FT 火竜の軌跡 -再-   作:元桔梗@不治

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第8話 火竜とガルナ島

「火竜の――翼撃!」

「ふぉっふぉっふぉ」

「チッさっきからフラフラ避けやがって‥そんなに俺をあいつらから離したいのかよ」

「おや、お気づきでしたか」

「当たり前だっての‥いや、あいつ等からじゃねぇな。デリオラとか言う悪魔からか?」

 

 もう冷気は感じない。かなり離れてしまったようだった。

 

「気づいていながら、態々?」

「あぁ‥言ったろ、お前からは異臭がするってな」

「ほっほぉーう‥失礼なことを堂々と言うお人だ」

「取りあえず、ボコボコにしてから聞くが問題ねぇな―ッ!!」

 

 足元を爆熱させ、近づこうとした瞬間その足場が崩れた。

炎を噴出するのを急停止し、炎翼を出して改めて接近する。

 

「その時魔法、随分応用が利く魔法みたいだな!!」

「貴方の方こそ、流石ですな! 飛べるとは羨ましいことで」

 

 言いながら、炎の爪、砕牙をくらわせにかかる。

だが、ギリギリの所で壁が修復され現れたり、天井を直したり崩したりして飛行の邪魔もしてくる。

 

(クソ、見たとこアイツの時魔法は生物には効かねぇ。だが恐らく魔法は効く)

 

 遠距離攻撃はきっと尽く無効化されてしまうことが容易に想像できた。

だからこそ、彼はこうして接近戦を挑んでいる。

 

(足りねぇ、火力が足りねぇ!)

 

もっと、もっと魔力が、炎が必要だった。

だが、離れたとはいえ、巻き添えの可能性がある広範囲を焼き尽くす火焔刀のような技を使うわけにはいかない。

刃尾なら‥いや、アレは線に収束した攻撃だ‥今必要なのは、面の攻撃‥。

 

(どうする‥いや、こういう時は考えるな!)

 

 単純な問題なのだ。要は、爪が届かないというだけ(・・)のシンプルな問題。

 

(届かないなら、届かせればいいッ)

 

 ゴォッ。ナツの両腕に魔力が濃縮され、濃密な炎となり竜の爪を象っていく(・・・・・・・・・)

 

「おぉぉぉおお!!! 火竜――」

「また砕牙ですか? バカの一つおぼ‥え?」

 

 仮面の老人擬きは、目を疑った。

さっきと同じ魔法のはずだった。少なくとも、初めの一瞬は同じ爪だった。

だが、目の前で振りかぶったその腕は、最早爪ではなくなっていた。

 

 ―真紅の竜の腕そのものにしか見えなかった。

 

紅蓮滅爪(ぐれんめっそう)!!!」

 

 二回り以上大きくなったナツの腕(竜椀)は、再度作り直された壁と、竜腕に向けられた時魔法ごと仮面の老人擬きを焼き裂き、吹き飛ばした。

 

「さって、聞かせてもらおうか‥お前の目的はなんだ?」

「ガフっ‥はー‥思っていた以上の使い手ね」

 

 姿はそのままに、声だけが女のそれになっていた。

 

「流石、ララバイを一人で倒しただけはあるわ」

「! なんでそれをッ」

 

 ララバイが抜けて只の笛となった抜け殻は評議員に渡しておいた。

だが、見かけ封印魔法をかけていたし、誰もが中にララバイがまだ潜んでいると勘違いしているはずだ‥なのに、なぜ‥。

 

「‥まさか、お前評議員か? 封印を解いた‥いや、調べたな」

 

 封印を解いたのなら流石に目立ちすぎる。そんな話を聞いた覚えがないナツは、相手が封印を透かして中身を見たのだと判断した。

 

「フフフ、頭の回転が速いわねぇ‥そうよ。そして、あの笛にララバイがいないことを知ったわ。あとは誰が届けてくれたのかを調べて、状況を考えれば容易にたどり着く答えよ」

「…デリオラを倒すんじゃなく、奪うことが目的か」

「えぇまたまた正解‥なに?貴方って暴れん坊って聞いてたのに、随分理知的じゃない」

「チッ。成程な。俺を離した理由は、デリオラを倒されないためにか」

 

 ララバイ同様、永い封印によって弱っているはずのデリオラ。

ナツなら、確かに倒せる可能性があった。

 

「フフフ‥そして、気づいたところでもう遅い‥」

「ア? どういう――ッ」

 

 ゴゴゴゴゴゴッ! 凄まじい音を立て、遺跡が揺れ動いた。

 

「くそ、どうなってんだ。遺跡は破壊して‥てめぇ、まさか」

「フフフ、気づくのが遅かったわねぇ」

「この(アマ)、戦いながら遺跡を直しやがったな!!」

「えぇ。貴方に気付かれないよう、この部屋の壁、天井からゆっくりと直させてもらったわ‥月光は十分溜まっているし、後はきっかけがあれば‥」

「させるか―ッ」

 

 倒れている女を置いて、ナツはデリオラの元へと走り出した。

この様子だと、恐らく今更儀式に向かったところで間に合いはしないだろう。

 

(なら、デリオラをぶっ飛ばすしかねぇ。グレイやルーシィが戦い終わる前に、俺がぶっ倒す!)

 

 

「な、何この揺れ!?」

「もしかして、デリオラが復活したんじゃ‥」

「えぇ!?」

 

 桃色の髪の女、シャリーが使う魔法「人形撃」によって生み出された岩人形(ロックゴーレム)から逃げてデリオラの場所から離れた二人は、いやな予感に冷や汗をかきつつ、岩人形がら逃げる。

 

「で、どうするのルーシィ?! おいらにも限界があるよ!」

「…」

 

 ルーシィを掴んで飛ぶハッピーが聞く。

彼女の魔法は人間以外全てが対象。そして、それには星霊も含まれていた。

さっき強制閉門を体得したルーシィだが、今の彼女にあの岩人形に対抗できる星霊など‥一体しか思い浮かばなかった。

 

(アクエリアスなら、きっと全部激流で流してしまえる‥でも)

 

 此処には、彼女を呼び出すための媒介である水が存在しなかった。

ならば‥。

 

「…どうしよ?」

「えええええええ!!!」

 

 驚きの声を上げるハッピー。仕方ない、だって本当に手がないんだもの。

 

「だって人以外で星霊だって操れちゃうのに‥ん?まって、人以外(・・・)?」

 

 ふと、あることを思い出したルーシィ。

そういえば、今自分を飛ばしてくれているハッピーは…猫じゃないか?

ハッピーが居なかったら今頃自分は岩人形に押しつぶされている可能性が高い。それは相手もわかっているはず。なのに、ハッピーを操って遠くへ行かせたり自滅させたりしない‥それは、もしかして。

 

「‥ねぇ、ハッピー」

「あい?」

「アンタ、もしかして…破魔か結界系の道具、持ってたりしない?」

「あい! あるよ!ナツが呪とか受け無いようにって、お守りとか札とかナツの魔力がこもった魔水晶とか!!・・・ハッ」

「それを早くいってよー!」

「ごめんよー!!」

 

 言いつつ、ハッピーはルーシィに一枚の札を渡した。

 

「よっし、これでッ来て、バルゴ!」

 

 札をカギに巻き付くように貼り、星霊バルゴを召喚した。

 

「およびですか、姫?」

「バルゴ、アレどうにかして!」

「あれ‥」

「落とし穴でも何でもいいから!」

「了解しました。では‥」

 

 そう言って、バルゴの姿が地面へと消えた。

さらに、岩人形の足元に大穴が開き、足を止めさせ‥そして次の瞬間。

 

「「え??」」

 

 岩人形に大量の穴が開いた。

思わず呆ける召喚主と星霊魔導士。

そして、その瞬間を一匹の猫は見逃さなかった。

 

「いまだー!えーい!」

「ってきゃー!!!」

「あ、おいしい所とられた!?」

 

 竜炎の魔水晶によって燃やされたシェリーは、気を失った。

 

「‥にしてもバルゴ、あんたあんなこと出来たのね‥」

「はい。ナツ様にアドバイスをもらいましたので」

「何時の間に‥っと、それより急ごう!」

「あい!」

 

 バルゴを戻し、ルーシィとハッピーもデリオラの元へと向かった。

 

 

 「デリオラの氷が‥ウルが‥」

 

 絶対氷結、あれは只の氷ではない。

使用者の意思が、魂が籠った特別な氷だ。決してどんな炎にも、その意思をうわまらない限り溶かすことなどできない。‥この、月の魔力を例外として。

 そのことをリオンには伝えた。だが、彼はそれを聞いて尚止まろうとしなかった。

在ろうことか只の氷クズだと言い放ち、グレイの琴線に触れた。

 ウルの教えに背いた片手でのバランスの悪い造形魔法で作られた彼の氷は、グレイの氷を打ち破ることは出来ず、そのまま倒されてしまった‥今は、ボロボロの体でデリオラを見ている。

 

「オレが‥ウルを、超えるッために」

「無理だ、止めとけよ」

「! ナツ、お前終わったのか」

 

 リオンの声を遮ったのは、ナツだった。

 

「‥もう溶けちまったなぁ」

「‥こうなったら、俺が」

「また繰り返しだろうが。止めとけ‥それより、ぶっ倒す準備しておけよ」

 

 竜炎を纏ったナツを見て、リオンがフラフラな状態で立ち上がった。

 

「や、めろ。お前らには無理、だ」

「お前のが無理だろ‥それより‥・・あ?」

 

 下がってろと言おうとしたナツだったが、デリオラの様子を見て止まった。

デリオラに、罅が入っている(・・・・・・・)

 

「これって‥」

「バカな‥そんな、まさか‥」

 

 罅は広がっていき、デリオラが音を立てて崩れていく。

デリオラは‥死んでいた。10年も氷の中で命を奪われ続け、そして今その最後を迎えているのだ。

 

「…かなわん‥オレには、ウルを超えられん‥」

「‥ありがとうございます、師匠」

 

 二人の様子を見て、ナツも一安心してその場に座り込んだ。

 

(‥こんなことなら、評議員のやつ縛ってからでもよかったなぁ)

 

 

 

 遺跡から戻ったナツ達。

既に朝日が昇っており、フラフラの状態で村に戻って、そのまま夜まで眠った。

そして‥。

 

「さて月壊すぞ」

「「「は?」」」

 

 ナツの言葉に、全員が驚いた。

 

「原因は月の光だった。それを取り除いたが、まだ依頼完遂してねぇだろ」

「いや、ちょっとまってナツ。ホントに本気で言ってるの!?」

「あぁ‥まぁ見てろ」

 

 外に赴き、村の皆も見守る中、ナツは魔力を高め、火焔刀を用意した。

十分な魔力が火焔刀に籠ったことを確認すると、炎翼を出して勢いよく飛翔した。

 

「ちょっまさか月まで行く気!?」

「無理だろ‥ぁ、そうかなるほど」

 

 天高く飛び、そして目的の物までたどり着いたナツは‥勢いよく、真横に刀を振るった。

そして‥月ごと空が真っ二つになった。

 

「ホントに斬ったー!?」

「正確には上空に溜まってたものを斬り裂いたんだろうな‥‥」

「流石ナツだね~」

 

 ハッピーはすでに慣れた様子で見守っていた。

 真っ二つになった切れ目から焔が広がっていき…空を焼き尽くした。

そして‥本物の月が現れた。

同時に月の魔力が無くなり、島の住民も元に戻った。‥元の、状態に(・・・)

 

「は?」

「‥って何も変わってないじゃない!?」

「そりゃそうだ」

 

 降りてきたナツは、改めて説明した。

月の光は魔力‥魔というモノを狂わせる。それは悪魔も同じことで、上空に固まってしまった月の魔力によって、彼らも狂わされてしまっていたのだ。

結果、自分たちが元は人間だった(・・・・・・・)という偽りの記憶(・・・・・)を持つようになってしまった。

 

「さって、これでクリアだな」

 

 こうして、ナツ達はS級クエストを無事クリアしたのだった。

 

「ナツ~」

「何だよハッピー?」

「これで、S級って認められちゃうね~」

「……いや、ほら。今回一人でクリアしたわけじゃねぇし、何とかなるだろ」

「無理だと思うな~」

「…」

 

 ハッピーの無情な言葉に、ナツは700万という大金と黄金のカギを、ガックリした様子で受け取るのだった。


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