FT 火竜の軌跡 -再-   作:元桔梗@不治

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第10話 火竜と鉄炎竜

 炎に包まれた拳と、真紅に染まった鉄の拳がぶつかり合い、その衝撃が辺りに響く。

炎の耐性が出来たガジルだが、ナツの炎は破壊を司る火竜の炎。耐性を貫いてダメージを与えてくる。勿論、耐性のお蔭で微々たるものだが。

 対するナツの方も両拳に傷を負っていた。

熱された鉄、それも竜の鱗を殴り続けているのだ。傷つかない方がどうかしている。

だが、普通火傷では済まない。骨の髄まで溶かされる攻撃に対し、火傷ですんでいる辺り流石火竜と言ったところだろう。

 

「火竜――紅蓮滅爪」

「ッ鉄炎剣!」

 

 このままではらちが明かないと感じたナツは、炎で象られた竜の腕を顕現する。

その腕に威圧感を感じたガジルもとっさに魔力を集めて腕を剣に変化させた。

 片刃になった真紅の剣、その峯の方からは炎が噴き出しブースターの役割を果たしている。

普通に振るうのではなく、勢いがついた真紅の鉄剣‥それを、ナツは躊躇なく真正面から受け止めた。

 炎の竜腕に掴まれた剣は、一気に温度が上がり溶けてしまった。

魔法を解いて勢いよく後方に下がるガジル。

 

(ありえねぇ。耐性を得てもまだこれだけ‥ッ!)

 

 下がって周りの状況が目に入ったガジルは、思考を止めた。

気付いたら振ってきている雨を浴びつつ、見知った光景を見て戦いながら、その顔を驚きへと変える。

 

「っオークの街(・・・・・)!?」

「やっと着いたな」

「手前ェ、まだギルド目指してやがったのか!」

「当たり前だ。レビィ達が戻ってウチのメンバーにこの事は知られてる‥なら、あいつらがくるのも時間の問題だろうが」

 

 ググッと竜椀を思い切り引いて、全力で叩き込みながら吠えた。

 

「ギルド間の戦争なんてさせねぇ……お前らは、オレが個人的(・・・)に潰すッッ!!!!!」

「グッオォォォオオオオオオオオ!!!!???」

 

 ナツの竜椀に押し負けたガジルは吹き飛び、そのまま一直線に自分の所属ギルド、幽鬼の支配者(ファントム・ロード)へと突っ込んだ。

 

「な、なんだ!?」

「ガジル!!??」

「なんで‥てか何だそのナリ!?」

「おい、あれって火竜(サラマンダー)じゃねぇか?」

「「「は?」」」

 

 行き成り吹き飛んできたガジルや吹っ飛ばしたナツに対し、ギルドのメンバーたちが驚きの声をあげるが、ガジルはそれを無視して立ち上がった。

 

「ギヒヒ、ギルド間の戦争にさせねぇ? 成程、お前一人で全責任を負うつもりかヨ」

「なわけねぇだろうが。お前がレビィ達を襲った映像なら先に飛ばしといた魔水晶に録画済みだし、ギルドに突き刺さってた鉄の杭だって回収して取ってある…最低でも道連れだ」

「録画とか何時の間に…まぁいいか」

 

 既にガジルの中でギルドがどうだとか、マスターからの命令だとか、そんなことはどうでもよくなっていた。

 自分の全力をぶつけて、更にそれを超えても尚差があるこの男に、どれだけ追い縋れるのか。

挑戦者(チャレンジャー)としての戦意が沸々と沸き起こって静まらない。

 

「火竜の――」

「鉄炎竜の――」

 

 二人から発せられる魔力を感じた周りの人間が大慌てでギルドから出ていく。

 

「「咆哮!!!!!」」

 

 二頭の竜の咆哮は、一つのギルドを内側から爆裂させた。

爆炎の中、二人が駆けだす。

 

「鉄炎槍、鬼薪・焰業(きしん・えんごう)

「火焔二刀」

 

 片腕を真っ赤な槍に変えたガジルが高速で放つ連続突きを、二本の炎の刀でいなすナツ。

槍と刀がかち合うたびに魔力の衝撃波が起こり、爆裂してボロボロなギルドをさらに壊していく。

 

「ギハハ、やるなナツ・ドラグニル!」

「楽しそうにしやがって―ッと」

 

 いなしつつ横から放たれた攻撃を刀で切り払う。

視えなかったが、魔力を感じて確かに切ったのを確認し、もう一度刀を振るって炎の刃を飛ばした。

 

「なっ私の空域を切り裂くなど――ぐぉぁ!?」

 

 よくわからないが、そいつは驚いている間に避け損ねて焼き切られてしまった。

あの爆裂の中生き残っていたのだから、相応に強いはずなのだが‥そんなに驚かなくてもいいだろう。

 

「ギハハハ!! エレメント4の一人を片手間に瞬殺かヨ!! 楽しませてくれるなおい!」

「エレメント4?今のが?」

 

 妖精の尻尾でいうS級魔導士に値すると噂されていたのだが…。

 

(ラクサスやエルザの方が万倍強ぇぞ)

 

 井の中の蛙大海を知らず、まさに諺通りなエレメント4に呆れつつ、ガジルへと集中する。

 

(にしても、こいつ始めてのMODEチェンジだろうに‥よく持つな)

 

 別の竜の魔力を取り込むMODEは、魔力を多く使う。

普段使わない慣れない属性を使うのもあり、疲労感は半端ないのだが‥愉しそうなガジルにその様子はない。

 

(なるほど、ハイになって忘れてるわけか‥)

 

 脳内麻薬が疲れを忘れさせているのだろう。

 

「なら…」

 

 火焔刀の魔力が高まっていき、どんどん熱が上がっていく。

対するガジルも魔力を高め同じように高熱の鉄の鱗の温度を上げた。

雨がすぐに蒸発してしまう程の二人の熱波に、周りの連中は近寄れずにいた。

 

(ハイテンションになってるだけで、ダメージも疲労も蓄積してるはず…だったら、それが出てくるまでボコるだけだッ)

「とことんまでやろうぜ火竜(サラマンダー)!」

「あぁ、イイからかかってこい。ぶっ飛ばしてやるよ!」

 

 とことんまで‥そういったガジルだが、限界が近いのは自覚していた。

既にフラフラ、満身創痍もいい所だ。

きっとこれが最後の一撃‥なら、迷うことなく、自分の最大の一撃を見舞うだけ。

 

「滅竜奥義――鉄神剣・焰武!」

「ッ二刀合焔―飛炎!」

 

 船をも切り裂けるほど巨大かつ熱が籠った剣と、二本を合わせて力を相乗させた一本の刀がぶつかり合う。

その衝撃で幽鬼の支配者のギルド諸共周辺が吹き飛び、二人の姿が一瞬隠れてしまった。

そして、俟った煙が納まったそこには。

 

「ハー‥ハー…」

 

 桜頭の少年、ナツ・ドラグニルが立っていた。

彼の目の前には炎の刀で斬られ、ボロボロになった鉄竜のガジルが倒れていた。

 

「‥くそ、まけ、かヨ」

「強かったよ、お前は‥こんな、誰かを蹴落とすようなギルドに居ないで、もっとお互い高め合うような場所に入ってれば、もっと強かったろうぜ」

「…そー、かい」

 

 ガジルは勝者の姿を目に焼き付け、意識を失った。

 

「さって…後片付けの時間だな」

「後片付けとは、言ってくれますね~」

「確かに彼は強いけど、私達だって負けないほどの力を持ってる」

「…」

 

 地面から生えてる変な奴、炎を出してる奴、そして雨傘を指している女。

 

「残りのエレメント4か…マスターはどこだ」

「マスター・ジョゼは……忙しい方だ。今は本部の方に居るよ‥…予定だともう少し遅く行動するはずだったんだけど…‥これは予想外だったな」

「一々とろい喋り方すんな‥ともかくマスターはいないんだな…本部は確か、丘の先だったか」

 

 以前から衝突絶えないギルドだったため、いろいろ調べていたので、本部の場所も把握しているナツは真っ直ぐにエレメント4と呼ばれる三人を見据え、言った。

 

「どけ。邪魔すんならぶっ飛ばす」

 

 四人がぶつかり合う合図としては、十分な挑発となった。

 

岩の協奏曲(ロッシュ・コンセルト)!」

水流斬波(ウォーター・スライサー)!」

 

 飛んでくる二つの魔法に対し、ナツは咆哮を放とうとしたとき、エレメント4の一人が自信気に話しかけてきた。

 

「無駄だ、私がいる限り火の魔法は―」

「知ってるっての‥火竜の―咆哮!!」

「私の制御下…え?」

 

 一瞬、本当に一瞬だけ止まった火竜の焔は、そのまま真っ直ぐエレメント4を飲み込んだ。

岩は破壊され、水は蒸散した。

 

「エレメント4の一人、大火の兎兎丸。火の魔法のエキスパート、相手の火だろうと制御下に置く、だったか。‥まぁ完全に自分の魔法を制御しちまえてれば怖くねぇよ、んなもん」

 

 いつか戦うだろうと思っていた敵のことだ。把握していないはずがない。

どうにか致命傷を避けた彼らは、再度魔法を放ってきた。

 

「この、ならば最大魔法だ! 七色の炎(レインボーファイア)!」

石膏の奏鳴曲(プラトールソナート)!」

「‥学習能力がねぇな」

 

 炎と岩の巨大な拳、二つの魔法を見て、ナツは呆れたように呟いた。

 

「ガジル程の威力がねぇ魔法が今更効くと思ってんな! 火竜の刃尾!!」

「「ぐああああーーー!!!」」

 

 収束された線の炎が、二人の魔法を焼き裂いて、纏めて吹き飛ばした。

 

「…で、残ったアンタはどうする?」

「ぁ、ぅ…」

 

 最後のエレメント4、ジュビアは正直参っていた。

同格だったエレメント4はあっさり倒されたのもあるが、何より自分より強いガジルが倒された時点で戦意を失っていた。

 

「一つ、質問をしても?」

「あぁ、なんだ?」

「どうして、こんなことを?幾らこちらが仕掛けたこととはいえ、こんなことをしたら貴方どうなるかわかったもんじゃ‥」

「んなの簡単だ」

「え?」

 

 どうして一つの正規ギルドを潰そうとするのか。そんなの今更だった。

 

「仲間に、家族に泣いて欲しくないんだよ、オレは」

「…仲間、家族‥」

「そんだけだ‥さって、戦意がねぇなら先行くぜ。じゃぁな」

 

 去っていくナツを、彼女はジッと見つめていた彼女は、もう一度声をかけた。

 

「あ、あの!」

「ん?」

「あ、雨は好きですか?」

「雨?」

 

 そういえばさっきから降ってるなぁと思いつつ、応えた。

 

「天気に好き嫌いもねぇと思うけど‥まぁ嫌いじゃないな」

「晴れていた方が好きだったりは‥?」

「そりゃ晴れてりゃ色々面倒がねぇけどよ…」

「雨女ってどう思います?」

「行き成り質問変わったな‥いや、別にどうとも‥」

「だって、デートの時とか雨が必ず降るんですよ?」

「あー、もしかして雨女?」

 

 コクコクと頷くジュビア。

 

「まぁ雨の中でデートってのも風情があると思うけど…あれだ、晴れの中デートしたいんならッ」

「え?」

 

 魔力を手に集めだしたナツ。

一瞬攻撃かと思ったが、彼の目線が上空に向かっているのを見て違うと察した。

 

「そらッ!!」

 

 ナツの手から放たれた火の玉は、上空へと上がっていき…爆裂して雲を消し去ってしまった。

 

「…青空」

「言ってくれれば、こんな風にオレが晴らしてやるよ」

「ぇ…」

「ま、だからんなこと一々気にすんなよ。アンタ悪い奴じゃなさそうだし、そのうち天気なんて関係なしにデートしてくれる相手が出来るだろうぜ」

「…」

「んじゃぁな」

 

 ポンッとギルドの仲間にやるように頭を一撫でして、ナツは去って行った。 

 

「………」

 

 真っ赤になって棒立ちしたジュビアを置いて。


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