FT 火竜の軌跡 -再- 作:元桔梗@不治
「…ん?……あれ?」
目を開くと、見知った天井があった。
ナツは起きればてっきり病室かと思っていたため、少し変な気分だった。
「あ、起きたんだナツ」
「あぁ‥おはよ、ハッピー」
寝室の扉を開けたのは、
変身魔法を使い、ナツの看病をしていたのだ。
「うん、おはよう。はい、ゴハンいるでしょ~?」
「あぁ…やっぱ焼き魚か」
「あい、おいらが作るんだからそうに決まってるでしょ」
「まぁサンキュー」
ハッピーは余り人型が好きではないらしく、滅多にこの姿にはならない。
変身魔法を使えるのを知っているのは、今ではナツくらいだ。
「…で、何で俺は家で寝てんだ?てっきり病室かと思ってんだけど」
「んっとね‥」
ハッピーのその後の説明によると、ナツはあの後気絶した状態で見つかり、急いでポーリュシカの下へ連れられ、薬を塗って貰ったらしい。その後、丸一日寝て大体回復したため、ハッピーが家に連れ帰ったのだとか。
「つまり、二日後か」
「あい。マスターが起きたら連れて来いって言ってたよ」
「言われなくても行くっての」
飯を食べ、猫に戻ったハッピーと共にギルドへと赴いた。
「「「「「な、ナツ~~~~~!!!!!」」」」」
「…ッうるせぇよ‥だぁ、抱き付くな!背中叩くな、流石にまだいてぇっての! あー、ロメオ泣くなって、嬉しいのは分かったから‥‥ていうか、だ」
一度集まってきた皆をはがし、一歩下がって頭を下げた。
「心配かけた、悪い」
「…」
一泊置いて、ギルドの全員‥二階にいたラクサスたちまでもが言った。
「「「「「ホントにな、おかえりバカ野郎!!!」」」」」
「痛い、痛いって‥てか叩きすぎだお前ら!!!!」
バシバシと肩や背を叩かれながら、マカロフの待つ部屋へと向かった。
「え」
部屋に入ったナツの目に入ったのは、椅子に座るマカロフと‥机を挟んだ反対側、マカロフの目の前の椅子に座るガジルとジュビアだった。
「…よぉ」
「こ、こんにちは」
「‥えっと、じーさん、どういうことだ?」
「うむ‥ナツ、まず今回自分がやったことは何なのか、わかっとるな」
「あぁ…処遇なら何でも受けるよ」
「その心意気やよし…で、じゃ。ナツ。分かっとるだろうが、色々苦情やらなんやらが来た。その対応をしながら、お前さんの罰やらを考えていた‥結果――」
ゴクリと喉が鳴る…面倒事のレベルを考えると、ギルド脱退の可能性が一番高い。
第三者視点で見れば、今回は売られた喧嘩を耐え切れずにナツが一人暴走し、結果相手のギルドを潰したという、言わば我慢できずに起こした癇癪にも等しい行為だ。
身内はナツがどういう人間かを知っているから、納得も理解もしてくれるだろうが、世間はそうはいかない。
ギルド脱退か、下手すれば街から追放…と緊張して待っていたら。
「特になし」
「・・・は?」
あっけらかんと、それはもう清々しいほどあっさりと、簡潔に一言に纏めて目の前の爺さんは言い切った。
「は?え、は??」
「なんじゃ、特にないんじゃ。別にわるいことはなかろう?」
「いや、悪いとかじゃなくて‥なんで?」
「そこの二人に感謝するんじゃな」
「え‥」
この部屋にいる二人といえば…ガジルと、ジュビア。
「流石に今回の件のことについて、脱退はワシ含めてギルド全員が反対じゃったが暫く軟禁でもさせなきゃならんはずじゃった‥が」
「が?」
「そこの二人が、今回の件についての詳細‥依頼書やらの資料もろもろを提供してくれたおかげで、こちら側に責任はなくなったんじゃよ」
「資料って、どうやって‥」
あの戦いで幽鬼の支配者は潰れた。物理的に、完膚なきまでに、潰してしまった。
そこにあったであろう依頼書諸共、全部だ。
「ギヒヒ、俺はこれでも直属の部下だったからな。依頼書のコピーくらい渡されてたんだよ」
「というより、ギルドを潰してでもという大きな依頼でしたから、私たち実力者にはそれぞれ事情の説明もしてありました‥その時のことを資料に纏めたんです。それで結果、今回のことの責任は全て幽鬼の支配者にあり、マスタージョゼを主軸にした強襲だった、と。そういうことになりました」
「そう、か‥‥‥」
ギルドを抜けなくてもいい…そのことを理解するのに、数秒時間がかかった。
理解して、気持ちが追いつくのにはさらに時間がかかって…ようやく、実感した。
安心と、二人に対する感謝でいっぱいになり、気付けば頬がゆるんでいた。
「ありがとな、ガジル、ジュビア」
ナツは気づいていなかったが、それは本当に安心しきった、仲間にも中々向けることのない優しい微笑みを浮かべていた。
「い、いえ別に礼を言われるようなことでは!?」
「あぁ。見返りももらったことだしな」
「見返り?」
真っ赤になって慌てるジュビアと、冷静な様子のガジル。
よく見ると、ガジルの左肩にフェアリーテイルの紋章が描かれていた。
「私もですよ」
そう言って脚に描かれた紋章を見せてくれた。
「…えっと、つまり仲間入りってこと、か?」
「そういうことだ。ギヒヒ」
「‥別にオレはいいけど、ガジル。お前ちゃんと皆に謝ったんだよな?」
「…一応」
「はい、ちゃんと謝りましたよ。ジュビアと一緒に」
「おい!」
「へぇ‥」
素直じゃないガジルのことだから、挑発混じりかと思ったが、ジュビアがあっさり言ったという事は、ちゃんと謝ったらしい‥正直意外だった。
「話はそれだけじゃ。後は普段道理でいい」
「りょーかい‥んじゃぁ今日はまだ仕事は休むよ‥二人とも、これからよろしくな」
「はい!」「おう」
二人に手を振り、扉を開け部屋から出ていく。
今日はミラの所で飲むかなぁと考えていると、呼び止められた。
「ナツ!」
「ん? レビィ、ジェット、ドロイ!怪我は大丈夫か?」
「こっちのセリフだよ!もぉ、一人で無理して‥」
「悪い。まぁでもこの通りピンピンしてるし、アレ位別に何とも―」
「ないわけないでしょ!!」
「っ!?」
急に怒鳴られ、すくんでしまうナツ。
レビィはそんな彼に早歩きで寄り…真正面から抱き付いた。
「‥ぇっと? れ、レビィ?」
「…心配、したんだよ。急いで皆を呼んで駆けつけたのに、ナツ居ないし‥」
「…」
「どこ行ったのか、まりょく、辿ったら、オークの街、だしッ」
レビィの息が荒くなり、言葉が途切れ途切れになっていく。
声も少し掠れて…何よりナツの上着が濡れだしたのを感じた…。
(あぁ…泣かせちまったなぁ)
分かっていたことだ。あの時は頭に血が上っていたから、なんて言い訳を通す気はない。
仲間を泣かせるのを承知で自分は敵を潰しに行った。
(覚悟決めてたつもりだったけど‥やっぱキツイな)
胸が締め付けられるような痛みがナツを襲うが、胸元のレビィから目を逸らさない。
これは、自分の罪だ。
「みんなでおって、追いついたのに、全部、ひとりで終わらせてるし!」
「…」
「ボロボロで、死んじゃったんじゃないかって、すっごく…怖かった」
「…悪い、ごめんな」
「ゆるさないもん」
「あぁ、分かってる」
「…ナツのバカ」
泣いたのを見られて恥ずかしいのか、単に泣き顔を見られたくないのか‥はたまた別の理由かは分からないが、レビィはナツから離れようとはしなかった。
そんなレビィの頭を優しく撫でながら、こっちをさっきから置いてけぼりで見ているジェットとドロイに目を向けた。
「二人もごめん。もっと早く駆けつけられたらよかったんだけど‥」
「うるせぇ‥たく、色々言いたかったのに全部言われちまった」
「だな‥俺ら向こう行ってるから、落ち着いたら来てくれ」
「あぁ」
レビィが完全に泣き止み、切り替わるまで二人は人気のない場所でずっとそうしていた。
その後、新規に仲間入りしたガジルとジュビアを加え、賑やかなパーティーを開くこととなった。
…一応、名目はナツの復帰祝いだったのだが、そのナツにけがを負わせた敵とパーティーをする辺り、流石というか‥。
(‥うん。俺、このギルド大好きだ)
もう一度胸の内を確認しつつ、楽しく大騒ぎしながらその日は過ぎて行った。