遊戯王AU-M<英雄の孫>   作:yourphone

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台風といえば風。
風と言えば風属性。
風属性といえば?

おのれマジェスペクター。


立ち去る台風

「ふぅ……こんなもんか」

 

少し大きめのキャリーバックに荷物を詰め込んだ。つっても、中身はほとんどカードだけどな。

汎用性の高いカードだけ箱に詰めて、三つのサイドデッキは外側のポケットに突っ込む。

 

腰にはデッキホルダー。付けてあるカードポーチは格子模様の『ブンボーグ』、剣の描かれている『バスター・ブレイダー』、赤単色の『バージェストマ』、そして黒のエクストラデッキ。

 

「……」

 

そして、紫色に染められているカードポーチには、『トラゴエディア』や『ダークネス・ネオスフィア』が封印されているデッキ。

 

「捨ててぇな、これ。―――そんなことしたら世界が恐ろしい事になるだろう……なんてな」

 

腕にはデュエルディスク九型ガーディアンタイプ。入れてあるデッキは取り敢えず『ブンボーグ』。

 

「よっし、時間だな」

 

時刻は昼過ぎ、毎日一回港に来る船に乗って本土に行く予定だ。

 

「十哉……」

「ん? あぁ、遠亞。なんだ、黄色は嫌いなんじゃなかったのか?」

 

部屋を出た所に遠亞が立っていた。で、服がラーイエローの黄色い制服に変わってた訳だ。

 

「……ふん、十哉が居ないレッドに何の価値も無いからね。それで、宇良華は…どうするんだ?」

「連れてく。仕方ねぇからな」

「ふぅん……ま、清々するよ」

 

はっ、強がりやがって……まぁ次期社長ならこんぐらいしてもらわなきゃな。

 

「そうだ、宇良華は何処だ? もう港行く時間なんだが」

「さぁ? もう港に行ったんじゃない?」

「なら良いんだけどな……んじゃ、またな」

 

キャリーバックを転がして港へ向かう。『眠り姫』? 寝てるだろ。

 

「十哉! 絶対帰って来てよ!」

 

背中に遠亞の声が届く。振り返らず、ひらひらと手を振ってやった。

 

 

――――――――

 

 

港に着くのはすぐだった。正直、レッド寮からアカデミアに行くよりも港に行く方が近いんだよな。

 

「あ、おニちゃん! 遅いよ!」

「そうか?」

 

宇良華が桟橋でぴょんぴょこ跳ねる。……そういや、宇良華って特徴的なデュエルディスクを使ってた筈なんだが……何処にしまってるんだ?

 

「ん? なぁにおニちゃん」

「いや、何でもない」

「……?」

 

俺には関係無いか。

船は停泊しているが船長が居ない。大方、オバサンどもに絡まれているんだろう。

 

昨日連絡したから『向こう』も待っているだろう。早くしてほしいが、こればっかりはどうしようもない。あのオバサンども変なデッキ使ってきて変に強いからなぁ。

 

「ねぇねぇ、おニちゃん」

「なんだ?」

「なんでもなーいっ♪」

「そうかよ」

 

自宅には帰らない。……帰った方が良いかもしれないが、その場合宇良華をどうするか。俺の妹なんかじゃないから、最悪『アカデミアで幼女をさらったから退学した』とか勘違いされる可能性がある。一応連絡は行ってる筈だけどな。

 

「……お、戻ってきたな」

 

船長がのしのしと歩いてくる。海の男らしくがっしりとした体つきだ。

……その後ろから、青い服が二つ。片方は見慣れた青い髪だ。

 

「よう、テンテン。んで、そっちはお前の恋人か?」

「あのねぇ……」

「違います! 私は十哉さん一筋です!」

 

んなこと目の前で堂々と言われてもなぁ。金髪の女子は、確かこの間告白してきた早野理玖とかいう奴だな?

さてどう返事したものか……。

 

「おニちゃんは私のおニちゃんだもんっ!」

「おうこら宇良華出てくんな」

 

何故か宇良華が張り合った。いやまじで出てくんなお前の存在はなるべく知らせたく無いんだよ。

 

「え、十哉さんの妹さん!?」

「違う、知り合いの……いとこだ。じゃあ出発だから。船長、お世話になります」

「おうよっ!」

 

宇良華の襟首を掴みさっさと船に乗る。……ちっ、『眠り姫』のせいで板に付いちまってる。

ん?『眠り姫』と言えば……。甲板から顔を出す。

 

「あぁ、そうだテンテン!『眠り姫』の事は頼んだぞ! それに不腐風先輩からの無茶ぶりは半分ぐらい無視しても大丈夫だからな!」

「分かってるよ!……必ず戻ってきてよ!」

「約束は出来ねぇな!」

 

汽笛が鳴らされる。

 

 

――――――――

 

 

「宇良華ー。大丈夫かー」

「う…み……嫌い……」

 

まさか宇良華が船酔いするとはな。そのせいで久し振りの本土だっていうのに風情も感慨も無い。

車の走る音、島とは違う少し濁った匂い、これこそ都市だな。

 

「しばらくしたら落ち着くだろ。ほら、水」

「ありがと……うぶ」

 

宇良華が海に駆け寄る。見るのもどうかと思うから、街へと顔を向け携帯を取り出す。

ピポピパっと。

 

「……お忙しいところどうもすみません。先ほど連絡した遊城十哉です。今港に着いた所で、遅れてすみません。

 ……はい。はい。そうですか! その、色々すみませんね―――あ。

 あー、その、一人じゃないって言うか……小さいいとこが着いてきてしまってて。……はい?

 あーっと、大体小学二年生ぐらいの少女です。……え、一緒でも良い? いやそれは……。……まぁ、そうですけど。

 …………その、頼む立場で失礼ですけど、良いんですか? こんなに優遇してもらって。

 ……そんなに人手が足りないんですか?…言い切るほどですか。……はい。はい。

 えーと、真っ直ぐ歩いて三つ目を右、そのまま歩いて駅前のレストラン『ティンクルスター』で待ち合わせですね。

 ……え、いやその……『ティンクル・スター』。は? (きら)めけ?……あー、『ティンクル☆スター』。―――ドボン?」

 

携帯と逆の耳から水の音。

 

「おニ、おニちゃ……!」

 

「んなっ!?」

 

宇良華が海に落ちていた。携帯を捨て、デッキホルダーを外し、海へ飛び込む。




さて、十哉は何処と連絡を取っていたのでしょうか。
と言うか宇良華そこまで海と相性悪いのでしょうか。
電話中の十哉の口調がキャラ崩壊しているのだが。

……キャラ崩壊じゃねぇし。

あーもう、次回予告! ナレーター:???

レディース・エーン・ジェントルメーン!
さぁ最愛の妹を助けに海へと飛び込んだ遊城十哉君!
彼のデュエルマッスルならば妹を助けるのは容易でしょう!
しかし、彼はこの後大事な待ち合わせが!
なのに服はびしょ濡れ、しかも(くさ)い!
彼は待ち合わせをどう乗り越えるのか!?

次回! 『服は着替えた』!

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