FT 火竜の軌跡 -再-   作:元桔梗@不治

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第14話 火竜と昔のこと

 依頼をこなし、戻ってきた雷神衆だったが、ラクサスが別の依頼に行って不在と聞き、軽く落ち込んでいた。

 

「まったく、折角早々と片付けてきたんだがな‥」

「まぁ仕方ないでしょ。ナツが一応とはいえS級認定されたんだもの」

「そーそー、大喜びしてたもんな」

 

 今から追っても追いつかないのは目に見えているので、取りあえず今日はもう帰ろうと決定した三人。

帰る途中で、良く知る姿を見かけた。

 

「‥あれって、エルフマン?」

 

 どうやら、どこかへ行くらしい‥時間はもう夕暮れを過ぎている。出掛けるには少し危ないと思い、ついて行ってみるのだった。

 

 

 一方、ナツとラクサスだったが‥訪れた森林にて早速おかしいことに気付く。

 

「動物が居ないな」

「まぁ魔物も居ないのは好都合だろ。遺跡が現れて大人数の出入りがあったから警戒してるのかもな」

 

 なるほどと相づちをしつつ、目的地に到着。

警戒しながら辺りを見渡す。

 

「おい、ナツ」

「あぁ、分かってる‥」

 

 数日前に出現した遺跡の入り口。確かにその周辺にはせり上がって来たかのような痕跡があり、地震か何かの影響で地表に現れた‥()()()()()()()()()()()()

 観察と考察、お互い情報交換しあって考えをまとめながら奥へと進んでいく。

 

「成程な、古い石が使われてるし、一見すりゃぁ遺跡にしかみえねぇ」

「が、ここ最近地盤が変動するような大地震が起こったなんて報告も情報もねぇ」

「ついでに言うと、ここからでも油と鉄(・ ・)の臭いがしやがる。まぁドラゴンスレイヤーだからこそわかる微弱なもんだけどな」

「石で造られてるように見せかけられた、機械構造の人造。此処まで来ると、可能性は絞られるな」

「ついでに言うと入口から降りていく階段には砂利やらあるが、内装は古臭い石以外は綺麗なもんだ…てかもう決まりだろ」

 

 誰かが遺跡を偽装してここで何かをやっている。

それも国お抱えの騎士団や魔導士を捕まえるほどの戦力を持っている。

 

「胡散臭くなってきたなぁ‥」

「まぁS級なんざそんなもんだ」

「ますます上がりたくないんだが‥」

 

 ちなみにこの会話中、古典的なトラップに襲われているが、二人の障害にはなりえず、片手間に破壊されていく。

そして、破壊箇所が深い場所からは機械部分が露出しており、火花がとんでいた。

 

「石をめくれば鉄の肌が丸見えか。雑だな」

「あぁ。急ごしらえなのか、それとも‥」

 

 ガシャンッという音が聞こえ、背後の通路が閉じられた。

鋼鉄の扉で、どうやらもう遺跡じゃないことを隠すつもりもないらしい。

そして目の前には壁、地面、天井からゴーレムが生えだしてきた。どうやら、偽装していた石を使っているらしい。

 

「石造に長けた魔導士の仕業、か」

「グルなのかもしれねぇな。まぁこれだけの規模だ、単独犯ってことはねぇだろ‥」

「狭い通路に攻撃力も防御力も高いゴーレム。なるほど、騎士団ならこの時点で詰んでるな」

「魔導士もお抱えの貧弱な奴らじゃ無理だろ」

「「まぁ――俺らには関係ねぇけど」」

 

 声をそろえた二人から炎と雷、二つの魔力が発され、出現したゴーレムを破壊した。

ついでに通路にも多大な被害が巻き起こり、新たにゴーレムを出現するのは困難になった。無論、並を超えた魔導士なら魔力だけで製造できるだろうが、少なくともさっきの様な大量製造は不可能だ。

 

「おい、ラクサス。あんましやりすぎんなよ? もしかしたら近くに牢屋があるかもしれねぇだろうが」

「それ以前に生きてんのか?」

「遺体だってあったら持ち帰んなきゃいけねぇだろ」

「全く、報告だけで済ませねぇ辺り生真面目な奴だな」

「うるせぇよ」

「いや、お前はもっと適当ってのを覚えたほうがいい」

「ラクサスの方こそ大雑把すぎんだよ。どうせ俺が居なかったら雷速で通路破壊しながら進んでただろ?」

「あぁ、だろうな…てかそれいいな」

「すんなよ?間違って誰か轢いたら面倒だからな?」

「わぁてるっての‥あ、ナツそっちの通路は右だ。左から電磁波を感じる。多分罠だ」

「? でも右は‥あぁなるほど、隠し通路か」

「だろうな」

 

 ラクサスは電磁波を使うことで辺りの状況を大体把握できる。右は行き止まりのようだが、左は恐らく罠だけ。 罠が少ないが、右に通路があるのに行き止まりってのもおかしい。

 

「探すの面倒だな‥ぶっ壊すか」

「待てっての、ちゃんと向こう側に熱源‥人が居るか確認してからだって」

「へいへい‥てかお前が溶かした方が早いだろ?」

「…まぁ、このくらいの壁なら向こう側に誰もいないの分かるからいいけど‥」 

「分かってんなら止めんなよ!?」

「うるせぇな、こんな声響く場所で叫ぶな! こういう所は声だけでも発動するトラップがあんだぞ!?」

「ちょ、ちょっとナツまでそんなに叫んだら」

 

 ハッピーがヒートアップしてきた二人の口論を止めようとしたその時だった。

 

 ガシャン。

 

 機械的な音と共に背後と斜め上から矢と魔力の光線が飛んでくる。

ハッピーはナツの後ろに隠れ、そして炎と雷を纏った二人にはまるで効果がない‥がやはりイライラはする。

 

「ほら言ったじゃねぇか」

「いや、今のはお前の声だろ」

「あ?ラクサスが叫ばなけりゃだいたい‥」

「注意する本人が叫んでたら無理ないだと思うぜ?」

「この・・減らねぇ口だなオイ」

「互いにな」

 

 二人で呑気に喧嘩交じりの会話をしながら、遺跡擬きを攻略していく。

そんな二人をみてやれやれとハッピーは肩をすくめた。

 

 

 S級魔導士が暴れているその頃、人が寄り付かない凶暴な動物や魔獣が棲み付く.森林の中、エルフマンが咆えていた。

 

「オォォォーー!!」

 

 エルフマンの魔法は右腕に封じた魔物の力を扱うことだが、彼は昔のトラウマによって片腕しか魔物の力を使えなくなっていた。

本来なら全身を使って魔物の力を振るうことが出来るのだが、それが出来なくなった彼はずっと片腕で仕事をこなしてきたのだ。

 だが、それを克服しようと今魔法の力を発動させていた。

その原因は、ナツだった。

 

 家族(ギルド)のために一人で一つの組織を潰した。

自分同様、トラウマを背負ったまま、落ちた魔力で―――。

 

(漢ならば、次こそはオレも!)

 

 気合十分。右腕を中心に彼の身体が変質していく‥が、途中で変化が止まってしまう。

 

「ぐっ」

 

 思い出すのは暴走した過去の出来事。

S級でもなんでもない、普通どころか当時S級魔導士だった姉のミラジェーンまで一緒だった、簡単なお試しレベルの依頼。

想定外だったのは只一つ。

 

 ――S級のミラでも手こずる化け物が現れたことだった。

 

 仮にもそんな存在が出るような場所ではなかった。

運が悪かった、そう言ってしまえばそこまでの出来事だ。

 当時、何回かに一回全身が変身することが出来た。勿論、弱い魔物に限る話だ。

強い魔物になればなるほど、それだけ変身した際自分に現れる影響は強くなる。凶暴で強い魔物ほど、失敗すれば自身の理性を相応に削ってしまう。

 そしてあの時、エルフマンは失敗した。端的に言えば焦ったのだ。化物は一体ではなく、複数体現れたから。

 後で知った話だが、あの時あんな静かで穏やかな森林にあのような怪物がいたのは、子育ての一環だったらしい。子に狩りを教えるために、親が穏やかな動物が生息している場所まで連れてきたのだ。

 子でもS級に匹敵する、そんな化物の名前は『魔獣ランシャス』。

鋼のように固く、刀剣の様な鱗がびっしり生えそろい、その爪はあらゆる岩盤を砕く。瞬発力がとても高く、攻守速全てにおいてほぼパーフェクト。

 

「……―っ」

 

 思い出す、思い出す‥。

傷つき、吹き飛ぶ姉の姿。泣きながら姉に駆け寄る妹の後ろ姿。

怒り、焦り、そして叫び――気づけばボロボロになって地面に横になっていた自分。

意識は朧で、それでもどうにか家族の安否を知りたくて、声のする方に顔を動かした。

 

 木々が灰になっていた。

 そして…‥悲しみが在った。

 

―――あの何時でも強気だった姉が泣き崩れている。

―――自分が意識を失っている間に駆けつけてくれたのであろうナツが、聴いたこともない慟哭を上げている。

―――そして、光の粒子となって消えていく妹。

 

 その後また意識を失ったが、後々になってエルフマンは思い出した。

 自分が力を暴走させ、暴れたことで三つ巴のような状況を生み出してしまったこと。

ミラジェーンが戦い難い中で精いっぱい、それこそ魔力を絞りだしてまで暴走している自分を傷つけずに傷つけないように抑え、ランシャスと闘っていた光景。

激しい攻防の衝撃で吹き飛ぶ妹のリサーナ。

依頼の帰りなのか、そんな場に現れたナツ。

真紅に包まれ、暖かくも激しい魔法が放たれ――全てが灰色に。

 

「…もう、あんなのはゴメンだ」

 

 足手まといだった過去から意識を戻し、今は只の腕になった自分の掌を見つめる。

力はある。あれから鍛錬を積んだ。実戦も積んだ。

あとは‥精神力の問題だ。

 

「オォォオオオオオオオオ!!」

 

 それから数度全身変化を試し続けるエルフマン。

だが、何度試しても成功はしなかった。

 

「くそ‥」

「なるほどな」

「!」

 

 振り返ると、雷神衆の三人がいた。

見られていたのか、と少し気恥ずかしく思ったが、そんな感情は二の次だ。

 

「鍛錬か」

「へ~、こんな場所でよくやるぜ」

「漢として、何時までも中途半端ではいられないからな」

「それで‥で、どうなの調子は?」

 

 ‥漢らしく堂々と‥ではなく、三人から視線を逸らしたエルフマンの態度で、雷神衆は彼の失敗を察した。

 

「しょうがない、手伝ってやろう」

「良いのか?!」

「あぁ。同胞が頑張ってるんだ、応援するのは当たり前だ‥とはいえ、ラクサスが帰ってくるまでの間だがな」

「恩に着る!」

「はぁ‥しょうがないわね。言っておくけど、私たちが教えるんだから、絶対に成功させなさいね!」

 

 その後、フリードが展開した魔法障壁の中でエルフマンの特訓は続いた。

魔法は二日目には完成し、ラクサスとナツが帰ってくる数日の間に雷神衆に鍛えられたエルフマンが強くなるのは、蛇足である。


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