FT 火竜の軌跡 -再- 作:元桔梗@不治
色々あって何の報せもせずに削除しました。詳細は言いません、ごめんなさい。
一応オリジナル編までは書き終えていますが、ちょくちょく原作と見比べて手直ししながらなのでペースはそんなに早くないと思います。
それでは、改めましてよろしくお願いします。
更地と化した土地に立っている一人の少年がいた。
赤に近い桃色の髪、その首には白いマフラーを靡かせている。
「…」
元は深い森があり、数多の危険モンスターが生息していたはずの場所。
その場所を更地に変えた少年は、一人立ち尽くしていた。
そこに、一人の老人が現れ、少年に話しかけた。
「お前さん、一人か」
「…」
頷くだけの少年に、老人は「そうか」とだけ言った。
「お前さん、名前は何て言う?」
「‥‥ナツ。ナツ・ドラグニル」
「そうか。わしはマカロフ。マカロフでも爺さんでもおじいちゃんでも好きに呼んでくれ」
「‥…」
ぼーっと虚空を見つめていた少年の瞳に、その老人の姿が映る。
自分が認識されたと感じた老人、マカロフはニコニコ笑顔を浮かべ、言った。
「どうじゃナツ、儂の家族にならんか?」
「‥なんで?」
「お前さんの事が気に入ったからじゃ」
「……別に、いいよ」
「よし、では行こうかの」
これが、始まりだった。
そして七年後、新たな出会いが物語を加速させる。
○
その日、とあるギルドを憧れる金髪の少女はとある街にいた。
ある魔法の鍵を求め、集めていたのだ。
そんな時、火竜(サラマンダー)と呼ばれる魔導士が街に来ているという噂を聞き、その場所へと訪れていた。
(うそっ)
ドキドキと胸が高鳴る。
彼から目が離れない。
そう、正しくこれは一目惚――。
「おい」
(‥…あれ?)
自分含めて騒がしかった女性陣がシンと静まった。
別に大声でもなかった。只、その声を聴いた瞬間に熱が冷めたのだ。
「魅了の魔法に火竜の名乗り‥コイツで間違いないな」
「うん、みたいだね」
その場にいた全員の目がその少年に向けられる。
桜色の髪と白い鱗のようなマフラーが特徴的な少年だった。
そして、信じられないことにお供と思われる猫が隣で二本足で立って喋っていた。
(み、魅了の魔法って‥)
人々の心を術者に惹きつける魔法。今では販売禁止にされている魔法だ。
それをこんな往来で使うなんて、信じられないことだった。
「な、何だいキミは」
焦ったような声を出す男に、少年が名乗った。
「魔導士ギルド、フェアリー・テイル所属のナツ。――お前が名乗ってる火竜って巷じゃ言われてる」
「へ‥?」
「ま、そういうこと。悟れ悪人」
フェアリー・テイルとは、魔導士ギルドの中でも問題児が多いと言われているギルドだ。
そして、少女が憧れているギルドでもあった。
思わぬ大物ネームが出されて呆けている男に対し、ナツは情け容赦なく炎を纏った拳を叩き込んだ。
顔面に当たり、そのまま地面に激突。地面に大きな亀裂を作って気絶させてしまった。
(す、すごい)
魔導士と聞くと、どこか遠距離や補助専門のような、直接戦わないようなイメージを抱いていたが、それをナツはぶち壊した。
「…あ、これじゃ話聞けねぇ・・」
(えぇぇぇ)
同時に抱いたナニカもぶち壊した。
○
その日、ナツは変な少女と出会った。
「あ、あのちょっといい?」
「?」
金髪で幼げな感じが残る、未成年だと一発で分かる少女。
まぁ体の発達具合は年齢不相応な見事なものだが。
それよりもナツは気絶させてしまった男の処分を考えることでいっぱいだった。
縄もないし、取り敢えず起きるまで待つか、それとも物理的に今すぐ起こすかを悩んでいた。
時間がかからなさそうな後者を選ぶつもりだったが、話しかけられたのを無視する気にもなれずそちらへ意識を向ける。
「わ、私ルーシィっていうんだけど」
「あぁ。俺ナツ。こっちはハッピー‥‥何か用?」
「あ、えと、その‥私フェアリー・テイルに憧れてて、その」
「?」
どもってて今いち伝わらない。
何故だか知らないがルーシィが緊張しているんだと理解したナツは、ポンッと頭に掌を乗せて落ち着かせることにした。
彼は火竜という異名を持つ魔導師であり、その体は常人よりも熱い‥‥暖かいというべきだろうか。
「取り敢えず落ち着け」
「う、うん」
ルーシィと大した年齢差はないが、彼女よりも大きく暖かな掌を感じて少し落ち着いき、一度深呼吸をして用件を伝えた。
「わ、私をフェアリー・テイルに入れて欲しいの!」
顔を赤らめてドキドキと緊張しているのが分かる少女に対し、ナツは。
「あぁ、良いぞ」
そう、あっさり答えた。
「え、いいの?ホントに!?」
「あぁ。別にウチはえり好みってとくにしないし」
まぁしなさ過ぎて問題児が揃っているのだが。そういった彼の呟きははしゃいでいる彼女には届いていなかった。
「あー、取り敢えず依頼済ませてからでいいか?」
「ええ!」
その後、彼は気絶した男を文字通り叩き起こし、奴隷船の場所を聞き出した。
後はいつも通り暴れて船を全壊、奴隷商を捕まえたものの港を少し壊してしまい兵士に追われるという、いつも通りの‥世間的に言えばやりすぎの任務達成をギルドに届けるのだった。
○
そして、依頼を終えたナツはお供のネコのハッピー、そして金の長髪の少女ルーシィと共にフェアリーテイルへと戻ってきた。
「わぁ‥おっきいね」
「だろ?っとこれは言っとかないと‥妖精の尻尾(フェアリーテイル)へようこそ」
「うん。ありがと!」
ルーシィはナツに大きな返事を返した。
「ただいまー」
「ただー」
「あら、おかえりナツ、ハッピー」
出迎えてくれたのは銀髪の長い髪が特徴的なお姉さん。
(あ、モデルのミラジェーンだ)
よく雑誌の表紙を飾る綺麗なその人に見惚れていると、横から半裸の男子がナツに寄ってきた。
「あ、ナツだって!? おっしゃ! この間のケリ付けんぞ!」
訂正しよう、半裸ではない。腰に布一枚のみであった。八割方脱いでしまっている。
(‥何でパンツ一丁なの?)
ルーシィの脳内の疑問に答えたのは、隣のナツのツッコミだった。
「グレイ、取り敢えず服着ろよ」
「おぉ!いつの間に!?」
「お前そのくせ直した方がいいぞ」
「うるせぇ!」
だが気づいても着替えず、そのままナツへ殴り掛かり、喧嘩へ。
「まったく、これだから品の無い男どもは‥イヤだわ」
そういうのは黒髪の酔っぱらったお姉さん。
(ビールを樽一杯分一気に飲んでる人に言う資格はないと思う)
よく見ると後ろにもいくつか転がっている。凄い酒豪だった。
「くだらん。昼間っからピーピーギャーギャーガキじゃあるまいし‥男なら拳で語れ!!」
そうして喧嘩を助長し、邪魔扱いされてぶっ飛ばされる大男。
(結局喧嘩なのね)
「ん?騒々しいな」
次は金髪でサングラスのカッコイイ男の人。
彼氏に試合魔導士上位ランカーのロキ‥だったが。
「まざってくるねー♡」
両手に女性を侍らせていた。
ハートを振りまきながら、何故か喧嘩の最中に混ざって行った。
(ハイ消えた!!)
まともな人がいないことに思わずへたり込んでしまう。
「あら、新入りさん?」
「! み、ミラジェーン!! きれ~♡」
思わず見惚れてしまうが、そんな場合ではなかった。
「ハッ。あ、アレ止めなくていいんですか!!?」
指さすのは、周りの人間も誘発されたのか大喧嘩になっている光景。
「何時もの事だからぁ、放っておけばいいのよ」
「あららら…」
「それに…」
ガンとミラジェーンの頭に空き瓶が当たった。
が、彼女は笑顔を保ったままだ。
「それに‥たのしいでしょ?」
(いえ、怖いです。笑ってる場合じゃないです。だって血が出てますよ!?)
モデルなのに顔に怪我とかいいのだろうか。
と思っていると、痺れを切らしたのか酒を樽で飲んでいた女性が魔力のこもったカードを取り出した。
「落ち着いて酒が飲めないじゃないの‥あんたらいい加減にしなさいよ」
「ハッ魔法戦か。上等だ!!」
「ぬおぉぉぉっ!!!」
「困った奴らだ」
「結局こうなるのかよ」
パンツの男グレイが両手から冷気を発し、大男は片腕を何か別の物に変えようとしている。
ロキも指輪を嵌め、ナツは片腕に炎を纏った。
「あー‥これはちょっとまずいわね」
(あ、流石に魔法はNGなんだ)
そこで、静止の声が入った。
「そこまでじゃ」
老人の声だが、聞こえる位置がやけに上からで気になって見て見ると‥。
「やめんかバカたれ!!!!!」
「でかーーーーーーっ!!!!」
巨人がいた。
その巨体を見て、ケンカをしていた全員が止まった。
そして各々散っていく。
「あら、いたんですか?総長(マスター)」
「マスター!?」
「む、新入りかね」
「は、はい」
上げた声で位置がばれたらしく、ルーシィの方を見下げる。
「ふんぬぅぅぅ」
そしてやけに気合の入った声をだし‥。
「よろしくネ」
縮んだ。見事なまでに縮んだ。ルーシィの半分ほどの背丈しかない。
「ええーーっ!?」
驚いていると、小さな御爺ちゃんことマカロフは二回の縁へと飛び乗った。
「まーたやってくれたのう貴様ら。見よ、評議会から送られてきたこの文章の束を」
評議会とは魔導士ギルドを束得ている機関の事だ。
「まず、グレイ」
「あ?」
「密輸組織を検挙‥まではいいがその後街を裸でふらつき、挙句の果てに干してある下着を盗んで逃走」
「‥グレイ、ほんっとその癖直した方が良いぞ」
「うるせぇ。仕方ねぇんだよ。教え込まれたんだから」
「どんな教えだよ」
ため息を付き、次の紙へと移った。
「エルフマン!貴様は要人護衛の任務中に要人に暴行」
「男は学歴よ、なんていうからつい」
申し訳なさそうに大男が呟いた。
「カナ・アルベローナ。経費と偽って某酒場で飲むこと大樽15個。しかも請求先が評議会」
「バレたか」
テヘッと可愛く舌を出して誤魔化そうとしているが、身近にある樽のせいで全く誤魔化せていない。
「ロキ、評議員レイジ老子の孫娘に手を出す。某タレント事務所からも損害賠償の請求が来ておる」
ロキは目を逸らした。
「そしてナツ」
そこでマカロフはやけにがっくんと落ち込んだ。
そのまま手に持った書類の束を読み上げていく。
「デボン盗賊一家、民家4軒と共に壊滅」
「アイツら逃げようとしたからつい纏めて‥」
「山賊をチューリィ村の歴史ある時計台ごと撲滅」
「いや、思ったより吹っ飛んでな。そのまま時計台に」
「フリージアの教会半壊、ルビナス城一部損壊」
「トリッキーな動きが面倒でつい城ごと‥」
「ナズナ渓谷観測所、崩壊により機能停止」
「あれは土砂崩れが‥まぁ原因は俺の咆哮だけど」
「ハルジオンの港損壊」
「船から逃げ出す奴がいたから纏めて止めようとしただけ」
(本で読んだ記事、殆どナツだったのね)
咆哮っていうのは船を壊した時の〝火竜の咆哮〟のことだろうか。
その後もいくつかの名前を言いあげたマスターは震えだした。
「貴様らァ、ワシは評議員に怒られてばかりじゃぞぉ」
一瞬怒っているのかと思ったが、そうではなかった。
「だが評議員などクソくらえじゃ」
「え?」
「理を超える力はすべて理の中より生まれる」
書類を燃やし、捨てる。
捨てた炎をナツが食べてしまい、それを見て一瞬驚いた。
だが、それはルーシィだけで、すぐにマスターへと目線が戻った。
「魔法は奇跡の力なんかではない。我々の内に流れる〝気〟と自然界に流れる〝気〟の波長が合わさり始めて具現化されるのじゃ」
全員の注目を集めながら、マスターマカロフはにんと笑った。
「それは精神力と集中力を使う。己が魂全てを注ぎ込むことが魔法なのじゃ。
上からのぞいてる目ん玉気にしてたら魔導は進めん。評議員のバカどもを怖れるな。
自分の信じた道を進めェい!!! それが妖精の尻尾の魔導士じゃ!!!!」
「「「「「オオオオオォォォオオオオオオオオ!!!!!」」」」
叫び、笑う。
喧嘩していたとは思えないくらいの和気藹藹の空気となった。
「……いいところだろ?」
「うん!」
そしてその日、ルーシィも一緒に騒ぎ合いながらフェアリーテイルへ仲間入りを果たした。