FT 火竜の軌跡 -再- 作:元桔梗@不治
S級クエストを終えた ナツ達がギルドに戻ると、とんでもない光景が待っていた。
「ギルドが‥」
「なんだ、こりゃ」
「うそ‥」
ギルドが大量の大きな鉄の杭によって貫かれていたのだ。
(血の匂いはない‥滅竜の魔力か。鉄竜‥
戦いがあったわけではないことを察し、杭を調べると自分と同類のものだと察せた。
そして、自分同様珍しい魔法ということで有名な魔導士と、その所属ギルドもすぐピンときた。
取りあえずギルドの地下から皆の匂いと魔力が感じ取れたので、皆で降りていく。
「で、何があったんだよじーさん。血の匂いがしねぇってことは抗争とかじゃないんだろ?」
「あぁ。夜中、誰もいないときにやられてのぅ」
「あの杭、鉄の滅竜魔法だろ。同じ滅竜だから分かる‥やったのはファントムか」
「じゃろうな‥まぁ誰もいないギルドを襲うしかできん腑抜けじゃ。放っておけ」
フェアリーテイルによく絡んできては、いざこざを起こしている。
「ま、誰も傷ついてねぇならいいさ‥それより、ほら。報告書」
「うむ‥さて、S級をクリアしてきたようじゃし、今日は宴じゃあーー!」
「「「「「おぉぉぉおおおおおおおお!!!!!!」」」」
「いや、この状況で宴ってお前らなぁ」
らしいといえばらしいが‥全く緊張感に欠ける。そう呆れつつも、ナツも微笑んで皆の輪の中心へと入っていった。
○
ギルドが壊されても変わらないどんちゃん騒ぎな宴は、夜遅くまで続いた。
飲んで食って歌って騒いで喧嘩して‥いつも以上に大騒ぎで活気に満ちていた。
ナツはどうにかこうにかS級魔導士認定を逃れ、仮認定ということでどうにかことを得た。
扱いとしてはS級の下位クエストを受けてもいいとか‥いや、本当は分かってる、ただのS級見習いみたいなもんで、既にS級扱いされてることは。ただそれでも現実逃避をするナツだった。
(さて、と)
主役のナツを置いてどんちゃん騒ぎになっている皆を見つつ、ゆっくりギルドから出ていこうとする。
そんな彼に、ミラが気づいて皆の注目を浴びないように小声で話しかけた。
「どこ行くの?」
「パトロール。喧嘩売ってきたにしては生温いし、何かしらやってくるかもしれねぇから」
「一人で?」
「折角楽しんでんだし、水差すのも悪いだろ。‥ま、何かあったらすぐ連絡するよ」
そう言って通信用の小型魔水晶を渡して、ナツは街へと赴いた。
街は静かなもので、皆寝静まっているのが察せた。
ギルドが騒がしすぎるだけかもしれないが。
(………この魔力)
静かな街に似つかない激しい魔力。
――滅竜の魔力。
「やっぱ来てんのか」
「…あっちだな」
ナツは炎翼で夜の街を照らしながら、その場へと一直線に赴いた。
○
レビィ、ドロイ、ジェット三人チーム「シャドウ・ギア」でクエストを受けた帰りのことだった。
思っていたよりも時間がかかった依頼完了の書類をもって早足でギルドに向かう三人。
だが、その足は一人の男によって止められた。
「フェアリーテイルだな、お前ら」
「え?‥だったら、な―」
「ギヒッ」
「に‥え?」
レビィの横にいたドロイとジェットが行き成り吹っ飛んだ。
両腕を巨大な鉄に変えた男…ガジルによって殴り飛ばされたのだ。
「さぁて、始めるか。妖精狩り」
「ゲホッ」
「ちくしょ‥グッ」
(二人とも、さっきので多分アバラが‥私がどうにかしないとッ)
レビィの魔法は、文字魔法と呼ばれるものだ。
魔力で文字を描き、その意味を具現化する。
歩いて近づいてくるガジルに、その魔法をぶつける。
「〝Fire〟!」
炎の塊がガジルに向かうが、鉄と化した腕を振るうだけで簡単に散らしてしまった。
まるで羽虫でも散らすかのような挙動に驚くレビィ。
「嘘ッ。さ、〝Thunde-」
「遅ェ」
鉄ならばイヤでも効くはずだと、今度は雷を放とうとする。…だが、それが具現化する直前に、鉄の剣と化した腕がレビィの魔法を切り裂いた。
「「レビィ!!」」
「ぁ」
返す形で下からレビィに迫ってくる鉄の剣。
(―ッ)
防ぐ暇はない。レビィは切り裂かれる痛みに耐えようと、目を堅く瞑った。
こんなピンチな時に、脳裏に浮かんだのは暖かな背中だった。
静かな街に、赤い飛沫が舞いちる。
だが、レビィに痛みはなかった。
おかしい、もう剣が振るわれているはずなのに。そう思い、ゆっくり眼を開く。
「…ナ、ツ」
そこにあったのは、さっき想った暖かな背中だった。
炎を纏った脚で踏みつけることで、剣を受け止めたようだが、思い切り刃面を踏みつけたせいで血が出ている。
「大丈夫か?」
振り向いた彼は、こんな場面に出くわしたとは思えないほど柔らかな笑みを浮かべていた。
それに温かさと安心を覚えつつ、首を縦に振った。
「じゃぁ、その二人頼む」
「ぇ、たのむって」
「…ギヒッ」
「ッ」
ビクッとその嗤い声を聞いて身体が反応してしまった。
ナツの向こう側にいるあの男が、ナツを見て愉しそうに嗤っている。
対するナツは、さっきの微笑みが失せ、ガジルを睨みつけている。
「
「
二人から感じられる魔力を察したレビィは、瞬時に悟った。
――自分は此処に居ても何もできない。
悔しいが、泣きたいほどに悲しいが、それが事実だった。
「ごめん、ありがとナツ!」
「あぁ、行け」
「ごめん、ごめん!!」
二人を魔法で浮かせて連れていくレビィを、ナツは振り向かず手だけ振って応えた。
「じゃぁ――始めるか」
ナツの火力が急激に上昇し、踏みつけていた剣を溶かす。
ヤバイと感じたガジルは瞬時に元の腕に戻したが、そこには火傷の痕があった。
(魔法といえど、鉄化してるだけで腕ってわけだ。まぁ魔法で作られた部分が多いから、溶かしてもあの傷で済んだわけか)
(ハッ、鉄竜の鉄を溶かすとはな‥
「で、何でこんなことしてんだお前?」
「ア?」
「無人のギルド壊して、夜に奇襲して…なにがしてぇわけ?」
「単に宣戦布告‥のつもりだったんだが、もう布告とは言えねぇか。ギヒヒ。早ぇが―開戦といくか!!」
鉄の鱗で全身を覆ったガジルが突っ込んできた。
ナツとしてはその宣戦布告の理由を知りたかったのだが‥まぁ言うはずもないのは分かっていたし、仕方ない。
「開戦ってなら、覚悟しとけよ」
「アァ!何がッ!!?」
振るわれた鉄竜の拳を受け止めた瞬間、辺りに衝撃波が奔った。
それだけ質量を伴っている拳だが、火竜の男はまるで何ともないかのように握りしめる。
「潰される覚悟、しとけっつってんだよ。
「ギハハ、逆だ逆。そっちこそ、消される準備しときな!
こうして街のど真ん中で、滅竜同士の戦闘が勃発した。
●
ほんの数年前のことだ。
鉄竜と畏れられ始めていたガジルは、その日も悪逆非道ともいえるやり方でクエストをこなしていた。
「ア?」
ある討伐クエストで目に留まったのは、偶然にも同種の依頼を受けていた火竜ことナツだった。
ガジルよりも先に竜として畏れられ、同時に尊敬されていた男に、ガジルは興味が湧いた。
一体どの程度の強さを持っているのだろうか。それを知るために、彼は態と討伐対象ではない、その地域の少し先の主ともいえる存在をナツにけしかけた。
まともにやりあえばガジルですら危ういその主を…火竜の男はあっさり蹴散らした。
(‥ンダ、そりゃぁッ)
出鱈目という言葉を具現化したかのような光景を目の当たりにした彼は驚愕し…その強さを欲した。
ナツではなく、その圧倒的力に彼は魅せられた。
それをみた日から、彼はいつも以上に魔法の特訓を始めた。
――
●
戦闘開始から数時間が経った。
彼らの戦闘はアグノリアの街で収まらず、そのまま別の場所へと移動していた。
(ってオイ、待てよこの方角はッ)
ガジルはようやく何処へ
「ギヒヒ、おいおい、
「言ったろ、潰すって」
炎と鉄の拳を交わしながらも、涼しい顔で言い放つナツ。
確かに言った。それはこの戦闘が終わった後のことだと、ガジルは思っていた。
だが、それは違った―この男は、このまま流れ作業のようにギルドを潰すつもりだ。
「ギハハ、イカレてんなおい! 言っとくがマスターだっていんだぞ!?」
「知るか」
ナツの脳裏にあるのは、泣きながら去ったレビィと、苦しそうに呻いていたドロイ、ジェット。
「お前らが何考えて襲ってきたのかは知らねぇよ。‥知ったこっちゃねぇ。それごと
言ってることは理解した。同時に、なめられているというのも分かった。
(こ、の野郎ッ)
怒りが沸き起こるが、だが尤もだと頭の片隅で冷静に理解した。
この男にはそれが出来る力がある。
今押されてはいるが、拮抗している‥できているのは、この男が目的地に向かうことを優先しつつ、余力を残しているからだ。
ガジルが硬いというのは勿論ある。そこらの魔導士なら軽く蹴散らされていただろう。此処まで追い縋れているのは、彼の実力が高いからだ‥だが、それ以上にナツの方が上なのだ。
(ふざけろチクショウ!)
力を目の当たりにしたあの日から、彼は彼なりに修練を積み重ねてきた。
似合わないことしてる自覚はあった。だが、そんなことよりもあの力に魅せられたのだ。
実際あれから実力は伸びた。マスター曰く、もう「幽鬼の支配者」で彼以上の実力者などいないと太鼓判を押されるほどに。
レベルの高い依頼もこなした。自信実力共に過去よりずっと上がったのだ。
同時に、火竜は最近魔力が落ちたと聞いている。魔法は想いだ。何かがあったのだろうが、ともかくもう実力差なんてないと思っていた。
(なのに、それでもっ)
ガジルは身体のあちこちにやけどを負い、ナツは最初の剣の傷以外‥否、その傷すら焼き塞がれている。
見るからに、実力差は明らかだった。
「終わりだ」
「ッ」
朝焼けの太陽を背にしたナツから、レビィとは比べるまでもない、強力過ぎる炎が放たれた。
炎に包まれたガジルは、炎の中で…嗤った。
(強ェ、強い…嗤っちまうくらいの実力だ‥
これで魔力が落ちてるとか、誰だ言ったのと内心思いつつ、ガジルはこのピンチの中ある行動をとった。
「…?」
炎に包まれたガジルを見て、「幽鬼の支配者」に向かおうと背を向けかけたナツは、悪寒を感じて振り向いた。
「ガブガブ…」
ガジルが、
「ゲハー…うぇ」
滅竜魔導士は、それぞれの属性にあった魔力を喰うことでパワーアップできる。
だが、合わない魔力でも食えればパワーアップは可能だ。質の違う魔力が中で荒れ狂って、吐きたくなるくらい気持ち悪くなるが。
ともかくそれをナツは知っている。追い込まれた滅竜魔導士なら、自分だけでなく雷の使い手だってやったことだ。
(アレはヤバかったなぁ…)
炎と雷、雷と炎という図になり、ギルドを灰にしかけた過去の喧嘩を思い出し…
向き直っただけだが、さっきまでとは違い、ガジルをしっかり見据える。
―
「…ナツ・ドラグニルゥゥウウウウ!!!!!」
鉄の鱗を纏い、凄まじい熱気を放ったガジルが、炎を全身に纏ったナツに突っ込んでいく。
真っ赤になった鉄の拳を受け止め、ジュゥという肉が焼ける音と臭いがし、顔を顰める。
お返しに拳をぶつけ、吹き飛ばす。‥が、さっきと違い無傷で起き上った。
「熱くて…硬い」
さっきまでは鉄を溶かして防御力を突破していたが、今のガジルは熱耐性が上がり、更に鉄が真っ赤になり攻撃力を増している。
そして、熱のせいで少しは柔らかくなったとはいえ、元々鉄だ。拳では突破するのは難しい。
(こりゃ、時間かかるかな‥)
別になめていたわけではない。寧ろ、同じ滅竜魔導の使い手として、いつも以上に攻撃的だった…ただ、やはり全力ではなかったのが問題なのだろう。
(今のままじゃ、アレを貫くのは至難だな…だけど)
―ギルドを、家族を脅かすモノは全部排除する。
決めたことだ。あの日、あの時に。何が起こっても、皆を護りたい。
だから…。
「邪魔すんじゃねぇ…とっとと潰れろ
「面白いのはこれからだろうが。 もっと本気で来いよ、
アグノリアとオークの街の間で、竜の二回戦が始まった。