生徒最強が、妖しい少女の前に膝をつく。それはその場に着いてきた何人かの生徒にとって衝撃的な事だった。
「ズルいとかなんとか、言わないでよね?」
「言わないさ。負けは負けだから、ね」
天上院天馬はイケメンだ。昔のとある出来事以降、誰に対しても妬まず、
だからか。
「……うわー、この人心から言ってるよおニちゃ……あー。つまんないなー、あなた。闇が無い」
「それは……誉め言葉として受け取っておくよ」
宇良華はつまらなそうにブーイングする。それを受けた天馬は軽く応える。それは天馬にとっては自然な事で。
「そう? 違うよ、誉めてないよ?」
しかし、天馬の言葉は一刀両断される。
「気持ち悪いって言ってるんだよ? 闇がないなんて、光だけなんて。私たちみたいな精霊じゃないんだから……」
チャリ……と。黄金色に輝く円状のオブジェクトを突き出す。その中心には逆三角形とウジャト眼が。
「ちょっと見させてもらうね!」
オブジェクトに付いているウジャト眼が光る。
石造りの階段を降りる。降りる。降りる為に登る。登り、登り、登る。そして降りる。
「くっそが! パズルじゃねぇんだぞ!」
これじゃあ登る度に落ちるカタツムリじゃねぇか! 降りる為に登る回数が多すぎる!
あーうぜぇ! 下に行きたいんだよこっちは!
「ちっ、結局テンテンの声が聞こえた場所も分かんなくなっちまったしよ」
あんまりにも静か過ぎて独り言が多くなる。人間の
「……ん?」
地鳴り。この迷宮全体が揺れているような……おっとと。
「急に揺れ始めるのかよ。地震なんて久しぶり……ん?」
壁についた手の先。さっきまでゴツゴツとした壁だった筈なのに、黄色い扉になってやがる。
「……まぁ開けておくか」
開く。さて、どんな暗い言葉が飛んでくるのやら。
『やーいやーいでーーーーぶ!』
『う、うぁぅ……』
うん? 幻覚まで出てきたか。一人のぽっちゃりとした子供が他の三人の子供に囲まれてしゃがみこんでいる。
……見たことあるな、この光景。このデブは―――
テンテンだ。
~○~○~○~○~○~
天上院天馬は小さい頃虐められていた。
天上院家の人間は美人でスタイルが良い。天馬もイケメンではあったが……幼い頃は運動が苦手で、甘い御菓子が好物だった。
あっさりと太った彼は、イジメっ子たちの格好の的だった。
『やーいデブ! 取れるもんなら取ってみろよ!』
『止めて、返して!』
その日、天馬は自分のカードである『ドル・ドラ』を取られていた。
『ドル・ドラ』
レベル3 風属性 ドラゴン族
攻撃力1500 守備力1200
[破壊されるとエンドフェイズに弱体化蘇生されるモンスター。古いカード故に効果関係で制限にされていたモンスター。今はエラッタされて無制限]
天馬ではイジメっ子たちに追い付けず、転んで笑われる羽目に。
『おい! カードを返してやれよ!』
そこに現れる一人のヒーロー。その男子はイジメっ子に果敢に挑み、ボロボロになりながらも『ドル・ドラ』を取り返した。
『ほら、もう取られないようにしろよ!』
『あ、ありがとう』
『よっしじゃあデュエルしようぜ!』
『うん!』
二人ははとこだ。しかも家が近い事もあって仲良しだった。
二人はデュエルディスクを取りだし、デッキをセットする。
『今日はさ、新しいデッキを作ってきたんだ!』
『そうなの?』
『うん! お爺ちゃんとお父さんが隠してたカードを入れたんだ!』
『え……それって、大丈夫なの?』
『大丈夫大丈夫! 実際超強いカードなんだよ! 見て驚くなよー?』
そして、デュエルが始まる。
『俺から!』
当時はマスタールール2だった。ペンデュラムモンスターなど想像もされなかった。
『よーし、これならターンエンド!』
『え……何もしないの?』
『そうだよ! これで手札は5枚!』
『……じゃあ、僕のターン、ドロー』
天馬は自分の手札をじっくりと見て、動き出す。
『僕は『ドル・ドラ』を召喚! フィールド魔法、『山』を発動! これで『ドル・ドラ』の攻撃力は1700だ!』
『それってレアカードの! 初めて見た!』
『へへっ。バトル! 『ドル・ドラ』で攻撃だ!』
そして――― 悲劇は起きる。
『うわぁ~~』
『どうだ!』
『ぁ~~なんちゃって。早速お出ましだ! 戦闘ダメージを受けた時にこいつは出てくる!』
二人はデュエルに夢中で気付かない。周囲の変化を。
鳥の声が止まった。風が強くなった。何かがざわめいている。
そのカードは封印されていて。
『こい!』
その封印が、解かれる。
~○~○~○~○~○~
闇が吹き出る。その場にいた生徒たち……有り体に言って部外者たちが部屋から吹き飛ばされる。
そして、倒れていた十哉が起き上がる。ゾンビのように、ふらふらと。
「う…嘘……今の記憶……嘘だよね!?」
「お前、十哉じゃないな。……まさか」
天馬の問い掛けに、十哉は……十哉の体の誰かは応える。
「そのまさかだろうな、小さき弱き者よ」
「っ……!」
「ふふふ……そしてそこの小さき精霊よ。闇を隠す風の精霊よ。礼を、言おうか」
「ひっ」
十哉に、十哉の目を通して写し出される闇に見詰められ、宇良華は後ずさる。
「我が三度目の封印は解かれた! 我が名は『トラゴエディア』!」
『トラゴエディア』
レベル10 闇属性 悪魔族
攻撃力? 守備力0
[戦闘ダメージをトリガーに特殊召喚される効果、手札の枚数×600 攻撃力が上昇する効果、レベル変更効果、レベル参照でコントロールを奪う効果を持つ。
漫画版GXでのラスボス。この作品では漫画版の主人公=十哉の父親であり、倒された後厳重に封印されて十哉の家に保存されていた]
堂々と名乗った十哉―――いや、トラゴエディアは、ふと腕を組む。
「とはいえ、だ。今回の封印期間が短かく、我からすれば『ちょっと寝ていた』程度の時間しかたっておらん……あまり飽きておらんな」
さてどうするかと思案するトラゴエディア。と、デュエルディスクが勝手に展開される。
「む? ふむ……これはこれは」
デッキから闇が溢れる。闇はとどまるところを知らずに
「こちらも解放しなくてはな……このままだとつまらん。そこの精霊!」
「ひぃっ!」
「……デュエルするが良い」
トラゴエディアは宇良華とデュエルする様に命令する。
「ま、待て! お前は……僕が相手だ!」
そこに天馬が割り込む様に立つ。
「貴様とのデュエルはつまらん」
「僕は、あの頃とは違う!」
「……ならば問おうか。その手の震えは、なんだ?」
「っ!」
トラゴエディアの冷静な指摘の通り、天馬は震えていた。
控えめに言ってぽっちゃり体型だった天馬があっという間に痩せたほどの恐怖だ。ある程度の克服はしているようだが、しかし原初の恐怖は消えていない。
これではデュエルなど出来ない。
「なに、暴れたりはせぬ。そこで大人しく見ておるがいい」
「ぐわっ!」
トラゴエディアの腕が人外の力で振るわれ、天馬は吹き飛ばされる。
「さて改めて。デュエルをしようではないか?」
「はう、あうぅ……私は、おニちゃんのことをもっと知りたかっただけなのに……」
宇良華は顔を青ざめながらも、デュエルディスクを展開する。
「わ、私が悪いことしたんだから……私がやる!」
「ふむ……いい目だ。では」
「「デュエル!」」
これなら一気にまとめても良かったかなぁ? デュエルしてないし。
まぁそんなことより次回予告。ナレーター:宇良華。
おニちゃんがトラゴエディアになっちゃうなんて……こんなことになるなんて、思ってなかったよ……。
でも、おニちゃんは死んだ訳じゃない。デュエルすればもしかしたら――― おニちゃん、ごめんなさい! だからはやく起きて!
次回、『悲 劇 復 活』