FT 火竜の軌跡 -再-   作:元桔梗@不治

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第2話 火竜という少年

「ナツ、見てみて!紋章入れて貰っちゃった♪」

「そっか。よかったな、おめでとさん」

 

 左手にマークを入れているナツとは違い、右手につけたマークを見せるルーシィ。

正式に仲間入りしたのを見届けてから、ナツは一人席を立った。

 

「あれ、どこ行くの?」

「仕事。金稼がないと、家賃が……ん?」

 

 歩き出したナツだったが、視線が依頼書があるボードの少し手前、受付で止まった。

そこには涙をため込んだ少年がいた。

どうやら、仕事に行ったお父さんが帰ってこないらしく、マスターに見てきてほしいと頼んでいるようだった。

 ナツは少年に近づいていき、屈んだ。

 

「‥‥どした、ロメオ?」

「ぇ‥ナツにいちゃん!」

 

 ポンッとロメオの頭に手を置いたのがナツだと分かると、少年はナツに抱き着いた。

 

「と、父ちゃんがまだ帰ってこないんだ…三日で戻るって言ってたのに……」

「そっか‥今日もちゃんと家で待ってたのか? えらいな」

「ひっぐ‥」

 

 優しい笑顔でロメオの背をポンポンと叩き、落ち着かせてから顔が見えるように少し離れた。

 

「心配でマスターに探しに行ってって頼んだんだな?」

「うん……でも、ダメって」

「まぁ、ロメオの父ちゃんも信用ってのがあるからな。一人で受けたからには、一人でやるのが筋だ」

「…」

「…わかるよな?」

「うん‥」

 

 いい子だ、そう言って頭を一撫でした。

 

「大丈夫。ロメオの父ちゃんは強いんだから。きっと、今日中に戻ってくる」

「ほんと?」

「あぁ。オレが嘘ついたことあったか?」

「ううん、ない」

「だろ? ‥ほら、今日は家に帰って待ってろ。ロメオが良い子なら、絶対(・・)帰ってくるから」

「‥うん!」

 

 少し元気になったロメオを見送ったナツは、何時もの無表情に戻るとマスターに向き合った。

 

「‥確か、マカオが行ったのってハコベ山だったよな、じーちゃん」

「…あぁ。そうじゃが?」

「そか、わかった。ハッピー、ちょっと待ってろ」

「あい!」

 

 それだけ言って、ナツは出て行った。

 

「オイオイ、ナツの奴ロメオ助ける気だぞ?」

「いいのかよ、マスター?」

 

 マスターマカロフはキセルを取出し一息吸って、言った。

 

「放っておけぃ。アイツが決めた道じゃ」

 

 一連の騒動を見ていたルーシィはバーの受付をしているミラに話しかけた。

 

「いったい、どうしちゃったんです、ナツ?」

「私も詳しくは知らないんだけど‥ナツはマスターが拾ってきた、所謂訳アリの子だから」

「そっか‥‥」

「どこか思うところがあったんでしょうね‥」

「‥」

「行かないほうがいいわよ」

 

 ナツが出て行った扉を見たルーシィだったが、ミラに止められ立ち止まる。

 

「なんで、」

「ハコベ山ってね、少し遠いの。馬車で行き来しても数時間かかるわ」

「え?」

 

 さっきナツは今日中にと言っていたが、ミラの言うことが本当ならそれは難しいのではないだろうか。既に正午を回っているのだから。

 

「どうしても着いていくっていうなら、頑張ってね♪」

「・・え?」

 

 ミラの頑張ってを少し怖く思いながら、ルーシィはナツを追った。

 

 

「は?連れてって?」

「うん!」

「意味わからないんだが‥」

「ほら、私まだギルド入りたてで知り合いとかいないし、しってる人から色々聞いたほうがためになるかなって思って‥」

 

 完璧に嘘というか、誤魔化しだと分かる。ルーシィの見かけと性格なら誰でも仲良くなれるはずだから。

 

「…‥まぁいいけど…ルーシィ、お前飛翔系の魔法使えるか?」

「え? ひしょ、いやいやいや、そんなのつかるわけないでしょ!?」

 

 空を翔るというのは非常に便利だが、それ以上に扱いが難しく、さらに魔力もそれなりに使う魔法で、覚えているものが少ない上に、ナツは急いでいる。

つまり、高速で空を移動などできる人間は限りなくゼロに近い。そして、ルーシィは多数側の人間だった。

 

「仕方ねぇか……言い出したのはそっちなんだから、我慢しろよ」

「え、わひゃ!?」

 

 ナツはヒョイッとルーシィを抱きかかえ、その背に炎の翼を放出した。

 

「‥綺麗」

「は?」

 

 炎で竜の翼を形取られたナツの翼は、幻想的で綺麗だとルーシィは感じた。

 

「‥まぁいいや。行くぞ」

「ッ」

 

 一瞬浮遊感を感じたと思ったら、次の瞬間には大空だった。

目の前を緑や青など自然のものから建物などの建造物まで、全てが見下ろせる。

 

「……―――」

 

 目を奪われるとは、まさにこの事だろう。今までこんな世界に住んでいたのかと、感動していたルーシィだった……が、直後そんな余裕はなくなった。

 

「っし、急ぐぞ!」

「って、エ″ッ」

 

 ボンッという炎の爆破音とともに急加速。景色がどんどん後ろに流れていき、数時間はかかると言われた距離は僅か数分で詰められてしまった。

声にならない悲鳴を上げ、ナツにしっかり抱き付き暫くの間彼女はジェットコースターなんて目じゃない恐怖を味わうのだった。

 

「な、ナツぅ」

「‥たくっ」

 

 ピヨってしまったルーシィを見て、この猛吹雪の雪山を行くのに大丈夫かと、かなり心配になるナツ。

 少し待ってから雪山を登りだすが…。

 

「うぅ。さ、寒いぃ」

「ハァ。たくしょうがねぇな」

「へ?! な、ナツ!?」

 

 ナツは自分のマフラーを外すと、ルーシィの首にかけた。

近くに顔が来たことで動揺するルーシィ。

 

「ちょっとじっとしてろ」

「…」

 

 見れば、何か魔法をマフラーにかけているようだった。

ものの十秒ほどで、ルーシィは暖かさを感じ取った。

 

「あ、これ‥」

「これでも炎を使うからな。断熱から暖房まで自由自在のつもりだ」

「ありがと…」

「じゃぁ、いくぞ」

「うん‥」

 

 ギュッとマフラーを握る。

前を歩くナツは寒さなんて感じていないらしく、積もった雪の中ザクザクと進んでいく。

 

「!」

「きゃっちょっとナツ!」

 

 数十分ほど歩いたところで、ナツはルーシィを突き飛ばした。

行き成り何をするのかと文句を言おうとしたところで、ルーシィは固まった。

 ナツの目の前に、デカい白い猿がいたからだ。

 

「出たな」

「え、え?」

「ルーシィは下がってろ! こいつは女が大好きだ!」

「わ、わっかりました!!」

 

 女好きな猿など、どう考えてもろくな目に合わないだろう。

すぐさま下がると、ナツは炎を両手に灯した。

 

「さて、と。凶悪モンスターバルカン‥人語を喋り、女好きで」

「男イラン、女よこせー!!」

 

 突撃して勢いよく突き出したバルカンの爪を横に紙一重で避け、その腕を掴んだ。

 

「――対象を接収(テイク・オーバー)する面倒な奴」

「ゴガっ!?」

 

 掴んだ腕を振り回し、そのまま壁へと投げぶつける。

走って軽くめり込んだバルカンに追いつくと、その腹めがけ、炎の拳をぶつけた。

 

「火竜の――鉄拳!!」

「ッーー!!!」

 

 猿は気絶すると、その姿が男性のものへ変貌した。

 

「ラッキー、一体めでマカオ発見だ」

 

 接収とは、体を乗っ取る魔法のことである。

バルカン退治をしていたマカオは、逆に狩られて乗っ取られてしまったのである。

 

「酷い傷っ」

「‥マカオ、ちょっとこれ噛んでろ」

「ングッ」

 

 マカオの口にハンカチを突っ込むと、ナツは彼の傷口を燃やした。

 

「~~~~~~!!!!!」

「ナツ!?」

「傷口を焼いて塞ぐ‥荒療治だけど、許せよマカオ」

 

 声が聞こえているらしく、苦しそうにしながらもコクコクと頷き続けるマカオ。

 

「…よし、もういいだろ」

「ぷはっ‥ぜーぜー、くそ、なさけねぇ。19匹までは、いけたんだが‥」

「20匹目で乗っ取られたわけか‥もう黙ってろ。傷に響くだろうが」

「すまねぇ」

(20って、そんなに居たの、あの猿!?)

 

 20匹という数を聞いて驚くルーシィ。

あのガタイの良さからして、自分では一匹ですら苦労するかもと思った。

 

「謝ることねぇよ。実際、お前がそこまでしてくれなかったらもっと遅くなってた。ロメオと今日中に連れて帰るって約束も破っちまうところだったんだ」

 

 実際マカオが19もの猿を倒せていたからこそ一匹目で見つけることが出来たのだ。

こうして生きているのも、マカオの実力のうちだと、ナツは彼を称えた。

 

 その後、彼は無事ロメオと再会を果たし、ナツは急いで新たな依頼を探しにボードへと向かった。

 

「手早く多く稼げねぇと‥よっし、この依頼行ってくるっ」

 

 その日、今日中に家賃を払うためだけに、とある盗賊団が住処ごと丸焼きになって捕まったというのは蛇足である。

 

 


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