』をオパビニアに使用する」
「なっ、いつの間に……ディノミスクスのコスト!」
「正解だ」
リーちゃんはギリリ……と歯を食い縛る。これでこのターンでの決着は不可能となった。
勿論、前のターンにダメージを与えていれば分からなかったが……その場合、新たなエクシーズモンスターが現れていた。
「くっ……」(ドローカードは『サイバー・エンジェル―美朱濡―』……こんな時に来るなんて)
攻撃して少しでもダメージを与えるか、Exモンスターゾーンが空くのを警戒するか。
リーちゃんの答えは……
「ターンエンド、茶吉尼の効果で墓地の『機械天使の儀式』を回収ですっ!」
早野理玖 LP8000 手札6枚
モンスター 『神光の宣告者』(中央)
『サイバー・エンジェル―茶吉尼―』(右から2)
魔法・罠 『祝福の教会―リチューアル・チャーチ』(フィールド)
「ドロー。……スタンバイ、メイン。俺はオパビニア・オレノイデス・カナディアの三体をリリース!」
「えっ!?」
「太古の異形よ、集まり絡まり、数奇な運命を血筋に体現せよ!
来いよ……『
『D-HERO Bloo-D』
レベル8 闇属性 戦士族
攻撃力1900 守備力600
[相手だけスキドレ・モンスター吸収という効果を持つヒーロー。素材縛り無しの三体リリースで特殊召喚出来る]
「は、はぁ!?」「『バージェストマ』デッキじゃないの!?」「てか、チェーンブロック組まないの!?」
突如現れた大型モンスターに、周囲がざわめく。
「デステニー……ヒーロー……」
「こいつが居る限り……相手フィールド上のモンスターの効果は無効化される。更に効果発動、茶吉尼を対象。……装備させて貰うぜ」
茶吉尼が、Bloo-Dの竜の右手に食われる。
「「「「 ひっ……! 」」」」
そのグロさに、観客は息を飲む。(約一名は欠伸)
だが十哉は気にせず進める。
「Bloo-Dの攻撃力は装備モンスターの半分上昇する。2700の半分は1350、それプラス1900だから攻撃力は3250だ」
「…………」
「まだある。罠発動、『エクシーズ・リボーン』チェーンしてディノミスクス。ディノミスクスを特殊召喚して墓地のエクシーズモンスター……オパビニアを蘇生して『エクシーズ・リボーン』をエクシーズ素材に」
「…………」
「まだだ。オパビニアの効果、デッキからオレノイデスをサーチ、発動。そのフィールド魔法を破壊だ」
「……はい」
リーちゃんは小さく頷くだけ。
「悪いが、やるからには容赦なくやらせて貰う。マーレラとディノミスクスでエクシーズ召喚!
『餅カエル』
ランク2 水属性 水族
攻撃力2200 守備力0
[水属性を墓地に送って効果発動を無効化、更にセット出来る。しかも豪華得点、墓地に行ってもデッキに戻ってくるぅ!]
「ふわぁ……決まりましたわね」
『眠り姫』が呟く。それに反論出来るブルー女子は居なかった。
「バトル。まずはカエル、やれ!」
白い餅のようなカエルが飛び上がり、『神光の宣告者』を破壊した。
早野理玖 LP7600
「Bloo-Dでダイレクトアタック!」
早野理玖 LP4350
「ターンエンド」
遊城十哉 LP3500 手札0枚
モンスター 『餅カエル』(Ex)
『バージェストマ・オパビニア』(右端)
『D-HERO Bloo-D』(中央)
魔法・罠 伏せ1枚
『サイバー・エンジェル―茶吉尼―』(BlooDに装備)
「……」
「どうした、お前のターンだぞ?」
呆けていたリーちゃんははっと我に帰る。
「わ、私のターン、ドロー!……スタンバイに何か?」
「無いぜ」
「……例え、無駄な足掻きでも……『機械天使の儀式』!」
リーちゃんは囮の魔法を発動する。無効化されなければ美朱濡を儀式召喚出来るし、『餅カエル』で無効化されてもドローカードである『機械天使の絶対儀式』を通す。
しかし。
「残念だったな、『
「……!?」
それ以前の問題―――特殊召喚を封じられた。
「あ、あぁ……そんな……」
ブルー女子は誰一人として喋らない。これでほぼ、リーちゃんの、負けは、決定した。
『眠り姫』が引導を言い渡す―――
「……ふわぁ。決着有り……ですわね。サレンダーしなさ―――」
「おい、どうする?」
十哉が遮った。その目は、ただリーちゃんだけを見ている。
「え……」
「ここで終わるか、まだ続けるか。ま、俺はどっちでも良いが」
いつも通り普段通り、飄々と言う十哉。だが言葉とは裏腹に真剣な表情だ。
「サレンダーするのか?」
「……そういう所が……私は好きです。
サレンダーはしません! 降参なんて、絶対にしません! 終わるなら貴方の手で!
私は一枚伏せてターンエンド!」
早野理玖 LP4350 手札5枚
魔法・罠 伏せ1枚
「けっ、サレンダーすれば楽に終わったのによ。ドロー……んじゃあ終わらせるか。バトル、『餅カエル』でダイレクトアタック」
「受けます!」
早野理玖 LP2150
「Bloo-Dでトドメ。血の雨降らせ、『ブラッディ・フィアーズ』!」
早野理玖 LP0
遊城十哉 win
「ふぅー。アブねぇアブねぇ……危うく負ける所だったぜ。……そんじゃあ俺はこれで」
「遊城十哉さん!」
デュエルディスクを片付け、さりげなく自然を装いこの場を去ろうとした十哉だったが、リーちゃんに止められる。
「私は貴方が好きです! 付き合ってください!」
それは飾り気の無い、それ故に真摯な告白。
「悪いが、俺に付き合ってる暇は無い」
それは飾り気の無い、それ故に分かりやすい断りの言葉。
「そう、ですか」
「あぁ、じゃあな。おい『眠り姫』帰るぞ……って寝てやがる」
ガックリとうなだれ、仕方無く『眠り姫』を掴んで引きずる十哉。
「……そうそう」
だが、教室を出る直前に振り返り、リーちゃんを見る。
「良いデュエルだったぜ」
「……!」
それ以上は何も言わず、その場から立ち去った。
「…………ズルい……そんなの……」
そしてようやく我に帰ったブルー女子たちがリーちゃんを慰める。
だいじょぶだいじょぶリーちゃんならもっと良い男捕まえられるってそもそもあんなデッキ使う奴はこっちから願い下げよねしかもきっとあの女と付き合ってるわよなのに気があるみたいにデュエル受けちゃってさぁほら落ち込んでないでパーッとデュエル大会でもしましょう
「…………」
リーちゃんは答えない。
(……また、デュエルしてくれるかな)
「次は勝つから……待っててください……十哉さん……」
その声は小さく、他の誰にも聞こえなかった。
十哉は一年前のデュエルで女子たちに散々言われたせいで『バージェストマ』デッキの使用を控えています。
当時は十哉もまだ
では次回予告。ナレーター:雪矢 雪
皆さんご機嫌よう。ふわぁ……そろそろテストの時期ですわ……ふわぁ。書いたりデュエルしたり大変ですわねぇ……。あら遠亞……イエローに上がりたい? 頑張りなさいな。私? 寝てれば考えなくて……ふわぁ、良いのよ。
次回『デュエルアカデミア月一テスト開始』