FT 火竜の軌跡 -再-   作:元桔梗@不治

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第3話 火竜とDAYBREAK

 依頼書が貼ってある掲示板、その中の一枚をナツとハッピーは選びとった。

 

「エバルー屋敷から一冊の本を取ってきてほしい、か」

「20万J(ジュエル)だって! 本一冊に何でそんなに払うんだろ?」

「なんかあるんだろ‥」

「あ、ナツ‥それ!」

「ン?」

 

 振り向くと、水色の髪をした少女がいた。

前髪をアップで固定しており、デコが見えて活発な印象を受ける彼女の横を見る。

いつもはドロイとジェットという二人の男魔導士がいるのだが…。

 

「ドロイとジェットはどうしたんだ?」

「ちょっと男手のいる仕事に‥でさ、その仕事受けるの?」

「あぁ、まぁ一冊で20万なら旨いだろ」

「私も連れてって!」

「あぁ、別に良いぜ」

「ヤッタ!」

 

 依頼書を受付に持っていき、了承してもらう。

了承してもらった依頼は依頼主の元へ連絡が行く仕組みになっている。

 

「えと、まずは馬車を‥」

「あー、レビィ。俺は飛んでいくけど‥」

「あ、そっか。ナツは乗り物酔っちゃうもんね。…んー、じゃあさ、こういうのはどう?」

「?」

 

 レビィはナツの後ろに周ると、その背に抱き着いた。

腕を首にまわし、胸の前でギュッと組む。‥所謂おんぶというやつだった。

 

「…これで、飛べと?」

「ナツなら出来るよね?」

「そりゃ、出来るが…」

 

 炎の性質を変えれば、燃やさない炎を出すことは可能だ。

翼に必要なのはあくまで推進力等であり、焼却は必要がない。

 

「怖くねぇのか? 俺が加減ミスれば燃えちまうぞ」

「大丈夫。それに、ナツの魔法綺麗だもん」

「綺麗、ねぇ‥」

 

 火竜の炎は全てを焼き尽くす。

ナツの操るのは破壊を司る、火の滅竜魔法。

炎翼だって例外ではないのに‥ルーシィといいレビィといい、このギルドはどこか常識が外れている人間が多すぎる。

 

(ま、俺も似たようなもんか)

 

 常識から外れているなど、もはや当たり前だ。

 

「んじゃ、とばすぞ!」

「落ちないようにゆっくり行って欲しいなぁ」

「注文が多いなぁ‥たく、仕方ねぇか。行くぞハッピー」

「あい!」

 

 ○

 

 (‥おっきぃなぁ、ナツの背中)

 

 暖かな背とそこから噴出している翼。

彼はギルドの皆に、そしてレビィにとって兄のような存在だ。

何かあったら察してくれて、すぐ相談に乗ってくれる、頼れるお兄ちゃん。

偶に大暴れしちゃって何かしら焼滅してくるが、それでもナツはギルドにとって暖かな日差しのような人。

 

(でも、頼りすぎちゃってるのがなぁ)

 

 ナツは頼りになる。彼に任せれば何とかなるんじゃないか、なんて考えがあるくらいに。

甘えなのはわかってるが、こうしてついおんぶを頼んでしまうのは日常茶飯事だった。

 

(んー、どうにかしないと)

 

 あくまでお兄ちゃんの〝ような〟人なのだ。

こうして客観視してしまえばそれなりに羞恥心が湧いてきてしまう。

どうしようと甘えながら考えてる時点で手遅れかもしれないが、それに本人が気づくことはなかった。

 

 

 暫く飛び続け、依頼書の依頼人、カービィ・メロンという人物の屋敷にたどり着いたナツ達。

話を伺うと、本を取ってくるというよりも、破棄をしてほしいということだった。

しかも、依頼料は200万に引き上げるという。

 

「‥ねぇ、おかしいよね20万が200万って」

「あぁ。こりゃ何かあるな‥あの家も依頼主のもんじゃねぇみたいだし」

「そうなの!?」

「匂いが違った‥まぁここまで来ちまったんだ。いっそどういうことなのか、調べてみようぜ」

「…うん、そうだね」

 

 なんにせよ、まずは本の確保が先だ。

エバルー伯爵の屋敷の上階から侵入することにした。

 

「ま、正直屋敷ごと破壊しちまった方が、依頼を達成するって意味じゃ楽なんだけどな‥」

「ちょっ物騒なこと言わないでよ」

「冗談だって‥っと、開いた。行くぞ~」

 

 窓ガラスを溶かして鍵を開けて入る。

どうやら物置代わりにしているらしく、色々なものがごちゃごちゃしていた。

 

(ん? 魔力を感じる…)

 

 微弱だが何かの魔力を感じて周りを見渡す。

だが、物が多すぎて何が何やら分からないので、諦めて廊下に出た。

 

 と、同時にブッサイクなメイドが地面から飛び出してきた。

 

(地面‥穴掘り系の魔法か?)

 

 冷静に考えつつ手足に炎を灯し、全員をぶっ飛ばして壁にめり込ませた。

 

「な、なんで行き成り!?」

「さっきの部屋、弱い魔力の何かがあったからな。たぶん監視用の魔法具でも置いてたんだろ」

「そういうのはもっと早く言ってよ! びっくりしたぁ」

「悪ぃな。まぁこれでこそこそする理由も消えたわけだし、さっさと探すか」

「うん‥あ、丁度よく本の保管庫みたい」

「ラッキー‥探すぞ。タイトルは確か、DAYBREAKだったな」

「うん!」

 

 手当たり次第に漁ること数分、金色の背表紙のそれを見つけた。

 

「‥あっさり見つかったな」

「だね‥さて、とどんな本なのかなぁ」

 

 レビィが眼鏡を掛けた。あのメガネは確か読解速度を最大20倍に引き上げる魔法具だったはず。

 

「ってこれ、著者ケム・ザレオンだ!」

「誰だそれ?」

「優秀な魔導士で、小説家だった人よ」

「はー‥」

「彼の作品は全部読んだと思ってたのに‥未発表作品かぁ」

「感慨深くなってないで、早く読んだ方がいいぞ。たぶんそろそろ‥」

「なるほどなるほど。ボヨヨヨヨヨヨ‥」

「来たな」

 

 めきっと床が罅割れ、今度はそこからスーツを着たおっさんが出てきた。

見た目からして頭の悪そうな悪人だと分かる。

 

「貴様らの狙いは〝日の出(デイ・ブレイク)〟だったギャ―!?」

「‥火竜の鉄拳、と」

 

 地面から勢いよく出てきて、何故か少し滞空していたので殴り飛ばしてメイド同様壁にめり込ませた。

 だが、思ったより顔は頑丈だったらしい‥手足はやたら細いのに。胴体ともども太いのは伊達じゃないようだ。

 

「お、おのれ。吾輩の本に手を出すのみならず、吾輩に手をあげるとは‥ゆるさーん!来い、バニッシュブラザーズ!」

 

 そういうと、今度はゆっくりと(・・・・・)本棚が左右に開きだした。

 

「ってだから何で一々とろいんだよ!!」

「グギャーー!!!」

 

 開くまでの間に伯爵を再度めり込ませる。今度は頭を掴んで強めに叩き付けたからか、起きることはなかった。

 

(ん? これ‥)

 

 伯爵の服から何か落ちたので、拾っておく。

と、その間に隠し扉が開いて

 

「…雇い主がやられたが、まぁ貴様らをヤレばそれでいいだろう」

「にしても、妖精の尻尾(フェアリー・テイル)の魔導士というのはこんなガキ共なのか。ママも驚くぜ」

「‥なんか濃いのが来たなぁ―ま、関係ねぇか」

 

 パキパキと指を鳴らして挑発する。

 

「レビィ、解読はどれくらいかかりそうだ?」

「ん、まずは読まないと‥数分待って」

「OK、ヨユー」

 

 後ろにいるレビィが本を熟読し始め、ナツはCOMEONの文字を炎で作り上げ、再度挑発した。

 

「敵を前にしてその余裕、後悔することになるぞ」

「ハッ。イイから来いよ‥二人一緒で良いぞ。手間がかからねぇ」

「兄ちゃん、マジでコイツなめてるよ…」

「相手が私の得意な火の魔導士とあっては、簡単な仕事になりそうだな―とう!!!」

 

 兄らしい方が掛け声をあげ、手に持った大きなフライパンを振り下ろしてくる。

 

「おいおい、レビィに当たるだろうが」

「な!?」

 

 フライパンを片手で掴み抑えると、何故か驚かれた。

と、兄の背後から背の高い弟が勢いよく飛び出してきた。

 

「このっ」

「確か、兄の方が火に強いんだっけか?」

 

 この時、背後‥正確には斜め後ろにいたレビィは、ちらっとその顔を見た。

見えづらかったか、ナツのその時の笑みはとても。

 

「火竜の―」

「な、こいつ口から!」

 

 悪い形(悪魔の様)だったという。

 

「〝咆哮〟!!」

 

 突っ込んできた弟は炎の息吹に吹き飛び、部屋に大穴をあけて外に落ちた。

 

「き、貴様ッ」

「さて、と」

 

ボッと拳に炎を纏う。

 

「お前は火&打撃ならどうだ?」

「いや、ちょ、ま」

「火竜の、鉄拳!!」

 

 フライパンを引っ張ることで引き込み、炎を纏った拳を横に振るい側頭部に叩き込む。

真横にあった本棚にぶち当たり、拳の炎が本に燃え移った。

 

 この日、こうしてエバル伯爵の屋敷には大穴が空き、蔵書も全て焼滅した。

 

 ○

 

 その後、レビィによってDAYBREAKの謎が解き明かされた。

DAYBREAK、入れ替えると、DEAR KABY。

あの本は彼があの伯爵に無理やり書かされた駄作であると同時に、息子へ宛てた手紙と冒険譚だった。

 

「にしても、200万はちょっと勿体なかったね」

「まぁ依頼は破棄だったんだし、そもそも払えるとは思えねぇし。仕方ねぇよ」

 

 ナツ達は依頼料は貰わなかった。依頼は未達成で、そもそもカービィさんはボロ家に住んでいる貧乏人だった。

 

「‥ナツってさ、そういう所カッコいいよね」

「ハ?」

 

 何だかんだ言いつつ、相手のことを思いやるナツ。

ふてぶてしさはあるが、それでもナツの優しさを感じ取れたレビィは、炎翼で飛翔するナツの背で呟いた。

 

「なんでもなーい」

「何だよ、気になるだろ」

「何でもないの。 あ、景色綺麗~」

「?」

 

 露骨に話を逸らされつつ、ナツ達はギルドに帰還した。

 

 

 ギルドで報告を終えた後、ナツはルーシィが住んでいるマンションの一室へと赴いた。

 

「用事ってなに、ナツ?」

「ん、やる」

「え?‥お、黄道十二門!? なんで!?」

「ぶっ飛ばした奴が持ってた。俺が持っててもしょうがないだろ?」

「‥あ、ありがとー! ナツー!」

「おわっ」

 

 バッと勢いよく抱き着いてきたルーシィを受け止める。

レビィもだが、何故だかギルドの女性人はナツに対してオープン過ぎると内心ため息をつく。

 

「たく、行き成りなんだよ」

「だって、黄道十二門ってかなりレアなんだよ! 普通手に入るの相当苦労するんだから!」

「そーかよ‥ほら、わかったから離れろ」

 

 ポンポンっと肩を叩いて促す。

抱き着いてたことにようやく羞恥心が出たらしく、さっと離れた。

 

「今度何かおごるね!」

「いーよ、お礼なんて‥じゃ、お休み~」

「うん、おやすみ‥」

 

 そういってナツは向かいの扉(・・・・・)に手を掛けた。

 

「って、ナツ隣だったの!?」

「あ? あー、言ってなかったか?」

「聞いてないというか、今の今まで隣室の人に挨拶しなきゃと悶々してたのに!」

「悪いな。まぁ基本依頼で野宿とか、ギルドの方で飲んだまま寝てるとかでいねぇし、気にしなくていいぞ」

「普通気にするわよ!」

 

 ともかくお休み~と言って、ナツはそのまま部屋へ入って行った。

 

「もぉ‥というか、ナツがこのマンション勧めてくれたんだっけ‥そっか、そりゃ住んでておかしくないよね‥あー、またナツにお礼する内容が増えちゃったじゃない!」

 

 ルーシィはどこか嬉しそうに文句を言うのだった。


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