FT 火竜の軌跡 -再- 作:元桔梗@不治
月の光が集まる場所に着くと、そこには白い衣装を着た人間たちが集まっていた。
どうやら、儀式をしているらしい。
(月の光を集めて、何してんだ?)
場所は遺跡の上、遺跡にあいた穴に光を集めているらしいが。
月の光、魔力は特殊なものだから、何となく想像はつくが‥。
(遺跡の中に何かあるってわけか)
だが、何があるのか分からない上にこの儀式を放っておくわけにもいかない。
「ってことはやれることは一つか――火竜の」
炎を両腕に纏い、形状を変化させる。
イメージは竜の顎。全てを噛み砕き、焼滅させる炎の顎。
その顎を――勢いよく真下に振り下ろした。
「
静かな真夜中の島中に、轟音と光が響いた。
ナツを中心に遺跡に罅が入り、崩れていく。
「なっ、誰だ!?」
崩壊していく遺跡の上で、誰かが叫んだ。
「フェアリーテイルだ。仕事しにきた、悪いが洗いざらい吐いてもらうぞ」
騒がしい中、ナツだけが静かに佇んでいた。
「フェアリーテイル、だと‥その炎、
「あ?何だその仮面。趣味にしちゃ随分酷いな」
「フン、衣装だよ衣装。相応しいものを用意しただけだ」
「そうか‥ところで一ついいか」
「なんだ?」
「お前‥――なんでその用意した衣装脱いでんだ?」
「あ」
何故か自信満々だった衣装を脱ぎだした白髪の男。
というか、この癖どこかでみたことが…。
「グレイの知り合いか?」
「ッ‥忌々しいが、兄弟子というやつだ」
「へー‥興味ねぇな!」
炎翼を展開し、遂に崩落し始めた遺跡から脱出する。
「流石にやりすぎたか?‥ハ?」
思わず目を点にしてしまった。
何故なら、崩落していく遺跡が、逆再生するように元に戻っていくのだから。
(修復とかいうレベルじゃねぇな。巻き戻し、時間操作の魔道士がいるのか?)
考えていると、ナツの下、遺跡の入り口付近に騒ぎを聞きつけたグレイとルーシィが来ていた。
「ナツ!」
「お前、何やってんだ!?」
説明が面倒だと思いながら、彼はゆっくり降りるのだった。
○
降りたナツは、二人に見たことを全部話した。
何かの儀式をして月の光を集めていること。その主犯はグレイの兄弟子を名乗っていたこと。
そして、破壊したはずの遺跡が元に戻ったことも。
「そうか‥かなり厄介なことになってるみたいだな」
「ま、月光で何をしてたのか‥気になるから行ってみるか」
「‥まってナツ、何する気?」
「ルーシィ、分かってるでしょ~」
両手に炎を灯したナツを見て、ルーシィが冷や汗を浮かべた。
ハッピーはもう慣れたもので、達観した目を向けている。
「天辺から光を集めてたから、きっと真下に何かある‥そういえばワザとらしい穴もあったからな‥まぁアレだ」
ナツはニヤリと悪い笑みを浮かべ、両手の炎を合わせた。
「見に行こうぜ!」
言葉の後、爆炎によって神殿は二度目の崩壊を遂げた。
○
「なっこいつは‥!」
「‥デカいな。悪魔か?」
「うっそぉ」
崩落した神殿を降りていくと、地下にたどり着いた。
そこにはグレイの兄弟子と仮面を被った変な格好の奴、あとは眉が太い奴とピンク色の髪の女が待ち構えていた。あとは崩落の衝撃で気絶している。
彼らの背後には、巨大な氷に包まれた巨大な悪魔の姿があった。
だが、今はそんなことはどうでもいい。問題は目の前の敵だ。
(‥あの仮面の奴、体つきは男な癖に香水の匂いがするな‥どういうことだ?)
「‥神殿は直さなくていいのか?」
「直すたびに壊すでしょう?」
「へー、お前が直してたのか」
「‥おや、これは失敗失敗」
ワザとらしくふぉっふぉっふぉと笑う仮面の老人?を睨むナツ。
「月の光を集めてたのは、そいつを開放するためか?」
「何故そうお思いで?」
「月の魔力は特殊だ。集めればあらゆる魔法も狂わせ解除してしまう」
「なっ、お前らデリオラを開放してどうする気だ!?」
グレイがナツの話を聞いて感情を露わにして叫んだ。
「‥グレイか」
「リオン‥お前、何しようとしてんだ。そいつは、ウルが」
「そうだ。ウルが封印した悪魔デリオラ。そして、俺が今から超えるモノだ」
「超えるってこいつは凍ってッ! まさか、
「そうだ。そしてデリオラをこの手で倒し、ウルを超える!!」
「何言ってやがる! ウルはデリオラを封じるために命を落としたんだ! それを壊そうってのか!?なにより、無理だ!!アイツの恐ろしさは良く知ってるだろ!?ヤメとけ!」
「―無理、止めろ、だとッ! あの時、オレ達もお前に同じ言葉をかけた。忘れたわけではあるまい!お前がデリオラなんかに挑んだから、ウルは死んだんだ!!!」
リオンの怒りが魔力に現れ、鋭い氷のつららが地面から飛び出してきた。
ナツはリオンの怒りを察し、更にグレイが動揺して魔力が乱れているのを見て、魔法を発動した。
「火竜の
体に纏った炎を絞り上げ一本の鞭のようにし、そのまま地面ごと氷を焼き裂いた。
「…おい、言われっぱなしか?」
「…事実だ」
「ッだからなんだ!」
胸倉を掴み上げ、うつむいていた顔を引き起こした。
敵の攻撃を警戒して、刃尾を自分たちを囲うように展開し、魔力を発露させ炎の壁を作り上げる。
「過去に何があったか、何となく今ので察することは出来る‥お前のせいで大切な人が死んだってのもわかる」
「お前に、分かるかよ」
「わかるさ」
脳裏に赤い大きなその姿がフラッシュバックしながら、グレイを見つめる。
「俺も、お前とは違ぇけど‥俺が原因で
「!」
ナツが他人にこの事を話すのは、初めてだった。
ギルドの皆は、それぞれ何かしら抱えてる。だから、言いだすまでは誰も何も言わないのが暗黙の了解となっているからだ。
「でもな、俺は生きろって言われた‥前を向いて生きろって」
「…俺も‥」
―歩き出せ、未来へ…お前の闇は、私が封じよう。
「未来へ、歩けと‥願われたッ」
グレイの瞳に光が戻り、動揺していた体の震えも止まっていた。
「‥その歩けってのは、お前だけじゃないだろ」
「‥あぁ」
「よし…じゃ、バカな兄弟子にも伝えて来い!」
「オウ!」
炎の壁をけし、背中を叩き押す。
駆け出したグレイの邪魔をさせないため、炎で他の奴にけん制しつつ、ルーシィに指示を飛ばした。
「ルーシィ、他の奴を俺達で止める!いいな!」
「うん!」
「ハッピー、ルーシィの援護頼むぞ!」
「あい!」
「よし――オラァア!!火竜の咆哮!!」
一直線に、まずは眉が太い奴に炎を浴びせる。
「ッ波動!」
「お、魔法を中和したのか?」
「ふっ初見でよく見破った‥そう、全ての魔導士は俺の前では無りょ」
「なるほど‥じゃぁ、火力上げるぞ」
「く‥え?」
「焦げても恨むなよ。スっガァアアアッ!」
ボンッと破裂するようにナツの炎の火力が上がった。
それは波動の中和率を優に超え、彼を飲み込んだ。
「ぐっおおおおおお!!?」
出来るだけ炎を中和し、真横に転がり込んでどうにか持ち直した。
「な、なんという凶暴な炎―」
「火竜の―」
「なっ!?」
足元を爆熱、更に炎翼で加速することで超速となったナツは、転がった彼の背後をとっていた。
波動を出される前にその顔面を掴む。彼は手から波動を出していて、波動そのものをナツのように纏ったりは出来ない。魔力の渦の中にツッコめば、人間はバラバラになってしまう。
「握撃!」
爆炎が起こり、太眉の彼が地に沈んだ。
この間、わずか数秒‥。
「‥さて、次はお前だな」
「ふぉっふぉっふぉ。お若いのが相手でなくていいのかね?」
「変な耳つけたやつがいないのが気がかりだが‥まぁ臭いは覚えたし、直ぐ追える‥ルーシィにはハッピーが付いてる。ハッピーなら、ルーシィを助けてくれるさ。そしてグレイは―」
チラッと一瞬だけその方向を見る。
語りかけながら、魔法の打ち合いをしていた。
「大丈夫、あいつならやれる」
日頃喧嘩を仕掛けてこられてれば、レベルがどの程度かは分かる。
そして、刃尾で防いだ氷の感覚からして、グレイなら負けない。
「何よりお前だけが
「ふぉっふぉっふぉ‥此処に来て直感ですか‥思っていた以上にやりそうですな、ナツ・ドラグニル」
背後から冷たい魔力を感じつつ、火竜と時魔法の使い手が、ぶつかり合おうとしていた。